技術開発などを行う企業は、特許法や特許制度への理解が不可欠です。
特許制度を理解していないと、自社の発明を守れなくなるおそれが生じるほか、他者の特許権を侵害してトラブルに発展するおそれもあるためです。
では、特許法とはどのような法律なのでしょうか?
また、特許を取得する要件は、特許法でどのように定められているのでしょうか?
今回は、特許法の概要や企業が特許を取得するメリット、特許を受ける要件などについて弁護士がくわしく解説します。
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特許法とは
特許法とは、特許制度について規定した法律です。
これにより、発明の保護と利用を図って発明を奨励し、産業の発達に寄与することが目的とされています(特許法1条)。
特許法で規定されている特許制度とは、発明を保護する制度です。
しかし、発明のアイディアを思いついたり発明を製品化したりしたからといって、自動的に保護が開始されるわけではありません。
発明について特許権を発生させるには、特許庁に出願をして登録を受ける必要があります。
この点で、創作時点で自動的に権利が発生する著作権とは大きく異なるため、混同しないようご注意ください。
特許権を取得する主なメリット
発明について特許権を取得することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
ここでは、企業が特許権を受ける主なメリットを5つ紹介します。
発明の独占的実施が可能となる
特許権を取得すると、その発明の独占的実施が可能となります。
これにより、自社にしか実現できない製品開発が可能となり、他社との差別化をはかりやすくなります。
侵害時の対応がスムーズとなる
特許権を取得することで、侵害された際の対応がスムーズとなります。
特許権を取得していない場合、発明の模倣について法的措置をとることは容易ではありません。
特許権がなければ、偶然の一致では法的措置をとれないためです。
また、実際に模倣されたとしても、損害額を立証するハードルも高いでしょう。
一方で、特許権を取得していれば、偶然の一致など相手が故意でなかったとしても、差止請求や損害賠償請求などが可能です。
特許発明を実施した製品の製造や販売自体を侵害とみなす旨の規定が設けられているためです(同101条)。
また、損害額についても推定規定が設けられているため、実際の損害額をつぶさに立証する必要まではありません(同102条)。
このように、侵害行為について対応がしやすいことから、侵害の抑止力としても効果も期待できます。
自社の交渉力を高められる
特許権を取得した場合、他社は無断でその発明を実施することはできません。
自社の特許発明を他社が実施するには、自社からライセンスまたは権利譲渡を受ける必要があります。
そのため、これを活かして自社の交渉力を高める効果が期待できます。
なかでも、その分野における重要な特許権を取得できれば、自社より規模の大きな企業であっても交渉を有利に進めやすくなるでしょう。
他者に先に権利化されて自社がその発明を実施できなくなる事態を避けられる
「守り」の側面としては、自社が出願して特許権を受けることで、他者に先を越されてしまう事態を避けられるメリットが挙げられます。
特許権は「先願主義」を採用しており、同様の発明であれば先に出願をした者だけが特許権を取得できます。
たとえ自社の方が先にその発明を思いついていたとしても、他者に先に出願されてしまえば、自社はもはや特許を受けることはできません。
そして、その発明を実施するには権利者と交渉をしたうえで、相当のライセンス料を支払って許諾を受ける必要が生じます。
自社の発明について早期に特許出願をしておくことで、このような事態を避けやすくなります。
ライセンスにより収益を得られる可能性が生じる
自社が取得した特許権は、自社で実施することもできるほか、他者に実施許諾をしてライセンス料を受け取ることも可能です。
特に重要な特許権であれば、ライセンス料も相当な額となるでしょう。
このように、収益を得る選択肢が広がることも、特許を受けるメリットの一つです。
特許法に基づいて特許権を取得する要件
出願したからといって、必ずしも特許権を得られるとは限りません。
特許権を受けるには、特許法に定められたさまざまな要件を満たす必要があります。
ここでは、特許権を受けるために満たすべき要件をまとめて解説します。
発明であること
1つ目は、「発明であること」です。
特許権は、発明を保護する制度であるためです。
発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」を意味します(同2条1項)。
次のものは「発明」ではないことから、出願しても特許権を受けることができません。※1
- 「自然法則の利用」ではないもの
- 自然法則ではないもの:経済法則、遊戯方法、計算方法など
- 自然法則に反するもの:永久機関
- 自然法則そのもの:万有引力の法則など
- 「技術的思想」ではないもの:フォークボールの投球方法、絵画・彫刻、データベースなど
- 「創作」ではないもの:エックス線の発見など
- 「高度」ではないもの:日用品の考案など
なお、日用品の考案は、実用新案権の対象となります。
産業上実施可能であること
2つ目は、「産業上実施可能であること」です。
特許法は産業の発達に寄与することを目的としているため、産業上実施できない発明については特許権を受けることはできません。
産業上実施できない発明とは、たとえば次のものなどです。
- 事実上、明らかに実施できないもの
- 個人的にのみ利用され、市販などの可能性がないもの
- 人間を治療・診断する方法の発明
なお、医療機器や医薬自体は、産業上実施できない発明には該当しません。
新規性があること
3つ目は、新規性があることです(同29条1項)。
出願前にすでに公知となっている発明については、特許権を受けることができません。
ここで注意すべきであるのは、公知となってしまった場合、自社の発明であっても特許権を受けられなくなることです。
たとえば、出願前にその発明を実施した製品を一般発売した場合やテレビ・雑誌などで報道された場合、論文が公表された場合などには、原則としてその発明について特許権を受けられなくなります。
はじめて特許権を出願しようとする場合、この要件には特に注意すべきでしょう。
なお、1年以内であれば救済措置が適用できる可能性もあります(同30条)。
弁護士や弁理士にお早めにご相談ください
進歩性があること
4つ目は、進歩性があることです(同29条2項)。
特許出願前に、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できるものはこの要件を満たさず、特許権を受けることはできません。
つまり、既存の発明から簡単に発案できるようなものは、この要件を満たさないということです。
先願であること
5つ目は、他者より先に出願したことです。
先ほど解説したように、特許権では先願主義が採られており、先に他者に出願された発明については自社が特許権を受けることはできません。
「発明をした日」の前後ではなく、「出願をした日」の前後で判断されることに注意が必要です。
そのため、特に日進月歩で開発が進められている分野においては、できるだけ早期に出願をするべきでしょう。
先に他者に出願されてしまうと、自社が特許権を受けられなくなるばかりか、その発明を自由に実施できなくなってしまいます。
公序良俗に反しないこと
6つ目は、公序良俗に反しないことです(同32条)。
ここまでの5つの要件をすべて満たす場合であっても、公の秩序や善良の風俗、公衆の衛生を害するおそれがある発明については、特許権を受けることができません。
特許権の主な活用方法
特許権は、どのように活用できるのでしょうか?
ここでは、主な活用方法を4つ紹介します。
自社で実施する
1つ目は、自社でその発明を実施することです。
特許権を受けた発明は自社が独占的に実施できるため、独自の機能を搭載でき、自社の差別化をはかりやすくなります。
他者にライセンスして収益を得る
2つ目は、他者にライセンスをして定期的な収入を得ることです。
重要な特許権を取得している場合、ライセンス収入も高額となりやすいでしょう。
他者に譲渡して対価を得る
3つ目は、他者に権利を譲渡して対価を得ることです。
特許権は、権利自体を譲渡できます。
自社がその発明を実施する予定がなく、納得のできる価格を提示された場合には、譲渡も選択肢に入ります。
ただし、他者に特許権を譲渡した場合、その後は自社もその発明を自由に実施することはできなくなることには注意が必要です。
担保を設定する
4つ目は、担保を設定することです。
特許権は権利であるため、これを担保に入れて資金調達をすることが可能です。
ただし、担保に入れるにはその特許権の担保価値を評価する必要があるうえ、担保を実行する際にあたって、誰にでも売却できるものでもありません。
そのため、特許権に担保権が設定できるのは一定の限られたケースのみであると考えておくとよいでしょう。
特許権の侵害に気づいた場合の対応
自社の特許権が侵害されていることに気づいた場合、どのような対応をとればよいのでしょうか?
最後に、特許権の侵害に気づいた場合の初期対応を解説します。
早期に弁護士へ相談する
自社の特許権が侵害されていることに気付いたら、早期に弁護士へご相談ください。
早期に対応しないと、侵害がより拡大するおそれがあるためです。
侵害の有無をより厳格に調査する
弁護士へ相談したうえで、侵害の有無をより厳格に調査します。
侵害であるように見えても、実施の範囲がずれており、厳密には侵害にあたらない可能性などもあるためです。
Authense法律事務所は同じグループ内に弁理士法人を擁しているため、侵害調査などを含めた総合的な対応が可能です。
警告書を送付する
調査の結果、侵害の可能性が高いと判断した場合には、相手に対して特許権侵害警告書を送付します。
これは、相手方に特許権侵害を通知するとともに、侵害行為の停止などを求める書状です。
特許権侵害警告書は、弁護士などから内容証明郵便で送ることが多いといえます。
侵害であることを知らずに侵害していた場合、警告書が届いた時点で侵害行為をやめる場合がほとんどです。
その場合、相手方から正式なライセンスなどの申し入れがある可能性もあるため、対応を検討しておくとよいでしょう。
なお、次で解説する法的措置のうち、刑事罰の対象となるのは相手が故意である(つまり、侵害行為であると知りながら侵害している)場合に限定されます。
たとえ当初は故意がなかったとしても、遅くとも警告書を受け取った時点で侵害を知ったこととなるため、警告書の受領後も侵害行為を続けた場合にはより強い法的措置をとりやすくなります。
法的措置を講じる
警告書を送付してもなお侵害行為をやめない場合などには、法的措置へと移行します。
特許権侵害に対してとり得る主な法的措置は、次のとおりです。
- 差止請求
- 損害賠償請求
- 信用回復措置請求
- 刑事告訴
実際のケースにおける具体的な法的措置の内容については、弁護士へ相談したうえでご検討ください。
差止請求
差止請求とは、特許権侵害行為をやめるよう求めるものです。
これに加えて、侵害によって組成した物の廃棄や侵害行為に供した設備の除却など、侵害の予防措置を請求することもできます(同100条)。
損害賠償請求
損害賠償請求とは、特許権侵害行為によって生じた損害を金銭の支払で償うよう求めるものです。
特許権侵害による損害額には推定規定が設けられており、次の方法などで算定できます(同102条)。
- 逸失利益の額から算定する方法
- 新会社が得た利益額から算定する方法
- ライセンス相当額を損害額とする方法
信用回復措置請求
信用回復措置請求とは、侵害行為によって業務上の信用が害された場合に、これを回復するための措置を求めるものです。
具体的には、謝罪広告の掲載などがこれに該当します(同106条)。
刑事告訴
特許権侵害が故意である場合、これは刑事罰の対象となります。
特許権侵害の刑事罰は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科です(196条)。
ただし、法人が業務の一環として特許権侵害をした場合は、行為者を罰するほか、法人も3億円以下の罰金刑の対象となります(同201条)。
まとめ
特許法の概要や企業が特許権を取得するメリット、特許権を受ける要件や侵害時の対応などを解説しました。
自社の発明について特許権を受けることでその発明を独占的に実施できることとなるほか、侵害時の対応をとりやすくなります。
他者に先に出願された自社がその発明を実施できなくなる事態などを避けるためにも、技術開発などをする企業は特許法を理解したうえでうまく活用するとよいでしょう。
Authense法律事務所では企業法務特化したチームを設けており、特許権侵害などについての対応も可能です。
また、グループ内には弁理士法人を擁しているため、総合的なサポートに強みを有しています。
特許法について相談できる専門家をお探しの際や特許権侵害でお困りの際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。