従業員を雇用する事業者は、育児・介護休業法について理解しておかなければなりません。
また、2025年に改正法の施行も控えているため、改正に関する理解も必要です。
では、育児・介護休業法とはどのような法律なのでしょうか?
また、2025年に施行される改正では、どのような変更がなされたのでしょうか?
今回は、育児・介護休業法の概要や2025年に施行される改正内容などについて、弁護士がくわしく解説します。
目次
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
育児・介護休業法とは
育児・介護休業法は、次の内容を目的とする法律です(育児・介護休業法1条)。
- この法律は、育児休業及び介護休業に関する制度並びに子の看護休暇及び介護休暇に関する制度を設けるとともに、子の養育及び家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関し事業主が講ずべき措置を定めるほか、子の養育又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置を講ずること等により、子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて、これらの者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に資することを目的とする。
整理すると、育児・介護休業法の究極の目的は次の事項です。
- 子の養育または家族の介護を行う労働者等の職業生活と家庭生活との両立に寄与し、これらの者の福祉の増進を図ること
- 経済及び社会の発展に資すること
これらの目的を達成するため、育児・介護休業法では次の内容を定めています。
- 育児休業・介護休業に関する制度
- 子の看護休暇・介護休暇に関する制度
- 子の養育や家族の介護を容易にするため、所定労働時間等に関して事業主が講ずべき措置
- 子の養育や家族の介護を行う労働者等に対する支援措置
育児・介護休業法では事業主が講じるべき措置などが多く定められているため、従業員を1人でも雇用する従業員はこの法律を理解しておかなければなりません。
育児や家族の介護は従業員の個人的な問題ではなく、社会全体の問題であり、事業主としての立場からもこれをサポートすべきということです。
育児・介護休業法改正の概要
育児・介護休業法が改正され、改正内容の多くは2025年4月1日に施行されます。
ここでは、育児・介護休業法改正の概要について解説します。
育児・介護休業法改正の背景
今回、育児・介護休業法が改正された背景には、少子化の進行や働き方の多様化、介護離職が少なくない現状などがあります。
そこで、男女ともに仕事と育児・介護とを両立しやすくするために、育児・介護休業法が改正されました。
この改正の主な内容は、次のとおりです。
- 子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
- 育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大、次世代育成支援対策の推進・強化
- 介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化
具体的な改正内容は、後ほど改めて解説します。
改正法の施行日
育児・介護休業法の施行日は、原則として2025年4月1日です。
ただし、一部(「3歳〜小学校就学前の子がいる従業員の柔軟な働き方実現の義務化」と「労働者の仕事・育児の両立に関する意向聴取や配慮の義務化」)については、2025年10月1日に施行されます。
2025年施行の改正ポイント1:子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
ここからは、厚生労働省が公表している資料を参考に、育児・介護休業法の改正ポイントを紹介します。※1
ここでは、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充にまつわる5つの改正について、それぞれ概要を解説します。
- 3歳〜小学校就学前の子がいる従業員の柔軟な働き方実現の義務化
- 残業免除の対象を小学校就学前の子を養育する労働者に拡大
- 子の看護休暇の対象範囲拡大
- 3歳までの子がいる者に対するテレワークの努力義務化
- 労働者の仕事・育児の両立に関する意向聴取や配慮の義務化
3歳〜小学校就学前の子がいる従業員の柔軟な働き方実現の義務化
3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対して事業主が職場のニーズを把握した上で、柔軟な働き方を実現するための措置を講じ、労働者が選択して利用できるようにすることを義務付ける改正です。
併せて、その措置の個別の周知や意向の確認なども義務付けられます。
これに対応するため、会社は次の5つのうち、2つ以上の措置を選択して講じなければなりません。
労働者は会社が提示した措置のうち、1つを選択して利用できます。
- 始業時刻等の変更
- テレワーク等(10日以上/月)
- 保育施設の設置運営等
- 就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
- 短時間勤務制度
このうち、「2」と「4」は原則として時間単位で取得可能とする必要があります。
残業免除の対象を小学校就学前の子を養育する労働者に拡大
所定外労働の制限 (残業の免除)の対象となる労働者の範囲を、小学校就学前の子を養育する労働者にまで拡大する改正です。
改正前は対象となる労働者の範囲が「3歳になるまでの子」とされていたところ、この範囲が拡大されました。
子の看護休暇の対象範囲拡大
子の看護休暇の対象範囲を拡大する改正です。
具体的には、次の点が変更されました。
- 従来の「1、2」に加え、「3、4」の場合も看護休暇の取得が可能となった
- 1.病気・けが
- 2.予防接種・健康診断
- 3.感染症に伴う学級閉鎖等
- 4.入園(入学)式、卒園式
- 対象となる子の範囲が、従来の「小学校就学前」から「小学校3年生修了まで」に拡大された
- 勤続6か月未満の労働者を労使協定に基づいて対象から除外することが可能であったところ、この仕組みが廃止された(つまり、勤続6か月未満の労働者も看護休暇の取得が可能となった)
なお、取得可能日数は改正前から変更なく、1年間に5日(子が2人以上の場合は10日)のままです。
3歳までの子がいる者に対するテレワークの努力義務化
3歳になるまでの子を養育する労働者については、原則として短時間勤務制度の対象となります。
しかし、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる具体的な業務がある労働者がいる場合、事業主にはこれに代わる措置を講じる努力義務が課されています。
この代替措置の内容が従来は「1と2」のみであったところ、改正によりこれに「3」が追加されました。
- 育児休業に関する制度に準ずる措置
- 始業時刻の変更等
- テレワーク
また、この改正に加え、「3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できる措置」を講ずる努力義務を事業主に課す改正もなされています。
労働者の仕事・育児の両立に関する意向聴取や配慮の義務化
妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、仕事と育児の両立に関する個別の意向について労働者から意見を聴取し配慮することを事業主に義務付ける改正です。
聴取すべき主な内容は、次のとおりです。
- 勤務時間帯(始業および終業の時刻)
- 勤務地(就業の場所)
- 両立支援制度等の利用期間
- 仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直しなど)
なお、聴取の方法は対面に限られず、書面の交付による方法でも構いません。
また、労働者が希望した場合にはFAXや電子メールなどでの聴取も可能です。
2025年施行の改正ポイント2:育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
育児・介護休業法改正ポイントの2つ目は、育児休業の取得状況の公表義務の拡大と、次世代育成支援対策の推進・強化です。
これに関する主な改正内容を3つ解説します。
- 育児休業取得状況公表義務の対象企業の拡大
- 育休取得状況などの状況把握や数値目標の設定義務化
- 次世代育成支援対策推進法の有効期限延長
育児休業取得状況公表義務の対象企業の拡大
これまで、育児休業の取得状況の公表義務の対象は、常時雇用する労働者数が1,000人超の事業主のみでした。
改正により、公表義務の対象が「常時雇用する労働者数が300人超の事業主」にまで拡大されます。
なお、公表義務の対象となる内容は、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。
公表された育児休業の取得状況は求職者や顧客など外部のステークホルダーも確認できるため、取得率が高ければ社外へのアピールにつながるでしょう。
反対に取得率が低ければ、就職先などを選定する際に敬遠されるおそれがあります。
育休取得状況などの状況把握や数値目標の設定義務化
次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画策定時に、育児休業の取得状況等に係る状況把握や数値目標の設定を事業主に義務付ける改正がなされました。
次世代育成支援対策推進法とは、次世代育成支援対策に関して基本理念を定め、国や地方公共団体、事業、国民の責務を明らかにする法律です(次世代育成支援対策推進法1条)。
この法律の定めにより、100名超の従業員を雇用する事業主は「事業主が実施する次世代育成支援対策に関する計画(「一般事業主行動計画」といいます)」を定め、厚生労働大臣に届け出なければなりません(同12条1項)。
今回の改正により、この一般事業主行動計画の策定時に、育休取得状況などの状況把握や数値目標の設定すべきことが義務付けられました。
次世代育成支援対策推進法の有効期限延長
先ほど紹介した次世代育成支援対策推進法の有効期限は、2025年3月31日とされていました。
この期限を10年間延長し、2035年3月31日までとする改正がなされています。
2025年施行の改正ポイント3:介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
育児・介護休業法改正ポイントの3つ目は、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化などです。
これに関する主な改正点を4つ解説します。
- 両立支援制度等の個別周知と意向確認の義務化
- 両立支援制度等に関する早期の情報提供と雇用環境整備の義務化
- 介護休暇の対象範囲の拡大
- 家族介護中の者に対するテレワークの努力義務化
両立支援制度等の個別周知と意向確認の義務化
家族の介護に直面した旨を労働者が申し出た際に、両立支援制度等について個別に周知し意向確認を行うことを事業主に義務付ける改正がなされました。
周知すべき主な内容は次のとおりです。
- 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)
- 介護休業・介護両立支援制度等の申出先
- 介護休業給付金に関すること
周知や意向確認の方法は原則として対面または書面であるものの、労働者が希望した場合にはFAXや電子メールなどでの周知も可能です。
また、オンライン面談も選択できます。
両立支援制度等に関する早期の情報提供と雇用環境整備の義務化
労働者等への両立支援制度等に関する早期の情報提供や雇用環境の整備を、事業主に義務付ける改正です。
介護離職を防止するには、多くの者が実際に介護の直面する前である40歳前後での早期情報提供がカギとなります。
そこで、介護休業などへの理解と関心を深めるため、労働者が介護に直面する前の従業員に対し、次の情報を提供すべきこととされました。
- 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)
- 介護休業・介護両立支援制度等の申出先
- 介護休業給付金に関すること
この情報提供をすべきタイミングは、次のいずれかの期間です。
- 労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)
- 労働者が40歳に達した日の翌日(誕生日)から1年間
上表提供の方法は、面談(オンライン面談を含む)、書面交付、FAX 、電子メールなどのいずれかとされています。
介護休暇の対象範囲の拡大
この看護休暇と同じく介護休暇も、従来は勤続6か月未満の労働者を労使協定に基づいて対象から除外することが可能でした。
改正によりこの仕組みが廃止され、勤続6か月未満の労働者も介護休暇の取得が可能となっています。
なお、週の所定労働日数が2日以下である労働者を対象から除外できることについては、改正前からの変更はありません。
家族介護中の者に対するテレワークの努力義務化
要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう、事業主が措置を講ずるよう努力義務が課される改正です。
テレワークが選択できることにより就労継続の選択肢が取りやすくなり、介護離職を防ぎやすくなります。
まとめ
育児・介護休業法の概要や2025年に施行させる改正のポイントを解説しました。
育児・介護休業法とは、育児や介護と仕事を両立しやすくするため、事業主が講じるべき措置などを定めた法律です。
従業員を1人でも雇用する企業は、育児・介護休業法の概要や改正内容を理解しておかなければなりません。
改正法に対応するために就業規則の改訂が必要となるものも多いため、施行日直前になって慌てないよう、早めに対応を進めることをおすすめします。
Authense法律事務所では企業法務に特化した専門チームを設けており、育児・介護休業法についてのリーガルサポートも行っています。
また、グループ内には社会労務士法人も擁しており、就業規則の改訂などを含んだ総合的なサポートが可能です。
改正育児・介護休業法への対応でお困りの際や労使トラブルに関する相談先をお探しの際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。