コラム
公開 2024.11.09

単体5334_新規_男女雇用機会均等法とは?規制内容や違反時の措置を弁護士がわかりやすく解説

従業員を雇用する企業は、男女雇用機会均等法について理解しておかなければなりません。
知らずにうっかり違反すれば、企業名が公表されるなどのペナルティの対象となるおそれがあります。

では、男女雇用機会均等法とは、どのような法律なのでしょうか?
また、企業が男女雇用機会均等法に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?

今回は、男女雇用機会均等法の概要や主な規制内容、企業が男女雇用機会均等法を遵守するための対策などについて、弁護士がくわしく解説します。

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男女雇用機会均等法とは

男女雇用機会均等法とは、正式名称を「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」といいます。
略称から「雇用」のみが対象であると誤解されているケースもあるものの、「雇用」のほかその後の「待遇」なども規制対象です。

男女雇用機会均等法の目的

男女雇用機会均等法の目的は、次のように定められています(男女雇用機会均等法1条)。

  • この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。

このように、雇用の機会や待遇について男女を均等に扱うことに加え、女性労働者特有の事情である妊娠や出産にまつわる措置の推進も目的とされています。

また、男女雇用機会均等法は日本国憲法に則るものであることが明記されている点が、この法律の大きな特徴です。
日本国憲法14条では、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定されています。
この中に「性別」が明記されており、これが男女雇用機会均等法の根底となっています。

男女雇用機会均等法が制定された背景

男女雇用機会均等法は1985年に成立し、翌1986年に施行されました。

この時代、世界で男女平等に関する機運が高まっており、日本も1980年に女性差別撤廃条約を批准するに至っています。
この批准にあたって国内の法律を整備する必要が生じ、そこで制定されたのが男女雇用機会均等法です。

男女雇用機会均等法の対象者

男女雇用機会均等法の対象者は、事業主です。
個々の従業員ではなく、事業主が遵守すべき事項が多く定められています。
そのため、1人でも従業員を雇用する事業者は、男女雇用機会均等法を無視することはできません。

男女雇用機会均等法の主な内容

男女雇用機会均等法では、どのような内容が定められているのでしょうか?
ここでは、男女雇用機会均等法の主な内容について概要を解説します。

性別を理由とする差別の禁止

事業主は、労働者の募集や採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならなりません(同5条)。
たとえば、次の採用条件などはこの規定に違反する可能性が高いでしょう。

  • 総合職として男性のみを募集する
  • 事務職として女性のみを募集する
  • 女性の採用は未婚であることを条件とする

また、性別を理由として、次の事項について差別的取り扱いをすることも禁じられています(同6条、男女雇用機会均等法施行規則1条)。

  1. 労働者の配置(業務の配分や権限の付与を含む)、昇進、降格、教育訓練
  2. 一定の福利厚生
    • 住宅資金の貸付け
    • 生活資金、教育資金その他労働者の福祉の増進のために行われる資金の貸付け
    • 労働者の福祉の増進のために定期的に行われる金銭の給付
    • 労働者の資産形成のために行われる金銭の給付
    • 住宅の貸与
  3. 労働者の職種・雇用形態の変更
  4. 退職の勧奨、定年、解雇、労働契約の更新

たとえば、教育訓練の対象を男性のみとすることや、男性と女性とで異なる年齢を定年とすることなどはこの規定に違反する可能性が高いといえます。

合理的理由のない間接差別の禁止

性別による差別が禁じられたことで、その抜け道として別の表現を用いて差別がなされるかもしれません。
そのような事態を避けるため、合理的理由のない間接差別を禁止する規定が設けられています。

ここでは、先ほど紹介した性別を理由とした差別的取り扱いが禁じられている事項について、合理的とはいえない次の措置が禁じられています(同7条、男女雇用機会均等法施行規則2条)。

  • 労働者の募集や採用に関する措置であり、労働者の身長、体重、体力に関する事由を要件とするもの
  • 労働者の募集や採用、昇進、職種の変更に関する措置であり、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの
  • 労働者の昇進に関する措置であって、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの

たとえば、営業スタッフの採用条件を「身長170cm以上の者」とした場合、多くの応募者が男性となることが推測されます。
そのため、このような条件が適法であれば、実質的に男女差別が可能となってしまうでしょう。
そこで、合理的な理由がない場合においては、このような間接的な差別も違法となります。

とはいえ、実際に業務を遂行するうえで身長や体重、体力などの条件が必要な場合もあるでしょう。
合理的な理由がある場合には、身長や体重などの条件を付けても違法とはなりません。
この判断を自社で行うことは容易ではないため、お困りの際はあらかじめ弁護士へご相談ください。

婚姻・妊娠・出産などを理由とする不利益取扱いの禁止

婚姻や妊娠、出産などを理由とする不利益取扱いは禁止されます(同9条)。
具体的には、事業主に対して次の規制が設けられています。

  • 女性労働者の婚姻・妊娠・出産を退職理由として予定する定めをしてはならない
  • 女性労働者の婚姻を理由として解雇してはならない
  • 女性労働者が妊娠したことや出産したことなどを理由として、その女性労働者に対して解雇など不利益な取扱いをしてはならない

また、妊娠中や出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、原則として無効となります。
妊娠や出産が解雇理由でないことを事業主が証明できれば無効とはならないものの、このハードルは低いとはいえません。
そのため、これに該当する者を解雇しようとする際はあらかじめ弁護士へ相談し、通常よりも慎重に対応すべきでしょう。

ハラスメント対策

事業主は、職場でのいわゆる「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」や「マタニティハラスメント(マタハラ)」について、適切な措置を講じなければなりません(同11条、同11条の3)。
事業主に求められる主な対応は次のとおりです。

  • ハラスメントを受けた労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
  • 労働者がハラスメントについて相談したことや相談対応に協力し事実を述べたことを理由として、労働者を解雇するなど不利益な取り扱いをしないこと
  • 事業主が講ずべきハラスメント対応について、適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定める

また、ハラスメントの防止に対して、事業主には次の責務(努力義務)があるとされています(同11条の2、同11条の4)。

  • ハラスメントが生じないよう研修を実施するなど必要な配慮をするほか国の講じるハラスメント防止措置に協力すること
  • 事業主や法人役員自らもハラスメントに対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うこと

妊娠中・出産後の健康管理に関する措置

妊娠中や出産後の女性は、定期的に健診や保健指導などに出向く必要が生じます。
定期的な健診や保健指導に出向くことで胎児の状態や自身の状態などが確認でき、出産に伴うトラブルを最小限に抑えることにつながるためです。
この健診や保健指導については、母子保健法で定められています。

そこで、事業主は妊娠中・出産後の女性労働者に対し、保健指導や健診を受けるために必要な時間を確保できるようにしなければなりません(同12条1項)。
健診や保健指導のための時間を確保すべき回数は、少なくとも次の期間ごとに1回とされています(男女雇用機会均等法施行規則2条の4)。

妊娠週数 期間
妊娠23週まで 4週
妊娠24週から35週まで 2週
妊娠36週から出産まで 1週

ただし、医師や助産師がこれと異なる指示をしたときは、その指示に従って時間を確保しなければなりません。

また、女性労働者が保健指導や健診に基づく指導事項を守ることができるよう、勤務時間の変更や勤務の軽減など必要な措置を講じる必要があります(同2項)。

男女雇用機会均等推進者の選任

事業主は、男女雇用機会均等推進者を選任するよう努めなければなりません(同13条の2)。
男女雇用機会均等推進者は、職場における男女の均等な機会や待遇の確保が図られるようにするために講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための業務を担当します。

男女雇用機会均等法に違反した場合の措置

男女雇用機会均等法に違反した場合、どのような措置の対象となるのでしょうか?
ここでは、違反時に生じ得る事態について解説します。

なお、ここで紹介したものは、あくまでも男女雇用機会均等法による措置です。
実際には、たとえば妊娠中の労働者を不当に解雇した場合には解雇をした労働者側から損害賠償請求などがなされる可能性があるなど、民事上の争いに発展する可能性もあります。

指導や勧告の対象となる

男女雇用機会均等法に違反した場合、厚生労働大臣から報告を求められたり、助言や指導、勧告の対象となったりします(同29条)。

過料の対象となる

男女雇用機会均等法に違反し報告を求められたにもかかわらず、報告をしなかったり虚偽の報告をしたりした場合には、20万円以下の過料の対象となります(同33条)。

事業者名が公表される

男女雇用機会均等法の一定の規定に違反して勧告がなされたもののこの勧告に従わなかった場合には、その旨が公表されます(同30条)。
違反事実が公表されてしまえば、企業イメージの毀損は避けられないでしょう。

企業が男女雇用機会均等法に違反しないための対策

企業が男女雇用機会均等法に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、企業が男女雇用機会均等法に違反しないための主な対策を解説します。

男女雇用機会均等法の内容を理解する

1つ目は、男女雇用機会均等法や施行規則、厚生労働省が出している関連指針、関連通達などをよく読み込み、内容を理解することです。※1
これらに目を通すことで、「事業主である自社が何をすべきか」、「何をしてはいけないのか」などのイメージが掴みやすくなります。

法令や指針などの内容を理解しておくことで、知らず知らずのうちに男女雇用機会均等法に違反する事態を避けやすくなるでしょう。

迷った際は弁護士へ相談する

2つ目は、迷った際に弁護士に相談できる体制を確保することです。

男女雇用機会均等法の内容を一読しても、実際の運用にあたって自社の対応に問題があるか否か判断に迷うこともあるでしょう。
しかし、明らかな違反である場合を除き、ある行為が男女雇用機会均等法に違反するか否かを正確に判断することは容易ではありません。
判断を誤ると、違法な行為をしてしまいトラブルに発展したり、報告徴収や指導などの対象となったりする可能性が生じます。

そのような事態を避けるため、迷った際は弁護士へ相談するのがおすすめです。
弁護士へ相談することで、違反を未然に防ぐことが可能となります。

まとめ

男女雇用機会均等法の概要や男女雇用機会均等法の主な規制内容、違反時の措置や違反しないための対策などについて解説しました。

男女雇用機会均等法とは、雇用の機会や待遇について男女を均等に扱うことや、妊娠や出産にまつわる措置の推進を目的とする法律です。
雇用や待遇について男女で差を設けたり妊娠した女性を不当に解雇したりすれば、男女雇用機会均等法違反となります。

男女雇用機会均等法に違反する事態を避けるため、従業員を1人でも雇用する事業者は法令や関連指針などの内容を理解しておくべきほか、困った際に弁護士に相談できる体制を構築しておくとよいでしょう。

Authense法律事務所では、企業法務に特化した専門チームを設けており、男女雇用機会均等法に関するご相談や法令を遵守する体制構築のサポートにも対応しています。
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