建築工事に携わる企業は、建設業法を理解しておかなければなりません。
建設業法を理解していなければ、知らず知らずに違反をして事業の継続が困難となるおそれがあるためです。
建設業法とはどのような法律なのでしょうか?
また、建設業法に違反しないため、企業はどのような点に注意すればよいのでしょうか?
今回は建設業法の概要や主な規制内容、違反しないための対策などについて、弁護士がくわしく解説します。
目次
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建設業法とは
建設業法は、建設業を営む者の資質の向上や建設工事の請負契約の適正化などについて定めた法律です。
これにより、建設工事の適正な施工を確保して発注者を保護することや、建設業の健全な発達を促進すること、公共の福祉の増進に寄与することが目的とされています(建設業法1条)。
そのため、建設業法の規制対象は主に、建設業を営む者です。
企業であるか個人であるかなど問わないため、建設工事に携わる者は規模の大小を問わず、建設業法を理解しておかなければなりません。
建設業法の主な規制1:建設業許可
建設業法における主要な規制の1つ目は、建設業許可に関する規制です。
一定の工事を請け負う者は、必要な区分の建設業許可を取得しなければなりません。
ここでは、建設業許可が必要となるケースや許可の種類について、概要を解説します。
建設業許可が必要なケース
他の許認可制度とは異なり、建設業においては、建設工事にあたって必ずしも許可が必要なわけではありません。
次の工事(「軽微な工事」といいます)は、建設業許可を取得していなくても適法に請けることができます(同3条、建設業法施行令1条の2)。
- 建築一式工事:次のいずれかに該当する工事
- 1. 1件の請負代金が税込1,500万円未満の工事
- 2. 木造住宅で延べ面積が150㎡未満の工事
- 建築一式工事以外:税込500万円未満の工事
なお、建築一式工事とは総合的な企画・指導・調整のもとに建築物を建設・補修・改造・解体する工事です。
原則として、ハウスメーカーや工務店などが1棟の建物の建築を元請として依頼される場合などがこれに該当します。
この「軽微な工事」のみを請けるのであれば、たとえ建設工事を請け負う場合であっても建設業許可は必要ありません。
一方、「軽微な工事」ではない工事を1件でも請けるのであれば、建設業許可が必要です。
建設業許可の種類
建設業許可は、さまざまな種類に分類されています。
そのため、自社が必要な区分で許可を取得しなければなりません。
たとえば、原則として下請であり、東京都のみに建設業の営業所があり、500万円超の屋根工事を請けたい場合、「一般建設業許可の、東京都知事許可の、屋根工事業の許可」を請けることとなります。
また、要件を満たす場合には複数業種での許可を取得することも可能です。
必要な許可区分も選定にも専門的な知識が必要であるため、迷う際は専門家へご相談ください。
一般建設業許可と特定建設業許可
下請工事がメインである場合や、元請となる場合であってもさほど多くの金額の工事を下請に出さない場合には、一般建設業許可を取得します。
一方、次の2点をいずれも満たす工事をしたい場合には、特定建設業許可を取得しなければなりません。
- 元請として工事を請けること
- 1件の建設工事について下請に出す代金の合計額が税込4,500万円(建築一式工事の場合は税込7,000万円)以上となること
なお、特定建設業許可の要件は一般建設業許可よりも厳しく設定されています。
大臣許可と知事許可
建設業の営業所が1つの都道府県だけにある場合には、知事許可を取得します。
一方、複数の都道府県に建設業の営業所がる場合には、大臣許可が必要です。
なお、営業所には一定の要件を満たす専任技術者の配置が必要であり、要件を満たす専任技術者が配置できなければ建設業の営業所を増やすことはできません。
29業種それぞれの許可
建設工事は、「建築一式工事」や「大工工事」「屋根工事」「左官工事」「とび・土工工事」など29業種に分類されています。
いずれか1つの業種で許可を取れば、すべての業種の工事が上限なく請けられるようになるわけではありません。
税込500万円以上の大工工事と税込500万円以上の屋根工事をいずれも請けたいのであれば、大工工事業の許可と屋根工事業の許可がそれぞれ必要です。
建設業法の主な規制2:建設業者の遵守事項などの規定
建設業法では、建設業者が遵守すべき事項が定められています。
ここでは、主な規制内容を紹介します。
工事請負契約に定めるべき内容
建設業法では、工事請負契約に記載すべき内容が定められています。
記載が求められる主な内容は、次のとおりです(同19条)。
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期・工事完成の時期
- 工事を施工しない日または時間帯の定めをするときは、その内容
- 請負代金の全部または一部の前金払または出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期と方法
- 当事者の一方から設計変更・工事着手の延期・工事の全部または一部の中止の申出があつた場合における工期の変更・請負代金の額の変更・損害の負担とそれらの額の算定方法に関する定め
- 天災その他不可抗力による工期の変更または損害の負担と、その額の算定方法に関する定め
- 価格等の変動・変更に基づく請負代金の額又または工事内容の変更
- 工事施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
- 注文者が工事に使用する資材を提供し、または建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容と方法に関する定め
- 注文者が工事の全部または一部の完成を確認するための検査の時期・方法と引渡しの時期
- 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
- 契約適合責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結など措置に関する定めをするときは、その内容
- 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
- その他国土交通省令で定める事項
注文者の禁止行為
建設業法では、注文者に対して次の行為を禁止しています。
- 自己の取引上の地位を不当に利用して、原価に満たない金額で発注すること(同19条の3)
- 自己の取引上の地位を不当に利用して、発注した建設工事に使用する資材や機械器具、購入先を指定し、これらを請負人に購入させて請負人の利益を害すること(同19条の4)
- 通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期で請負契約を締結すること(同19条の5)
建設工事の見積り等
建設工事の請負契約を締結する際、建設業者はその工事内容に応じ、工事の種別ごとに次の事項を明らかにして建設工事の見積もりをするよう努めなければなりません(同20条1項)。
- 材料費、労務費、その他の経費の内訳
- 工事の工程ごとの作業とその準備に必要な日数
また、注文者から請求があったときは、建設業者は請負契約成立までの間にその見積書を交付する必要があります(同2項)。
一括下請負の禁止
建設業法では、一括下請けが禁止されています(同22条)。
一括下請けとは、自社が工事に関与せず下請会社に「丸投げ」をすることです。
一括下請けをした建設業者はもちろん、一括して請け負った側の建設業者も建設業法違反となります。
元請負人の義務
建設業法では、元請負人についてさまざまな義務が課されています。
元請人の主な義務は次のとおりです。
- 請け負った工事の細目や作業方法などを定める際に下請負人の意見を聴くこと(同24条の2)
- 請負代金を受け取ってから1か月以内のできるだけ早期に、下請代金を支払うこと(同24条の3)
- 下請負人から工事完成通知を受けたら、その通知から20日以内のできるだけ早期に検査を完了させること(同24条の4)
- 一定の義務違反について下請負人が国土交通大臣などに通報したことを理由に、取引停止など不利益な取扱いをしないこと(同24条の5)
- 注文者が特定建設業者である場合、下請負人による目的物引渡しの申出から50日以内のできるだけ早期に下請代金の支払期日を定めること(同24条の6)
- 元請負人である注文者は、下請負人が建設業法などを遵守するよう指導に努めること(同24条の7)
建設業法の主な規制3:主任技術者・監理技術者の配置
建設業者は、工事現場に主任技術者や監理技術者を配置しなければなりません。
主任技術者と監理技術者をまとめて「配置技術者」と呼びます。
この主任技術者や監理技術者は誰でも良いわけではなく、その工事について一定以上の経験があることや一定の資格を有することなど、要件を満たす者でなければなりません。
そして、監理技術者となれる人の要件は、主任技術者となれる人の要件よりも厳しく設定されています。
主任技術者や監理技術者の配置が必要となるケースなどを解説します。
主任技術者を配置すべきケース
主任技術者の配置が必要となるのは、建設業者が請け負った建設工事を施工するときです(同26条1項)。
つまり、元請・下請を問わず、建設業許可を有する事業者が工事を施工する際は、少なくとも主任技術者を現場に配置すべきということです。
監理技術者を配置すべきケース
主任技術者よりも厳しい要件を満たす監理技術者の配置が必要となるのは、次の3つにいずれも該当する工事です(同2項)。
- 元請であること
- 自社が特定建設業者であること
- その建設工事の施工について下請に出す代金の合計額が税込4,500万円(建築一式工事の場合は税込7,000万円)以上になること
つまり、自社が特定建設業者であり特定建設業許可が必要となる工事を行う際は、監理技術者の設置が必要になるということです。
現場専任の配置技術者が必要なケース
公共性のある施設など一定の施設のうち、1件の請負金額が4,000万円(建築一式工事の場合は8,000万円)で以上の施工にあたっては、配置技術者は現場専任でなければなりません(同3項、建設業法施行規則27条)。
つまり、現場専任が必要となる工事を1件でも請けている場合、これと並行して行う工事について、同じ者が配置技術者になることはできないということです。
対象となる施設は非常に広く設定されており、学校や図書館などはもちろんのこと、事務所や共同住宅、工場なども該当します。
建設業法に違反した際の罰則
建設業法には、罰則が定められています。
建設業許可が必要な工事を無許可で行った場合や虚偽申請により許可を受けた場合の罰則は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科です(同47条)。
違反行為が法人の業務としてなされた場合には、法人も1億円以下の罰金刑の対象となります(同53条)。
また、必要な配置技術者を配置しなかった場合には、100万円以下に処されます。
なお、建設業法に違反した場合には罰則が適用されるのみならず、許可が取り消される可能性もあります。
許可が取り消されれば許可が必要な工事を請け負うことができないうえ、その後少なくとも5年間は許可を取ることができません(同8条1項3号)。
建築業法の違反しないために企業がとるべき対策
企業が建設業法に違反をしないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、建設業法に違反しないポイントを3つ解説します。
自社に必要な許可を理解する
1つ目は、自社に必要な許可を理解することです。
建設業許可制度はやや複雑であり、1つの許可さえ取ればどのような工事でも適法に請け負えるものではありません。
また、許可を取得するにはそれぞれの要件を満たす必要があり、希望する許可が取れない場合もあります。
まずは必要な許可を理解したうえで、許可要件を満たすか否か確認しましょう。
建設業法を一読する
2つ目は、建設業法を一読することです。
先ほど解説したように、建設業法には許可制度のほかにもさまざまな義務が定められています。
しかし、義務を理解しておらず違反状態となっているケースも散見されます。
まずは建設業法を一読して遵守すべき事項を理解したうえで、自社の現状を確認することをおすすめします。
迷う際は専門家に相談する
3つ目は、迷った際には専門家へ相談することです。
建設業法について、自社が遵守できているか判断に迷うこともあるでしょう。
その際は、弁護士などの専門家へご相談ください。
弁護士へ相談することで、誤った判断で違反をする事態を避けられるほか、違反していないとの自信をもって業務に取り組みやすくなります。
まとめ
建設業法の概要と違反時の罰則、違反しないための対応などを解説しました。
建設業法とは、建設業を営む者が遵守すべき規制などを定めた法律です。
建設工事の適正な施工を確保し発注者を保護することのほか、建設業の健全な発達などが目的とされています。
建設工事を行う事業者は、建設業法について理解しておくべきでしょう。
不明な点が生じた際に備え、弁護士に相談できる体制を確保しておくことをおすすめします。
Authense法律事務所では、企業法務に特化したチームを設けており、建設業法についてのアドバイスや遵守体制整備のサポートなどが可能です。
建設業法について相談できる弁護士をお探しの際には、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。