電子帳簿保存法は一部に設けられていた宥恕(ゆうじょ)期間も満了し、2024年1月から全面施行されています。
しかし、なかにはまだ電子帳簿保存法に対応できてない企業もあるのではないでしょうか?
では、そもそも電子帳簿保存法とは何を定めた法律なのでしょうか?
また、電子帳簿保存法による帳簿や取引データの保存方法には、どのようなものがあるのでしょうか?
今回は、電子帳簿保存法の概要や保存方法、特に注意が必要な電子取引データ保存の要件などについて、弁護士が解説します。
目次
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電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法は、正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。
この名称からもわかるように、電子帳簿保存法とは、パソコンを使って作成された国税(法人税など)計算の必要書類の保存方法について特例を定めた法律です。
法人税など国税の計算は、請求書や現金出納帳など一定の書類を根拠として行います。
当然ながら、根拠書類がなく、あてずっぽうで税額を算出されてしまうと、税の公平性は確保できません。
また、税務調査に入っても「計算のときはあったけど、捨ててしまった」などの主張がまかり通ってしまうと、杜撰な申告につながるでしょう。
そこで、法人について帳簿備付けや取引の記録、これらをその確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければならないとされています。※1
しかし、すべてを紙で保存すべきという制度はエコとはいえないうえ、保管スペースも圧迫します。
また、リモートワークへの対応も困難です。
改ざん防止の観点でいえば、紙で受け取った請求書などは紙のまま保存すべき一方で、はじめから電子データで受け取った請求書などはデータのまま保管したほうが改ざんしづらいでしょう。
そのため、電子帳簿保存法では、一定の帳簿などや取引関係書類などを電子で保存することを認めました。
この点では、企業にとって選択肢が増え利便性が高まったといえます。
同時に、はじめから電子データで受け取った請求書などは、電子データのまま保管すべきとされました。
この点について、電子で受け取った請求書などもすべて印刷して紙で保管していた企業にとっては、業務フローが変わり対応が必要となります。
電子帳簿保存法による3つの保存区分と対象書類
電子帳簿保存法では、対象書類ごとに3つの保存区分が設けられています。
ここでは、保存区分の概要とそれぞれの対象書類について解説します。
電子帳簿等保存
1つ目は、電子帳簿等保存です。
電子帳簿保存とは、電子的に作成した帳簿や書類を、そのまま電子データとして保存することです。
電子帳簿等保存の対象は、パソコンを使って作成された次の帳簿や書類です。
- 国税関係帳簿
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 総勘定元帳
- 補助元帳
- 固定資産台帳
- 売上台帳 など
- 決算関係書類
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 棚卸表 など
- 自社が発行した取引関係書類の写し
- 見積書
- 注文書
- 契約書
- 納品書
- 請求書
- 領収書 など
自社がパソコンを使って作成したこれらの書類について、印刷せずにそのままパソコン内で保存して構わないこととなりました。
なお、これまでどおり、印刷した紙を保管しても構いません。
スキャナ保存
2つ目は、スキャナ保存です。
スキャナ保存とは、自社が紙で作成した一定の書類や取引先から受け取った紙の書類などをスキャンし、電子データとして保存することです。
スキャナ保存の対象は次の書類に代表される「取引関係書類」のうち、自社が紙で発行したものと、取引先から紙で受領したものです。
- 見積書
- 注文書
- 契約書
- 納品書
- 請求書
- 領収書
これらを紙のまま保管すると、保管スペースを確保しなければなりません。
そこで、電子帳簿保存法では、これらをスキャンして紙でデータとして保存できることとなりました。
ただし、適法なスキャナ保存をするためには、重要書類(資金や物の流れに直結・連動する書類)であるかその他の一般書類であるかに応じて、一定の要件を満たす必要があります。
重要書類である場合における主な要件は次のとおりです。
- 作成または受領から一定期間内にスキャナ保存をすること
- 解像度200dpi相当以上、かつカラー画像で読み取ること
- タイムスタンプを付与すること
- スキャナデータについて訂正・削除の事実やその内容を確認できるシステムまたは訂正・削除のできないシステムを使用すること
- 検索機能を確保すること
- システム概要書などを備え付けること
なお、スキャナ保存への対応は義務ではないため、これまでどおり紙のまま保管しても構いません。
電子取引データ保存
3つ目は、電子取引データ保存です。
電子取引データ保存とは、電子データとして受け取った取引関係書類や電子メールなどを、電子データのまま保存することです。
電子取引データ保存の対象となるのは、クラウドや電子メールなどで受信した次の取引関係書類(取引データ)です。
- 見積書
- 注文書
- 契約書
- 納品書
- 請求書
- 領収書 など
取引データ保存への対応は強制であり、事業者による選択制ではありません。
また、後ほど解説するとおり、電子取引データ保存では一定の要件を満たす必要があります。
電子帳簿保存法への対応は義務?
電子帳簿保存法への対応は、義務なのでしょうか?
ここでは、2024年11月時点における情報を解説します。
電子帳簿等保存とスキャナ保存:任意
電子帳簿取引法で定められた保存方法のうち、「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」への対応は任意です。
これまでどおり、紙で保存をしても構いません。
ただし、電子帳簿保存法に定められた保存方法とすることで、省スペース化や印刷コストの削減などにつながります。
電子取引データ保存:義務
電子取引データ保存への対応は義務です。
2024年1月以降、すべての事業者が電子取引データ保存に対応しなければなりません。
また、電子取引データ保存には要件があり、単に「受け取ったデータをそのままパソコン内に残しておけばよい」ということではない点にも注意が必要です。
電子取引データ保存の要件については、次でくわしく解説します。
電子帳簿保存法による「電子取引データ保存」を満たす2つの要件
す電子取引データ保存について電子帳簿保存法で求められる基準を満たすには、何が必要なのでしょうか?
ここでは、電子取引データ保存の要件を解説します。
真実性の確保
1つ目の要件は、真実性の確保です。
真実性の確保とは、その取引データが改ざんされないための措置を講じることです。
具体的には、次のいずれかの措置を講じるべきとされています。
- タイムスタンプが付与された取引情報を受領すること
- 取引情報の受領後に速やかにタイムスタンプを付与するとともに、保存の実行者や監視者に関する情報を確認できる環境を整えること
- 訂正・削除を確認できるシステム、または訂正・削除ができないシステムで取引情報の受領と保存を行うこと
- 訂正・削除の防止に関する事務処理規定を定め、これに沿った運用を行うこと
自社に合った方法を選択し、適切な措置を講じましょう。
可視性の確保
2つ目は、可視性の確保です。
いくらコンピューター上にデータが保存されていても、税務調査などいざというときに確認できなければ意味がありません。
そこで、可視性を確保するために、次の要件をすべて満たす必要があります。※2
関連書類の備え付け
電子取引データ保存に用いるシステムに関して、システム概要書やシステム基本設計書などの関連書類を備え付けなければなりません。
いざというときにシステムの仕様がわからず、必要な取引データにたどり着けない事態を避けるためです。
見読性の確保
電子取引データ保存では、ディスプレイやプリンタなどを備え付けて、税務職員に指定されたデータを速やかに出力できることが必要です。
「保存さえしておけばよい」ということではなく、税務調査など必要な際にそのデータを確認できる必要があるためです。
検索機能の確保
電子取引データ保存では、次の検索要件を備えなければなりません。
- 取引等の「日付・金額・取引先」で検索できること
- 日付または金額について、範囲を指定した検索ができること
- 「日付・金額・取引先」 のうち2つ以上の任意項目を組み合わせて検索できること
データがパソコン上にバラバラに保管されており検索も難しい状態では、税務調査など必要な際に必要なデータをすぐに取り出すことができないためです。
電子帳簿保存法に適切に対応しないデメリット
先ほど解説したとおり、電子帳簿保存法のうち「電子取引データ保存」へは、すべての事業者が対応しなければなりません。
また、電子帳簿等保存やスキャナ保存は任意であるものの、これらを行うのであれば保存要件を遵守する必要があります。
では、企業が電子帳簿保存法に適切に対応しない場合、どのようなデメリットが生じる可能性があるのでしょうか?
ここでは、主なデメリットを3つ紹介します。
過料の対象となる可能性が生じる
電子帳簿等保存法自体には、罰則はありません。
しかし、帳簿の保存義務は会社法に規定されており、これに違反した場合には100万円以下の過料の対象となります(会社法976条)。
追徴の対象となる可能性が生じる
電子帳簿等保存法に適切に対応しない場合、追徴課税の対象となる可能性があります。
なぜなら、不適切な方法で保存された請求書などが、税務上の損金(経費)として認められない可能性があるためです。
青色申告の承認取り消しの対象となる
青色申告とは、所定の帳簿などを備え付け所轄税務署長から承認を受けることで、一括償却や繰り戻し還付など一定の税制優遇が受けられる制度です。
電子帳簿等保存法に適切に対応していない状況では青色申告の要件を満たさない可能性が高く、青色申告の承認が取り消されるおそれがあります。
電子帳簿保存法への対応で企業は何をすべき?
電子帳簿保存法への対応で、企業は何をすべきなのでしょうか?
最後に、電子帳簿保存法への対応で企業がやるべきことについて解説します。
これまでの保存方法を洗い出す
電子帳簿保存法に対応する前提として、まずはこれまでの帳簿や書類などの保存方法を洗い出しましょう。
そのうえで、自社が電子帳簿等保存やスキャナ保存に対応すべきか否かを検討します。
なお、先ほど解説したように、電子取引データ保存への対応は義務であり、企業側に対応するか否かの選択肢はありません。
電子帳簿保存法に対応した業務フローやマニュアルを整備する
電子帳簿保存法への対応では、これに対応できる行うフローやマニュアルを検討し、整備します。
電子帳簿保存法を、非常に難しい法律であるように考えている企業は少なくないようです。
また、「高額なシステムを導入しなければならない」という誤解も少なくありません。
しかし、一度自社に合わせて業務フローや業務マニュアルを整備すれば、電子帳簿保存法への対応はさほど難しいものではないでしょう。
また、必ずしも新たなシステムを導入しなければならないわけでもありません。
まずは電子帳簿保存法の内容や保存要件を正しく理解して、無理なく行える自社の対応(既存のシステムで対応するか、新たなシステムを導入するかなど)を検討します。
そのうえで、具体的な業務フローや業務マニュアルに落とし込むことをおすすめします。
不明点は弁護士へ相談する
電子帳簿保存法への自社の対応を検討したり業務フローや業務マニュアルを整備したりするなかで、対応に迷うこともあるでしょう。
また、せっかく策定した業務フローや業務マニュアルが電子帳簿保存法の求める要件を満たさない事態は避けたいことと思います。
電子帳簿保存法への対応でお困りの際は、企業法務に強い弁護士へご相談ください。
弁護士のサポートを受けることで、法令に則した業務フローや業務マニュアルの作成が可能となり、安心して業務にあたりやすくなります。
まとめ
電子帳簿保存法の概要や3つの保存方法、企業が行うべき対応などについて解説しました。
電子帳簿保存法とは、もともと紙での保管が必要とされていた帳簿や一定の書類などについて、電子での保管を認める法律です。
ただし、電子で保管するためには、保存方法ごとに定められた一定の要件を満たさなければなりません。
また、「電子取引データ保存」のみは任意ではなく、対応が義務である点にも注意が必要です。
電子帳簿保存法は2024年1月から全面施行されているため、まだ対応できていない企業は早急に対応しなければなりません。
対応できていない企業は弁護士へ相談したうえで、電子帳簿保存法に対応するための業務マニュアルの検討や整備から取り掛かるとよいでしょう。
Authense法律事務所では企業法務に特化した専門チームを設けており、電子帳簿保存法などへの対応もサポートしています。
電子帳簿保存法への対応や法令に則した業務マニュアルの整備でお困りの際には、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。