スタートアップの企業は、これから事業活動を展開していく過程で、「キャラクター」の利用について考える場面が多々あるものと思われます。PR、販促活動、自社コンテンツ内での利用等、「キャラクター」の利用場面は枚挙に暇がありません。
「キャラクター」の利用を考えた場合、必ず著作権法への配慮が必要となります。
今回の記事では、「キャラクター」利用にまつわる著作権の問題について説明させていただこうと思います。
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1.「著作権」とは
(1)前提
前提として、「著作権」とはいったいどういった権利なのか、という点についてご説明いたします。
「著作権」の定義に関しては、著作権法上の規定はないのですが、「著作権」を定義づけるとすれば、「『著作物』を専有する権利」ということとなります。
具体的には、著作権を有する者は、「著作物」について第三者が勝手に使用した場合には、その使用行為の差止めを請求したり、損害賠償を請求したりすることができることとなります。
(2)「著作物」とは
このように、「著作権」は「著作物」に関する権利であって、「著作権」を理解するためには「著作物」の何たるかを理解する必要があります。
「著作権」について、著作権法上の定義規定はありませんが、「著作物」については、定義規定が用意されています(著作権法第2条第1項第1号)。
著作権法によると、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいうとされています。
この定義規定の中の「思想又は感情を創作的に表現したもの」という文言が、「著作物」の何たるかを理解する上で大変重要となります。
ア 「思想又は感情」
ここでいう「思想又は感情」は、「個性」と言い換えても結構です。
つまり、「個性」を創作的に表現すれば、それがすなわち「著作物」ということになります。
この「個性」は、客観的に見ればどんなに稚拙なものであってもかまいません。
逆に、表現の選択の幅が狭く、「誰が作っても同じようなものになる」と言われてしまうような場合には「個性」がないものとして、著作物として認められないことがあります。
たとえば、素晴らしい技術を持った画家が、エッフェル塔の正面からの様子を素描したとしても、そのデッサンは著作物として認められない可能性があります。エッフェル塔を描こうと思えば、正面から描くのが普通であり、また、当該画家はエッフェル塔を精密に素描しただけでありますから、その表現に「個性」がないと判断される可能性があるためです。
このように、「著作物」として認められるためには、「思想又は感情」を表現したもの、すなわち、「個性」を表現したものである必要があります。
イ 「創作的に表現したもの」
次に、「著作物」として認めてもらうためには、思想・感情を「表現したもの」、つまり「表現物」でなくてはなりません。
何を言いたいのかというと、実際に「表現」をしないと「著作物」としては認められない、ということです。音楽、絵画、イラスト、写真、舞踏、脚本、小説といったような表現物に、作者の思想・感情が表現されてはじめて「著作物」として認められることになります。
頭の中でどんなにすばらしいイメージが湧いていたとしても、それが実際に、何らかの媒体を通して表現されない限り、「著作物」とは認められません。
著作権と同じく、「知的財産権」としてくくられる特許権や実用新案件といった権利は、「アイデア」を保護するものとして説明されるのに対して、著作権は「アイデア」を保護しません。「アイデア」が実際に表現されたその表現物を保護しています。
このように、「著作物」として認められるためには、制作者の思想・感情を実際に何かの媒体をとおして「表現」することが必要となります。
ウ 小括
以上をまとめると、「思想又は感情」(個性)を何かの媒体をとおして「表現」されたときのその表現物が「著作物」であり、その作品について「著作権」が発生するという関係となります。
2.「キャラクター」と著作権の関係性
(1)「キャラクター」とは
スタートアップ企業の皆様が、「事業活動に『キャラクター』を使用したい」と考えるとき、「キャラクター」というものに対する何らかのイメージを抱かれているはずです。
そのイメージを言葉で表現するとどういったものとなるでしょうか。
たとえば、『ドラえもん』は、れっきとした「キャラクター」なわけですが、「『ドラえもん』というキャラクターを思い浮かべてください」と言われた場合、皆様はどういったイメージを思い描くでしょうか。
直感的に「ドラえもん」のイラストを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、厳密にいえば、それはあくまで「ドラえもん」というキャラクターのイラストにすぎず、「ドラえもん」という「キャラクター」それ自体ではありません。
お気付きの方も多いかもしれませんが、「キャラクター」とは、「表現物」そのものではなく、ある登場物の性格や性質という抽象的概念、すなわち「アイデア」にすぎません。
「キャラクター」それ自体は、五感で感知できるような「表現物」ではないのです。
小説に出てくる「キャラクター」を考えていただければ想像しやすいかもしれません。
小説に出てくる「キャラクター」は、見ることも、その声を聞くこともできません。それは、その「キャラクター」が「表現物」ではなく、アイデアにすぎないからです。
このように「キャラクター」は「表現物」ではなく、アイデアにすぎないということをまずは押さえる必要があります。
(2)「キャラクター」の著作権による保護の有無
「キャラクター」は「表現物」ではなく、アイデアにすぎません。
「著作権」による保護を受けるためには、「著作物」として認められる必要があり、「著作物」として認められるためには、アイデアが実際に表現された「表現物」といえる必要があることも説明いたしました。
つまり、キャラクター自体は、アイデアにすぎず「著作物」ではない、ということになります。
判例においても、キャラクターは「具体的表現から昇華した登場人物の人格というべき抽象的概念」であるから、それ自体は著作権によって保護されない旨判断されています(最判平9.7.17)。
もちろん、『ドラえもん』や『ハローキティ』と言われた際に皆様が思い描くイラストは、「著作物」にほかならず著作権による保護を受けるわけですが、それは「キャラクター」に著作権が認められているわけではなく、「イラスト」という「美術表現物」に著作物性が認められるためです。
このように、企業様が「キャラクター」の利用を考える際には、「キャラクター」という抽象的な概念には、著作権による保護はなく、その「キャラクター」の具体的なイラストに著作権による保護があるということを理解しておくことが重要です。