コラム
公開 2021.02.24 更新 2021.10.08

副業人材の流動的活用や、テレワーク!人事労務の新時代到来

副業人材の流動的活用や、テレワーク!人事労務の新時代到来

新型コロナウィルス感染の防止のため、テレワークという新しい働き方が定着し、副業人材の有効的、且つ流動的な活用に本格的に乗り出した企業が出てきました。
社内制度やコンプライアンスの整備など、新時代に対応すべく再構築していくことが求められています。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(大阪弁護士会)
立命館大学法学部法学科卒業、神戸大学法科大学院修了。不動産法務(建物明け渡し請求、立ち退き請求など)を中心に、交渉や出廷など、数多くの訴訟を経験。刑事事件では、被疑者の身体拘束からの早期釈放や不起訴を獲得するため、迅速な対応を心掛けるとともに、被害者側の支援活動にも積極的に取り組む。
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1 副業の解禁による副業人材の流動性と社内制度

(1)はじめに

厚生労働省は、働き方改革の一環として、副業・兼業の促進に関するガイドライン(以下「副業促進ガイドライン」といいます。)を策定し、副業を推奨してきました。
副業促進ガイドラインの掲げる企業側のメリットとしては、①労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる、②労働者の自律性・自主性を促すことができる、③優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する、④社外から新たな知識・情報・人脈を入れることで事業機会の拡大に繋がることを掲げています。
すなわち、他業種や他部門への人材の流動性が高まることで、産業構造の変化に応じた効率的な労働資源の移動が可能となり、ひいては企業の生産性を向上させることに繋がるといえます。

ところで、副業の「解禁」と題したところではありますが、法的には、勤務時間以外の時間を労働者がどのように使うのかは本来的に自由です(京都地判平成24年7月13日)。
そのため、就業規則等によって、副業を禁止していたとしても、職場秩序に影響せず、本業に差し障りの少ない一定の範囲の副業を行っている場合には、副業禁止規定に反しないと判示しています。

(2)副業に伴う法的問題点

それでは、副業を認めた場合、どのような法的問題点が生じるでしょうか。特に、使用者には、労働安全衛生法上、労働者の労働時間を把握する義務があります。
また、副業を認めた結果として、労働者に時間外・休日労働が発生した場合には、法定労働時間を超えて使用する使用者が割当手当の支払義務を負うこととなります。
そのため、使用者としては、本業と副業の労働時間を適切に把握し、秘密保持義務、競業避止義務等をどのように確保していくかが重要となります。

(3)社内制度の整備の必要性

まず、副業を許容するにあたっては、就業規則を整備する必要性があります。
具体的には、副業促進ガイドラインでも示されているように、就業規則、労働契約等において、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業を禁止又は制限をすることができるようにしておくことが一案です。
また、時間外労働等について割増賃金の支払義務を負うのは、「通算すると法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約」を後から締結する使用者であるため、雇用する際には、他の事業場で労働していることを適切に把握しておくことが必要となります。

なお、令和2年9月において、副業促進ガイドラインが改定され、従業員と勤務先が、本業と副業の残業時間上限を事前に取り決めを行えば、従業員の虚偽申告や法定上限を超えたとしても、企業が法的責任を問われないことが示されました。
また、従来は、副業先で労災にあった場合、副業先の賃金を前提に給付されていましたが、改正労災保険法が施行され、給付される保険金は本業と副業の賃金の合計額を元に算定されることになりました。

もっとも、労働者の働きすぎによる健康リスクについては別途検討する必要がありますので注意が必要です。
そのため、必要な労働時間の把握や管理、健康管理の監督を継続して行っていく必要があるでしょう。

次に、秘密保持義務違反や競業避止義務に対応していく必要があります。
就業規則の規定としては、業務上の秘密が漏洩する場合には、副業を禁止又は制限することができるようにすることや業務上の秘密となる情報の範囲や業務上の秘密を漏洩しないことについて注意喚起を継続して行うことが一案です。
また、競業により自社の正当な利益を害する場合には、副業を禁止又は制限することができるようにしておくことが有用です。

上記においては、他社への副業を想定した場合の対応をご紹介しましたが、他社間での副業ではなく、社内副業制度を導入している企業もあります。
具体例としては、KDDI株式会社においては、「KDDI版ジョブ型雇用」と称し、会社を辞めずに、色々な事業部や子会社等へ異動しながら経験を積ませた上で、自身のキャリアを自分自身が磨いていくことを想定した制度を構築しています。いわば、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用を組み合わせた制度であり、他社への副業については労働時間の把握や競業避止義務との関係で導入し難いという企業にとっては、参考になる事例かと思われます。

2 テレワークに伴う人事制度とコンプライアンス

(1)テレワーク導入企業の急速な拡大

新型コロナウィルスの感染拡大によって、導入が急速に加速したテレワークですが、感染拡大前から制度として導入していた企業がいくつかあります。
例を挙げますと、ヤフー株式会社においては、平成26年からオフィス以外の好きな場所で働ける「どこでもオフィス」というリモートワークの制度を創設していました。そして、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、令和2年2月から月5回のリモートワークの制限を解除し、原則在宅勤務を導入しました。その後、運用中の業務に支障がなかったとの従業員からの回答を踏まえて、一部の社員についてはリモートワークの回数制限の解除をすることや、フレックスタイム勤務制におけるコアタイムを廃止するなど、新しい働き方を推進しています。

以下では、今後、テレワークを効果的に運用していくにあたって、コンプライアンス上の問題点、特に労務管理の点や情報漏洩リスクについて検討します。

(2)コンプライアンス上の問題点①:労務管理

テレワークによる就業には、労働基準法の適用を受けることで、通常の労働者と同様に、使用者が労働法上の責任を負います。
労務管理で特に問題となる点としては、副業の箇所で指摘した点と重なりますが、労働時間の適切な把握が重要となります。
特に、テレワークでの就業は、オフィスでの勤務に比べて労働時間を適切に把握や管理をすることが困難であるため、時間外労働が生じやすいです。
そのため、業務報告書等の提出や勤怠システムへの入力、パソコンなどの使用時間を記録する等の方法を用いることはもちろんのこと、社員に毎日の始業時刻、終業時刻の報告することを徹底すべきでしょう。また、企業としては、テレワークを行う際の作業環境の整備について、助言やサポートを継続的に行っていくことも一案でしょう。

加えて、使用者には、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働をすることができるように、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っているため(労働契約法5条)、長時間労働の防止による健康の保持など、安全配慮義務に配慮した対応が必要です。長時間労働の防止策としては、①メール送付の抑制、②社内システムへのアクセス制限、③テレワークを行う際の時間外や休日労働等の原則禁止といった方法がガイドラインにおいては示されています。
なお、フランス法制下においては、「つながらない権利」と称し、勤務時間外において従業員がメールなどへアクセスした場合に遮断できる権利を認めていますが、テレワークの拡大と相まって、日本でも導入が可能かどうか検討の余地があるのではないでしょうか。
もっとも、労働時間管理については、煩雑な点や困難な点を払拭できない部分があることは否めず、中小企業においては、テレワークの導入が遅れているというのが現状です。

そこで、厚生労働省は令和2年12月23日、テレワークに関する企業向けガイドライン(指針)の見直しに向けた報告書案(以下「報告書案」といいます。)を提示しました。
具体的には、パソコンのログなどで企業が客観的な形で把握できる場合を除き、労働者の自己申告だけで労働時間を管理しても、自己申告された時間の正確性について、企業は法的責任を負わないとする指針を明確にする予定であると示されています。

(3)コンプライアンス上の問題点②:情報漏洩リスク

次に、テレワーク運用時において、顕在化するリスクとしては、情報漏洩リスクがあります。
オフィス勤務であっても、情報漏洩リスクはあるものの、テレワークの場合、社外秘の情報を持ち出さざるを得ない状況も考えられます。そのため、企業としては、家族へ社外秘情報の内容の話をしていないかどうか、周囲から情報を取得されるような環境になっていないか、会社から許可された場所やパソコンで業務を行っているかといった点について、継続的に管理監督していく必要性があります。
また、業務の性質上、社外に持ち出すことが想定されていない情報を取り扱う場合には、オフィスや決められた場所で取り扱うように業務を行う場所を限定すべきでしょう。

3 時代に応じた人事制度の再構築

このように、新型コロナウィルスの感染拡大を契機とした副業の推進やテレワークの拡大によって、問題が複雑化・多様化しています。
導入面での問題がクリアできたとしても、副業やテレワークを今後も効果的に運用していくにあたっては、勤務成績をどのように評価するかという観点なども重要です。

テレワークにおいては、目標管理制度に基づく成果主義が親和的であると主張されているところではありますが、個々の企業に適合した働き方を取り入れて柔軟に運用していく必要があるでしょう。
例えば、専らテレワークを行う労働者といった、職場に出勤する頻度の低い労働者については、業績評価について、出勤する労働者から懸念を抱かれることのないように、評価制度や賃金制度を明確にし、説明しておくことが望ましいでしょう。

厚生労働省からも、あらかじめ評価の対象となる具体的な行動や評価の方法を明確にするよう企業に促しています。また、報告書案では、テレワークで就業する労働者が、時間外や休日、深夜にメール等に対応をしないとの理由のみで、企業が不利益な人事評価をするのは不適切であるということが明示されています。
人事制度の構築や運用については、企業にとって極めて重要な問題の1つですので、弁護士をはじめとした専門家と相談しながら進めていくことをおすすめします。

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