コラム
公開 2020.06.23 更新 2021.10.08

在宅勤務で社員のサボりが発覚!解雇する理由になるか弁護士が解説

在宅勤務で社員のサボりが発覚!解雇する理由になるか弁護士が解説

いつも「Legal Tips」をお読みいただきありがとうございます。
新型コロナウィルスの感染拡大防止の大原則とされている3密回避のため、企業においても在宅勤務の導入が進んでいます。
今回は在宅勤務中に仕事を怠った(サボった)場合に、当該社員を解雇することが出来るかについて解説したいと思います。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(東京弁護士会)
東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、慶應義塾大学法科大学院法務研究科修了。企業法務の中でも学校法務を中心に、学校法人・企業側の代理人として、組合対応や訴訟を含む様々な案件を取り扱い、経営者側の労働問題・労使トラブルの解決実績を多く有する。また、複数の芸能プロダクションの顧問弁護士を務めた経験から、テレビ局や広告代理店といったエンタメ分野における実務にも精通しており、業界特有の慣習を踏まえた交渉に長けている。
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1.はじめに

現在も新型コロナウィルスの感染拡大が完全に収束する見通しは立っておらず、在宅勤務の導入は今後もさらに拡大・継続することが予想されます。
この在宅勤務について、長時間労働になりがちになるとか、情報漏洩のリスクが高まるなど様々な問題点も指摘されていますが、今回は在宅勤務中に仕事を怠った(サボった)場合に、当該社員を解雇することが出来るかについて解説したいと思います。なお、今回は期間の定めのない労働契約を結んでいる社員(いわゆる正社員)の解雇に絞って検討していきます。

2.解雇はそもそも難しい!?

皆様も解雇は難しいというご認識はあろうかと思われますが、かかるご認識は正しく、解雇が認められるには極めて厳格な要件が必要とされており、かかる要件を満たさない解雇は無効とされております。
その極めて厳格な要件は解雇権濫用法理と呼ばれ、労働契約法16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められています。
つまり、解雇には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当性が無ければならないのです。
もっとも、このように書いても極めて抽象的であるため、個別の事案で直ちに解雇の有効性を判断することは容易なことではありません。
そこで、最終的に解雇の有効性を判断する機関である裁判所がどのように判断するのか、過去の同種事例を裁判所がどのように判断しているのかを検討して個別の解雇の有効性を推測していくことが重要です。
では、本題の在宅勤務中にサボった社員を解雇できるのかという問いを検討するにあたって同種の事例について裁判所がどのような判断をしていたのかについて見ていきましょう。

3.同種事例について

在宅勤務も当然勤務時間になりますので勤務時間中に私用をしていたとして解雇の効力が争われた事例(大阪地判平5・9・29労判642号21頁)を同種事例として挙げます。

事案の概要は以下の通りです。
某学校法人に採用された教頭先生が、修学旅行の引率団長として生徒をホテルへと引率する校務出張に出ました。
ホテルで生徒の第1陣が帰宅するのを見送った後、学校からは生徒の第2陣がホテルへ到着するまで、万一の突発事故に備えて連絡要員としてホテルへ待機するよう教頭先生に対して業務命令がなされました。
しかし、教頭先生は学校からの業務命令に従わず外出してゴルフを約5時間プレーしたとして、業務命令違反(サボった)を理由に懲戒解雇がなされ、解雇の効力が争われました。
これについて裁判所は、懲戒解雇は客観的合理的理由がなく社会通念上相当であるとは認められないとして、無効との判断をしました。

その理由の概要は以下の通りです。
引率団長として万一の事故に備えて連絡体制を整えてホテルに滞在するという重要な職務がありながら、外出してゴルフをプレーするのは職務違反行為をしたというべきであり懲戒処分の対象になると言わざるを得ない。
しかし、そのような職務違反行為は1回のみであるし、そもそもゴルフプレー中に事故等は発生しておらず修学旅行は無事に終了していることからすると、職務違反行為の結果何らかの実害が生じているとは言えない状況において、戒告や減給を行うことは格別、解雇を行うことは行き過ぎであり相当とは言えないというものです。
これはまとめると、例え職務違反(サボり)があったとしても、その結果実害が生じていたり、職務違反が複数回にわたるなどの事情がなければ解雇は出来ないということを判示しています。

4.結論

上述の同種事例を踏まえて、在宅勤務中にサボった社員を解雇できるのかという問題についてですが、在宅勤務中のサボりが多数回に及んでいたり、サボった結果会社に具体的な損害が生じているなどの事情が無い限り解雇は認められないという結論になるでしょう。

5.最後に

以上のように、在宅勤務中にサボっている事実が判明した場合に直ちに解雇を行うことは出来ませんが、そうかといって何らの懲戒処分も行わないことは労務管理上適切とは言えません。
上述の同種事例でも、裁判所は懲戒としての戒告や減給の可能性については排除していません(むしろこれを認めるとも読めるような判示をしています。)ので、これに準じた懲戒処分を行う必要があるでしょう。
懲戒処分によって、社員が心を入れ替えてくれることも期待できますし、仮に引き続きサボり続けていたならば、懲戒処分を受けてもなおサボるというのは悪質性を強める事情となり、将来的に有効な解雇を実行するための布石になります。

在宅勤務は労務管理の困難さがありますが、他方で柔軟な働き方を可能とし優秀な人材の確保・定着につながる、経費節減等の会社にとっても社員にとっても多くのメリットがあると言われています。
労務管理の困難さについては、弁護士がサポート出来る場面と言えると思いますので、こういった最新の法務に関する知識・経験を有する弁護士をうまく活用して会社の形態に合致した在宅勤務の体制を構築していくことは働き方改革の時代に生き残るための必要な戦略であるように思います。

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