解雇理由証明書とは、従業員を解雇した理由を記した書類です。
従業員から交付を求められた際には、遅滞なく交付しなければなりません。
では、解雇理由証明書を作成する際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
今回は、解雇理由証明書について弁護士がくわしく解説します。
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解雇理由証明書とは
解雇理由証明書とは、会社がなぜ従業員を解雇したのか、その理由を記載する書類です。
解雇に当たっては、「解雇通知書」や「解雇予告通知書」などさまざまな書類が登場します。
しかし、これらは解雇理由証明書とは別のものですので、混同しないように注意しましょう。
解雇理由証明書を交付すべき場面
解雇理由証明書は、次の場合に、遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法22条)。
従業員から請求されたにもかかわらず解雇理由証明書を発行しない場合には、30万円以下の罰金の対象となる可能性があります(労働基準法120条)。
解雇をした従業員から請求があった場合
1つ目は、退職した従業員から解雇理由証明書の交付を求められた場合です。
この場合には、解雇理由証明書を遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法22条)。
解雇予告をした従業員から請求があった場合
2つ目は、解雇予告をした従業員から、解雇予告日のあと退職日までの間に解雇予告通知書の交付を求められた場合です。
この場合にも、原則として解雇予告通知書を遅滞なく交付しなければなりません。
ただし、解雇予告をした従業員がその後別の理由によって退職をした場合には、退職後に解雇予告通知書の交付を求められたとしても、交付することを要しないとされています(労働基準法22条2項)
解雇理由証明書を従業員が請求する主な理由
従業員が会社に対して解雇理由証明書の交付を求めることには、どのような理由があるのでしょうか?
考えられる主な理由は次のとおりです。
解雇された理由が知りたいから
よくある理由の1つ目は、解雇された理由を正式に知りたいからというものです。
ただし、たとえば横領をした場合や何度注意されても無断欠勤を繰り返したなど自身に明らかな非がある場合などには、解雇理由証明書を請求するまでもなく理由がわかっていることが多いでしょう。
そのため、解雇理由証明書を請求する以上、解雇理由に疑問を持っている場合が少なくないものと思われます。
転職先から求められたから
よくある理由の2つ目は、転職活動先である企業から提示を求められたからというものです。
従業員が転職活動をする場合において、履歴書などと併せて退職証明書(解雇の場合には、これが解雇理由証明書となります)の提出を求められる場合があります。
そのため、転職先に提出する必要性から交付を求められる場合もあるでしょう。
不当解雇で法的措置を取りたいから
もう一つのよくある理由は、従業員が不当解雇を主張するなど法的措置を予定しており、その資料とするためというものです。
日本において、従業員を解雇するハードルは低いものではありません。
そのため、たとえ従業員側に多少の非があったとしても、その「非」の程度によっては、解雇は行き過ぎであると判断される可能性があるでしょう。
なお、訴訟の結果不当解雇であると判断されると解雇が無効となるほか、慰謝料請求の対象となる可能性があります。
解雇理由証明書のサンプル
解雇理由証明書のサンプルは、次のとおりです(※1)。
>オーセンス様:画像が表示されないようですのでご確認頂けましたら幸いです。
サンプルは東京労働局のホームページなどからダウンロードできますので、こちらを参考にするとよいでしょう。
解雇理由証明書作成のポイント
解雇理由証明書を作成する際には、次のポイントを踏まえて作成しましょう。
なお、作成時には後ほど解説する「注意点」にもご留意ください。
対象の従業員名を記載する
解雇理由証明書には、対象の従業員名を明記しましょう。
解雇理由を証明するものであることを明記する
この書類(解雇理由証明書)が、解雇理由を証明するものであることを明記します。
なお、書式は解雇予告をともなう解雇であることが前提となっていますので、解雇予告のない解雇の場合には、「予告」の文字を削除するなどして対応するとよいでしょう。
企業名を明記する
解雇予告通知書には、企業名を明記します。
企業名と代表者名を記載することが一般的です。
解雇理由を明記する
解雇理由証明書には、解雇理由となった事実を記載します。
そのうえで、解雇の根拠となる就業規則の規定についても明記しましょう。
たとえば、次のような記載となります。
次の事実が、当社就業規則第〇条〇項の「〇〇〇〇(具体的な条文内容を記載)」に該当したため
・令和4年〇月〇日に 〇〇〇を行った
・令和4年〇月〇日に 〇〇〇を行った
このように、解雇の根拠となる就業規則の条文と該当の規定を記載するとともに、その規定に抵触した具体的な事実を明記しましょう。
なお、解雇理由証明書をいったん従業員へ交付したら、原則として後から理由を追加したり変更したりすることはできません。
そのため、解雇理由については、漏れや誤りのないよう明記することが必要です。
解雇理由証明書の書き方の注意点
解雇理由証明書は、非常にシンプルな書式です。
しかし、実際に記載して従業員に対して交付をする際には、さまざまな点に注意しなければなりません。
主な注意点は次のとおりです。
あらかじめ弁護士へ相談する
解雇理由証明書を作成する際には、あらかじめ労働問題に強い弁護士へ相談するとよいでしょう。
なぜなら、解雇理由証明書を請求している時点で、従業員は不当解雇などを訴える準備をしている可能性が低くないためです。
先ほども触れたように、日本において、従業員を解雇するハードルは低いものではありません。
従業員に非がない場合の解雇が難しいのはもちろんのこと、従業員に多少の非があったとしても解雇するほどの非でないと判断されれば、解雇は無効となります。
また、従業員を解雇するには、就業規則に根拠が必要です。
就業規則に規定のない理由による解雇は、原則として認められません。
そのため、上で紹介をした解雇理由証明書サンプルの下部にも記載があるとおり、解雇理由証明書には就業規則上の根拠を示すことが求められます。
このように、解雇理由証明書は書き方こそシンプルであるものの、決して簡単な書類ではありません。
解雇理由証明書の記載に不備があったり不用意なことを書いてしまったりすると不利となるおそれがあるため、交付する前に(できれば従業員に対して解雇を告げる前に弁護士にご相談ください。
従業員が請求してない事項は記載できない
解雇理由証明書には、従業員が請求していない事項は記載してはならないこととされています(労働基準法22条3項)。
これは法律で定められていますので、たとえ不正な目的などではなかったとしても、請求されていない事項は記載しないようにしましょう。
秘密の記号などは記載できない
解雇理由証明書には、「あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない」(労働基準法22条4項)とされています。
解雇理由証明書は、転職活動先に提出する場合も少なくありません。
しかし、これを利用して転職先候補である企業との間での暗号のやり取りなどに使わないよう注意しましょう。
これに違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。
解雇理由は後から追加できないことを知っておく
解雇理由証明書を従業員に交付したら、原則として解雇理由を後から追加したり変更したりすることはできません。
解雇理由証明書に記載をした理由のみが、企業が認定している解雇理由になるということです。
そのため、仮に複数の解雇理由があるのであれば代表的な理由のみを記載するのではなく、解雇理由となったすべての理由を記載しておいた方がよいでしょう。
訴訟の証拠とされる可能性を踏まえて作成する
解雇理由証明書は、解雇された従業員が不当解雇などを訴える際の重要な証拠となります。
そのため、解雇理由証明書を交付する際には、訴訟において裁判所などへ提出される可能性までを踏まえて慎重に作成する必要があるでしょう。
解雇理由があいまいであったり解雇理由となる重要な内容が漏れていたり、また不用意な内容を記載したりしてしまえば、訴訟などにおいて不利となる可能性があります。
まとめ
解雇理由証明書とは、従業員を解雇した理由などを示す証明書です。
解雇や解雇予告をした従業員から請求された場合には、原則として遅滞なく交付しなければなりません。
この解雇理由証明書は非常にシンプルな書式であるものの、作成や交付は慎重に行う必要があります。
なぜなら、解雇無効などを訴える訴訟において、重要な証拠となり得るものであるためです。
不用意な記載をしてしまったり記載すべき内容が漏れていたりすれば、企業にとって不利となってしまいかねません。
そのため、従業員を解雇する際や、解雇理由証明書を交付する際には、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。
Authense法律事務所には、労務管理の専門的知識と経験を有する弁護士が多数在籍しています。
また、グループ内に社会保険労務士法人を設けているため、就業規則の見直しなどを含めたワンストップの対応が可能です。
従業員の解雇や解雇理由証明書の交付などでお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。