コラム

退職後にパワハラを訴えられることはある?訴えられた際の会社がとるべき対応とは

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パワハラ被害は、退職した元従業員から退職後に訴えられることもあるのでしょうか?
今回は、パワハラによる損害賠償請求の時効や退職後にパワハラ被害を訴える主な理由を紹介するとともに、会社としての対応方法を弁護士が詳しく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。中央大学法学部法律学科卒業。一橋大学法科大学院修了。離婚や相続といった家事事件のほか、建物明渡請求を中心とした不動産法務や企業法務など、様々な案件を取り扱う。依頼者の感情の機微まで気を配り、丁寧な対応を心掛けている。
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パワハラの定義とは

はじめに、2022年4月より、大企業だけでなく中小企業も対象範囲となった「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称「パワハラ防止法」)によるパワハラの定義について確認しておきましょう。
同法第30条の2第1項によれば、次の3つの要件をすべて満たすものが、パワハラであると定義されています。※1

優越的な関係を背景とした言動

パワハラの1つ目の要件は、その行為を受ける労働者が、行為者に対して抵抗や拒絶することができない可能性が高い関係に基づいて行われることです。
たとえば、上司から部下に対する言動など、職務上の地位が上位の者による行為がこの典型例であるといえるでしょう。

しかし、その行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である場合には、たとえ同僚や部下からの行為であったとしてもパワハラに該当する可能性があります。
また、同僚や部下からの集団による行為であってこれに抵抗や拒絶することが困難であるものも、パワハラとなり得ます。

上司から部下に対する行為が基本である一方で、部下から上司に対してなど立場が逆の行為であっても、その状況や関係性によってはパワハラに該当する可能性があることを知っておきましょう。

業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

パワハラの2つ目の要件は、社会通念に照らした際に、その行為が明らかに業務上の必要性がないものであることや、その態様が相当でないものであることです。

たとえば、業務上明らかに必要性のない行為や業務の目的を大きく逸脱した行為、業務を遂行するための手段として不適当な行為などがこれに該当します。
具体的には、就業規則を何度も手書きさせる行為などがこれに当たる可能性が高いでしょう。

また、たとえその行為を単独で見れば業務上の必要性がないとはいえないものであったとしても、行為の回数などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為もこれに該当します。

たとえば、同じ荷物の積み下ろしを倉庫内で何度も繰り返させる行為などがこれに該当する可能性が高いでしょう。

労働者の就業環境が害されるもの

パワハラの3つ目の要件は、次のいずれかに該当することです。

  1. その行為を受けた者が身体的や精神的に圧力を加えられ、負担と感じること
  2. その行為によってその行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること

なお、これらに該当するかどうかの判断はその労働者の主観ではなく、平均的な労働者の感じ方を基準とすることとされています。
たとえば、暴力により傷害を負わせる行為やひどい暴言を吐くなどにより人格を否定する行為、何度も大声で怒鳴ったり厳しい叱責を執拗に繰り返したりして恐怖を感じさせる行為などが、これに該当します。

他にも、長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与などで就業意欲を低下させる行為なども、これに該当する可能性が高いでしょう。

パワハラは退職後の従業員から訴えられることもある?

パワハラの被害は、在職中に申告されるケースが多いかと思います。
では、すでに退職をした従業員からパワハラ被害で訴えられる可能性はあるのでしょうか?

パワハラは従業員退職後に訴えられる可能性がある

すでに退職をした従業員からパワハラで訴えられる可能性は、ゼロではありません。
パワハラ被害は、退職したからといって訴えることができなくなるものではないからです。

むしろ、元従業員にとっては、もはや会社などに対して気を遣う必要がなくなった退職後の方がパワハラを訴えやすい場合もあるでしょう。

パワハラの時効

パワハラ被害により損害賠償請求をする場合の時効は、原則として「被害者が損害と加害者を知ったときから3年間」です。
ただし、これらを知らないまま時間が流れた場合であっても、行為から20年間で損害倍書をする権利は消滅します。

パワハラの場合、損害や加害者を知っていることが一般的であるため、原則としてパワハラ行為があったときから3年が時効であると考えておくとよいでしょう。

つまり、仮に退職直前までパワハラ行為があったと仮定すると、退職から3年間はパワハラ被害を訴えられる可能性があるということです。

また、パワハラが生命や身体を害するものであった場合には、時効は3年ではなく5年へと伸長されます。
暴力行為を伴うパワハラなどがあった場合には、その行為から5年間は損害賠償請求をされる可能性があります。

従業員が退職後にパワハラを訴える主な理由

従業員が在職中にパワハラ被害を訴えず、退職後に被害を訴える理由にはどのようなものが考えられるでしょうか?
その理由は事情によってさまざまかと思いますが、次の理由が考えられるでしょう。

精神的な苦痛が大きく早期に退職を選択したため

パワハラ被害により非常に大きな苦痛を感じている場合には、まずその場から逃れることが優先され、損害賠償請求などを考える余裕のないまま、早期に退職を選択する場合もあるでしょう。

その後、心身の状態が回復した段階で損害賠償請求を検討し始めるケースが考えられます。

会社への不信感があるため

会社へパワハラ被害を訴えたにもかかわらず、何ら対処をしてくれなかった場合や、むしろ被害を訴えた側が不当な扱いを受けた場合などには、被害者が会社に対いて不信感を抱いていることが多いでしょう。

加害者への損害賠償請求や対応の改善が認められても、その後その会社へ勤務し続けるつもりがないため、早々に会社へ見切りをつけて退職し、その後改めてパワハラ被害を訴えるとの選択がとられやすくなります。

この場合には、加害者に対してのみならず、会社に対してもパワハラによる損害賠償請求がなされる可能性が高いといえます。

相手へ法的責任を問えることに退職後に気付いたため

法的に十分な知識がない場合など、在職中は、その行為がパワハラに該当すると認識できないこともあることでしょう。

退職後、専門家に相談したりすることでようやくパワハラ行為であったと気がつき、そこから被害を訴えることを検討し始める可能性があります。

パワハラで会社が問われる法的責任

社内でパワハラが起きた場合、会社に対して法的責任が追及される可能性があります。
会社が問われる可能性がある法的責任は、次のとおりです。

使用者責任

民法には、「使用者責任」が定められています。
これは、会社の従業員が他者に対して何らかの損害を加えた場合において、加害者である労働者と連帯して会社が損害を賠償しなければならない責任です。

つまり、パワハラに対して会社が何ら加担をしていなかったとしても、会社の従業員であるパワハラ加害者が他の従業員に対して損害を加えた場合には、会社もその責任を負う可能性があるということです。
ただし、会社が十分な注意をしていたと認められる場合には、使用者責任は問われません。

そのため、たとえば被害者がパワハラ被害を会社に対して相談していたにもかかわらず何ら対処をしなかった場合や、対処が不十分であるがゆえにパワハラ行為が悪化した場合などには、使用者責任を問われる可能性が高いでしょう。

不法行為責任

パワハラ行為に会社が加担していた場合や、パワハラが繰り返されている状態を会社が黙認していた場合などには、会社自体の不法行為責任が問われる可能性があります。

債務不履行責任

会社は労働契約法により、従業員に対して安全配慮義務を負っています。

そのため、会社がパワハラの相談窓口設置など適切な安全配慮義務をしなかったことが原因でパワハラが起きたと判断される場合には、安全配慮義務に違反をした債務不履行責任を問われる可能性があるでしょう。

退職した社員からパワハラで訴えられた場合の対処法

退職した社員からパワハラで訴えられた場合には、次のように対処しましょう。

早期に弁護士へ相談する

退職した社員からパワハラ被害を訴えられたら、早期に労使問題に詳しい弁護士へ相談することが望ましいといえます。
退職後に被害を訴えてくる時点で、元従業員はすでに弁護士へ相談している可能性が高いからです。
元従業員が入念な事前準備のうえでパワハラを訴えてきたのであれば、不用意に自社のみで対応してしまうことにより、不利な状況へ追い込まれてしまうかもしれません。

事実関係を確認する

次に、パワハラに関する事実関係を確認しましょう。

加害者とされる人と退職をした元従業員との言い分が大きく異なる場合などには、双方のプライバシーに配慮しつつ第三者へも状況の聞き取りをするなど、特に慎重な対応が必要とされます。

パワハラが事実であれば、被害を訴えてきた元従業員に対して誠実に対応する必要があります。
ただし、誠実な対応イコール相手の要求をすべて認めるということではありませんので、会社としての主張や意向もよく整理したうえで、相手との交渉に臨むこととなるでしょう。

加害者の懲戒処分を検討する

パワハラ行為が事実であれば、加害者の懲戒処分を検討しましょう。
ただし、この場合にはパワハラ行為の内容などに対して処分の内容が適切であるかどうか、慎重に判断しなければなりません。

こちらについては、後ほど改めて解説します。

再発防止策を検討して徹底する

実際にパワハラが発生していた場合は、社内での再発防止に努める必要があります。

パワハラは加害者一人の問題であるケースばかりではなく、組織全体の問題であるケースも少なくないためです。
社内で他にパワハラ被害を受けている人がいないかどうかを調査するとともに、定期的なパワハラ研修の実施や相談窓口の設置、就業規則の見直しなど、今後へ向けた対策を検討しましょう。

しかし、自社のみで再発防止策を検討することは容易ではありません。
弁護士など社外の専門家へ相談をしながら検討することをおすすめします。

会社がパワハラ加害者を退職させたい場合の注意点

社内でパワハラが起きてしまった場合、パワハラ加害者を退職させたい場合もあるかと思います。
では、この場合にはどのような点に注意すべきなのでしょうか?

相手から解雇無効や損害賠償請求をされる可能性がある

パワハラ加害者に懲戒解雇処分を課した場合、行ったパワハラに対して処分が重すぎるとして、解雇をしたパワハラ加害者側から解雇の無効や損害賠償請求がなされる可能性があります。

そのため、加害者の処分を検討する際には、パワハラの程度や自社の就業規則の内容などと照らし合わせ、慎重に判断することが必要です。

労働問題に強い弁護士へあらかじめ相談する

したがって、パワハラ加害者を退職させるなど処分内容を検討する場合には、あらかじめ労働問題に強い弁護士へ相談することをおすすめします。

Authenseのハラスメント防止対策プラン

Authense法律事務所では、「ハラスメント防止対策プラン」をご用意しております。アンケートなどで社内の実態調査を行い、企業の特徴・実態に合わせたパワハラ対策をご提案、
企業としてのパワハラ対策の方針を明確にします。ご要望に応じてオーダーメイドプランを作成いたしますので、お気軽にお問い合わせください。

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まとめ

パワハラ被害は、従業員の退職後に訴えられる可能性もあります。
パワハラによる損害賠償請求の時効は短くとも3年であり、退職により権利が消滅するわけではないためです。

退職した従業員からパワハラ被害を訴えられたら、早期に弁護士へ相談するとよいでしょう。

Authense法律事務所には労使問題に詳しい弁護士が多数在籍しており、日々パワハラ問題などの解決に奔走しております。
従業員や退職をした元従業員からパワハラ被害を訴えられるなどしてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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