コラム

残業代の種類と計算方法を解説!労務担当者が最低限知っておきたい残業代のポイント

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残業代は、種類ごとに計算方法が決まっています。
では、残業代はどのように計算すればよいのでしょうか?


今回は、残業代の種類や計算方法などについて弁護士がわかりやすく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
神奈川県弁護士会所属。同志社大学法学部法律学科卒業、同志社大学法科大学院修了。離婚・相続といった家事事件や、不動産法務、企業法務など幅広く取り扱うほか、労働問題にも注力。弁護士として少年の更生の一助となることを志向しており、少年事件にも意欲的である。法的トラブルを客観的に捉えた的確なアドバイスの提供を得意としている。
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労働時間の上限

従業員を雇用したからといって、当然ながら無制限に働かせてよいわけではありません。

使用者は、原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはならない決まりとなっています。※1、※2
また、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。

これを超えて労働させるには、36協定(「サブロク協定」と呼ばれます)の締結と届出が必要です。

残業とは

しかし、実際には1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させる場合もあるでしょう。
このように、法定労働時間を超えた労働が、いわゆる「残業」というものです。

残業を法的な言葉でいうと、「時間外労働」となります。※3
時間外労働をさせた場合には、原則として割増賃金(残業代)を支払わなければなりません。

何分単位で計算すべきか

会社によっては、残業時間を30分単位で計算し、30分未満は切り捨てるなどの対応をしている場合もあるかと思います。※3(Q11)
しかし、これは適切ではありません。
毎日の時間外労働は、原則的には1分単位で正確に計上しなければなりません。

法律上、その月における時間外の労働時間の合計に30分未満の端数がある場合にはこれを切り捨て、それ以上の端数がある場合にはこれを1時間に切り上げることができるとされています。
この規定は、あくまで原則通り労働時間を計上したうえで端数が出た場合に、事務処理を簡便にするための規定であり、常に端数を切り捨てる対応を許すものではありません。

残業が違法になるケース

従業員に残業をさせるには、先ほども触れた「36協定」の締結が不可欠です。※2
36協定の締結がないまま法定労働時間を超えて働かせてしまうと違法となるため注意が必要です。

また、36協定があるからといって従業員を無制限に働かせることはできません。
36協定があったとしても時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間とされており、臨時的な特別の事情がない限り、これを超えると違法となります。

残業の種類を確認

残業には、さまざまな種類が存在します。
残業の種類によって支払うべき残業代の計算方法が異なりますので、整理しておきましょう。

法内残業

会社の所定労働時間が、法定労働時間よりも短い場合もあるかと思います。※3(Q1)
たとえば、会社の所定労働時間が1日6時間、週30時間であるような場合です。

この場合に、会社の所定労働時間は超えるものの、法定労働時間を超えない分の残業を「法内残業」といいます。

法内残業については、法律上、賃金を割り増しして支払う義務はありません。
会社の社内規定に応じた残業代を支払うこととなります。

平日時間外労働

「平日時間外労働」とは、平日に1日8時間を超えて従業員に労働させた残業時間です。※4(Q7)

平日時間外労働に対しては、通常の賃金に2割5分以上の賃金を上乗せして残業代を支払わなければなりません。

平日深夜労働

「平日深夜労働」とは、平日の午後10時から午前5時までの間に従業員に労働をさせることです。※3(Q6)

平日深夜労働をさせた場合には、通常の賃金に2割5分以上の賃金を上乗せして賃金を支払わなければなりません。

平日時間外労働かつ平日深夜労働に該当する場合には、通常の賃金に5割(=2割5分+2割5分)以上を上乗せした残業代を支払わなければなりません。

休日時間外労働

「休日時間外労働」とは、法定休日に労働させることです。※3(Q5)
法定休日とは土日など曜日で決まるわけではなく、使用者が労働者に必ず与えなければならない休日(少なくとも毎週1日)のことを指します。

この休日時間外労働をさせた場合には、通常の賃金に3割5分以上を上乗せして残業代を支払わなければなりません。

休日深夜労働

「休日深夜労働」とは、法定休日の午後10時から午前5時までの間に従業員に労働させることです。

この場合には、通常の賃金に2割5分以上の賃金を上乗せして賃金を支払わなければなりません。

休日時間外労働かつ休日深夜労働に該当する場合には、通常の賃金に6割(=3割5分+2割5分)以上を上乗せした残業代を支払わなければなりません。

割増率の一覧

上で解説をした残業の種類と賃金の割増率をまとめると、次のようになります。

残業の種類 割増率
法内残業 なし
平日時間外労働 2割5分
平日深夜労働 5割
休日時間外労働 3割5分
休日深夜労働 6割

なお、この割増率は法律で決まっているため、会社の都合で引き下げることはできません。

これに加え、時間外労働時間が1か月で60時間を超えた場合、会社は当該残業時間について、通常の賃金に5割以上の賃金を上乗せした割増賃金を支払わなければなりませんので、注意が必要です。

【時間単位別】残業代の計算方法

残業代は、どのように計算すればよいのでしょうか?※5
ここでは、時間単位別の計算方法を解説します。

1時間単位(時給)

時給制の場合には、1時間あたりの時給が、そのまま残業代を計算するのに必要な1時間あたりの基礎賃金となります。

たとえば、時給が1,000円であれば、この1,000円が基礎賃金です。

これを、上で解説した残業の種類別の割増率に当てはめて残業代を計算します。

1日単位(日給)

日給制の場合の1時間あたりの基礎賃金は、日給を1日あたりの労働時間で割ることで求めることができます。

たとえば、日給が9,000円であり、1日当たりの労働時間が6時間であれば、1,500円(=9,000円÷6時間)が基礎賃金です。

これを、残業の種類別の割増率に当てはめて残業代を計算します。

1か月単位(月給)

月給制の場合の1時間あたりの基礎賃金は、月給額を月平均所定労働時間で割ることで求めることができます。

この基礎賃金には、原則として次の手当は算入されません。※4(Q10)

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

ただし、割増賃金の基礎となる賃金は、名称ではなく内容により判断されます。そのため、全員に一律に定額で支給されるようなものであれば、名称にかかわらず基礎賃金の計算対象に含まれます。

また、月平均所定労働時間は、次の式で算定します。

  • 月平均所定労働時間=1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12か月

たとえば、月給額が36万円、月平均所定労働時間が160時間の場合の基礎賃金は、2,250円(=36万円÷160時間)です。

これに、残業の種類別の割増率を当てはめて残業代を計算します。

1年単位

年俸制の場合には、次の方法で基礎賃金を計算します。

  1. 年俸総額を12等分して月額賃金を求める
  2. これを1か月の所定労働時間で割る

たとえば、年俸額が1,200万円であり、1か月当たりの所定労働時間が200時間である場合の基礎賃金は、5,000円(=1,200万円÷12か月÷200時間)となります。

なお、年俸制だからといって残業代を支払わなくてよいわけではないことに注意してください。

もっとも、年俸制が取られている人は役職者であることも多く、労働基準法上の管理監督者に該当する場合には、残業代の支払いは発生しません。

また、それ以外の場合であっても、年俸にはじめから割増賃金を含むことが契約上明らかで割増賃金相当部分が他の部分と区別でき、かつ、法定金額以上支払われている場合には、別途割増賃金を支払わなくても違反ではありません。※5

ただし、判断に迷う場合も多いかと思いますので、迷う場合には弁護士へ相談してください。

【労働制別】残業時間の計算方法

次に、労働制別の残業時間の計算方法を解説します。

変形労働時間制

変形労働時間制には、1か月単位のものと1年単位のものが存在します。※6

1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の一定期間を平均し、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

たとえば、月末に業務が集中する会社において、月前半の労働時間を1日5時間などへと短縮する代わりに、月末の労働時間を1日10時間とすることができます。

一方、1年単位の変形労働時間制とは、1か月超1年以内の一定の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以下の範囲内において、特定の日や週に1日8時間または週40時間を超えて労働させることができる制度です。

たとえば、夏が繁忙期である会社において、冬場の労働時間を短くする代わりに夏場の労働時間を長くする場合などがこれに該当します。

計算例

変形労働時間制を採用していても、残業代が発生する場合があります。
代表的なケースでは、1日の労働時間が変形労働時間制であらかじめ会社が定めたその日の所定労働時間を超え、かつ法定労働時間(8時間)を超える場合などです。

たとえば、1か月単位の変形労働時間制を採用している場合において、割増賃金の対象となる残業時間の計算は次のようになります。

  • その日の所定労働時間が10時間であり、10時間働いた場合:割増賃金の対象となる残業時間は発生しない
  • その日の所定労働時間が5時間であり、7時間働いた場合:割増賃金の対象となる残業時間は発生しない(「法内残業」に該当するため)
  • その日の所定労働時間が9時間であり、10時間働いた場合:1時間(=10時間-9時間)分について割増賃金の支払いが必要
  • その日の所定労働時間が7時間であり、9時間働いた場合:1時間(=9時間-8時間)分について割増賃金の支払いが必要

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が始業時刻や終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。※7
労働者にとって、柔軟な働き方が実現しやすい点がメリットであるといえます。

計算例

フレックスタイム制の場合には、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて労働しても、ただちに割増賃金の支払いが必要な時間外労働となるわけではありません。

フレックスタイム制では、清算期間を設けることとなります。
この清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が、時間外労働として割増賃金支払いの対象となります。

この、清算期間における法定労働時間の総枠の計算方法は、次のとおりです。※7

  • 清算期間における法定労働時間の総枠=1週間の法定労働時間(原則40時間)×清算期間の日数÷7日

たとえば、清算期間の日数が30日である場合の「清算期間における法定労働時間の総枠」は、171.4時間です。
これを超えて労働した分に対しては、残業代の支払いが必要となります。

裁量労働制(みなし残業)

裁量労働制とは、働いた時間によって成果が変わるわけではないと認められる一定の職種に就く労働者に対し、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。※8

裁量労働制には所定の19業務のみを対象とした「専門業務型裁量労働制」の他、所定の要件を満たすことで導入ができる「企画業務型裁量労働制」が存在します。※9

計算例

裁量労働時間制を採用している場合には、実際に何時間の労働をしたのかを問わず、事前に労使で決めた時間働いたと「みなす」こととなります。

そのため、労使で定めたみなし労働時間が法定労働時間(8時間)以内であれば、原則として残業代は発生しません。

一方、そもそもあらかじめ定めた所定労働時間が9時間であるなど、法定労働時間を超えている場合には、法定労働時間を超えた分について残業代の支払いが必要となります。

また、法定休日や深夜(午後10時から午前5時)に労働した場合にはみなし労働時間の範囲に含まれないため、原則どおり残業代の支払い対象となります。

たとえば、月の所定労働日数が22日であり、1日のみなし労働時間が8時間とされているのであれば、実際の勤務時間に関わらず、労働時間は176時間(=22日×8時間)とみなして計算されます。
ただし、このうち、12時間の深夜労働があった場合には、この12時間分の割増賃金を追加で支払う必要があるということです。

【役職別】残業時間の計算方法

管理職の場合、残業代はどのように考えれば良いのでしょうか?
管理職と残業時間の考え方について解説します。

管理職

管理職が労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合には、残業代を支払う必要はありません。

この「管理監督者」に該当するかどうかは、役職名のみで判断するのではなく、次の要素などから総合的に判断されることとされています。

  • 経営者と一体的な立場で仕事をしているかどうか
  • 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていないかどうか
  • その地位にふさわしい待遇(給与など)がなされているかどうか

ただし、「管理監督者」に該当する場合に支払う必要がないのは、通常の残業代と休日手当のみです。
平日深夜労働や休日深夜労働における割増賃金分の支払いは免除されませんので、注意してください。

名ばかり管理職

名ばかり管理職とは、役職こそ「部長」や「店長」などであるものの、その勤務実態などからみて、労働基準法上の「管理監督者」にはあたらない管理職のことです。
マクドナルドの店長が「名ばかり管理職」と認定され、会社側に残業代の支払いが命じられた事件を記憶している方も多いのではないでしょうか?

このように、いくら「部長」や「店長」などの肩書を持っていたとしても、勤務実態などから労働基準法上の「管理監督者」だと認められなければ、残業代の支払いは免除されません。

名ばかり管理職と認定された場合には、他の従業員と同様に、残業代を支払う義務が生じます。

残業代請求権の時効について

従来、残業代請求権は2年で時効にかかるとされていました。
ただし、改正法が施行されており、2020年4月以降に発生した残業代請求権から時効は3年へと伸長されています。

従業員に残業代を請求されたら

従業員から残業代を請求されたら、未払い残業代の事実関係を確認すると同時に、早期に弁護士へ相談しましょう。

詳しくは、次のリンク先をご参照ください。

まとめ

残業代の支払いは、法律で定められた使用者の義務です。
支払い義務を知りつつ支払わないことはもってのほかですが、勘違いで支払っていなかったり一部の支払いが漏れていたりする場合には、早期に是正をしておきましょう。

未払い残業代の請求をされてから慌ててしまわないためにも、残業代についてきちんと理解し、社内の規程や体制を整備しておくことをおすすめします。

残業代についてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所には残業代に詳しい弁護士が多数在籍しており、残業代問題の解決へ向けてサポートいたします。

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