コラム

単体5427_新規_株主総会の委任状とは?ひな型をもとに書き方や注意点を弁護士がわかりやすく解説

株主総会を招集する際に、会社が委任状を同封することがあります。
委任状があることで、当日参加できない株主であっても、代理人を通じて議決権を行使することが可能となります。

株主総会の委任状には、何を記載すればよいのでしょうか?
また、株主総会の委任状では、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?

今回は、株主総会の委任状の書き方や代理人とできる者の範囲などについて、弁護士がくわしく解説します。

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株主総会の委任状とは

株主総会の委任状とは、株主総会での議決権行使を、第三者に代わりに行ってもらうために提出する書類です。
はじめに、株主総会の委任状の基本的な概要を解説します。

株主総会委任状の役割

株主総会委任状を会社に提出することで、第三者に代わりに議決権を行使してもらうことが可能となります。

本来、委任は書面がなくても成立します(民法643条)。
しかし、会社法では、代理人が議決権を行使する際は、株主または代理人が代理権を証明する書面(委任状)を株式会社に提出しなければならないと規定しています(同300条1項)。
そのため、議決権の代理行使では、株主総会の委任状を会社に対して提出しなければなりません。

株主総会委任状があることで、株主総会の当日出席できなくても、信頼できる第三者に代わりに議決権を行使してもらうことが可能となります。

また、株主総会の決議方法には普通決議や特別決議などがあり、それぞれ定足数が定められています。

定足数とは、一定以上の議決権を有する株主が出席すべきという要件です。
たとえば、普通決議を成立させるには、定款で別途定めがない限り、行使可能議決権の過半数を有する株主が出席しなければなりません。
単に欠席をした場合には、欠席した株主は定足数のカウントから外れてしまいます。

一方で、株主本人が欠席であっても委任状を持った代理人が株主総会に出席した場合は、定足数にもカウントできます。

議決権行使書との違い

株主総会委任状と混同されやすいものに、「議決権行使書」があります。

議決権行使書とは、株主総会に先立って、郵送などで意思表示をする書面です。
書面のほか、会社によってはインターネット経由で議決権を行使できる場合もあります。

株主総会委任状も議決権行使書も、当日出席できない株主が意見を表明する方法との意味では同じです。
また、いずれで参加した場合であっても、評決数はもちろん、定足数にもカウントされます。

両者の最大の違いは、代理人の有無です。
議決権行使書は株主が「自分で」意思を表示するものであり、誰かに意思表示を代理してもらうものではありません。
一方、株主総会委任状は「代理人に意思表示をしてもらう」際に使うものです。

株主総会の委任状を提出せず欠席したらどうなる?

株主総会への出席は株主の義務ではなく、権利です。
そのため、株主総会に欠席したからといって、株主に対して罰則などが適用されることはありません。

株主総会委任状も議決権行使書も提出することなく株主総会に欠席した場合は、その株主総会に自身の意思が反映されないこととなります。
つまり、自身の意見は考慮されず、議案が可決(または否決)されるということです。

また、株主総会委任状も議決権行使書も提出せずに議決権の多くを有する株主が欠席した場合、定足数を満たさず議案が成立させられない可能性が生じます。

一例として、役員の選任や解任などで適用される「普通決議」を成立させるには、定款に別段の定めがない限り、行使可能議決権の過半数を有する株主が出席しなければなりません。
たとえば、10名の株主が各1個の議決権を有している会社である場合、5名の株主が株主総会委任状も議決権行使書も提出せずに欠席すると、たとえ出席した5名の株主が全員議案に賛成したとしても、その株主総会では議案を成立させられないこととなります。

そのため、会社としては、少なくとも定足数を満たすだけの株主に出席してもらえるよう、株主総会の招集通知に委任状や議決権行使書を同封するなどの工夫が必要でしょう。
また、定款の定めにより、定足数の要件を緩和することも検討すべきです。

ただし、先ほどは「1人1個の議決権」との前提で解説したものの、定足数要件で確認すべきなのはあくまでも「議決権数」であり、株主の「頭数」ではありません。
つまり、株主が10名いたとしても、そのうちの1人であるA氏が90%の議決権を有しているのであれば、A氏さえ出席すれば定足数要件を満たすというころです。
また、普通決議では出席株主の議決権の過半数の賛成で議案が成立するため、このような株主構成であれば、A氏1人でほぼすべての決議が可能です。

株主総会委任状のひな形

株主総会委任状に決まった様式はなく、必要事項さえ書かれていればどのような様式であっても構いません。
株主総会委任状のひな形は次のとおりです。

 

定時株主総会委任状

●●株式会社の株主である私は、同社の株主である以下の者を代理人と定め、下記の権限を委任致します。

代理人
住所:____________________
氏名:____________________ 印

1,令和7年〇月〇日開催の●●株式会社の第〇〇回定時株主総会(その継続会又は延会を含む。)に出席し、次の決議につき、私の指示(下記に〇で表示)に従って議決権を行使すること。ただし、賛否いずれとも表示していない議案に関する賛否及び原案に対する修正案又は議事進行等に関する動議が提出された場合の議決権行使については、白紙委任致します。

・第1号議案   原案に対し   賛  ・  否
・第2号議案   原案に対し   賛  ・  否

2,復代理人選任の件。

令和7年〇月〇日

株主
住所:____________________
氏名:____________________ 印

 

委任状作成のポイントは、次で解説します。

株主総会委任状の書き方

株主総会委任状は、どのような点に注意して作成すればよいのでしょうか?
ここでは、基本的な書き方と記載のポイントを解説します。

文書名を明示する

はじめに、文書名を記載します。
文書名は、単に「委任状」としても構いません。
ただし、先ほど紹介したひな形のように「定時株主総会委任状」や「臨時株主総会委任状」とすると、何の委任状であるか一目でわかりやすいでしょう。

代理人名を明記する

本文として、「●●株式会社の株主である私は、同社の株主である以下の者を代理人と定め、下記の権限を委任致します」などと記載します。
ここでは、自身がどの会社の株主であるかわかるよう、会社名を明記しましょう。

続いて、代理人の住所や氏名を記載します。
ここは、代理人が誰であるか特定できるよう、明確に記載してください。

先ほど紹介したひな形とは異なり、「●●株式会社の株主である私は、同社の代表取締役である 法務太郎 を代理人と定め、下記の権限を委任致します。」など、文中で直接代理人を示す場合もあります。

なお、後ほど解説しますが、会社が代理人の資格を制限していることは少なくありません。
具体的には、代理人を株主に限定していることが多いでしょう。

たとえば、家族に代理を依頼するつもりでも、家族が株主でない場合は代理人の資格を満たさない可能性があるため注意が必要です。

委任事項を明記する

次に、委任事項を記載します。
どの株主総会における何の権限を委任するのか、明確に記載してください。

ひな形のように個々の議案について賛否を指定することができる一方で、「令和7年〇月〇日開催の●●株式会社の第〇〇回定時株主総会(その継続会又は延会を含む。)に出席し、議決権を行使すること」として賛否を一任することも可能です。

なお、会社法では「代理権の授与は、株主総会ごとにしなければならない」とされています(会社法310条2項)。
そのため、「●●株式会社の今後のすべての株主総会での議決権行使」など、包括的な委任はできません。

委任年月日を記載する

株主総会委任状には、委任した年月日を記載します。
委任年月日は、必ず株主総会以前の日付となります。

株主が署名し押印する

最後に、委任者である株主を特定する住所や氏名などの情報を記載して押印します。
氏名が自書されていれば押印はなくても構いませんが、後のトラブルを避けるため、会社としては押印までを求めておくとよいでしょう。

書面決議と委任状を採用する場合のそれぞれの手順

書面決議を採用する場合と委任状を採用する場合とで、会社はどのような手続きをする必要があるのでしょうか?
ここでは、それぞれの手順の概要を解説します。
実際にこれらを採用しようとする際は、手続きに漏れが生じないよう、あらかじめ弁護士へご相談ください。

書面決議を採用する手順

取締役などの提案について、議決権を有する株主の全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(同319条1項)。

この書面決議を採用しようとする場合、取締役などが議決権を有する株主に対して提案書と同意書を発送します。
スムーズな返送のため、返信用封筒を同封するとよいでしょう。
すべての株主から同意書の回収ができれば議案が可決されたこととみなされ、議案が成立します。

委任状を採用する手順

委任状を採用する場合、株主総会招集通知を発送する際に、委任状のテンプレートを同封します。
株主総会に出席できない株主は、あらかじめその委任状に署名や押印をして期限までに返送することで、指定した代理人に議決権行使を代理してもらうことが可能となります。

株主総会委任状の注意点

株主総会委任状では、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
最後に、委任状の注意点を4つ解説します。

株主総会ごとに作成が必要である

先ほど解説したように、株主総会の委任状は、株主総会ごとに作成しなければなりません(同310条2項)。
複数の株主総会での議決権行使をまとめて委任することはできないことには注意が必要です。

代理人資格を制限することが多い

代理人は誰でもよいわけではなく、会社によって制限されていることが少なくありません。
よくある制限範囲は、「株主であること」です。

会社としては、予期せぬ人物が代理人として現れてトラブルとなる事態を避けるため、代理人資格を「株主」などと制限しておいた方がよいでしょう。
代理人範囲の制限についてお困りの際は、弁護士へご相談ください。

代理人欄が空欄なら会社が自由に代理人を指名できる

株主総会委任状は、代理人欄が空欄のまま提出されることも少なくありません。
このような委任状も有効であり、会社が自由に代理人を指名できます。

ただし、本来このような白紙委任状は、委任者である株主の意思を合理的に推測し、これに沿った効力を発生させるべきものです。
白紙委任状の取り扱いに迷う場合は、あらかじめ弁護士へご相談ください。

また、効力について疑義が生じる事態を避けるため、会社側が委任状のテンプレートを用意する場合には、「代理人欄が空欄の場合は、〇〇(代表取締役など)を代理人として指名したものとみなします」など、空欄の場合の取り扱いを定めて明示しておくとよいでしょう。

メールで委任状を送るには会社の同意が必要である

株主総会の委任状は、原則として書面で提出しなければなりません(同310条1項)。
ただし、会社が承諾した場合には、メールなど電磁的記録での提出が可能となります(同3項)。

会社としては、電磁的記録での提出を認めるか否か、あらかじめ対応を検討しておくとよいでしょう。
対応にお困りの際は、弁護士へご相談ください。

まとめ

株主総会の委任状のひな形を紹介するとともに、委任状の書き方や注意点などを解説しました。

会社に対して委任状を提出することで、株主総会での議決権行使を代理してもらうことが可能となります。
ただし、代理人の資格は株主などへと制限されていることが多いため、あらかじめ確認してください。

会社としては、異なる様式で委任状が提出されて混乱が生じる事態を避けるため、あらかじめ委任状の様式を作成して招集通知と併せて送付することも検討するとよいでしょう。
また、代理人資格の制限やメールなどで提出された場合の取り扱い、代理人名が空欄の場合の取り扱いなどについても定めておくことをおすすめします。

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