株主総会への参加資格がある株主に知らせずに株主総会を開催するなど、手続きに不備があると株主総会でなされた決議が無効となるおそれがあります。
では、株主総会の参加資格は、誰にあるのでしょうか?
また、株主総会の開催は、どのような流れで進めればよいのでしょうか?
今回は、株主総会への参加資格や株主総会の基本などについて、弁護士がくわしく解説します。
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株主総会とは
株主総会とは、株式会社の最高意思決定機関です。
中小企業では、株主イコール社長(代表取締役)であることも少なくありません。
しかし、株式会社の本来の考え方では、会社の所有者である「株主」と、株主から委任を受けて業務執行などを担う「取締役」とが分かれています。
そして、株主と取締役との関係では、株主が上位に位置します。
これを体現する制度として、取締役で構成された取締役会に株主を排除する権限はない一方で、株主で構成される株主総会は取締役などの役員の選任権や解任権を有しています。
つまり、会社が株主の期待する業績を上げられていない場合、株主は代表取締役などの役員を「クビ」にできるということです。
株主総会はそれほど強力な権限を有しています。
株主総会は、決算確定後の時期に毎年開催される「定時株主総会」と、その他の時期に臨時で開催される「臨時株主総会」があります。
定時株主総会の開催は会社法で義務付けられており、少なくとも毎年1回は株主総会を開かなければなりません。
株主総会への参加資格を有する2つの要件
株主総会への参加資格を有するのは原則として「株主」であるものの、厳格にはもう少し細かな要件があります。
ここでは、株主総会への参加資格を有する2つの要件を解説します。
要件1:権利確定日時点で株主であること
1つ目は、権利確定日(基準日)時点で株主であることです。
本来、株主総会当日に議決権を有する株主であれば、株主総会に参加できるはずです。
しかし、上場会社など株主の変動が多い会社では、当日になるまで株主総会の参加権を有する株主がわからないとなると混乱が生じかねません。
そこで、多くの会社では株主総会前の一定の日を「基準日」として定め、その日時点で議決権を有する株主が議決権行使などをできるとしています(会社法124条1項)。
基準日は、株主総会の3か月前までの日以降としなければなりません。
なぜなら、基準日株主が行使できる権利は、基準日から3か月以内に行使するものとする必要があるためです(同2項)。
また、基準日を定める方法には、主に次の2つの方法があります。
- あらかじめ定款で定める
- 個々の株主総会ごとに、取締役会で定める
一般的には、毎年時期が決まっている定時株主総会については定款で基準日を定めます。
一方、臨時株主総会はその性質上、あらかじめ基準日を定めることが困難であるため、株主総会の招集を決める取締役会で基準日を定めることが多いでしょう。
定款に基準日の定めがない場合、基準日の2週間前までに基準日などを公告しなければなりません(同3項)。
要件2:議決権を有していること
2つ目は、議決権を有していることです。
株主であるからといって、必ずしも議決権を有しているとは限りません。
そして、基準日時点で株主であっても議決権を有していない場合、株主総会への参加資格はないこととなります。
株主であるものの、議決権を有していないケースとしては、次に2つが想定されます。
- 保有株式数が単元未満である場合
- 議決権を有しない種類株式を有している場合
保有株式数が単元未満である場合
会社は、定款で定めることで単元株制度を導入できます(同72条1項)。
単元株制度とは、100株や1,000株などひとまとまりの株数を1単元として、1単元ごとに議決権を付与する制度です。
上場株式の場合は、原則として100株が1単元とされています。
たとえば、その会社が100株を1単元として定款で定めている場合、200株を有する株主は2個の議決権を有します。
一方、この会社の株式を90株有している株主は、株主ではあるものの、議決権は有していません。
議決権を有しない種類株式を有している場合
会社は、定款で定めることで、種類株式を発行できます(同108条)。
種類株式とは、剰余金の配当や議決権行使などについて異なる定めをした2種類以上の株式です。
議決権を有しない種類株式(「無議決権株式」といいます)を有する者は株主ではあるものの、議決権はありません。
種類株式は、事業承継などの場面でよく活用されます。
たとえば、事業を承継する子には議決権のある株式を承継させる一方で、その他の子には配当について優遇された無議決権株式を承継させるなどです。
種類株式の活用をご検討の際は、弁護士までご相談ください。
(参考)取締役に参加義務があるケースもある
株主総会は「株主」の総会であるため、取締役の出席は株主総会の成立要件ではありません。
ただし、会社法では「取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない」と定められており、株主に対してさまざまな報告義務や説明義務を負っています(同314条)。
そのため、これらの義務を果たすため、株主総会への参加が必要であるケースがほとんどです。
取締役などの役員が株主への報告義務を果たさなかったからといって株主総会決議が無効となるものではないものの、解任原因となったり損害賠償請求をされたりする可能性があります。
株主総会開催までの基本的な流れ
株主総会の開催は、どのような手順で行えばよいのでしょうか?
ここでは、取締役会がある会社(「取締役会設置会社」といいます)であることを前提に、株主総会開催の基本的な流れを解説します。
なお、開催の流れは定款の定めや上場の有無などによって異なります。
株主総会の開催手続きでお困りの際は、弁護士へご相談ください。
取締役会で招集を決議する
はじめに、取締役会で株主総会の招集を決議します。
取締役会では株主総会を招集する旨のほか、開催日時や場所、提出する議案などを定めます。
株主総会の参加資格を有する株主に招集通知を発送する
株主総会の招集を決定したら、株主に対して招集通知を送ります。
招集通知には、株主総会の開催日時や場所、議案などを記載します。
招集通知は、株主総会の日の2週間前(非公開会社の場合は1週間前)までに発送しなければなりません。
計算書類や事業報告などを招集通知に同封することが一般的です。
株主総会当日
あらかじめ定めた日に、株主総会を開催します。
当日の流れはケースバイケースですが、おおむね次のとおりです。
開会宣言
議長が就任し、開会を宣言します。
議長を誰とするかについて法令に決まりはないものの、定款で「代表取締役」などと定めていることが多いでしょう。
各種報告
定時株主総会の場合、監査報告や事業報告などがなされます。
その他にも報告事項がある場合は、報告を行います。
決議事項の審議と決議
議案について審議され、採決がとられます。
採決の方法について会社法などに決まりはなく、定款に定めがない限り、挙手や起立、投票などいずれの方法であっても構いません。
また、期限までに提出された議決権行使書によってあらかじめ過半数による賛成がなされているのであれば、当日は拍手だけとする場合もあります。
閉会宣言
最後に、議長が閉会を宣言して株主総会が終了します。
株主総会の終了後は、必要事項を記載した議事録を作成し、本店に備え置かなければなりません。
役員改選など登記が必要な事項が採決されたら、一定期間内に変更登記を申請します。
株主総会決議の種類
株主総会決議の方法には3つの種類があります。
- 普通決議
- 特別決議
- 特殊決議
ここでは、それぞれの決議要件を解説します。
普通決議
普通決議は、もっとも一般的な決議方法です。
役員の選任や解任、剰余金の配当など基本的な事項は、普通決議にて決せられます。
普通決議の成立要件は、次のとおりです(同309条1項)。
- 行使可能議決権の過半数を有する株主が出席すること
- 出席株主の議決権の過半数が賛成すること
特別決議
特別決議は、株主にとって特に重要な事項に適用される決議方法です。
定款変更や株式併合、組織再編などの決議は、この特別決議によってなされます。
特別決議の成立要件は、次のとおりです(同2項)。
- 行使可能議決権の過半数を有する株主が出席すること
- 出席株主の議決権の3分の2以上が賛成すること
定足数要件は、定款で定めることで「3分の1以上」にまで緩和できます。
一方で、定足数要件の排除はできません。
また、議決権要件は加重が可能であるものの、緩和はできません。
特殊決議
特殊決議とは、株主にとってきわめて重要な事項に適用される決議方法です。
特殊決議には、「定足数が半数以上になるもの」と「議決権要件が4分の3以上になるもの」の2つがあります。
定足数が半数以上になるもの
1つ目は、定足数が半数以上になるものです。
この場合の特殊決議の成立要件は次のとおりです(同3項)。
- 行使可能議決権の半数以上を有する株主が出席すること
- 出席株主の議決権の3分の2以上が賛成すること
特別決議と似ているものの、定足数要件が「半数以上」とされており、この要件の緩和もできません。
一方で、定足数要件も議決権要件も加重することが可能です。
議決権要件が4分の3以上になるもの
2つ目は、議決権要件が4分の3以上になるものです。
この場合における特殊決議の成立要件は次のとおりです(同4項)。
- 行使可能議決権の半数以上を有する株主が出席すること
- 出席した株主の議決権の4分の3以上が賛成すること
定足数と議決権要件は、いずれも緩和はできません。
一方で、定款で定めることにより定足数要件や議決権要件を加重することは可能です。
株主総会で決議される主な事項
株主総会では、どのような事項が決議されるのでしょうか?
最後に、株主総会での主な決議事項を解説します。
なお、取締役会がない会社においては、これら以外にも株式会社の組織や運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について株主総会で決議することとされています(同295条1項)。
また、取締役会設置会社であっても、定款で株主総会での決議事項を追加できます。
会社の経営に関わる重大事項
会社の経営に関わる重大事項は、株主総会での決議事項です。
たとえば、次のものなどがこれに該当します。
- 定款変更(同466条)
- 資本金の減少、資本準備金の減少(同447条1項、448条1項)
- 事業譲渡や子会社譲渡などの契約承認(同467条1項)
- 吸収合併、新設合併、吸収分割など組織再編の契約承認(同783条1項、795条1項、804条1項など)
- 解散(同471条3号)
役員の人事や報酬に関する事項
役員の人事や報酬に関する事項は、株主総会での決議事項です。
たとえば、次のものなどがこれに該当します。
- 取締役・監査役などの選任(同329条1項)
- 取締役・監査役などの解任(同339条1項)
- 取締役・監査役などの報酬の決定(同361条1項、379条1項、387条1項)
株主の利害に直接関わる事項
株主の利害に直接関わる事項は、株主総会での決議事項です。
たとえば、次のものなどがこれに該当します。
- 相続人等に対する株式の売渡請求の決定(同175条1項)
- 株式併合(同180条2項)
- 募集株式の発行等における募集事項の決定(同199条2項)
ある事項が株主総会での決議事項であるか否かに迷う場合は、弁護士へご相談ください。
まとめ
株主総会の参加資格や株主総会開催の流れ、株主総会での決議事項などについて解説しました。
株主総会への参加資格を有するのは、権利確定日(基準日)時点で議決権を有する株主です。
議決権を有する株主に対して招集通知などを漏らさないよう、参加資格について正しく理解しておきましょう。
株主総会の参加資格の判断を誤り招集手続きなどに不備が生じると、株主総会決議が無効となるおそれがあります。
Authense法律事務所では、企業法務に特化したチームを編成しており、株主総会の運営サポートなどを行っています。
株主総会の参加資格を確認したい場合や、その他適法な株主総会運営についてサポートをご希望の場合は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。