コーポレートガバナンスと内部統制はいずれも、企業不祥事の抑止や正常な発展のために必要な概念です。
コーポレートガバナンスと内部統制には、どのような違いがあるのでしょうか?
また、企業がコーポレートガバナンスや内部統制を強化するには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
今回は、コーポレートガバナンスと内部統制について、弁護士がくわしく解説します。
目次
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「コーポレートガバナンス」と「内部統制」の概要
コーポレートガバナンスと内部統制は、それぞれどのような意味を持つのでしょうか?
はじめに、コーポレートガバナンスと内部統制それぞれの概要を解説します。
コーポレートガバナンスとは
コーポレートガバナンスは「企業統治」を意味し、企業が株主や顧客、従業員、地域社会などステークホルダーの立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みです。
企業不祥事を防ぎ公正な意思決定を行うため、社外取締役や社外監査役が経営陣を監視し、統治することに主眼が置かれます。
内部統制とは
内部統制とは、健全かつ効率的な企業経営を確保するための社内体制です。
会社の規模が大きくなると、現場で起きている不祥事に経営陣が気付きにくくなります。
内部統制がとれていなければ、経営陣の知らないところで不正が横行するなど、企業の価値が毀損してしまいかねません。
内部統制を強化することで不祥事が生じにくくなるほか、不祥事の早期発見や早期改善がしやすくなります。
コーポレートガバナンスの目的
コーポレートガバナンスの目的は、どのような点にあるのでしょうか?
ここでは、コーポレートガバナンスの主な目的を4つ解説します。
- 経営陣による不正や不祥事を防止すること
- 株主やステークホルダーに利益を還元すること
- 中長期的に企業価値を向上させること
- 企業の社会的地位を向上させること
なお、ポイントとしては「経営陣が従業員を監視・統治する」のではなく、コーポレートガバナンスは「株主などの代弁者である社外取締役や社外監査役などが企業(主に経営陣)を監視・統治する仕組み」である点です。
経営陣による不正や不祥事を防止すること
1つ目は、経営陣による不正や不祥事を防止することです。
コーポレートガバナンスを強化することで、財務情報や経営課題などが適切に評価され、開示されることとなります。
その結果、社内の透明性や公正性が高まり、不祥事が生じづらくなります。
株主やステークホルダーに利益を還元すること
2つ目は、株主やステークホルダーの立場を尊重し、利益を還元することです。
コーポレートガバナンスの目的の一つに、株主や顧客などステークホルダーへの尊重が挙げられています。
コーポレートガバナンスを強化することで企業の健全な発展が期待でき株主との関係が強化されるほか、結果的に株主やステークホルダーへの利益還元がしやすくなるでしょう。
中長期的に企業価値を向上させること
3つ目は、中長期的に企業価値を向上させることです。
短期的に利益を上げるだけであれば、ステークホルダーを特に意識せずとも可能かもしれません。
しかし、中長期的に企業価値を向上させるにはコーポレートガバナンスを強化し、企業の透明性をはかることが不可欠です。
コーポレートガバナンスを強化して透明さや公正さをアピールすることで、投資家や金融機関などから信頼され中長期的な成長が可能となります。
企業の社会的地位を向上させること
4つ目は、企業の社会的地位を向上させることです。
コーポレートガバナンスが効き、透明性や公正性を備えた企業は社会的信頼が高くなります。
その結果、株主や金融機関、顧客、求職者などから選ばれやすくなり、さらなる企業成長につながるでしょう。
内部統制の目的
内部統制の目的は、どのような点にあるのでしょうか?
ここでは、内部統制の主な目的を4つ紹介します。
- 業務の有効性と効率性を向上させること
- 財務報告の信頼性を確保すること
- 事業活動に関わる法令・規範を遵守すること
- 資産を保全すること
なお、内部統制は「経営陣が従業員などを監視・統治する」ことに主眼が置かれます。
業務の有効性と効率性を向上させること
1つ目は、業務の有効性と効率性を向上させることです。
内部統制を強化することで、事業活動の目的を達成するための人員や時間、コストの無駄に気づき、削減しやすくなります。
その結果、業務の効率化や有効性の向上が可能となります。
財務報告の信頼性を確保すること
2つ目は、財務報告の信頼性を確保することです。
内部統制を強化することで、不適切な会計処理を防ぎやすくなります。
その結果、 財務報告が健全化され、ステークホルダーからの信頼が向上します。
事業活動に関わる法令・規範を遵守すること
3つ目は、事業活動に関わる法令や規範を遵守することです。
法令や規範に違反すれば、行政指導や罰則などの対象となります。
また、違反した内容によっては損害賠償請求の対象となったり、企業名などが公表されて企業イメージが低下したりするかもしれません。
内部統制を強化することで、社内の不正や法令違反を抑止できるほか、万が一不正や法令違反が生じた際に早期の発見と対応がしやすくなります。
資産を保全すること
4つ目は、企業の資産を保全することです。
企業は、有形・無形のさまざまな資産を有しています。
内部統制を強化することで資産の不正な取得や非効率な活用などを抑止でき、資産の健全な保全と運用が可能となります。
コーポレートガバナンスと内部統制の共通点と違い
コーポレートガバナンスと内部統制には共通する部分もあれば、異なる点もあります。
ここでは、コーポレートガバナンスと内部統制の共通点と相違点について、それぞれ解説します。
共通点
コーポレートガバナンスと内部統制は、いずれも健全な企業経営を実現するための仕組みである点で共通しています。
また、コーポレートガバナンスと内部統制は別々に強化できるものではなく、密接に関連するものです。
内部統制がとれていない企業がコーポレートガバナンスだけを強化しても穴の開いたバケツのように信頼が漏れ出してしまい、適切な企業経営は期待できません。
つまり、内部統制の強化は、コーポレートガバナンスの強化にとって不可欠な要素といえるでしょう。
違い
コーポレートガバナンスと内部統制の最大の違いは、監視や統治の主な対象者です。
コーポレートガバナンスによる監視や統治の主な対象者は、企業の経営陣です。
企業の経営陣が暴走したり不正を働いたりしないよう、株主などが監視し統治します。
一方、内部統制での監視や統治の主な対象者は、従業員です。
社内で不正や不祥事が生じないよう、経営陣が従業員を監視し統治します。
企業がコーポレートガバナンスを強化する方法
企業がコーポレートガバナンスを強化するには、どのような方法があるのでしょうか?
ここでは、コーポレートガバナンスを強化する主な方法を紹介します。
なお、東京証券取引所は、上場企業が遵守すべきコーポレートガバナンスの指針として「コーポレートガバナンス・コード」を公開しています。
上場を目指す企業はもちろんのこと、企業の拡大に伴ってコーポレートガバナンスを強化したい場合にも、一読して参考にするとよいでしょう。
内部統制を構築し強化する
コーポレートガバナンスを強化するには、内部統制を強化することが不可欠です。
内部統制がとれていないということは、表面上コーポレートガバナンスが強化されているように見えても、経営陣が気付かない水面下で不正が横行しているおそれがあることを意味します。
内部統制の強化は、コーポレートガバナンスを強化するための土台ともいえます。
コーポレートガバナンスを強化するにあたって内部統制に不安がある場合は、まずは内部統制の強化に努めるべきでしょう。
内部統制の強化方法は、後ほど解説します。
社外取締役や社外監査役を設置する
コーポレートガバナンスを強化することはすなわち、経営陣の暴走や不正を防ぐ仕組みを構築することです。
そのため、経営陣が外部から適切に監視される体制を構築しなければなりません。
経営陣の監視を強化するために有効な対策として、社外取締役や社外監査役の設置が挙げられます。
社外取締役は、経営陣による経営の意思決定などを監督する役割を担います。
一方、社外監査役は、業務執行の適法性を監督する立場です。
社外取締役や社外監査役に該当するためには、過去10年以内に自社や子会社の従業員や業務執行取締役でなかったことなど、さまざまな要件をクリアしなければなりません。
社外取締役や社外監査役に登用しようとする者が要件を満たすか否か判断に迷う場合には、弁護士へご相談ください。
執行役員制度を導入する
コーポレートガバナンスを強化するには、執行役員制度の導入も一つの方法です。
執行役員制度とは、取締役とは別途「執行役員」という役職を設置し、事業部のトップなどを執行役員に登用する制度です。
執行役員制度を導入することで経営と業務執行の分離ができ、経営陣が不正を働く抑止力となります。
企業が内部統制を強化する方法
企業が内部統制を強化するには、何を行えばよいのでしょうか?
最後に、企業が内部統制を強化する主な方法を3つ解説します。
内部統制システムを構築する
企業が内部統制を強化するには、内部統制システムの構築が不可欠です。
内部統制システムとは、企業の不祥事を防止して、対外的な信頼性を高めるための社内体制です。
内部統制システムは会社法と金融商品取引法で定義されているものの、それぞれ目的と構築義務のある対象企業が異なります。
会社法(362条4項6号) | 金融商品取引法(24条の4の4 1項) | |
目的 | 業務の適正を確保すること | 財務計算に関する書類などの適正性を確保すること |
主な対象企業 | 一定の大企業のうち、取締役会がある会社 | 有価証券報告書の提出義務がある会社 |
もちろん、対象企業以外であっても、内部統制システムを構築して構いません。
内部統制システムを構築することは、内部統制強化の第一歩目となります。
従業員に定期的な研修をする
内部統制は、従業員が社内の規程や内部統制システム、法令などを正しく理解して、はじめて実現し得るものであるためです。
そのため、従業員に対して定期的に研修を実施することが、内部統制強化の一つのカギといえます。
研修は一度行うのみならず、最新情報や他社の事例などを交え、定期的に実施すると効果的です。
講師は社内から登用してもよいですが、弁護士など外部の専門家に依頼することも一つの手でしょう。
弁護士のサポートを受ける
内部統制の強化にあたっては、さまざまな規程の策定などが必要となります。
作成すべき規定は内部統制について定めた「内部統制システム構築の基本方針」などのほか、業種や組織の規模、上場の有無などによって多岐にわたります。
そのため、まずは自社にとって必要となる規程を洗い出すことから始めなければなりません。
そのうえで、各規程の内容を検討したり、すでにある規程の改訂を検討したりします。
これらの事項のすべてを自社だけで行うことは、容易ではないでしょう。
そのため、内部統制システムの構築や組織運営などにくわしい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
弁護士のサポートを受けることで必要な規程の洗い出しがしやすくなるほか、各規程の内容についても法令に沿い、かつ内部統制に有効な内容で策定しやすくなります。
まとめ
コーポレートガバナンスと内部統制それぞれの概要や、コーポレートガバナンスと内部統制の主な違い、それぞれを強化する方法などについてくわしく解説しました。
コーポレートガバナンスと内部統制はいずれも、健全な企業経営の実現を目的とするものです。
しかし、コーポレートガバナンスが経営陣を主な監視対象とするのに対し、内部統制が主に従業員を監視対象とする点で異なります。
コーポレートガバナンスを強化するには内部統制の強化が不可欠であり、内部統制の強化はコーポレートガバナンス強化の土台といえるでしょう。
Authense法律事務所では企業法務に特化した専門チームを設けており、コーポレートガバナンスの強化や内部統制システムの構築などについても多くの実績があります。
健全な組織運営や上場などを目指してコーポレートガバナンスや内部統制システムの構築をご検討の際は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。
企業のステップや状況、最終的なゴールなどの状況に応じて、最適なサポートプランをご提案します。