コラム

単体6883_新規_コーポレートガバナンス・コードとは?基本原則・補充原則を弁護士がわかりやすく解説

上場する企業は、東京証券取引所が取りまとめたコーポレートガバナンス・コードを遵守しなければなりません。
そして、上場をしない場合であっても企業のガバナンスを強化するため、コーポレートガバナンス・コードの内容が参考となります。

では、コーポレートガバナンス・コードは、どのような特徴や原則を有するのでしょうか?
また、企業がコーポレートガバナンス・コードに対応する際は、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?

今回は、コーポレートガバナンス・コードの概要や企業が対応する際のポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。

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コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンス・コードとは、東京証券取引所が定めた「企業統治指針」です。
企業が経営の透明性や公正性を高めて持続的な成長や価値の向上を目指すために必要となる、主要な原則を取りまとめています。※1

コーポレートガバナンス・コード(Corporate Governance Code)は、英語表記の頭文字をとって「CGコード」と略されることもあります。

「コーポレートガバナンス」とは

コーポレートガバナンス・コードのうち「コーポレートガバナンス」を直訳すると、「企業統治」です。
これは、株主や顧客、従業員、地域社会などステークホルダーの立場を踏まえたうえで、会社が透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味します。

コーポレートガバナンスと似たことばに「内部統制」があります。
こちらは、内部統制は経営陣が従業員などの不正を監視し統治する仕組みを指します。

一方で、コーポレートガバナンスによる主な監視対象は経営陣であり、従業員ではありません。
株主などステークホルダーの代弁者として、外部取締役や外部監査役が経営や経営陣を適切に監視し統治する仕組みが、コーポレートガバナンスです。

コーポレートガバナンス・コードが制定された背景

日本においてコーポレートガバナンス・コードが制定された背景としては、2014年6月、政府が「『日本再興戦略』改訂 2014-未来への挑戦-」を閣議決定したことが挙げられます。※2

この資料の「Ⅱ.改訂戦略における鍵となる施策」のうち「1.日本の『稼ぐ力』を取り戻す」の項目の中に、「コーポレートガバナンスの強化 」との項目が入っています。
この項目では「日本企業の『稼ぐ力』、すなわち中長期的な収益性・生産性を高め、その果実を広く国民(家計)に均てんさせる」ために「コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準の ROE の達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である」と言及されています。
つまり、日本企業が「稼ぐ力」を取り戻すために、コーポレートガバナンスの強化が必要だということです。

これによりコーポレートガバナンス・コードが制定され、2015年6月1日に施行されました。
その後数回にわたる改訂を経て、記事執筆時点である2024年8月現在では2021年6月版が適用されています。

コーポレートガバナンス・コードの2つの特徴

コーポレートガバナンス・コードの特徴として、「プリンシプルベース・アプローチ」であることと「コンプライ・オア・エクスプレイン」であることが挙げられます。
ここでは、それぞれの特徴について解説します。

プリンシプルベース・アプローチ

プリンシプルベース・アプローチとは、「原則主義」です。

企業が何をすべきか詳細な事項までを定めるのではなく、抽象的な原則だけを定めることを指します。
これ受け、具体的に何をすべきかという具体的な事項については、各企業の合理的な判断に委ねられます。

コンプライ・オア・エクスプレイン

コンプライ・オア・エクスプレインを直訳すると、「従うか、説明するか」ということです。
つまり、コーポレートガバナンス・コードを遵守するか、遵守しないのであればその理由を説明すべきことを意味します。

コーポレートガバナンス・コードの基本5原則

コーポレートガバナンス・コードには、基本の5原則が定められています。
ここでは、5原則それぞれの概要を解説します。

株主の権利・平等性の確保

1つ目の原則は、株主の権利・平等性の確保です。
この原則は、次のように規定されています。

  • 上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

ここでは、次の4つのことが述べられています。

  1. 株主の権利が実質的に確保されるよう、適切な対応を行うこと
  2. 株主が権利を適切に行使することができる環境の整備を行うこと
  3. 株主の実質的な平等性を確保すること
  4. 少数株主や外国人株主について十分な配慮を行うこと

株主は、コーポレートガバナンスの規律における主要な起点です。
その株主が円滑に権利行使できるよう配慮し株主との適切な協働を確保し、持続的な成長に向けた取り組みに邁進すべきとされています。

株主以外のステークホルダーとの適切な協働

2つ目の原則は、株主以外のステークホルダーとの適切な協働です。
この原則は、次のように規定されています。

  • 上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

上場会社には、株主以外にもさまざまなステークホルダーが存在します。
代表的なものは、従業員と顧客、取引先、債権者、地域社会です。

企業はこれらのステークホルダーと適切に協働し、ステークホルダーの権利や立場などを尊重し、リーダーシップを発揮することが求められるとされています。

適切な情報開示と透明性の確保

3つ目の原則は、適切な情報開示と透明性の確保です。
この原則は、次のように規定されています。

  • 上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

上場会社は、さまざまな情報を適切に開示する責務を負っています。
法令で開示が求められるのは次の情報などです。

  • 会社の財政状態・経営成績等の財務情報
  • 経営戦略・経営課題
  • リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報

コーポレートガバナンス・コードでは、これら以外の情報についても主体的に開示することを求めています。
また、情報はただ開示すればよいのではなく、株主など情報の利用者にとってわかりやすく、かつ有用性の高い情報回維持をすべきとしています。

取締役会等の責務

4つ目の原則は、取締役会等の責務です。
この原則は、コーポレートガバナンス・コードで次のように規定されています。

  • 上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、次の4点をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。
    1. 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
    2. 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
    3. 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと

株式会社では取締役会のない組織設計も可能であるものの、上場会社では一般的に、取締役会が設置されています。
そして、取締役会は株式会社において、業務執行などを担う重要な機関です。
この原則では、その取締役会が果たすべき責務を改めて規定しています。

株主との対話

5つ目の原則は、株主との対話です。
この原則は、次のように規定されています。

  • 上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

株主は株式会社の保有者であり、株主総会は株式会社における最高意思決定機関です。
この原則では、その株主総会で株主に対して説明や対話をすることは当然であり、これ以外の場でも建設的な対話や説明をすべきとしています。

改訂されたコーポレートガバナンス・コードの4つの補充原則

コーポレートガバナンス・コードは、2021年6月に改訂されました。
この改訂では、4つの補充原則が新設されています。
ここでは、新設された4つの補充原則を紹介します。

  • 取締役会の機能の発揮
  • 企業の中核人材における多様性の確保
  • サステナビリティを巡る課題への取組み
  • その他個別の項目

なお、補充原則とは先ほど紹介した5つの基本原則それぞれについて補充的に定められている原則です。
コーポレートガバナンス・コードの5原則が9原則に増えたわけではありません。

取締役会の機能の発揮

新設された補充原則の1つ目は、取締役会の機能の発揮にまつわる事項です。
これに関しては、次の内容が規定されました。

  • プライム市場上場企業において、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきこと
  • 取締役会の下に、独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置すべきこと
  • 各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスなどを、取締役の選任に関する方針や手続きと併せて開示すること
  • 独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきであること

いずれも取締役会の機能を向上させ、ガバナンスを強化する内容となっています。

企業の中核人材における多様性の確保

新設された補充原則の2つ目は、企業の中核人材における多様性の確保にまつわる事項です。
これに関しては、主に次の内容が規定されました。

  • 女性や外国人、中途採用者の管理職への登用など、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すこと
  • 多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針を、その実施状況と併せて開示すること

ダイバーシティの確保へ向けて、多様な人材の登用やその開示を求める内容となっています。

サステナビリティを巡る課題への取組み

新設された補充原則の3つ目は、サステナビリティを巡る課題への取組みにまつわる事項です。
これに関しては、次の内容が規定されました。

  • 経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取り組みを適切に開示すべきであること
  • 特にプライム市場上場企業において、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFD、またはそれと同等の枠組
    みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきであること

なお、TCFDとは、気候関連財務情報開示タスクフォースの略称です。
これは、各企業における気候変動への取り組みを具体的に開示することを推奨する国際的な組織です。

その他個別の項目

その他、コーポレートガバナンス・コードの補充原則として、次の事項が追記されています。

  • プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任するか、利益相反管理のための委員会を設置すること
  • プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォームの利用と英文開示を促進すること

コーポレートガバナンス・コードに企業が対応するポイント

企業がコーポレートガバナンス・コードに対応するには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?
最後に、対応の主なポイントを2つ解説します。

コーポレートガバナンス・コードを読み込んで理解する

企業がコーポレートガバナンス・コードに対応するには、まずコーポレートガバナンス・コードの全文を読み込み、よく理解することです。
読み込む際は単に規定を確認するのみならず、自社の現状と照らし合わせ、自社ですでに達成している取り組みと今後の自社における課題を洗い出しながら読み進めるとよいでしょう。

弁護士のサポートを受ける

先ほど解説したように、コーポレートガバナンス・コードは詳細な対応事項を具体的に規定しておらず、原則的な事項について定めているにとどまります。
そのため、自社でコーポレートガバナンス・コードに対応するには、自社における具体的な取り組みを決め、必要に応じて社内規程などを整備しなければなりません。

これらの取り組みを、自社だけで行うことは容易ではないでしょう。
コーポレートガバナンス・コードへの対応を進める際は、コーポレート法務にくわしく上場支援などの実績のある弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

まとめ

コーポレートガバナンス・コードの概要や創設の背景、コーポレートガバナンス・コードの5原則などを解説しました。

コーポレートガバナンス・コードは、上場企業が遵守すべき企業統指針です。
上場を目指す場合はもちろん、会社のガバナンスを強化したい場合にも参考となるでしょう。

コーポレートガバナンス・コードに対応するには、内容を読み込んで理解したうえで、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

Authense法律事務所では企業法務に特化したチームを設けており、コーポレート法務や上場支援などについても強みを有しています。
コーポレートガバナンス・コードへの対応でお困りの際は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

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