企業不祥事が、毎年新聞やニュースを騒がせています。
2024年前半に話題となった企業不祥事には、どのようなものがあったのでしょうか?
また、主な企業不祥事には、どのようなものが挙げられるでしょうか?
今回は、2024年前半に起きた企業不祥事を紹介するとともに、主な企業不祥事の分類や自社で不祥事を起こさないための対策などについて、弁護士がくわしく解説します。
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企業不祥事とは
企業不祥事とは、違法行為やコンプライアンス違反などにより、企業で生じたさまざまな問題やトラブルを指します。
一般的には、社外のステークホルダーなどにまで広く影響を及ぼしたトラブルや社会問題となったトラブルを「企業不祥事」と称することが多いでしょう。
企業不祥事の主な分類
企業不祥事には、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、6つの代表的な企業不祥事について、概要を解説します。
横領
横領は、代表的な企業不祥事の一つです。
経理担当者や集金担当者など会社のお金や顧客のお金に触る機会のある者が、不正に金銭を着服するものがこれに該当します。
現金を取り扱う際に金銭を現金のまま抜き取るなど比較的単純なものから、出金伝票を偽造したり取引先担当者と口裏を合わせて企業から着服した金銭を分け合ったりするものなど、さまざまなケースが想定されます。
情報漏洩
情報漏洩は、近年問題になることの多い企業不祥事の一つです。
USBメモリや業務用パソコンの置き忘れなど従業員の過失によるもののほか、金銭目的や企業への恨みを果たす目的などから故意に情報を窃取し漏洩させる場合もあります。
また、セキュリティの穴を突かれ、サイバー攻撃などで情報が漏洩するケースも少なくありません。
不適切な会計処理
不適切な会計処理も、起こりがちな企業不祥事の一つです。
比較的規模の大きな企業では、株主や金融機関など社外のステークホルダーに業績をよく見せかけるための粉飾決算が問題となりがちです。
反対に、法人税などの負担を抑えるため、利益を少なく見せかける粉飾決算をする場合もあります。
また、横領などの証拠隠滅をはかり、帳簿上の辻褄を合わせるために不適切な会計処理がなされるケースも散見されます。
データ偽装
データ偽装にまつわる企業不祥事が報道されることも少なくありません。
データ偽装とは、その製品に要求される品質や仕様を満たさないと認識しつつ、製品を消費者に販売したり取引先に納品したりする不正です。
製品などの品質は一定の条件下における検査で確認されているはずであるものの、その検査データが改ざんされていれば、消費者が正しい仕様や品質を知ることができなくなります。
ハラスメント
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなど、ハラスメントも企業が注意すべき不祥事の一つです。
ハラスメントにまつわる不祥事は、大きく報道されるケースも少なくありません。
「この程度、昔は普通だった」などの言い訳は通用しづらいため、認識のアップデートが不可欠といえます。
SNSへの不適切投稿
近年問題となりがちな企業不祥事の1つに、SNSへの不適切投稿があります。
SNSで拡散されると多くのユーザーから反応が得られ、承認欲求が満たされると考える人も少なくないようです。
そのため、より多くの者の目に留まるよう、過激な投稿をして「炎上」するケースが後を絶ちません。
自社の店舗内での不衛生な行為を撮影した投稿や、他者を侮蔑するような行為を撮影した投稿で企業が「炎上」したことは、記憶に新しいでしょう。
企業不祥事の主な原因
企業不祥事は、なぜ発生するのでしょうか?
ここでは、企業不祥事の主な原因を3つ解説します。
企業のガバナンスが効いていない
1つ目は、企業のガバナンスが効いていないことです。
ガバナンスとは、「統治」や「統制」を意味します。
ガバナンスが効いている企業では社内の風通しがよく、不祥事の種が生じても自浄作用が働きやすくなります。
一方、ガバナンスが効いていない企業は隠蔽体質となりやすく、不祥事が横行しやすくなります。
目標達成へのプレッシャーが強い
2つ目は、目標達成へのプレッシャーが強いことです。
企業が成長するために、適切な目標設定や適度なプレッシャーは必要でしょう。
しかし、目標達成へのプレッシャーが強過ぎると、データ改ざんなどの不正をしてでも目標を達成しようとの意識がはたらきやすくなります。
また、従業員の心身が疲弊することでハラスメントが横行しやすくなるほか、横領などの不正に手を染められるおそれも生じます。
従業員の意識が低い
3つ目は、従業員の意識が低いことです。
特に、SNSへの不適切投稿などは、従業員が軽い気持ちで行うケースが少なくありません。
また、「このくらいならバレないだろう」と、気軽に横領や情報漏洩に手を染める場合もあるようです。
研修を実施するなど「やってはいけないこと」を周知したり、違反した場合の懲戒規定を設けたりすることで、従業員の意識が向上し不祥事を抑止しやすくなります。
2024年上半期に発生した主な企業不祥事
毎年さまざまな企業不祥事が発生し、報道されています。
では、2024年上半期には、どのような企業不祥事があったのでしょうか?
ここでは、2024年上半期に報道された主な企業不祥事を3つ紹介します。
グッドスピードの不正会計
2024年1月、中古車販売大手である株式会社グッドスピードが、2019年4月の上場以前から不正会計を行っていたことが判明した事例です。※1
第三者委員会の調査報告書によると、2017年10月からの約6年間に、グループ内で計6,000件近くの「売上の先行計上」をする通称「納車テイ」が行われていたとのことでした。
ほかにも、グループ内の企業では予算を達成した月の売上計上を翌月に遅らせる不適正会計も行われており、不適切会計が横行していたようです。
同社は2023年にも保険金の不正請求が明るみとなっており、同社の株価は一時半値程度にまで下落する事態となりました。
セコム元従業員による現金着服
2024年2月、警備大手であるセコム株式会社の従業員が、会社から預かったバッグから現金1,000万円を抜き取り着服したとして、業務上横領の疑いで再逮捕されました。※2
この元従業員はほかに、スーパーマーケット内に設置されたATMに現金を補充する作業中にも現金1,000万円を着服したとされています。
逮捕された元従業員は、着服した現金をオンラインカジノに使ったと話しているようです。
警備会社の信頼を揺るがす重大な不祥事といえるでしょう。
エネオスの子会社会長のセクハラ
2024年2月、石油元売り大手であるENEOS株式会社の子会社である「ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社(現:ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社)」の会長が懇親の場でセクハラ行為をした事例です。※3
事件を受け、セクハラ行為をした当時の会長は解任されました。
ENEOSグループでは2023年にもENEOSホールディングス株式会社の社長が女性へのわいせつ行為を理由に辞任しており、悪化した企業イメージの回復が急がれています。
LINE個人情報流出
無料通信アプリである「LINE」の利用者らの個人情報が、不正アクセスで流出した事例です。※4
これを受け、LINEヤフー株式会社に対して行政指導がなされました。
同社への行政指導は、2024年に入ってから2度目です。
総務省などによると、2023年に発覚した不正アクセスではLINEの利用者などの個人情報が最大約52万件流出したとのことです。
企業不祥事を避けるための対策
企業不祥事は、どの企業にとっても他人事ではありません。
ニュースなどで大々的に報じられるのは誰もが知る企業で起きた不祥事が中心であるものの、中小企業などでも、日々企業不祥事は起きています。
自社で企業不祥事が起きると取引先などからの信頼が失墜するおそれがあるほか、業務で必要な許認可が取り消されたり罰則の適用対象となったりたりするなど、多方面への影響が生じる可能性があります。
では、企業不祥事を防ぐためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、企業不祥事を避けるために講じたい主な対策を3つ解説します。
社内規程を整備する
1つ目は、社内規程を適切に整備することです。
中でも、SNSの不適切投稿や業務用パソコンの置き忘れによる情報漏洩などの企業不祥事は、適切な社内規程を整備することである程度防ぐことが可能となります。
たとえば、次の規程などの整備が検討できます。
- SNS活用規程:業務に関する事項の投稿を禁じたり社内で撮影した写真の投稿を禁じたりするなど、自社に合った内容を定める
- 電子機器活用規程:パソコンなど電子機器の持ち出しを禁じたり、パスワード設定を義務付けたりするなどの内容を定める
そのうえで、規程を社内へ周知する研修などを定期的に実施してください。
規程を設けても、これを従業員が知らなかったり理解していなかったりすると、抑止効果が薄れてしまうためです。
研修で規程の内容を周知するとともに、禁止行為についてより具体的な事例を紹介することで、従業員の意識向上が期待できます。
併せて、ハラスメント研修なども実施するとよいでしょう。
内部通報制度を導入する
2つ目は、内部通報制度を導入することです。
内部通報制度とは、社内で組織内の不正行為に関する通報や相談を受け付けて、不正の調査や是正をする制度です。
企業が企業内の不正を早期に発見し、企業と従業員を守る目的で導入されます。
アルバイトなどを含む従業員数が300人を超える企業には、公益通報者保護法によって内部通報制度の導入が義務付けられています。※5
また、導入対象であるにもかかわらず内部通報制度を導入したい場合は、消費者庁からの指導や企業名の公表、罰則の対象となる可能性があります。
企業の規模が大きくなると、現場で不正が起きていることに経営陣が気付けないことが少なくありません。
不正が常態化し問題が大きくなりすぎて収拾がつかなくなったり、社外から問題が指摘されたりするまで、経営陣が不正に気付かないおそれもあるでしょう。
内部通報制度があることで、社内で不正を発見した従業員から早期の情報提供を得やすくなり、不正について早期の発見と是正がしやすくなります。
内部通報制度を導入する際は、内部通報をした従業員が不利益を被ることのないよう、細心の注意を払わなければなりません。
そのため、導入の際の制度設計では、弁護士などのサポートを受けることをおすすめします。
不正に厳しく対応する
3つ目は、不正が発覚した際はこれに厳しく対処することです。
不正が発覚した際に厳しく対処することで、不正の再発防止につながります。
経営陣が不正に気付いているにもかかわらずこれを黙認したり、ましてや暗に推奨したりすれば、不正の根絶は見込めません。
むしろ、不正が横行する組織となりかねないでしょう。
そのような事態を避けるため、社内で不正が発覚した際は、懲戒規程などに基づいて厳正に対処することが必要です。
ただし、従業員を懲戒処分するには、原則として就業規則や懲戒規程などへの規程が必要です。
また、たとえ就業規則などに定めがあっても、行為に対して処分が重すぎると判断されれば、処分が無効となったり処分をした従業員から損害賠償請求がなされたりするおそれがあります。
そのため、あらかじめ弁護士などの専門家へ相談したうえで、就業規則などを整備しておくことをおすすめします。
まとめ
2024年前半に報道された主な企業不祥事を紹介するとともに、企業不祥事の種類や企業不祥事を防ぐ対策などを解説しました。
企業不祥事は、どの企業にとっても他人事ではありません。
企業の規模が大きくなると、経営陣が気付かないうちに現場で不正が生じる恐れも高くなります。
そのような事態を避けるため、社内規程の整備や研修の実施、内部通報制度の導入などの対策を検討しましょう。
また、懲戒規程などを整備したうえで、万が一不正が発覚した際は厳正に対処することも重要です。
Authense法律事務所では企業法務に特化したチームを設けており、不祥事対応や不祥事を抑止する体制構築についても多くのをサポート実績があります。
企業不祥事を抑止するための体制構築をご検討の際や、社内で不祥事が生じてお困りの際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。