政府調達を理解することで、販路の拡大や機会の増大につながるかもしれません。
政府調達とはどのようなものを指すのでしょうか?
また、中小企業が入札に参加するには、どのような流れを踏めばよいのでしょうか?
今回は、政府調達の基本や入札参加の流れなどについて、弁護士がくわしく解説します。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
政府調達とは
政府調達とは、政府機関や地方自治体などが、使用する物品やサービスを調達することです。
一般の企業であっても自社内ですべてが完結することはなく、他の企業からパソコンやプリンター、文房具、事務机、キャビネットなどを買ったり、リースしたりしていることでしょう。
また、オフィスの建築工事や修繕工事を依頼したり、車の修理やメンテナンスサービスを利用したりすることもあると思います。
政府や地方自治体などもこれと同様に、庁舎で使う備品や設備を外部から購入したり、庁舎の修繕を外部の企業に委託したりします。
これが政府調達です。
民間企業と同じく、政府調達をする場合にも契約を締結するものであり、この点では大きな違いはありません。
しかし、政府や地方自治体は「公」の存在であり、公的な資金で運営されています。
そのため、調達の合理性がより重視されています。
たとえば、一般的な中小企業の場合、相見積もりなどをとることなく、社長の親しい友人や親族が営む企業からまとめて備品を購入したり、自社工場の修繕工事を依頼したりすることもあるでしょう。
一方で、政府がこのような恣意的な行為をすると税金が無駄に使われたり、賄賂など不正の温床となったりするおそれがあります。
そのため、政府調達は公正を期すべく、原則として入札の方法によって行われます。
政府調達の割合と主な制約
政府調達はどの程度の割合であり、どのような制約があるのでしょうか?
ここでは、政府調達の基本的な事項を解説します。
政府調達の割合
経済産業省が公表している資料によると、各国経済に占める政府調達の割合は一般的に、国内総生産(GDP)の10%から15%程度とされています。※1
GDPに占める政府調達の割合が、非常に大きいことがわかります。
先ほど解説したように、政府調達は国だけではなく、都道府県や市区町村など地方自治体による調達なども含まれます。
これらが運営する庁舎や施設の多くから調達のニーズが生じていると考えると、これほどの割合となることもイメージしやすいのではないでしょうか?
政府調達協定の制約を受ける
GDPに占める政府調達の割合が大きいことから、政府調達は政府調達協定による制約の対象となります。
具体的には、調達先の選定において自国の企業を優遇しており、海外の企業が参入できない場合において、海外から市場の開放を求められる場合があります。
政府調達の主な種類
政府調達の方法には、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、政府調達の主な方法を4つ紹介します。
それぞれの意味と概要を知っておくことで、自社が政府調達への参入を検討する際の参考となります。
一般競争入札
一般競争入札とは、不特定多数の事業者が参加する入札方式です。
一般競争入札では、まず契約に関する公告がなされ、不特定多数の事業者が参加します。
その中から契約主体にとって最も有利な条件を提示した者が選定され、その事業者との間で契約が締結されることとなります。
一般競争入札には、主に次の2つの方式があります。
- 最低価格落札方式:あらかじめ仕様が公開され、価格のみで競争を行うもの
- 総合評価落札方式:価格以外の要素についても提案を受け、その評価を加えて競争を行うもの
政府調達のうち、もっとも基本的な方法がこの一般競争入札であるものの、メリットとデメリットがあります。
企業側にとっての主なメリットとデメリットは、次のとおりです。
一般競争入札の主なメリット
一般競争入札の最大のメリットは、多くの事業者に広く参加の機会が与えられることから、機会の均等性が高い点です。
そのため、入札参加への実績が浅い企業であっても、落札できる可能性があります。
また、選定における公平性が高い点も大きなメリットといえるでしょう。
一般競争入札の主なデメリット
一方で、一般競争入札にはデメリットもあります。
最大のデメリットは、落札を目指して必要以上に価格を下げることで、利益率が悪化するおそれがあることです。
特に、価格だけで競争する「最低価格落札方式」では、このリスクが高いでしょう。
指名競争入札
指名競争入札とは、入札の参加者を絞った入札方式です。
資力や信用などが適当であると認める特定多数の事業者を政府側が「指名」し、その事業者のなかで最もよい条件を提示した者との間で契約が締結されます。
一般競争入札と同じく、指名競争入札にも「最低価格落札方式」と「総合評価落札方式」があります。
一般競争入札と随意契約の「よいところ取り」であるものの、指名される事業者が偏るおそれがあります。
そのため、公平性が担保しにくい点が指摘されています。
指名競争入札の主なメリット
企業側にとっての指名競争入札のメリットは、「指名」さえされれば、一般競争入札より落札の可能性が高い点です。
また、一般競争入札と比較して、無理な値下げ競争とはなりづらい傾向にあります。
指名競争入札の主なデメリット
企業側にとっての指名競争入札のデメリットは、指名がなければ入札への参加さえできないことです。
そのため、指名競争入札では、入札の前にまずは指名を目指すこととなります。
企画競争方式
企画競争方式は、プロポーザル方式やコンペ方式とも呼ばれます。
事業者に対して技術提案書(プロポーザル)の提出を求め、技術的に最適な者と契約をする政府調達方式です。
高度な技術を要するものや専門的な技術が要求されるものの発注でよく用いられています。
たとえば、次の調達などでよく活用されています。
- 建設コンサルタント業務(公共工事や建築物の設計、調査など)
- システムに係るコンサルティング業務
- 語学研修業務
- 協議資料作成業務
- 事業誌編纂業務
- PFI事業に関するアドバイザリー業務
企画競争入札の主なメリット
企画競争入札では技術力が選定の基準となるため、「価格の安さ」を競うわけではありません。
そのため、他の入札方式と比較して利益率を確保しやすい傾向にあります。
企画競争入札の主なデメリット
企画競争入札では、入札にあたって技術提案書(プロポーザル)を提出しなければなりません。
そのため、提案書の作成に労力や時間がかかる点がデメリットです。
随意契約
随意契約とは、特に入札などを行わず、発注者である政府側が任意に特定の相手方と契約を交わす政府調達方式です。
恣意的な選定につながりやすいため、あくまでも例外的な方式です。
また、適正化を担保するため、随意契約とする場合であっても、可能な限り2社以上の事業者から見積もりを取ることとされています。
随意契約の主なメリット
企業にとっての随意契約のメリットは、随意契約が前提で調達機関から声がかかった場合、ほぼ確実に落札できることです。
また、入札などと比較すると、手続きの手間も少ないでしょう。
ただし、数社による相見積もりとなる可能性はあります。
随意契約の主なデメリット
随意契約のデメリットは、独自の技術などがない限り、参入が難しい点です。
落札の実績や独自の技術などがない場合、随意契約による落札は期待できません。
中小企業が入札に参加する際の手続き・流れ
中小企業が入札に参加する場合、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
ここでは、一般競争入札への参加を前提に、必要となる主な手続きと流れを解説します。
入札参加資格を取得する
企業が入札に参加するには、入札参加資格を取得しなければなりません。
各省庁における物品の製造や販売などへの入札は、共通の「全省庁統一資格」が設けられています。
ただし、発注機関や入札する案件によってはこの統一資格だけではなく、個別の入札参加資格が必要となることもあります。
たとえば、公共工事への入札では、国土交通省が実施する「競争参加資格審査」が必要です。
入札したい案件の目星をつけたら必要な入札参加資格を確認し、資格取得を進めるとよいでしょう。
入札参加資格の取得には、原則として費用はかかりません。
また、入札参加資格は永久に有効なものではなく、2年や3年など一定期間ごとの更新が必要です。
入札案件を探す
入札参加資格を取得したら、その資格で入札できる案件を探します。
入札案件は、官公庁や地方自治体のウェブサイトや共同システムなどに掲載されています。
やみくもに入札するのではなく、事業を営んでいる自治体や周辺の自治体の案件から探してみるとよいでしょう。
仕様書などを受け取る
入札したい案件が見つかったら、その案件について入札の準備を進めます。
まずは、その入札案件の仕様書を取得しなければなりません。
仕様書はウェブサイトで公開されている場合もあれば、発注機関に出向いて受け取るべき場合、説明会への参加が必須でその説明会で配布される場合などがあります。
この仕様書には、入札の要件や発注の目的などが記されています。
仕様書を確認したうえで、見積書など入札に必要となる書類を作成しましょう。
入札する
準備ができたら、期間内に入札します。
入札の方法には、主に次の3つの方法があります。
- 会場での入札:専用の会場で行う方式。入札書に自社名や金額などを記載し、専用の箱に入れる
- 電子入札:インターネット上で行う方式。ICカードやカードリーダーが必要となる
- 郵送入札:発注機関に郵送して行う方式。封筒の書き方や送付方法(書留など)にも指定がある場合がある
どの方法で入札できるかは案件によって異なるため、あらかじめ確認しておいてください。
なお、入札は期間中に原則として1回しか行えず、入札してから「他社が自社より安い価格で入札した」などの情報を得ても、入札しなおすことはできません。
そのため、金額を慎重に検討したうえで入札することをおすすめします。
過去の落札価格などがウェブサイト上で公開されていることもあるため、確認のうえ参考にするとよいでしょう。
契約を締結する
案件を落札できたら、発注機関との間で契約を締結します。
契約書は、発注機関である自治体などが用意してくれることが一般的です。
後日のトラブルを避けるため、契約書の内容をよく確認したうえで締結してください。
政府調達では、入金の時期が遅いことが多くあります。
そのため、資金繰りに不安がある場合は、入金時期をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
契約を締結したら、担当者と適宜打ち合わせをするなどして、入札した案件の履行を行います。
政府調達を成功させるポイント
政府調達への入札を成功させるには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?
最後に、政府調達を成功させるポイントを2つ紹介します。
どのような入札案件があるか調べて狙いを定める
1つ目は、どのような入札案件があるか調べて、狙いを定めることです。
はじめて入札に参加する場合、どのような案件が入札対象となっているかわからないことも少なくないでしょう。
あらかじめ近隣自治体での入札案件を確認したり、過去の落札案件を確認したりするだけでも、イメージがつかみやすくなります。
そのうえで、ある程度狙いを定めて入札してください。
入札する案件が多いと管理が大変となるほか、本命とする案件の準備にかける時間が足りず落札できない事態となれば本末転倒です。
また、せっかく落札したにもかかわらず、リソース不足で実現できないような事態は絶対に避けなければなりません。
そのため、落札したい案件についてある程度狙いを定めたうえで準備を進めることをおすすめします。
専門家にサポートを依頼する
2つ目は、専門家にサポートを依頼することです。
政府調達案件への入札に慣れていないと、全体の流れがわからなかったり入札へのノウハウが不足していたりして、落札が遠のくおそれがあります。
また、本業で忙しく、入札の準備にさほど時間をかけられないこともあるでしょう。
その際は、政府調達や入札にくわしい専門家のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
政府調達や入札の概要、入札参加の流れなどについて解説しました。
中小企業であっても、政府調達の入札に参加することができます。
入札に参加することで、取引機会の拡大につながるでしょう。
しかし、入札の参加には入札参加資格の取得や入札案件の選定など多くのステップが必要であり、何から手を付けるべきかわからない場合も少なくないと思います。
その際は、弁護士などの専門家をご活用ください。
Authense法律事務所では、入札参加のサポートなど企業のリーガルサポートを専門的に担うチームを設けています。
政府調達への入札に参加したい場合や、企業にまつわる法務について広く相談できる弁護士をお探しの際は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。