企業の法務部が担う業務のうち、主要な業務の一つが契約書のリーガルチェックです。
今回は、契約書チェックの目的やポイント、チェック漏れがあった場合のリスクなどについてくわしく解説します。
目次
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企業の法務部が担う主な役割
企業の法務部門は、法令に関連するさまざまな業務を行います。
法務部門が担う主な役割は、次のとおりです。
- 契約書のリーガルチェック:自社が作成する契約書や、契約にあたって取引先から提示された契約書の内容を審査します。
- 法務相談:社内からの法律相談に回答します。新規業務を開拓する際などに経営陣からアドバイスを求められる場合もあります。
- 規程の整備:定款や個人情報保護規程など社内外のルールを明文化します。
- 機関法務:株主総会の運営などを行います。
- 紛争対応:社外との紛争に対応します。必要に応じて外部の弁護士へつなぎます。
- 労務トラブル対応:残業代未払いや退職勧奨など、社内の労務トラブルに対応します。人事部などが対応する場合もあります。
- コンプライアンス研修:パワハラ研修などコンプライアンス関連の研修を行います。コンプライアンス部が別で設けられている場合もあります。
中でも、特にメインとなる業務の一つが、契約書のリーガルチェックといえるでしょう。
法務部が行う契約書のリーガルチェックの主な目的
法務部が契約書などのリーガルチェックを行う主な目的は、次のとおりです。
トラブルを未然に防ぐこと
契約書のリーガルチェックの1つ目の目的は、トラブルを未然に防ぐことです。
契約におけるトラブルとしては、さまざまなものが想定されます。
中でも、契約内容についての認識の違いがよくあるトラブルの一つです。
契約内容についての認識の違いは、たとえば自社は「製品を自社に納入して設置までしてくれる」と考えている一方で、製品の売り手である相手先企業としては「製品を納入するまで」が料金の範囲内であり、設置作業は別料金と考えている場合などです。
この場合において、事前に書面などでのすり合わせをすることなく契約を進めてしまうと、後にトラブルとなりかねません。
また、自社がサービスを提供する場合において、異なる取引の契約書を流用した場合などには、契約書の内容が実際に提供を想定しているサービス内容と合っていない可能性があります。
この場合において、実際には提供しないサービスが契約書に記載されていると、相手方から契約違反として損害賠償請求を受ける可能性があるでしょう。
あらかじめ取引内容を把握した上で、当事者間で合意した契約内容が契約書に十分織り込み済みかを確認することで、このようなトラブルを未然に防ぐことが可能となります。
トラブルとなった際、自社が想定外の不利益を被らないようにすること
契約書チェックの2つ目の目的は、万が一トラブルに発展してしまった際に、自社が想定外の不利益を被らないようにすることです。
相手先企業が契約書を作成した場合には、相手先企業にとって有利な内容となっていることが少なくありません。
よくチェックをしないままそのままの内容で署名押印してしまうと、いざトラブルとなった際に後悔してしまうこととなるでしょう。
内容をしっかりと精査し、自社にとって不利益な箇所がないか、必要以上にリスクを抱えていないかどうかを検証したうえで、許容できない項目については相手先企業と交渉するなどの対応が求められます。
自社の法令違反を防ぐこと
契約書チェックの3つ目の目的は、思わぬ法令違反やリスクを予防することです。
中でも、契約相手が消費者の場合には、契約書に書くべき内容が法令で定められていたり契約内容が制限されていたりすることがありますので、特に注意しなければなりません。
たとえば、訪問販売契約において法定書面の交付後8日間のクーリングオフ期間が設けられており、消費者が一方的に契約を解除することが認められています。
法定書面に法定記載事項が漏れてしまうと特定商取引法の規定に違反することとなるうえ、クーリングオフ期間のカウントが始まらず、消費者から一方的に契約が解除されるリスクを抱え続けることとなってしまいます。
このように、契約の内容や種類によって、契約内容自体や契約書に記載すべき項目に定めがある場合が少なくありません。
契約書ドラフトの際にリーガルチェックをすることで、思わぬ法令違反を防ぐことが可能となります。
法務部が行う契約書チェックのポイント
法務部が行う契約書のリーガルチェックの主なポイントは、次のとおりです。
取引内容と合致した契約内容になっているか確認する
契約書が、取引内容と合致した契約内容となっているのか、よく確認しましょう。
特に、他社や他案件の契約書を流用したりインターネット上などで見つけたひな型などを参考に作成したりしている場合には、取引内容と合っていない可能性があります。
たとえば、実際には自社で行う予定のない業務内容が契約書に記載されていたり、それとは反対に相手先企業に依頼する予定の業務内容が契約書に記載されていなかったりすれば、トラブルの原因となりかねません。
業務内容や料金などについて認識のズレはないか確認する
契約書は、取引内容について双方が最終的に合意した内容を記すべき書面です。
署名押印した以上は原則としてその契約書どおりの責任が生じますので、契約内容をよく理解したうえで署名押印しなければなりません。
認識と違う内容が契約書に書かれていた場合、特に企業同士など事業者間での契約では、「契約書をよく読んでいなかった」などという理由で免責される可能性は低いでしょう。
そのため、契約書に書かれている業務内容や負担する費用、支払い時期の条件など各項目が認識とズレていないかどうか、よく確認する必要があります。
法令や判例に照らして問題のない内容となっているか確認する
契約書のリーガルチェックをする際には、法令や判例などに照らして、問題がないかどうかよく確認しなければなりません。
特に、自社で契約書を作成した場合には、強行規定違反に注意しましょう。
強行規定とは、法律の規定を契約では変更できないはずの内容のことです。
また、消費者を顧客とする契約では、契約書に記載すべき項目が法令で定められている場合があります。
これらの記載漏れがないかどうかも、確認しておきましょう。
自社にとって不利益な内容となっていないか確認する
契約書チェックの最大のポイントは、自社にとって不利益な内容となっていないかどうかを確認することです。
相手方が契約書の文案を提示する場合には、相手方企業にとって有利な内容になっていたり、必要上にリスクを回避していることが少なくありません。
たとえば、地震など双方に責任がない理由によって売買などの目的物が滅失した場合、どちらがリスクを負うかという「危険負担」などは、特に確認すべきポイントの一つです。
自社にとって不利益やリスクとなり得る内容を見つけ、中でも受け入れられない不利益や負担できないリスクについては相手方との交渉が必要となります。
必要事項の漏れはないか確認する
契約相手と口頭などで合意した内容や、契約相手に遵守してほしい内容などが契約書から漏れていないかどうかの確認も重要なチェックポイントです。
漏れがあった場合には、相手方と契約内容として記載する交渉を行いましょう。
法務部の契約書チェックが甘い場合のリスク
法務部の契約書チェックが甘いと、企業にとってさまざまなリスクが発生します。
主なリスクは、次のとおりです。
想定していた契約内容とズレが生じる
相手方企業に料金内でやってもらうはずであった業務内容が契約書から漏れていれば、相手方にその業務の履行や債務不履行による損害賠償請求をすることは困難です。
たとえば、自社としては相手先企業に商品の納入のみならず、使用するための設定まで行ってもらうつもりでいたものの、契約書には納入までとしか記載されていなかった場合などが想定されます。
契約違反を追及される可能性がある
ネット上に公開されている契約書や他案件で使用した契約書を流用したことなどが原因で、本来自社では行わない予定であった業務や責任が契約書に記載されていた場合には、その業務の履行を求められたり、契約不履行による損害賠償責任を追及される可能性があります。
そのため、他案件の契約書やひな形をそのまま流用することはすべきではありません。
罰則や一方的な解除の原因となる
特に一般消費者を取引相手とする契約の場合には、必要な事項が書かれていなかったり強行規定に反する内容の規定を設けたりすれば、ペナルティの対象となる可能性があります。
そのため、消費者契約の場合には消費者契約法や特定商取引法などについてもよく理解したうえで契約書を確認しなければなりません。
また、クーリングオフについて記載していなければ、契約締結からかなりの時間が経過していても、消費者側から一方的に契約を解除される可能性があります。
トラブル時の対応が困難となる
契約書のチェックは、トラブルが起きた際を念頭に置いて行うことが基本とされています。
チェックが甘いと、問題が起きた際の対応が困難となる可能性があるためです。
たとえば、多額の違約金が発生する内容となっている場合や、成果物の移転時期や対価の支払い時期が不明確となっていることで想定していた納品日から遅延するといった場合などが挙げられます。
トラブル時に不利になる
契約書のチェックが甘いと、いざトラブルが発生した際に不利となる可能性が高いでしょう。
たとえば、合意管轄とされた裁判所が自社にとって利便性の悪い場所であることから訴訟追行に大きな負担が生じたり、損害賠償の限度額が定められており必要十分な賠償が受けられなかったりすることなどが考えられます。
契約書チェックを弁護士に依頼する主なメリット
契約書チェックなどの法務部門の役割は、弁護士にアウトソーシングをすることが可能です。
契約書チェックを外注する主なメリットとしては、次のものが挙げられます。
自社の法務機能を強化できる
契約書のリーガルチェックには、法令に関する専門知識が不可欠です。
また、法令は随時改正されるため、常に最新の法令を学び続けなければなりません。
そのため、自社で法務部員を抱えている場合には、法務部員を継続的かつ高度に教育するための費用と時間が必要となるでしょう。
一方、契約書チェックなど法務部の機能をアウトソーシングすることで、自社で抱える法務部機能をより強化することが可能となります。
必要なときだけ依頼できる
法務部門の業務は、常に同じ程度の量で発生するとは限りません。
そこで、業務の繁閑に対応するためには、繁忙期に合わせて人員を確保しておく必要があるでしょう。
法務部の担う業務は専門性が高く、繁忙期だけ他部署の人材に業務を割り振ることなどは難しいためです。
一方、法務部を外注した場合には必要なときだけ依頼することができるため、自社で常に多くの人員を抱える必要がありません。
一定水準の法務審査が担保される
契約書のリーガルチェックに万が一見落としやミスがあれば、大きなリスクを抱えてしまうこととなります。
また、契約書の不備は平常時には問題とならないことが多く、不備が発覚するのはトラブル発生時ということも少なくありません。
このようなリスクを避けるため、契約書チェックを担う法務部員には高い能力が求められます。
契約書チェックを担う法務部門を外注することで、一定の水準が担保されたリーガルチェックを行うことができるため安心です。
トラブル発生時の対応がスムーズとなる
弁護士は、法的なトラブル解決の専門家です。
法務部の役割を弁護士へアウトソーシングすることで、万が一トラブルに発展した場合の対応がスムーズとなるでしょう。
まとめ
法務部が担う契約書のリーガルチェックは、一つ間違えれば企業に大きな損害を与えてしまいかねない、非常に重要な業務です。
法務部を社内に設けることも一つですが、少しでも法的リスクを減らすため、法務部のアウトソーシングも検討するとよいでしょう。
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