コラム
公開 2020.08.17 更新 2021.10.08

従業員の精神障害の発症を防ぐために ~令和2年5月29日付で「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正されました。

従業員の精神障害の発症を防ぐために ~令和2年5月29日付で「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正されました。

令和2年5月29日付で「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正されました。
仕事や職業生活に関する強いストレスを感じる労働者の割合は近年、50%以上で推移しています。また、業務による心理的負荷を原因とする精神障害等による労災申請件数は増加傾向にあり、近年、認定件数は年400件以上となっている等、職場におけるメンタルヘルス対策が重要な課題となっています。
そのような中、従業員の精神障害を防ぐためにどのような制度が予定されているか、使用者はどのような取り組みをしなければならないかにつき解説いたします。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(東京弁護士会)
東北大学法学部卒業。旧司法試験第59期。上場会社のインハウス経験を活かし、企業法務に関するアドバイス、法務部立ち上げや運営のコンサルティング、上場に向けたコンプライアンス体制構築や運営の支援等を行う。IT・情報関連法務、著作権など知的財産権法務、知的財産権を活用した企業運営・管理等のコンサルティングを行う。
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1 精神障害を引き起こす業務上の原因は何か

精神障害が私傷病ではなく、労働災害と認められるための基準については、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日付基発1226第1号)で基準が決められていますが、その考え方については、厚生労働省の「精神障害の労災認定」という資料にまとめられています※1
※1 参照:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf )

この考え方によりますと、労災が認定されるためには、

 

  • ① 認定対象となる「精神障害」があること
  • ② 発病前おおむね6か月間に業務による「強い心理的負荷」が認められること
  • ③「業務以外の心理的負荷」や「個体側要因」で発病したと認められないこと

が必要です。

このうち、②「強い心理的負荷」の判断につき
(1) 発病直前の10月か月におおむね160時間以上の時間外労働等、極度の長時間労働がある場合は、それだけで「強」と評価されています。
また、そうでなくとも、
(2)月100時間等の恒常的な長時間労働があった場合で、セクシュアルハラスメントがあった、ノルマが達成できなかった、自分の関係する仕事で多額の損失を出した等の事情があったような場合にも、「強」とされています。
もっとも、資料で具体的に掲げられた労働時間はあくまで目安であり、上記時間に至らない場合であっても、労災が認定される場合があるでしょう。

なお、パワーハラスメント防止対策の法制化に伴い、令和2年5月29日付で「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正されています。具体的には、「心理的負荷評価表」に「パワーハラスメント」の出来事が追加されました※2
このように、長時間労働や、セクハラ・パワハラ等その他業務上特別の出来事があるような場合が精神障害を引き起こす原因と認識されています。

※2 参照:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11494.html )

2 労働時間の削減

精神障害の発症を防ぐためには、長時間労働の抑制が必要です。

(1) 労働時間把握義務

労働時間を削減するためには、まず労働時間を把握する必要があります。
この点、働き方改革により労働安全衛生法関連省令が改正され、従前は対象外であった裁量労働制・管理監督者も含めて、客観的な方法により労働時間を把握するよう義務づけられました。タイムカードによる記録や、PC等の電子計算機の使用時間の記録等客観的な方法によって労働時間を把握・記録しなければならないとされています。
ですので、使用者はかかる客観的な方法により労働時間を把握しなければなりません。
なお、コロナ渦におけるテレワークの普及によって「労働時間」を「把握」することにつき課題も出てきています。詳細は割愛しますが、いわゆる「中抜け時間」の問題や、移動時間中のテレワークをどうとらえるのか等の問題などがあります。

(2) 長時間労働の禁止

また、同様に働き方改革により、36協定における時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間となり、 臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできなくなりました。

3 コンプライアンスの遵守~セクハラ・パワハラ等を引き起こさない職場環境の提供

セクハラ・パワハラ等の業務による出来事も精神障害発症の原因となります。セクハラ・パワハラがあれば精神障害の発症とは別に独立して安全配慮義務違反問題となりますので、注意しましょう。
この点、まずは何がセクハラか、パワハラかというところの認識を抑えておくことが肝要です。セクハラについては割愛しますが、今般防止義務が法制化されたパワハラについては、
職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
そして、パワハラは①身体的な攻撃 ②精神的な攻撃 ③人間関係からの切り離し ④過大な要求 ⑤過小な要求 ⑥個の侵害 の6類型を典型例として整理されています※3。典型例に分類される例、業務上必要かつ適切な範囲はどこまで確認しておきましょう。
※3 参照:厚生労働省:「あかるい職場応援団」に分かりやすい解説があります。 https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/ )

4 健康診断、医師の面談

使用者は、常時雇用する労働者に対し、1年以内に1回、定期に健康診断を実施しなければなりません。
また、安全衛生法により、使用者は時間外・休日労働が月80時間を超えて働く長時間労働者の申し出がある場合、医師の面接指導を受けさせる義務があります。

5 メンタルヘルスケア

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日 健康保持増進のための指針公示第3号、改正平成27年11月30日 健康保持増進のための指針公示第6号)は、メンタルヘルス対策を次の4つのステップに分けたメンタルヘルスケアを推進しています。

 

  • ①「セルフケア」
    従業員自身が自らのストレスに気付き、予防対処し、事業者がそれを支援するケア。
  • ②「ラインによるケア」
    管理監督者が行うケア。日頃の職場環境の把握と改善、部下の相談対応を行うことなど。
  • ③「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」
    企業の産業医、保健師や人事労務管理スタッフが行うケア。労働者や管理監督者等の支援や、具体的なメンタルヘルス対策の企画立案を行うことなど。
  • ④「事業場外資源によるケア」
    会社以外の専門的な機関や専門家を活用し、その支援を受けること。

これらのメンタルヘルスケアを適切に実施し、業務上の精神障害を発症しないよう予防・管理していくことが重要です。

以上、従業員が精神障害を発症しないための制度等につき解説いたしました。改正点や今後の課題もあります。今後の参考にしていただけましたら幸いです。

(令和2年7月31日作成)

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