約120年ぶりに民法のうち債権関係の分野について、全般的な見直しを行う「民法の一部を改正する法律」が成立し、ごく一部の例外を除いて、令和2年4月1日から施行されます。重要な改正事項の1つに法定利率の変更があります。なお、以下では、便宜上、現行(2017年5月26日改正前)民法を「旧民法」、同日改正された民法を「改正民法」として解説いたします。
これまで年5%であった民法上の法定利率が当初法定利率年3%とする変動制の法定利率になります。
今回は改正民法における法定利率の変更について、解説します。
目次
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1.法定利率とは
法定利率とは、法律が定める利率です。契約によって当事者が利息の算定や遅延損害金の算定に必要な利率を定めていなかった場合には、法定利率が適用されることになっています。
例えば、お金を貸し付けて約束通りに返してもらえなければ遅延損害金が発生しますが、遅延損害金の算定に必要な利率を決めていなければ法定利率によって計算されます。
2.旧民法の法定利率
旧民法においては民法と商法で異なる法定利率が定められていました。
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、民法によって年5%の法定利率、商行為によって生じた債務に関しては商法の規定にもとづいて年6%の法定利率とされていました。
例えば、旧民法では、利率を定めず個人間でお金を貸して返してもらえないときには、民法の法定利率である年5%の遅延損害金をつけて返還を請求できます。不法行為が行われた場合の損害賠償請求を行うときにも年5%の遅延損害金をつけて請求可能です。
商行為によって生じた債務の支払いを遅延されたら商法の年6%の遅延損害金をつけて請求が可能となります。
3.民法改正で法定利率が変更される理由
改正民法では、民法の法定利率が変更され、併せて、商法の法定利率が廃止されます。
法定利率は、当事者間の公平の観点から、市場の金利と著しい乖離が生じないようにする必要がありますが、民法や商法が定められたのは非常に古く、当時と今とでは市場の様相が異なるため、改正民法においては法定利率を引き下げることとされたのです。
4.改正民法における法定利率
改正民法では、法定利率は、当初法定利率年3%する変動制となります。
まず、法定利率は年3%からはじまります。
その後、法務省令で定めるところにより、3年を1期とし、1期ごとに変動します。
変動の基準は、直近変動期(法定利率の数値に実際に変動があった期のうち直近のものをいいます。ただし、改正民法施行後最初の変動があるまでは、改正民法の施行後最初の期をいいます。)の基準割合と当期における「基準割合」との差に相当する割合を、直近変動期における法定利率に加算し、又は減算します。ただし、その差の1%未満の端数は、切り捨てます。差が1%を下回る場合には、法定利率は変動しません。
なお、基準割合とは、法務省令で定めるところにより、過去5年間(各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月)における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付期間が1年未満の貸付けに係る利率の平均をいいます。)の合計を60で除して計算した割合(0.1%未満の端数は切捨て)として法務大臣が告示するものをいいます。
また、改正民法の施行に併せて年6%の商事法定利率は廃止されます。これまで年5%や年6%の法定利率を前提に契約書を作成していた企業では見直し対応(遅延損害金について、改正民法に定められる法定利率をベースとするか、一定の固定利率をベースとするかの選択)が必要となるでしょう。
5.法定利率の変更によって影響を受ける契約
法定利率の変更によってどういった契約が影響を受けるのか、具体例を示します。
5-1.利息の利率について定めていない利息付金銭消費貸借契約
利息の算定において法定利率が適用される場面は、利息付金銭消費貸借契約で利息の定めがない場合ですが、契約書においては、当事者間で合意した約定利率を定めていることが多いため、影響は少ないものと考えられます。
5-2.遅延損害金について定めていない契約
契約上遅延損害金について特に定めていない場合でも、遅延損害金を請求することは可能です。その計算の際には法定利率が適用されます。旧民法では放っておいても年5%又は年6%の遅延損害金が発生しますが、改正民法施行後は法定利率が3年間は3%、その後は変動制となります。年5%や年6%を維持したければ別途の合意が必要です。
5-3.遅延損害金について「法定利率に従う」としている契約
遅延損害金について「法定利率に従う」と定めている場合も同じです。現時点では法定利率は年5%または6%となっていますが、改正民法施行後は、契約締結時の当事者の意思解釈の問題が生じ得るため、利率に関して争いとなる可能性があります。遅延損害金の利率に関して疑義を生じさせないためには、契約書の見直し等の対応をとる必要があります。
6.中間利息控除と法定利率
法定利率の変更は中間利息控除額の算定にも影響します。中間利息とは、将来にわたるお金を一括で支払うときに差し引くべき利息です。たとえば企業の安全配慮義務違反を理由として従業員が怪我をしたり、病を発症した場合で当該従業員に後遺障害が残ったようなケースで、企業が従業員に対する賠償として将来にわたる介護費用を一括で支払う場合を考えてみて下さい。
このとき、分割で介護費用を払うなら実際にかかった実費の金額を払えば良いのですが、当初に一括払いするなら状況が変わってきます。
本来は後にならないと受け取れないはずのお金を先に受け取ることで、労働者側に「運用利益」が発生してしまうからです。それを差し引くための処理が「中間利息控除」です。
これまでは中間利息控除の際に「年5%」の法定利率を適用して計算していましたが、改正民法施行後は、少なくとも3年間については、年3%の法定利率が適用されますので、中間利息控除額が減り、少なくとも3年間は従来よりも介護費用の支払い額が大きくなることが予想されます。逸失利益の計算の際にも同じことが起こります。
7.法定利率が適用される時点
遅延損害金の算定等に用いられる法定利率の基準時はいつなのでしょうか?
7-1.契約によって利息が発生する場合
利息の利率について定めのない利息付金銭消費貸借契約にもとづいて利息が発生するケースでは「利息が生じた最初の時点」における法定利率が適用されます。利息が生じた最初の時点とは、利息を生ずべき元本債権について利息が生じた最初の時点をいいます。例えば、貸金債権が元本債権である場合には、原則として、利息はその貸付金を借主が受け取った日以後に生ずるので、その日が「利息が生じた最初の時点」となるものと解されます。
7-2.遅延損害金
遅延損害金については遅延損害金が発生した時点の法定利率が適用されます。
7-3.不法行為にもとづく損害賠償請求権
不法行為にもとづく損害賠償請求権の場合、不法行為時の法定利率が適用されます。
8.契約書改訂方法
法定利率の変更は、契約書実務では遅延損害金について影響を与えます。そのため、以下のような変更が考えられます。
8-1.新しい法定利率に従うなら「その遅延した時点における法定利率に従う」とする
改正民法施行後、「当初は年3%、その後は変動制」の法定利率に従ってもかまわないなら「その遅延した時点における法定利率に従う」とすればかまいません。
8-2.固定にしたいなら固定利率を定める
変動制の適用を避けたいなら、固定の利率を定めましょう。たとえば「年3%」「年5%」「年10%」など自由に定めることが可能です。ただし利息制限法の制限利率を超過してはなりません。
当事務所では改正民法への対応も含め、中小企業へのリーガルサービス提供に積極的に取り組んでいます。普段の契約書作成や知的財産の活用、労務管理や海外進出、上場等に関心のある企業様は、是非ともお気軽にご相談下さい。
(原稿は2020年3月13日作成)