コラム
公開 2024.11.22

単体5346_新規_介護保険法とは?2024年施行の改正も踏まえ概要を弁護士がわかりやすく解説

40歳以上の従業員への給与から差し引く社会保険料が多くなることは知っていても、その根拠である介護保険法についてよくわからないという事業者様も少なくないことでしょう。

では、介護保険法とはどのような法律なのでしょうか?
また、介護保険法の近年の改正には、どのようなものがあったのでしょうか?

今回は、2024年に施行された改正内容を交え、介護保険法の基本について弁護士が解説します。

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介護保険法とは

介護保険法とは、要介護状態となった人を社会全体で支える仕組み(介護保険制度)について定めた法律です。

介護保険法で定められている介護保険法制度とは、「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づいて設けられている制度」です(介護保険法1条)。

高齢になると誰しも心身の機能が衰え、食事や排せつ、入浴などの日常生活を営むために他者の手助けが必要となります。
同時に、人には尊厳があることから、単に生命が維持できればよいものでもないでしょう。

高齢者が尊厳を保ちつつ日常生活を送るためには、個々の能力に応じた自立が必要です。

とはいえ、要介護状態となった高齢者が自立した生活を送るためには、保健医療サービスの利用や福祉サービスの利用は不可欠です。
しかし、これらの利用には費用が掛かるため、自身ですべてをまかなえる人は少数でしょう。

そこで、要介護認定を受けた一定の高齢者などが介護サービスなどに支払う自己負担を軽減できるよう、介護保険制度という共同連帯制度が設けられています。

従業員を雇用する企業は、「40歳になった従業員の給与から差し引く社会保険料が増える」と認識しているかと思います。
その根拠となっているのが、この介護保険法です。

介護保険法ではほかに、介護予防への助成や、介護保険施設の指定制度などについても定められています。

老人福祉法との違い

介護保険法と並んで高齢者の福祉について定めた法律に、「老人福祉法」があります。
介護保険法と老人福祉法はいずれも現存する法律です。

老人福祉法はその名称どおり、老人の福祉を図ることを目的としています(老人福祉法1条)。
老人福祉法の主な内容は、次のとおりです。

  • 福祉の措置:65歳以上の者であり身体上・精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障がある者に対し、市町村が行うべき措置に関する規定
  • 事業・施設:民間の老人居宅生活支援事業に適用される規制や、老人のための施設の設置・運営に関する規定
  • 有料老人ホーム:有料老人ホームの設置・運営に関する規定

老人福祉法は介護の要否に関わらず老人を対象とした措置や施設全般についての規定が置かれているのに対し、介護保険法では介護に着目している点が大きな違いです。

【2024年施行】介護保険法の近年の改正

2000年に施行されて以来、介護保険法はおおむね3年ごとに改正されています。
近年では、次の改正がなされました。

改正年 主な改正内容
2015年 ・低所得者の保険料軽減拡充

自己負担額割合2割の導入

地域支援事業への予防給付(訪問介護・通所介護)の移行

特別養護老人ホームの機能を、在宅困難な中重度の要介護者を支援に重点化 など

2018年 介護医療院の創設

自己負割合3割の導入

市町村に対する都道府県の支援事業の創設

介護保険制度と障がい者福祉制度にまたがる共生型サービスの創設 など

2021年 地域の特性に応じた認知症施策・介護サービス提供体制整備の推進

市町村の包括的な支援体制構築の支援

医療・介護データ基盤の整備の推進 など

また、2024年に施行された改正介護保険法の主なポイントは、次の2点です。

改正ポイント1:地域包括ケアシステムの深化と推進

改正ポイントの1つ目は、地域包括ケアシステムの深化と推進です。

地域包括ケアシステムとは、「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」システムです。※1
今回の改正では、認知症の方や単身高齢者、医療ニーズが高い中重度の高齢者を含め、質の高いケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組を推進されることとなっています。※2

具体的には、次の内容がこれに含まれます。

  • 医療と介護の連携の推進
    • 在宅における医療ニーズへの対応強化
    • 高齢者施設等における医療ニーズへの対応強化
    • 在宅における医療・介護の連携強化
    • 高齢者施設等と医療機関の連携強化
  • 質の高い公正中立なケアマネジメント
  •  地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組
  • 看取りへの対応強化
  • 感染症や災害への対応力向上
  • 高齢者虐待防止の推進
  •  認知症の対応力向上
  • 福祉用具貸与・特定福祉用具販売の見直し

改正ポイント2:介護現場の生産性向上の推進と制度の持続可能性の確保

改正ポイントの2つ目は、介護現場の生産性向上の推進と制度の持続可能性の確保です。

多くの企業で人手不足が叫ばれるなか、介護現場での人手不足は非常に深刻なものとなっています。
そこで、さらなる介護サービスの質の向上を図るため、処遇改善や生産性向上による職場環境の改善に向けた先進的な取組を推進 する改正がなされました。※2

具体的な改正内容は、次のとおりです。

  • 介護職員の処遇改善
  • 生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくり
  • 効率的なサービス提供の推進

介護保険法による介護保険制度の概要

企業は、介護保険法による介護保険制度を理解しておくべきでしょう。
従業員のみならず、事業主も介護保険料を納めているためです。

ここでは、介護保険法による介護保険制度について概要を解説します。

介護保険制度の被保険者

介護保険法の被保険者(対象者)は、第1号被保険者と第2号被保険者に分類されます。
それぞれ、次のとおりです。

第1号被保険者

介護保険の第1号被保険者は、65歳以上の者です。
第1号被保険者は、要介護状態または要支援状態の認定を受けることで、介護保険給付の対象となります。

第2号被保険者

介護保険の第2号被保険者は、40歳以上65歳未満である医療保険(健康保険・国民健康保険など)の加入者です。
第2号被保険者は、老化に起因する一定の疾病(「特定疾病」といいます)に起因して要介護状態または要支援状態となった場合に限り、介護保険給付の対象となります。

介護保険料の負担者と負担内容

介護保険法による介護保険料は、第1号被保険者と第2号被保険、第2号被保険者を雇用する事業主がそれぞれ支払います。
保険料の決まり方は、それぞれ次のとおりです。

第1号被保険者

第1号被保険者が負担する介護保険料は、原則として年金から天引きされます。
保険料の額は市区町村ごとに決められており、前年度の所得に応じて負担額が決まる仕組みです。

第2号被保険者

第2号被保険者が負担する介護保険料率は、医療保険の保険者(全国健康保険協会、地方公務員等共済など)が決定します。
標準報酬にこの介護保険料率を乗じることで、介護保険料が算出されます。

介護保険料は健康保険料と同じく、第2号被保険者とその第2号被保険者を雇用する事業主とが折半で負担する仕組みです。

対象となる主な疾病

先ほど解説したように、第2号被保険者が介護保険法の給付を受けるには、特定疾病に起因して要介護状態または要支援状態となったことが必要です。
この特定疾病には、次のものが指定されています。

  1. がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
  2. 関節リウマチ
  3. 筋萎縮性側索硬化症
  4. 後縦靱帯骨化症
  5. 骨折を伴う骨粗鬆症
  6. 初老期における認知症
  7. 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
  8. 脊髄小脳変性症
  9. 脊柱管狭窄症
  10. 早老症
  11. 多系統萎縮症※
  12. 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
  13. 脳血管疾患
  14. 閉塞性動脈硬化症
  15. 慢性閉塞性肺疾患
  16. 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

給付の内容

介護保険法の給付は現金支給ではなく、一定の利用限度額まで介護保険サービスを一定の自己負担で利用できるものです。
自己負担率は所得などに応じて、1割・2割・3割の3段階に設定されています。

利用限度額は要介護・要支援の状態によって異なっており、それぞれ次のとおりです。

要介護度 区分支給限度額(1単位あたり10円)
要支援1 5,032単位
要支援2 10,531単位
要介護1 16,765単位
要介護2 19,705単位
要介護3 27,048単位
要介護4 30,938単位
要介護5 36,217単位

なお、介護を必要とする状態として「要支援1」がもっとも軽く、「要介護5」がもっとも重いものです。

介護保険法による介護サービス・介護保険施設

最後に、介護保険法に規定されているその他のサービスや施設などについて、概要を解説します。

介護支援専門員とは

介護保険法による介護支援専門員とは、要介護者や要支援者からの相談内容や心身の状況に応じてサービス(訪問介護、デイサービスなど)を受けられるようにケアプランを作成したり、市町村・サービス事業者・施設等との連絡調整を行ったりする国家資格者です。
通称、ケアマネジャー(ケアマネ)のこと呼ばれ、この呼び名の方が馴染みがあるかもしれません。

介護保険法では、この介護支援専門員の遵守すべき義務などを定めています。

介護保険施設の種類

介護保険法では、次の3つの施設サービスが定められています。

指定介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム)

指定介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム)とは、原則として要介護3以上の者のうち、自宅での生活が困難となった者の介護をする施設です。
食事や排せつ、入浴など日常生活についても支援を受けることができ、最期まで入居できる施設が多いといえます。

介護老人保健施設

介護老人保健施設とは、日常生活を送るうえでの介護を受けながら、自宅復帰を目指す施設です。
回復期にある高齢者の自立を促すため、リハビリテーションなどを提供します。

介護医療院

介護医療院とは、重度の要介護者であり医療的管理を必要とする方が入居する施設です。
介護医療院は、次の2つに分類されます。

  • Ⅰ型:重度の身体疾患・疾病を抱える者、重度の認知症高齢者が入居する施設
  • Ⅱ型:Ⅰ型より比較的状態の安定した者が入居する施設

いずれも医師が常駐しており、手厚い医療ケアが受けられる点が大きな特徴です。

介護事業の指定制度

介護保険法では、介護事業の指定制度について定めています。
介護事業の主な種類とそれぞれの指定権者は、次のとおりです。※4

種類 概要 指定権者
居宅サービス事業者 訪問介護や訪問入浴介護や訪問看護、訪問リハビリテーションなどを提供する事業者 都道府県
地域密着型サービス事業者 地域密着型通所介護や療養通所介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護など10種類のサービスを提供する事業者 市町村
居宅介護支援事業者 利用者が日常生活を送るために必要な保健医療サービス・福祉サービスなどを適切に利用できるよう、利用者の依頼を受けて計画の立案や事業者との連絡調整などを行う事業者 市町村
介護予防サービス事業者 介護予防訪問入浴介護や介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーションなど12種類のサービスを提供する事業者 都道府県
地域密着型介護予防サービス事業者 介護予防認知症対応型通所介護や介護予防小規模多機能型居宅介護、介護予防認知症対応型共同生活介護を提供する事業者 市町村
介護予防支援事業者 利用者が介護予防に効果のある保健医療サービス・福祉サービスを適切に利用できるよう、利用者の依頼を受けて、計画を立案や事業者との連絡調整などを行う事業者 市町村

まとめ

介護保険法や介護保険制度について、概要を解説しました。

介護保険法とは、要介護状態となった人を社会全体で支える仕組み(介護保険制度)について定めた法律です。
介護事業を営もうとする場合には、内容を十分理解しておかなければなりません。

一方、直接介護に携わるわけではない多くの事業者にとっては、40歳以上の従業員(介護保険の第2号被保険者)の介護保険料を折半して負担する必要があり、この点から介護保険法に馴染みのある場合が多いでしょう。

Authense法律事務所では企業法務に特化した専門チームを設けており、介護保険法についてのご相談やアドバイスも可能です。
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