建物を建てる際は、建築基準法の規制内容を遵守しなければなりません。
建築基準法では、どのような内容が定められているのでしょうか?
また、建築基準法に違反した場合、どのような罰則の対象となるのでしょうか?
今回は、2025年施行の改正点を交え、建築基準法の概要や違反時の罰則、主な規制内容などについて弁護士がくわしく解説します。
目次
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建築基準法とは
建築基準法とは、建築物の敷地や構造、設備、用途に関する最低の基準を定めた法律です(建築基準法1条)。
これらを定めることにより、国民の生命・健康・財産の保護を図ることや、公共の福祉の増進に資することを目的としています。
建築について何の規制もなければ、コストだけを重視した危険な建物が無秩序に建築されかねません。
その結果、建物が崩落するなどして大きな事故につながるおそれが生じます。
そのような事態を避けるため、建築基準法では建築についてさまざまな規制を設けています。
建築基準法で定められている主な規制内容
建築基準法では、どのような規制がされているのでしょうか?
ここでは、単体規定と集団規定、建築確認・完了検査の3つに分けて、それぞれ概要を解説します。
単体規定
建築基準法の単体規定とは、個々の構築物に関する安全性の基準や衛生に関する基準などを定めた規定です。
建築基準法による主な単体規定には次のものがあります。
- 敷地に関する規制
- 構造耐力に関する規制
- 防火に関する規制
- その他の規制
敷地に関する規制
建物がいくら強固であっても、敷地自体が危険な状態であれば建物の安全性は保てません。
そこで、構築物の敷地について次の規制などを設けています(同19条)。
- 原則として、建築物の敷地はこれに接する道の境より高くすべきこと(同1項)
- 湿潤な土地や出水のおそれの多い土地、ごみなどで埋め立てられた土地では、盛土や地盤改良など衛生上・安全上必要な措置を講じるべきこと(同2項)
- 建築物の敷地には、雨水・汚水の排出や処理に必要な下水管・下水溝・ためますなどを施設すべきこと(同3項)
- 建築物ががけ崩れ等などで被害を受けるおそれがある場合は、擁壁の設置など安全上適当な措置を講じるべきこと(同4項)
構造耐力に関する規制
構築物が一定の耐力を有していなければ、地震や台風の際などに倒壊するおそれが高くなります。
そこで、構築物について一定の構造耐力を求めています(同20条)。
また、一定の大規模構築物については、構造耐力により厳しい基準を設けています(同21条)。
防火に関する規制
木造建築が多いうえ構築物が密集していることも多い日本において、ひとたび火災が生じれば類焼により甚大な被害が生じかねません。
そこで、建築基準法では防火や火災発生時の避難の観点から、さまざまな規制を設けています。
主な規制内容は、次のとおりです。
- 一定の区域内の構築物の屋根について、一定の防火性能を満たすこと(同22条)
- 一定の区域内の木造建築物等の外壁について、一定の防火性能を満たすこと(同23条、25条など)
- 延べ面積が1,000㎡を超える一定の建築物は、一定の防火壁などで区画すること(同26条)
- 一定の特殊建築物について必要な耐火性能を満たすこと(同27条)
- 電気設備について安全・防火について定めた工法で行うこと(同32条)
- 一定の構築物には避雷設備を設置すること(同33条)
- 昇降機は安全上・防火上支障のない構造とすること(同34条)
- 一定の構築物は避難上・消火上支障がないようにすべきこと(同35条)
その他の規制
単体規定としては、ほかに次の規制などが設けられています。
- 居室の採光や換気に関する規制(同28条)
- アスベストに関する規制(同28条の2)
- 地階の居室などに関する規制(同29条)
- 下水道処理区域内の便所は水洗便所とすべき規制(同31条)
集団規定
建築基準法の集団規定とは、計画的な都市運営などを目的とした、土地の用途や接道などに関する規制です。
主な集団規定の内容は次のとおりです。
- 道路に関する制限
- 用途に関する規制
- 容積率・建蔽率に関する規制
道路に関する制限
建物が多く建築されることが予定されている都市計画区域内や準都市計画区域内において、構築物の敷地は一定の道路に2m以上接していなければなりません(同43条1項)。
これは、道路に接していない場所に構築物が乱立すると、災害発生時に緊急車両が侵入できず被害が拡大するおそれがあるためです。
なお、建築基準法の施行前に建てられた建物には、この接道義務を満たしていないもの(いわゆる「既存不適格」)も多く存在します。
このような建物はすぐに解体すべきことなどは求められない一方で、既存の建物を取り壊した場合、その土地上に新たな建物を建築することは認められません。
用途に関する規制
無秩序な都市となる事態を避けるため、地域ごとに用途の制限がなされています。
用途は13に区分されており、それぞれ建築できる建物の種類や規模が定められています。※1
このような規制があることで、いわゆる閑静な住宅地である「第一種低層住居地域」に建てた家の隣に、突然パチンコ店が開業することはありません。
また、大規模工場が乱立する「工業専用地域」内に、保育園が建築されることもありません。
容積率・建蔽率に関する規制
建築基準法では防災や住環境保全の目的から、容積率や建蔽率などさまざまな規制が設けられています。
建蔽率とは、土地の広さに対して建てられる建物の敷地面積です。
たとえば、土地が100㎡でありその土地の容積率が60%である場合、この土地上に建てられる建物の敷地面積は、最大で60㎡(100㎡×60%)となります。
一方、容積率とは、土地の高さに対して建てられる建物の延べ床面積です。
延べ床面積とは、建物の各階の面積を合計した面積を指します。
1階が100㎡、2階が50㎡の建物の延べ床面積は、150㎡ということです。
ある土地が100㎡であり、容積率が200%である場合、この土地上に建てられる建物の延べ床面積は、最大で200㎡(=100㎡×200%)となります。
このように、100㎡の土地を所有していても土地全体に建物を建てられない可能性があります。
また、高層マンションを建てようにも、容積率が200㎡の土地では困難でしょう。
ほかにも、建物の高さ制限や外壁の後退規制など、さまざまな規制が設けられています。
建築確認と完了検査
建築基準法では、建築確認と完了検査について定めています。
ここまで、構築物のさまざまな規制を紹介しました。
これらの規制を遵守していることを確認するため、建築確認と完了検査に関する規定が設けられています。
建築確認とは、着工前に自治体などに図面などを提出し、建築しようとしている建物が建築基準法の規制に則っている旨の確認を受けることです。
建築確認を受けなければ、建設工事への着工ができません。
一方、完了検査とは実際に建物が完成した後で、完成した建物が建築確認を受けた内容と合致していることを確認する検査です。
この検査に合格することで、その建物の使用や収益が可能となります。
建築基準法改正の背景と目的
建築基準法が改正され、改正内容の多くが2025年に施行されます。
ここでは、今回建築基準法が改正された背景について解説します。※2
省エネ対策を加速すること
1つ目は、省エネ対策を加速させることです。
世界中で、省エネ対策が急務となっています。
日本では2021年10月22日に、「エネルギー基本計画」が閣議決定されました。
このエネルギー基本計画には、2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す旨などの記載があります。
住宅や構築物の省エネが重視されているのは、建築物分野におけるエネルギー消費が全体の約3割を占めるとされているためです。
建物の安全性向上をはかること
2つ目は、建物のさらなる安全性向上をはかることです。
省エネ化を促進する場合、屋根に太陽光パネルを設置するケースが多くなっています。
しかし、太陽光パネルを設置した屋根は、その分だけ重くなります。
そこで、建物の安全性向上をはかるため、構造計算が必要な木造建築物の規模引き下げなどが盛り込まれました。
木材の利用を促進すること
3つ目は、木材の利用を促進することです。
木材需要のうち、約4割が建築物分野とされています。
そこで、森林資源の有効活用や炭素固定量を増加させる目的で、木材の利用促進につながる改正が盛り込まれています。
【2025年施行】建築基準法の主な改正ポイント
2025年4月1日、改正建築基準法の一部が施行されます。
ここでは、主な改正点についてそれぞれ概要を解説します。
建築確認・検査の対象となる建築物の規模等が見直される
改正後は、建築確認や完了検査の対象となる木造建築物の規模等が次のとおり見直されます。※3
これまで、木造建築物とその他の建築物とで、建築確認が必要な規模が異なっていました。
改正後は木造建築物の建築確認検査や審査省略制度の対象が見直され、非木造と同様の規模となります。
これにより、すべての建築物に義務付けられる「省エネ基準への適合」や「省エネ化に伴い重量化する建築物に対応する構造安全性の基準」などに適合していることが、審査プロセスを通じて確実に担保されることとなります。
また、「都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区等内」においては、平家かつ延べ面積200㎡以下の建築物以外の建築物は、構造によらず、すべて構造規定等の審査が必要になりました。
同様に、「都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区等外」においては、構造によらず、階数2以上または延べ面積200㎡超の建築物は建築確認の対象となります。
構造安全性の検証法が合理化される
改正により、構造安全性の検証法が合理化されることとなります。
具体的な内容は次の2点です。
階高の高い3階建て木造建築物等の構造計算の合理化
一定の木造建築物は、簡易な構造計算が認められています。
この簡易な構造計算が認められる範囲が、従来の「高さ13m以下かつ軒高9m以下」から、「階数3以下かつ高さ16m」へ拡大されました。※4
構造計算が必要な木造建築物の規模の引き下げ
2階建て以下の木造建築物はこれまで、述べ面積が500㎡を超えるもののみについて構造計算が必要とされていました。
この範囲が拡大され、改正後は300㎡超える場合に構造計算が必要となります。
これにより、従来は構造計算が不要で合った規模の木造建築物でも、構造計算が必要となる可能性があります。
建築基準法に違反した際の罰則
建築基準法には、罰則が定められています。
たとえば、建築確認が必要な建物について建築確認を受けなかった場合の罰則は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です(同99条1項)
とはいえ、通常は施主(発注者)に罰則が適用されるわけではなく、罰則の対象となるのは原則として設計者や工事施工者です。
ただし、違反が施主の故意によるものであるときは、施主にも罰則が適用される可能性があります(同99条2項)。
2025年施行の改正建築基準法が企業に与える主な影響
2025年施行の改正建築基準法は、一般の企業にとってどのような影響があるのでしょうか?
最後に、主な影響を2つ紹介します。
リフォームや建築時のコストが増加する可能性がある
建築基準法の改正により、リフォームや建築時のコストが増加する可能性があります。
なぜなら、従来は構造計算や建築確認が不要であった建物であっても、改正後はこれらが必要となるケースが増えたためです。
また、建築基準法と同時に改正さえた省エネ法によってもより高い断熱性能などが求められるため、この点からコストが増大する可能性もあります。
同規模の建物であっても、従来と同程度のコストでは建築できない可能性があるため注意が必要です。
リフォームや建築の工期が長期化する可能性がある
建築基準法の改正後は、従来よりも工期が長期化する可能性があります。
なぜなら、これまで不要であった構造計算や建築確認が必要となった場合、この計算や申請などに時間を要するためです。
また、建築確認が必要である場合、原則として建築確認後の設計変更はできない点にも注意しなければなりません。
まとめ
建築基準法の概要や最新の改正内容を紹介しました。
建築基準法とは、建物建築における規制などを定めた法律です。
建築基準法に合致しない建物では建築確認を受けることができないため、原則として建築することができません。
改正法の施行後は、建築確認や構造計算が必要となる建物の規模が拡大されたため、建築コストの増大や工期の長期化が懸念されます。
これから社屋の建設などを予定している場合などには、この点をよく理解しておきましょう。
また、設計や建築に携わる事業者は、改正を見落として違反をすることのないよう十分な注意が必要です。
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