解雇とは、企業側が一方的に従業員との労働契約を終了させる行為です。
解雇された従業員は、明日からの生活の糧を失うことになりかねません。
そのため、一定の要件を満たさずにした解雇は、無効になるとされています。
では、有効に解雇をするためには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか?
今回は、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇それぞれについて、解雇が有効となるための要件を弁護士がくわしく解説します。
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解雇とは
解雇とは、企業側が一方的に、特定の従業員との労働契約を終了させる行為です。
原則として、そこに従業員側の意思が介在する余地はありません。
なお、解雇と似たものに「退職勧奨」があります。
退職勧奨は、あくまでも企業側が退職を「勧奨」するのみであり、これに応じて退職するかどうかは従業員側の自由です。
会社側の一方的な意志で労働契約を終了させる解雇とは大きく異なりますので、混同しないよう注意しましょう。
また、退職勧奨と言いつつも、実際には退職に応じるしかない状況に追い込む行為は、違法な「退職強要」にあたります。
退職強要は損害賠償請求の対象などとなりますので、行わないように注意が必要です。
解雇には、「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つが存在します。
どの解雇であるのかによって解雇の要件も異なるため、まずは解雇の種類を整理しましょう。
普通解雇
普通解雇とは、整理解雇と懲戒解雇以外の解雇です。
懲戒解雇とは異なり制裁的な意味合いはないものの、何らかの理由により労働契約の継続が著しく困難な場合において行われます。
たとえば、次のような事情による解雇は、普通解雇に該当する可能性が高いでしょう。※1
- 勤務成績が著しく悪く、指導を行っても改善の見込みがないとき
- 健康上の理由で、長期に渡り職場復帰が見込めないとき
- 著しく協調性に欠けるため業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないとき
なお、どのような場面で退職金を支給するのかなどについては、企業の退職金規程で定められています。
この退職金規程においては、普通解雇は退職金の支給対象とされている場合が多いでしょう。
整理解雇
整理解雇とは、経営不振や不況など会社側に生じた理由によって行う解雇のことです。
「リストラ」と称される場合も多いでしょう。
整理解雇は他の解雇とは異なり、従業員側に非があるわけではありません。
そのため、有効に解雇をするための要件が、他の解雇よりも厳しくなっています。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員が極めて悪質な非行や規律違反などを行った際に、懲戒処分として行う解雇です。
たとえば、会社の機密情報を故意に漏えいさせた場合や会社や顧客の金を横領した場合、悪質なパワハラ行為を行った場合などに、懲戒解雇の対象となる可能性があるでしょう。
企業が定めている退職金規程により、懲戒解雇に該当した場合には退職金を支給しないとされていることも少なくありません。
また、再就職に影響をする場合もあるでしょう。
そのため、懲戒解雇は、特に慎重に行うべき解雇であるといえます。
「普通解雇」をするための4要件
ここからは、それぞれの解雇が有効に成立するための主な要件について解説していきましょう。
はじめに、普通解雇をするための要件を解説します。
- 労働契約法上の要件を満たすこと
- 従業員へ解雇を通知すること
- 解雇が制限される場面に該当しないこと
- 30日前までに解雇予告をするか解雇予告手当を支払うこと
労働契約法上の要件を満たすこと
普通解雇をするための1つ目の要件は、労働契約法上の要件を満たすことです。
労働契約法16条には、次の規定が存在します。
(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
そのため、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であることが必要です。
なお、どのような場合に「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」のかは個別的に判断されることとなります。
過去の判例などを参考として慎重に検討する必要があるため、判断に迷う場合にはあらかじめ弁護士へご相談ください。
従業員へ解雇を通知すること
解雇は、従業員へ通知をしなければ効力が生じません。
また、たとえ通知をしたとしても、通知を受け取っていないなどと主張されるおそれもあります。
そのため、対面で解雇を通知する場合には受領書などへ署名をもらったり、郵送する場合には内容証明郵便としたりするなど、通知をしたことの証拠が残る工夫も必要です。
解雇が制限される場面に該当しないこと
解雇をされた従業員は、生活の基盤を失うこととなりかねません。
そのため、各法令において、解雇をできる場面が制限されています。
たとえば、次の解雇は法律で禁止されているため、これらに反してした解雇は無効です。
- 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条)
- 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条)
- 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)
- 労働者が育児・介護休業などを申し出たことなどを理由とする解雇(育児・介護休業法10条、16条など)
- 労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇(労働組合法7条)
- 労働者の性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条4号)
- 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)
そのため、これらに該当しないことが、解雇をするための要件の一つとなります。
30日前までに解雇予告をするか解雇予告手当を支払うこと
解雇をしようとする際には、原則として、解雇の30日前までに予告をしなければなりません(労働基準法20条)。
ただし、30日に満たない日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払うことで、解雇予告なしに解雇をすることも可能となります。
「整理解雇」をするための4要件
先ほども触れたように、整理解雇は従業員側に非のない状況での解雇です。
そのため、解雇の要件がより厳しいものとなっています。
整理解雇をするための主な要件は、次のとおりです。※2
- 人員整理の必要性があること
- 解雇回避努力義務を履行したこと
- 被解雇者の選定に合理性があること
- 解雇手続に妥当性があること
人員整理の必要性があること
1つ目の要件は、人員整理の必要性があることです。
不況や経営不振などによる、企業経営上の十分な必要性に基づいた人員削減措置であることが求められます。
解雇回避努力義務を履行したこと
2つ目の要件は、解雇を回避するための努力義務を履行したことです。
たとえば、配置転換や希望退職者の募集など、解雇以外の手段によって努力をしたことが求められます。
被解雇者の選定に合理性があること
3つ目の要件は、解雇対象とした従業員の選定に合理性があることです。
整理解雇の対象者を決める基準が客観的かつ合理的であり、その運用も公正であることが求められます。
解雇手続に妥当性があること
4つ目の要件は、解雇手続に妥当性があることです。
具体的には、労働組合または労働者に対して、解雇の必要性や解雇の時期、規模、方法について納得を得るために説明を行ったことなどが求められます。
「懲戒解雇」をするための要件
懲戒解雇は、制裁の意味合いを含む解雇です。
懲戒解雇をするための主な要件は、次のとおりです。
- 労働契約法上の要件を満たすこと
- 就業規則に根拠があること
- 懲戒解雇の対象となる行為をした事実があること
労働契約法上の要件を満たすこと
懲戒解雇をするための1つ目の要件は、労働契約法上の要件を満たすことです。
労働契約法15条には、次の規定が存在します。
(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
つまり、懲戒対象となった従業員の行為や性質などに照らして客観的に合理的であり、かつ社会通念上相当であることが必要であるということです。
こちらも、判例に照らし合わせながら、個別事情に応じて判断するほかありません。
そのため、懲戒解雇が相当であるかどうか判断に迷ったら、弁護士へご相談ください。
就業規則に根拠があること
懲戒解雇をするためには、自社の就業規則または雇用契約書に、明確な根拠がなければなりません。
就業規則などに根拠がない場合には原則として懲戒解雇をすることはできず、普通解雇を検討することとなります。
就業規則などに解雇の規定がない場合や内容が不十分である場合などには、今後懲戒解雇をしたい事態が生じた場合に備えるため、お早めに弁護士へご相談ください。
懲戒解雇の対象となる行為をした事実があること
懲戒解雇をする場合には、懲戒解雇に相当する事実の存在が必要です。
また、仮に従業員側が解雇無効などを主張して訴訟が提起された場合には、証拠が非常に重要となります。
そのため、懲戒解雇をするにあたっては、対象となった事由を特定するとともに、可能な限り証拠を残しておきましょう。
解雇をする際の注意点
日本においては、従業員の立場が非常に強く守られています。
このことを踏まえ、従業員を解雇する際には、次の点に注意しましょう。
労使問題にくわしい弁護士に相談する
従業員に解雇を告げる前に、労使問題に強い弁護士へご相談ください。
あらかじめ弁護士へ相談する主なメリットは、次のとおりです。
解雇の有効性などについてあらかじめ確認ができる
その解雇について仮に訴訟が提起された場合、有効となるのか無効とされるのかについて、自社のみで判断することは容易ではないでしょう。
また、仮に無効であると判断された場合の対応方法や無効とされた場合に生じ得るリスクなどについても、ある程度見通しを立てておきたいのではないでしょうか?
弁護士へ相談することで、判例などを踏まえつつ、ある程度の見通しを知ることが可能となります。
集めるべき証拠についてアドバイスを受けられる
解雇に関して仮に訴訟へと発展した際などには、証拠が非常に重要です。
しかし、集めるべき証拠は、解雇を検討するに至った原因によって異なるものです。
そのため、具体的にどのような証拠を残しておくべきか、判断に迷う場合も少なくないでしょう。
弁護士へ相談することで、その事例で保全しておくべき証拠などについて、具体的なアドバイスを受けることが可能となります。
トラブル発生時にも冷静に対応ができる
弁護士へ相談しておくことで、解雇に関してトラブルが発生した際にも、冷静に対応することが可能となります。
解雇にまつわるトラブルとしては、たとえば従業員側から不当解雇であるなどとして損害賠償を請求されたり、訴訟を提起されたりすることなどが考えられるでしょう。
状況によっては、弁護士が面談の場に同席したり、交渉の窓口を弁護士としたりすることなども可能です。
従業員に誠実に説明する
従業員を解雇する際には、解雇となった理由などについて、従業員に誠実に説明しましょう。
従業員が解雇理由に納得すれば、後の法的トラブルを避けられるためです。
また、自ら退職を申し出てくれる可能性もあるでしょう。
解雇無効の訴えに備えて証拠を揃えておく
従業員を解雇した場合には、従業員側が不当解雇であるなどと主張して、訴訟を提起する可能性があります。
この場合に備えて、必要な証拠を揃えておきましょう。
証拠とは、たとえば次のものなどです。
- 解雇理由となった事実に関する証拠(メール、録音データ、書面、タイムカードの記録など)
- 会社が従業員に対して問題の改善を指導した記録
- 解雇予告通知書を渡した記録(受領書など)
ただし、必要となる証拠は解雇とした理由などによって大きく異なりますので、あらかじめ弁護士へご相談ください。
まとめ
解雇の要件は、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇でそれぞれ異なります。
解雇の態様に応じて、要件を満たすかどうかを慎重に確認したうえで解雇をするようにしましょう。
しかし、解雇が有効となるための要件を満たしているかどうか、企業側のみで判断することは容易ではありません。
また、仮に訴訟を提起された場合に備え、証拠を残しておく必要もあるでしょう。
そのため、従業員の解雇を検討している際には、解雇を通告する前に、弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所には、労使問題にくわしい弁護士が多数在籍しており、主に企業側のリーガルサポートを行っています。
従業員の解雇についてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所ではグループ内に社会保険労務士法人を設けておりますので、就業規則の見直しなどから、トータルで対応することが可能です。