パワハラは、企業規模や業態を問わず起こりうる問題です。
今や、パワハラはどの企業にとっても無関係な問題ではありません。
そして、パワハラ防止法が2022年4月1日から中小企業も対象に全面施行されました。
今回は、パワハラ防止法の内容や企業が行うべき対策などについて弁護士が詳しく解説します。
目次
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2022年4月1日から中小企業にも適用開始された「パワハラ防止法」とは
ニュースなどで大々的に報道されるパワハラ問題は、大手企業の事例がほとんどです。
しかし、それはあくまでも社会的な影響の大きさから広く報道されているにすぎません。
パワハラは、決して一部の大手企業のみに関係する問題ではなく、どの企業でも起こりうる問題です。
多発するパワハラは社会問題となっており、これを受けて「パワハラ防止法」が制定されました。
この法律は一定規模以上の企業についてのみ先行して施行されていましたが、2022年4月1日から中小企業を含むすべての企業が対象とされています。
パワハラ防止法とは
パワハラ防止法というのは通称であり、正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称「労働施策総合推進法」)です。
その第9章「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」にて、事業主がパワハラ防止のために講じるべき措置などについて定めており、パワハラ予防が事業主の責務であることを明確にしています。
そもそも「パワハラ」とは
パワハラ防止法によれば、パワハラは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」ものであると定義されています。
これを分解すると、次の3つをすべて満たすものがパワハラに該当します。
「優越的な関係を背景とした」言動であること
言動をする人が、言動の対象者に対して優越的な関係を有することが、パワハラの要件の一つです。
優越的な関係といっても、必ずしも上司から部下に対するものに限られるわけではありません。
具体的には、次のようなものがこれに該当するとされています。
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚または部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協⼒を得なければ業務の円滑な遂⾏を行うことが困難であるもの
- 同僚または部下からの集団による⾏為で、これに抵抗や拒絶することが困難であるもの
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動であること
上司が部下を叱責したからといって、それがすべてパワハラに該当してしまえば、部下の指導などできず企業活動が滞ってしまうでしょう。
当然ながら、業務をする上で必要かつ相当な叱責などであれば、パワハラには該当しません。
一方で、たとえば次のものはパワハラに該当し得るとされています。
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂⾏するための⼿段として不適当な言動
- 当該⾏為の回数、⾏為者の数等、その態様や⼿段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
ただし、これに該当するかどうかの判断は、その言動の内容や行為の回数などで画一的に線引きするのではなく、言動が行われた経緯や状況、労働者の属性や心身の状況などの事情を総合的に考慮して判断すべきとされています。
「就業環境が害される」こと
言動により、労働者にとって就業環境が不快なものとなったために能⼒の発揮に重大な悪影響が生じるなどの支障が生じることを指します。
これに該当するかどうかの判断にあたっては、平均的な労働者の感じ方が基準とされています。
パワハラ防止法の内容
パワハラ防止法は、パワハラの防止に関すること以外にも、「中途採用に関する情報の公表を促進するための措置等」や「外国人の雇用管理の改善、再就職の促進等の措置」などについて規定している法律です。
このうち、パワハラ防止について定めた第9章の内容は、主に次のとおりです。
事業主の責務の明確化
パワハラ防止法では、パワハラの防止に関して事業主が担うべき責務について定められています。
そして、この規定の内容は、2022年4月より中小企業などすべての企業にまで対象範囲が拡大されました。
まだ対応ができていない企業は、対応が急務であるといえるでしょう。
なお、パワハラ防止法自体には罰則規定はありません。
しかし、企業内でパワハラが起きた際には、企業の使用者責任や不法行為責任など法的責任が問われるケースが多々存在します。
パワハラが裁判となり、企業の法的責任の有無が検討される際には、今後はパワハラ防止法に定められた措置が取られていたかどうかも、一つの判断基準とされる可能性があるでしょう。
そのため、企業としては、少なくともパワハラ防止法に定められた措置はしっかりと講じておくべきです。
事業主が講じるべき具体的な措置については、後ほど詳しく解説します。
国の責務の明確化
パワハラ防止法では、パワハラ防止に関して国が担うべき責務についても定められています。
具体的には、国はパワハラ問題に対する事業主や国民一般の関心と理解を深めるために、広報活動や啓発活動、その他の措置を講ずるように努めなければならないとされました。
パワハラについては実際に数多くの分かりやすいパンフレットやリーフレットなどが多く作成されていますので、企業は研修などの場でこれらの資料をうまく活用するとよいでしょう。
パワハラ防止法施行により企業が取るべき対策
パワハラ防止法により、企業が講じるべき措置は、主に次のとおりです。
パワハラ防止法はすでに中小企業を含むすべての企業が対象とされていますので、いま一度自社の対策を見直し、不足している措置を講じておくべきでしょう。
事業主の方針の明確化及びその周知と啓発
事業主が講じるべき1つ目の措置は、事業主の方針を明確化したうえで、その方針の周知と啓発を行うことです。
具体的には、次の対策を講じる必要があります。
- 職場におけるパワハラの内容やパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に対して周知や啓発すること
- 行為者について厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則などの文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
なお、行為者への懲戒規程を定めていなければ、いざパワハラが起きてしまった際の対応で企業が困ることにもなりかねません。
行為に対して重過ぎる懲戒処分を課してしまうと、加害者側から処分の無効や損害賠償を求められ、さらなるトラブルへと発展する可能性があるためです。
そのため、早期に弁護士へ相談のうえ、これらの措置を講じておくことをおすすめします。
相談に応じて適切に対応するために必要な体制の整備
事業主が講じるべき2つ目の措置は、相談に応じて適切に対応するために必要な体制の整備をすることです。
具体的には、次の対策を講じておくべきでしょう。
- パワハラに関する相談窓口をあらかじめ定め、窓口の存在を労働者に周知すること
- 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること
- 相談したことなどを理由として不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知と啓発をすること
- 相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
職場でパワハラ被害に遭った際、従業員としてはいったい誰に相談をしてよいのかわからないことが少なくないでしょう。
そのため、パワハラが起きた際にスムーズに相談することができる窓口の設置を行い、従業員が気軽に相談できる体制を整えることが求められています。
そのうえで、たとえばパワハラの相談をした人に本人が望まない異動や休職を命じるなど、相談者にとって不利益な取り扱いをいしないよう徹底することが必要です。
パワハラへの事後の迅速かつ適切な対応
事業主が講じるべき3つ目の措置は、パワハラが起きてしまった際、事後の迅速かつ適切な対応を行うことです。
具体的には、次の対応が求められます。
- 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- 速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと
- 行為者に対する措置を適正に行うこと
- 再発防止に向けた措置を講ずること
ただし、企業のみでこれらを適切に行うことは容易ではありません。
これらの措置を速やかに行うことを可能とするために、あらかじめ弁護士と顧問契約を締結するなど、速やかに弁護士へ相談できる体制を整えておくとよいでしょう。
その他、事業主が講じるべき措置
これらの他、事業主に対しては次の責務も定められています。
- 事業主や役員自身がパワハラに対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めること
- パワハラに関する研修を行うなど、パワハラに関して労働者が関心や理解を深めるように努めること
社内でパワハラを適切に予防するためには、そもそもどのような行為がパワハラに該当するのかなどの理解を社内で共有しておくことが不可欠です。
そのため、定期的にパワハラ対策研修などを行い、事業主や役員自身も受講するとよいでしょう。
研修は、社内の人が講師となって開催する他、弁護士など外部の専門家へ講師を依頼することも一つの手です。
外部の専門家へ講師を依頼すれば最新の裁判事例を踏まえた研修となりやすいため、理解を深めることに効果的であるといえるでしょう。
企業がパワハラへ対処しなかった場合のリスク
先に説明したとおり、たとえ企業が何らパワハラへの対処をしなかったとしても、パワハラ防止法自体には罰則はありません。
しかし、仮に企業がパワハラを放置すれば、次のような事態が生じる可能性があります。
社内の雰囲気が悪化し社員のモチベーションが低下する
パワハラは、決して当事者間のみで完結する問題ではなく、部署全体や企業全体の雰囲気が悪化する原因となります。
執拗に叱責されているなどパワハラの対象となっている人以外にとっても、同僚などがパワハラを受けている場面を頻繁に目の当たりにしていては、精神的に心地よいものではないでしょう。
場合によっては、いつ自分がターゲットになるのかと怯えながら仕事をしたり、自らの役職が上がった際に部下に対してこれまで見てきたパワハラと同様の対応をするなどパワハラの連鎖が起きたりする可能性も考えられます。
そのような雰囲気の職場では社員のモチベーションを保つことは難しく、業績悪化に繋がる可能性も否定できません。
離職者が増加する
企業がパワハラを放置してしまえば、離職者が増加する可能性があります。
パワハラを受けた当事者のみならず、雰囲気の悪化に耐えられなくなった社員や、企業の対応に失望した社員が離職していくためです。
損害賠償請求される
パワハラを放置した結果、社員がうつ病などを発症したり亡くなってしまったりすれば、企業が損害賠償などで法的責任を追及される可能性があります。
たとえパワハラをしたのが一部の問題社員であったとしても、企業が指導や配置転換など適切な対応をしなかった以上、企業にも責任があると考えられるためです。
企業の社会的評価が低下する
パワハラが常態化していることがニュースになったり、SNSなどで拡散されてしまったりすれば、企業のイメージの低下は避けられないでしょう。
結果として、長期にわたる業績の悪化につながる可能性があります。
まとめ
パワハラを予防することや、万が一パワハラが起きてしまった際に適切な対応をとることは、企業としての責務です。
パワハラ防止法の対象が中小企業にまで広がったことで、企業の責務はより明確なものとなりました。
パワハラは今や社会問題となっており、人を雇用する以上は避けて通ることが難しい問題です。
パワハラ予防の対策をご検討の際や、社内で起きてしまっているパワハラへの対応にお困りの際は、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること
パワハラを未然に防止するためには、まずはパワハラに対するしっかりとした理解が必要です。そのためにも、パワハラに関する研修を弁護士が裁判実務も交えつつ行うことは大変有意義です。
また、万が一パワハラが生じてしまった場合には、加害者に対する適切な処遇と被害者に対するしっかりとした事後対応ができなければ、企業は大きな法的紛争へと巻き込まれてしまう可能性があります。
そうした事態にならないよう、労務管理の経験が豊富な弁護士とワンチームで適切な対応をとり、従業員にとっても企業にとっても双方に意義のある解決を目指す必要があるでしょう。
Authenseのハラスメント防止対策プラン
Authense法律事務所では、「ハラスメント防止対策プラン」をご用意しております。アンケートなどで社内の実態調査を行い、企業の特徴・実態に合わせたパワハラ対策をご提案、企業としてのパワハラ対策の方針を明確にします。ご要望に応じてオーダーメイドプランを作成いたしますので、お気軽にお問い合わせください。