養育費が不払いとなった場合には、強制執行が有力な選択肢となります。
2020年に改正された民事執行法の内容を踏まえながら、給与や預貯金を差し押さえて養育費を強制執行する方法などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
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強制執行とは?できることを解説
強制執行とは、相手方がお金を支払ってくれなかったり、建物等の明渡しをしてくれなかったりする場合に、相手方(債務者)に対する請求権を、裁判所が強制的に実現する手続きです。
例えば、相手方が養育費を支払わない場合、相手方の預貯金や給料を差し押さえて未払い分を回収できる可能性があります。
直接強制
直接強制とは、債務者の意思を問わず、強制執行によって直接に債務の内容を実現する方法です。
例えば、あらかじめ公正証書などで取り決めた養育費などを相手方が支払わない場合に、相手方の預貯金や不動産、給与などを差し押さえることで、強制的に義務を履行させます。
ただし、どのような内容であっても、裁判所が強制的に義務を履行させられるわけではありません。
直接強制をすることができるのは、相手方が「お金を払う」という義務や「建物を明け渡す」という義務などを履行しない場合です。
間接強制
間接強制とは、直接強制がそぐわない義務を、相手方が履行しない場合に取られる手段です。
例えば、離婚時に公正証書などで面会交流の取り決めをしたにもかかわらず、親権を持つ親が妨害し、子と会うことができない場合などが代表的なケースといえます。
このような場合であっても、裁判所が子を無理やり面会場所に連れてくるようなことはできません。そのため、このような際には、間接強制の手段で履行を促すこととなります。
具体的には、調停条項等で定められた義務を一定の時期まで履行することを命令し、命令に従わなければ、金銭の支払いを命じることで、間接的に面会交流の実現を促すものです。
養育費を強制執行するデメリットと回避方法
養育費が不払いとなった場合、強制執行をすることには、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
以下の点を踏まえて、強制執行をするかどうか検討すると良いでしょう。
デメリット1:相手との関係が悪化しやすい
強制執行という強力な法的手段を取ることで、相手方との関係は悪化しやすくなります。
今後会うことがないのであれば、相手方との関係が悪化しても問題ないかと思いますが、子の面会交流などで今後も顔を合わせる必要がある場合には、慎重に検討する必要があるでしょう。
デメリット2:自分で行うことが困難であり弁護士費用の負担が生じる
強制執行を裁判所へ申し立てるためには法的な知識が必要であり、自分で行うことは容易ではありません。
そのため、多くの場合、弁護士へ依頼することとなるでしょう。
これにより、弁護士費用の負担が生じます。
デメリット3:空振りに終わるリスクがある
せっかく費用や手間を掛けて強制執行を申し立てても、相手方にまったく財産がない場合や、給与などの定期収入がない場合には、空振りに終わる可能性があります。
ただし、2020年4月に施行された改正民事執行法により、相手方が財産を隠していることで取り立てができないリスクは、格段に下がっています。
民事執行法の改正については、次で詳しく解説します。
法改正で強制執行が容易に
2020年4月、「民事執行法」という法律が改正され、養育費の強制執行が容易になっています。
強制執行の際の差押え対象資産は、債権者が特定しなければなりません。例えば「〇〇銀行〇〇支店の預金口座」「〇〇会社から受け取っている給料」など、金融機関名や勤務先の会社まで特定する必要があります。しかし、預貯金口座や勤務先などが分からない場合、調査が困難であり、差押えができませんでした。
ところがこのたび民事執行法が改正され、債務者の財産内容や勤務先の情報の把握が容易になりました。
①「第三者からの情報取得手続き」が導入されました。この制度を利用すると、裁判所から各種の機関(第三者機関)へ情報照会をして、強制執行に必要な情報を取得できます。例えば、以下のようなことが可能です。
- 銀行に情報照会をして取引支店名や、預金の種類を明らかにする
(但し、債権者において照会先の金融機関の特定は必要です) - 役所や年金事務所に照会して勤務先の情報を取得する
- 法務局に照会して相手方の所有する不動産の情報を取得する
- 証券会社に照会して相手方の所有している株式に関する情報を取得する
もっとも、不動産情報、勤務先情報の申立てでは、申立ての日より前3年以内に財産開示期日における手続きが実施されたことの証明が必要です。そのため、「第三者からの情報取得手続き」を実施する前に、「財産開示手続き」を申し立てる必要があります。
②「財産開示手続き」の効果も強化されています。財産開示手続きとは、債務者を裁判所に呼び出して財産状況について質問する手続きです。財産開示手続きに応じなかった場合、これまで軽い行政罰しかありませんでしたが、2020年4月以降は、財産開示に協力しない場合、「6か月以下の懲役または50万円以上の罰金刑」とされました。
このように養育費の強制執行は法改正によって以前より容易になっているといえます。財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きをうまく使って効果的に差押えをするため、分からないことがあれば、弁護士に相談してください。
また、弁護士に依頼し、金融機関等に対して弁護士会照会をかけてもらうという方法もあります。
差し押さえできる相手方の条件
離婚に際して養育費の支払いの約束をしたからといって、どのような場合でも強制執行(差押え)ができるとは限りません。
差押えをするためには、次の条件を満たす必要があります。
公正証書、調停調書などの「債務名義」がある
1つ目に、養育費の約束をした「公正証書」や「調停調書」「判決書」などの「債務名義」が必要です。「債務名義」になるのは以下のようなものです。
- 強制執行認諾条項つきの公正証書
- 調停調書
- 審判書
- 判決書
- 和解調書
養育費の支払いを口頭のみで約束して書面を作成しなかった場合や、単に当事者間で合意して署名押印しただけの合意書しかない場合には、すぐに強制執行ができません。
支払期限を過ぎても支払われていない
強制執行をするには、基本的に「支払時期を過ぎている」必要があります。一回も養育費を滞納されていない状態であれば、差押えはできません。
ただし養育費については「将来分の差押え」が認められているので、一回相手方の給料を差し押さえると将来の分についてもその後の給料やボーナスから支払われるようになります。
相手方が資産や債権を持っている
3つ目に差押えの対象になる資産や債権が必要です。例えば以下のようなものです。
- 現金
- 預貯金
- 不動産
- 車両
- 株式
- 投資信託
- 給料、ボーナス
- 退職金
養育費の強制執行で差し押さえられる対象
養育費の強制執行で差し押さえられる代表的なものとして、給与と預貯金債権が挙げられます。
これらについて、改めて差押えのポイントをお伝えしていきましょう。
給料差押え
給与の差押えとは、相手方が勤務先から受け取っている給与を、相手方ではなく債権者に直接支払ってもらう行為のことです。
給与の差押えが発生すると、給与を支払っている会社に裁判所から通知がいき、会社は給与を債権者に支払う義務が生じます。
ただし、給与の差押えには上限額が定められており、給与の全額を差し押さえられるわけではありません。
養育費の場合、差押え額の上限は次のとおりです。
- 原則:手取額の2分の1
- 手取額が66万円を超える場合:手取額から33万円を控除した金額
なお、相手方は養育費などの滞納を会社に知られたくないと考えるケースが少なくありません。
そのため、実際に差押え手続きをする前に、これ以上滞納を続けた場合には差押え手続きを行う旨を相手方に通知することで、任意に滞納分の養育費が支払われる場合もあります。
ただし、会社を辞めてしまうと、かえって強制執行までの道のりが遠くなってしまいますので、状況に応じて慎重に対応をする必要があるでしょう。
預貯金差押え
預貯金の差押えとは、相手方の預貯金から直接滞納分の養育費を支払ってもらう手続きです。
裁判所から金融機関へ差押命令を送付してもらい、その命令にもとづいて債権者が支払いを受けることができます。
ただし、預貯金の差押えは、相手方がどの金融機関に口座を持っているのかがわからないと、行うことはできません。
また、口座はあっても残高が非常に少ない場合には、希望する額の取り立てがかなわない可能性もあるでしょう。
そのため、あらかじめ相手方がどこの金融機関に多く預金をしているか調査する必要があります。
どこの金融機関に口座があるかわからない場合であっても、弁護士から各金融機関に対し、弁護士照会をかけてもらうことで預金口座が見つけられることもあるため、お困りの際には弁護士へ相談してください。
強制執行に必要な書類
強制執行を行うためには、原則として次の書類が必要です。
申立書
申立書は、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録、物件目録などの目録とあわせて提出します。申立書の様式は、各地の裁判所のホームページに掲載されている場合もあります。
債務名義の正本
債務名義とは、強制執行の根拠となる文書のことです。
養育費の強制執行をする場合には、次のような書類が債務名義となります。
- 養育費について定めた公正証書:養育費について公正証書で定めた場合
- 家事調停調書:養育費について調停で定めた場合
- 家事審判書:養育費について審判で定めた場合
送達証明書
債務名義の正本などが債務者(養育費の支払い義務者)に送達されたことの証明書です。
この証明書は、債務名義を作成したところ(裁判所や公証役場など)で発行してもらいます。
執行文
執行文とは、「債権者○○は債務者××に対し、この債務名義により強制執行することができる」などと書かれたもので、債務名義の執行力が現存することを公に証明する文書のことです。
公正証書などの場合には、この執行文が付いていないと強制執行をすることはできません。
執行文の付与は、債務名義を作成したところ(公証役場など)で行います。
債務名義によって、執行文が必要なものと必要でないものがありますので、確認の上、執行文が必要な場合は、執行分の付与申請をしてください。なお、調停調書については、それが養育費の支払を定めたものであり、それらを請求債権とするのであれば、執行文の付与を受ける必要はありません。
そのほか、差し押さえる財産等により、必要な書類がありますので、確認するようにしましょう。
養育費を強制執行する際の流れ
養育費を滞納された際、強制執行を行うまでの流れは次のようになります。以下、預貯金や給与などの債権を差し押さえることを前提に、ご説明いたします。
STEP1:執行文と送達証明書等を取得する
まずは、強制執行に必要な書類を揃える必要があります。
「執行文」や「送達証明書」が必要な場合は、裁判所や公証役場などに申請して取得します。
なお、家事審判書の場合は、「執行文」は不要ですが、「確定証明書」が必要になります。
STEP2:財産開示手続きや第三者からの情報取得手続き等を利用する
相手方の財産や勤務先を特定できていない場合、裁判所で「財産開示手続き」や「第三者からの情報取得手続き」を申し立てたり、弁護士に依頼して、弁護士照会を利用したりして、情報収集しましょう。これらによって、相手方の財産や勤務先がわかれば、強制執行が空振りにおわるリスクを減らすことができます。
STEP3:強制執行の申し立てを行う
差押え対象とする財産や勤務先を特定できたら、申立書を作成して強制執行を申し立てます。申立てには必要書類一式が必要ですので、この時点までに用意します。
STEP4:差押命令が発令される
特に不備がなければ、裁判所によって差押命令が発令されます。預貯金や給料などの債権差押えの場合には、当事者だけではなく第三債務者(金融機関や勤務先など)にも差押命令が送達されます。
STEP5:取り立てをする
差押え対象が預貯金、給料などの債権の場合、差押命令が債務者へ送達された日から1週間が経過すると、取り立てができる状態になります。
そこで金融機関や勤務先の会社に連絡を入れて、預貯金や給料を払ってもらいましょう。
給料を差し押さえた場合には、その後継続的に差押え分を入金してもらうことが可能でボーナスの際にも入金が行われます。
養育費を滞納されても、強制執行に成功すればきちんと支払いを受けられます。また、差押え後、相手方が「不足分を支払うので差押えを取り下げてほしい」と言って任意に支払いをしてくるケースも少なくありません。
ただ強制執行は比較的複雑な手続きなので、弁護士に依頼した方がスムーズかつ確実に進められるでしょう。養育費を滞納されてお困りの方がいらっしゃいましたら、お気軽に弁護士までご相談ください。
強制執行にかかる費用
強制執行にかかる手数料の収入印紙は、基本的に4,000円ですが、他に数千円分の郵便切手が必要です。さらに不動産や動産などの差押えの際には数万円~数十万円の予納金が必要となります。
預貯金や給料などの債権差押えなら高額な予納金は不要で手続きも簡単です。養育費を滞納されて差押えをするなら、まずは「預貯金」や「給料」などの債権を差し押さえるようお勧めします。
強制執行をしても養育費をもらえないケースと対策
強制執行により、養育費を回収するにあたって、次の場合には、注意が必要です。
①相手方に財産がまったくない場合
相手方に財産がまったくない場合には、強制執行をしても養育費を取り立てることはできません。また、養育費の支払い義務者に預金がほとんどない場合には、差し押さえたところで残金以上の弁済を受けることはできません。
いくら養育費の支払いが義務であるとはいえ、裁判所が強制的に借金をさせて取り立てることまではできないためです。
ただし、たとえ相手方が自己破産をしても、養育費の支払い義務は残ります。
可能は範囲で今後も支払うよう、弁護士を通じて交渉をすると良いでしょう。
②相手方が住所や口座を変えて逃げた場合
相手方が住民票を移さずに引っ越しをしたうえ、銀行口座などをすべて変えて逃げてしまった場合には、財産や勤務先の特定が困難となります。そのため、養育費を取り立てることも難しくなります。
一方で、住民票を移して引っ越しをしている場合には、取り立てができる可能性があります。
戸籍と住所を紐づけた「戸籍の附票」や「住民票」を取り寄せることなどで、現住所を調べることができるためです。お困りの際には、弁護士へ相談してください。
ただし、現住所の調査にも手間がかかりますので、公正証書などで養育費について取り決める際には、住所を変更した場合の通知義務を課す文言を入れておくと良いでしょう。
③相手方が仕事を辞めた場合
養育費の支払い義務者が会社を辞めても、新たにどこかへ勤務しているのであれば、新たな勤務先へ給与の差押えをすることが可能です。
しかし、相手方が仕事を辞めてしまい、新たな勤務先がわからない場合には、取り立てが難航する可能性があります。
ただし、この場合であっても第三者機関からの情報取得手続きや財産開示手続きを行うことで、勤務先の情報がわかることもあります。
養育費を払ってくれない。強制執行以外の手段はある?
相手方が約束した養育費を支払わない場合、強制執行以外に支払ってもらう方法はあるのでしょうか。
ここでは、履行勧告と履行命令の制度を紹介します。
ただし、いずれもあらかじめ、家庭裁判所での調停や審判等で養育費についての具体的な取り決めが行われた場合に利用することができる制度です。
それ以外の場合には、これらの制度を利用することはできません。
履行勧告
履行勧告とは、家庭裁判所から相手方に対して、養育費支払いの「勧告」をしてもらう制度です。
強制執行とは異なり、履行勧告自体に法的な拘束力はありません。
しかし、裁判所から直接履行を勧告されることで、相手方に心理的プレッシャーを与えて履行を促す効果が期待できます。
履行命令
履行命令とは、家庭裁判所から相手方に対して、養育費支払いの「命令」をしてもらう制度です。
従わなくても特に罰則のない履行勧告とは異なり、履行命令に従わないときは10万円以下の過料が課せられます。
強制執行ほどの強い効力はないものの、過料が課される分、履行勧告よりも履行を促す力が強い制度といえるでしょう。
養育費の減額、免除の余地はあるか
公正証書などで養育費について取り決めた後で、相手方から減額や免除を申し入れられる場合があります。
減額や免除には原則として双方の合意が必要となりますので、納得できなければ合意をする必要はありません。
しかし、合意しなかった場合、相手方が家庭裁判所に「養育費減額請求調停」を申し立てる可能性があります。
調停はあくまでも話し合いの場であるため、成立には双方の同意が必要です。
調停が不成立に終わった場合には、「養育費減額審判」に移行します。この場合には最終的に裁判所が決断を下します。
例えば、親権者が再婚をして子が再婚相手と養子縁組をした場合や、収入状況が大きく変わったなどの事情があれば、減免の判断が出される可能性があるでしょう。
養育費の強制執行は弁護士に相談を
夫婦が離婚をしても、2人とも引き続き子の親であることに変わりはありません。
養育費の支払いは親としての義務であり、子にとって重要な権利です。
仮に不払いとなった場合には、早期に対処をするべきでしょう。
しかし、強制執行をするには広範囲にわたる法的知識が必要であり、自分で行うことは容易ではありません。
また、不用意に自分で動いてしまった結果、相手方が財産を隠すなどして強制執行が難しくなってしまうリスクもあります。
養育費の不払いで困ったら、早期に弁護士へ相談してください。
まとめ
公正証書や調停等などで取り決めた養育費が約束どおりに支払われない場合には、強制執行をすることが可能です。
また、民事執行法の改正により、相手方は養育費の支払いから逃れにくい制度となっています。
養育費の不払いでお困りの際は、早期に対応するようにしましょう。
Authense法律事務所には、離婚問題や養育費の強制執行に詳しい弁護士が多数在籍しております。
弁護士が親身となって問題解決をサポートいたしますので、お困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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