コラム
公開 2019.07.30 更新 2021.10.04

「子どもが大学を卒業したら離婚」は得策?

世間では「子どもが成人したら離婚する」「子どもが大学を卒業したら離婚する」など、節目のタイミングで離婚しようと考えている方がおられます。本当にそういった時期に離婚して後悔しないのか、法的な側面もふまえて検討してみましょう。

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相手が同意しないと離婚はできない

「子どもが大学を卒業したら離婚する」
ただ、離婚は自分一人の希望だけでは実現できません。離婚は基本的に、夫婦の合意がないと成立しないからです。
相手が離婚に合意しない場合には「離婚訴訟」をしなければなりません。訴訟をしても必ず離婚できるとは限らず「法律上の離婚原因」が必要です。

これから離婚しようとしている方で、まだ夫とまったく離婚の話をしていない方は、「まずは夫を離婚する気にさせる」こと自体が大変な作業になると覚悟する必要があるでしょう。

法律上の離婚原因について

夫が離婚に合意しない場合でも、法律上の離婚原因があれば離婚訴訟によって離婚を認めてもらえます。
法律上の離婚原因は、以下の5種類です。

  • ① 不貞(不倫、浮気)
    夫が別の女性と不倫している場合には、夫が納得しなくても離婚できます。
  • ② 悪意の遺棄
    夫が家出して戻ってこず、生活費の送金もない場合などには夫の了承無しに離婚できます。
  • ③ 3年以上の生死不明
    夫が3年以上生死不明の状態であれば離婚できます。
  • ④ 回復困難な精神病
    夫が重度の統合失調症や躁うつ病などにかかっており、これまで妻が献身的に看護をしてきて、離婚後も夫が生活に困らない算段ができているなら離婚できます。
  • ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
    DVやモラハラを受けている場合や、長期間の別居が続いて夫婦関係が実質的に破綻している場合などには離婚できます。

上記に当てはまるなら、離婚を考えた方が良いケースもあります。

離婚後の生活を考えるべき

夫と離婚するかどうか迷っているなら、離婚後の生活がどうなるかを考えておくべきです。
つまり、経済的に一人で生活していけるのかという問題です。
離婚後の生活にあてられるお金には、以下のようなものが考えられます。

  • ・離婚時の給付
  • ・自分で稼いだお金
  • ・実家からの援助

子どもが未成年であれば行政からひとり親への援助がありますが、大学を卒業している場合にはそういったものはほとんど期待できません。

離婚時の相手からの給付

離婚の際、相手からもらえるお金には以下のようなものがあります。

・財産分与

夫婦の間に共有財産があれば、その2分の1については相手から給付を受けられます。
たとえば現金預貯金や自宅、株式や生命保険その他の積立金などが財産分与の対象です。
夫の退職金についても、今後おおよそ10年以内に退職予定があり、退職金が支給される蓋然性が高い場合などには財産分与の対象になります。

財産分与のお金が数千万円などの多額になっており、離婚しても当面生活に困らなそうであれば離婚に踏み切っても良いでしょう。
ただし相手がすんなり財産分与に応じるとは限りません。争いになったときに備えて、預貯金通帳や不動産の評価に関する資料、生命保険証書(コピー可)や積立金の資料、証券会社との取引状況を示す資料など、財産についての資料を集めておきましょう。

・慰謝料

慰謝料は、相手に「有責性」がある場合に請求できます。有責性とは、離婚原因を作った責任です。たとえば相手が不倫した場合やDV、モラハラの事案などで慰謝料を請求できます。
ただし離婚慰謝料は、高くても300~400万円くらいまでにしかならないのが一般的です。

慰謝料を受けとったから離婚後生活していけるものでもないので、離婚後の生活の「補助的な要素」と考えましょう。
また相手が慰謝料をすんなり支払わないケースも多々あるので、相手の有責性についての証拠を集めておく必要があります。たとえば相手が不倫しているケースでは、「夫と不倫相手が男女の性関係をもっている証拠」が必要です。LINEなどのメッセージだけでは足りないこともあります。

・年金分割について

離婚の際、相手に「年金分割」を請求できるケースもあります。年金分割請求できるのは、厚生年金、または、共済年金がある場合です。
年金分割請求をすると、婚姻期間中に払い込んだ年金保険料を分け合えます。将来年金を受けとる年齢になれば、数千円~数万円受取金額が増えることもあります。
ただ離婚後すぐに年金をもらえるわけでもないので、これを当てにして離婚することはできません。

・自分自身の経済力

現在働いており収入のある方であれば、慰謝料や財産分与などを頼らなくても生活できるので、お金のことで思い悩む必要はありません。
反対に専業主婦の方やほとんど働いていなかった方の場合などには、離婚時の給付に頼らざるを得ないので、相手からどのくらいの給付を受けられるかが非常に重要な問題となってきます。

・実家からの援助

ご実家が裕福な方であれば、自分自身に経済力がなくても実家から援助を受けられたり、実家に戻って生活したりできるので、離婚後の生活方法についてそれほど思い悩む必要がないケースもあります。

離婚することによる損失

離婚すると、良いことばかりではありません。精神的な喪失感はもちろんのこと、経済的にも損失があります。以下で離婚によってどういった損失があるのか紹介します。

年金が減る

離婚すると、将来受け取れる年金が減ることを覚悟しておくべきです。
もしも婚姻を継続していたら、夫が年金を受けとる年齢になったときに全額の年金を受けとり、それを生活費に充てられます。退職金も全額受け取って夫婦の老後の生活に使えます。

一方離婚すると、基本的に自分の年金だけしかもらえません。働いていた方なら厚生年金がありますが、主婦だった方の場合には国民年金のみです。そこに年金分割で数万円足してもらっても、夫と一緒にいたときにもらえる満額の厚生年金には全然足りない金額になります。
年金分割すると、夫婦で年金を分け合う形になるので、どうしても一人あたりの取り分が減ってしまうのです。

遺族年金について

夫と離婚しなかった場合、将来夫が亡くなったときに妻には「遺族年金」が支給されます。
満額ではありませんが国民年金よりはずっと高い金額になることが通常ですし、妻が亡くなるまでずっと支給されます。

一方離婚してしまったら、自分の国民年金に年金分割を足した分しか受け取れません。離婚するならこのようなことも考えておくべきです。
ただし自分で働いて高額な厚生年金をもらえる方にはあまり関係のない話です。

遺産相続できなくなる

夫と離婚したら「遺産相続権」がなくなることにも注意が必要です。
離婚したら財産分与してもらえますが、それは「婚姻中に形成した財産」を半分もらえるだけです。
一方夫が亡くなるまで添い遂げた場合には、夫の残したすべての遺産の半分をもらえます。通常は遺産相続の方が圧倒的に多くの財産を受け取れます。

ただし「自分の方が先に死亡するリスク」「夫がいつ死亡するかわからないのにそれまで我慢するデメリット」も考慮して検討する必要があります。

まとめ

以上のように、「子どもが大学を卒業したから離婚」するか検討する際には、経済的な側面からさまざまなことを考えて離婚後後悔しないよう準備する必要があります。
具体的なアドバイスが必要な際には、弁護士までご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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