裁判所を介さずに離婚をする場合には、離婚届に2名に証人の署名と住所などの記載が必要です。
では、離婚届の証人は誰に頼めばよいのでしょうか?
また、離婚届に署名をした証人はどのような責任を負うのでしょうか?
今回は、離婚届の証人について弁護士がくわしく解説します。
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離婚届の証人とは
離婚届には、用紙の右側に2名の証人の署名や住所などの記入欄が設けられています。
では、そもそも離婚届の証人はなぜ必要なのでしょうか?
はじめに、証人が必要な理由と証人の役割について解説しましょう。
離婚届の証人の役割
離婚届に証人が必要である理由は、婚姻や離婚について規定している民法に、次の規定があるためです。
この規定は婚姻届についてのものですが、離婚についても準用されています(764条)。
(婚姻の届出)
第七百三十九条 婚姻は、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
2 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。
離婚届に証人が求められている理由は、不正な離婚届の提出を防ぐためです。
不正な離婚届とは、たとえば妻が実際は離婚に合意していないにも関わらず、夫が妻の署名を偽造するなどして勝手に作成した離婚届などを指します。
ただし、証人の役割はあくまでもその離婚届が真正なものであることを証明し、当時者が離婚をすることの意思を確認するという程度でしかありません。
離婚届の証人のリスク
離婚届の証人になることに、何かリスクはあるのでしょうか?
通常は、離婚届の証人となったからといって、特にリスクを負うことはないでしょう。
借金などの「保証人」と名称が似ているために不安になるかもしれませんが、「保証人」と「証人」はまったく異なるものです。
離婚届の証人は借金の保証人などとは違い、何か問題が生じた際に責任を負ったり、金銭の支出を求められたりするわけではありません。
ただし、離婚届が不正なものであることを知りながら証人欄に署名をした場合には、証人も罪に問われる可能性があります。
たとえば、離婚をしたがっている夫婦の夫側から「妻は離婚を拒絶しているが、夫である自分が勝手に離婚届を書いて提出してしまいたいので、証人欄の記載をしてほしい」と頼まれて引き受けてしまった場合などです。
離婚届の証人が必要なケース・不要なケース
離婚届の証人は、すべての離婚で必要となるわけではありません。
離婚届に証人が必要なケースと不要なケースは、それぞれ次のとおりです。
離婚届に証人が必要なケース
離婚が「協議離婚」である場合には、離婚届の証人は必須となります。
協議離婚とは、夫婦で協議(話し合い)をして成立させる離婚です。
より平たくいえば、裁判所が関与しない離婚であると考えておくとよいでしょう。
中には、弁護士が交渉を代行して離婚を成立させるケースや、離婚にまつわる取り決めを公証役場で公正証書とするケースが存在します。
これらの場合であっても、裁判所が関与していない以上はこの「協議離婚」に該当しますので、誤解のないよう注意しましょう。
なお、離婚のうち90%前後(厚生労働省による令和2年分の調査では、88.3%)は、この協議離婚で成立しています。※1
離婚届に証人が不要なケース
協議離婚以外の場合には、離婚届の証人は必要ありません。
これらの場合には裁判所が関与しており、不正な離婚届が提出されるリスクはほとんどないためです。
協議離婚以外の離婚とは、次の3つの離婚です。
調停離婚
調停離婚とは、家庭裁判所の調停で行う離婚です。
調停とは、家庭裁判所の調停委員が、夫婦に交互に意見を聞く形で意見をまとめる手続きです。
調停が成立したら、その日から10日以内に離婚調停調書の謄本とともに市町村役場に離婚届を提出することで、離婚が成立します。
なお、調停離婚による離婚は、離婚全体の8.3%程度です。※1
審判離婚
審判離婚とは、わずかな意見の相違で調停が成立しない場合に、裁判所が決めた条件で成立させる離婚です。
なお、一方からの異議申し立てで簡単に覆るため、ほとんど利用されていません。
令和2年(2020年)に審判離婚で離婚をした割合は、離婚全体のうち1.2%程度です。
裁判離婚
裁判離婚とは、訴訟で行う離婚です。
離婚をするかどうかや、離婚にまつわる諸条件について裁判所が決定し、当事者はこの決定に従います。
途中で意見がまとまれば、裁判所の決定を待たずに和解をすることも可能です。
判決が確定した日や和解が成立した日から10日以内に、判決書の謄本や和解調書の謄本を添えて市区町村役場に離婚届を提出することで、離婚が成立します。
なお、裁判離婚は離婚全体の0.9%程度であり、和解離婚は離婚全体の1.3%程度とされています。
離婚届の証人になれる人とは
離婚届の証人になれる人の範囲は非常に広く、未成年者でさえなく、離婚の事実を知っている人であれば誰であっても問題ありません。
成人していること以外には特別な資格は必要なく、親族や友人、知人など、誰でも証人になることができます。
また、外国籍の人であっても、その国の法律で成人しているのであれば、証人になることが可能です。
ただし、証人には離婚の事実などを知られてしまうことになりますので、実際には、親や兄弟などの親族や、近しい友人など信頼できる相手に依頼することが多いでしょう。
なお、証人は2名必要となりますが、必ずしも夫側から1名、妻側から1名選出しなければならないというわけではありません。
たとえば、夫の父と母など、夫婦の一方が2名の証人を選出しても構わないということです。
離婚届の証人欄を書いてもらう際の注意点
離婚届に問題があれば、そのままでは受理されず、訂正が求められる可能性があります。
特に、証人欄の署名や押印などは、離婚当事者が勝手に訂正することはできません。
離婚届がスムーズに受理されるよう、証人欄を書いてもらう際には、次の点に注意しましょう。
本人に自書してもらう
証人欄は、それぞれ証人本人に記載してもらいましょう。
仮に本人の承諾なく勝手に証人欄に署名などをした場合には、刑法上の私文書偽造や偽造私文書行使などの罪に該当します(刑法159条1項、刑法161条1項)。
これらの罪に該当すれば、3か月以上5年以下の懲役に処される可能性があります。
同じ印で複数人が押印しない
令和3年(2021年)9月1日から、離婚届への押印は任意(押しても押さなくてもよい)とされました。
これは、離婚をする当事者はもちろんのこと、証人も同様です。
そのため、特に押印をしなくても構いません。
ただし、証人に押印をしてもらう場合には、複数人による同じ印鑑の使いまわしは避けてください。
特に証人がもう1人の証人や離婚をする当事者と同じ名字である場合には、注意しましょう。
認印でよいがスタンプ印は不可
証人欄に押印をする場合、押す印は実印ではない印鑑(認印)であっても構いません。
ただし、インクが内蔵されており朱肉が不要なスタンプ印(いわゆる「シャチハタ印」)は避けましょう。
鉛筆など消えやすい筆記具で書かない
証人欄に限ったことではありませんが、離婚届を鉛筆や消えやすいインキ(消せるボールペンなど)で書くことは避けましょう。
特に、自書が必要な署名は署名した本人以外が修正することはできませんので、必ず消えない通常のボールペンや万年筆などで記載してもらってください。
離婚届の証人の適任者がいない場合の対処法
周囲に離婚を知られたくない場合や、周囲の人に証人欄への署名を断られてしまった場合など、証人の適任者がいない場合にはどうすればよいのでしょうか?
この場合には、次の方法を検討するとよいでしょう。
なお、適任者がいなからといって、勝手に知人などの情報を書いたり署名を偽造したりすることは絶対に行わないでください。
先ほど触れたように、このようなことをすれば、私文書偽造や偽造私文書行使などの罪に問われる可能性があります。
証人代行サービスを利用する
1つ目の対処方法は、証人代行サービスを利用することです。
証人代行サービスとは、いくらかの費用を支払うことで、証人欄の署名などを引き受けてくれるサービスを指します。
費用はさまざまですが、証人1人あたり3,000円から6,000円程度であることが多いようです。
インターネットで検索をすれば、代行サービスを見つけることができるでしょう。
ただし、証人代行サービスを利用するにあたっては、離婚の事実や当事者の個人情報を相手に知られることとなります。
そのため、行政書士など守秘義務のある国家資格者を選択すると安心です。
弁護士へ依頼する
もう一つの対処方法は、弁護士へ相談することです。
弁護士へ相談することで証人の紹介が受けられる可能性があるうえ、離婚にまつわるさまざまな疑問が解決されることでしょう。
たとえ協議離婚であったとしても、離婚にあたってはさまざまな取り決めが必要となります。
離婚にあたって取り決めておくべき事項とは、次のものなどです。
- 子どもの親権:未成年の子どもがいる場合には必須です。
- 子どもの養育費:子供の教育や監護にかかる費用です。親権を持たなかった側の親が、親権を持った側の親に対して定期的に支払うことで負担することが一般的です。
- 財産分与:婚姻期間中に積みあがった夫婦の財産を清算する手続きです。たとえ一方が専業主婦(専業主夫)であったとしても、原則として2分の1ずつで分与します。
- 慰謝料:精神的苦痛などの代償として請求する金銭です。夫婦の一方が離婚原因を作った場合には、請求できる可能性があります。
協議離婚の場合には、これらの取り決めをきちんとしないままに離婚をしてしまうケースも少なくありません。
しかし、特に養育費は子どもにとっての正当な権利です。
離婚をしてから後悔してしまうことのないように、必要な取り決めをしっかりと行っておくことをおすすめします。
弁護士へ相談することで、証人についてのみならず、これら取り決めておくべき事項などが明確となるでしょう。
まとめ
離婚届の証人は、未成年者でさえなければ誰であっても構いません。
また、離婚届の証人は特に法的なリスクはありませんので、そのことも告げたうえで証人を依頼すると、引き受けてもらいやすくなるでしょう。
適任者がいない場合には、証人代行サービスを利用することも一つです。
ただし、離婚にあたってはあらかじめ取り決めておくべき事項が多く、焦って離婚届を提出すれば後悔してしまうことにもなりかねません。
そのため、離婚に関して取り決めておくべき事項などについて、あらかじめ弁護士へ相談しておくとよいでしょう。
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※1 厚生労働省:令和4年度「離婚に関する統計」の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/dl/gaikyo.pdf
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