コラム
公開 2021.07.20 更新 2021.10.05

婚姻費用とは?請求の手順や支払われる期間、計算方法について

離婚前に別居を考えたとき、「別居したらお金がなくて生活できなくなるかも」と、不安に感じる方もいらっしゃると思います。
ただ法律上は、別居しても夫婦間で生活費を支払わなければならないので、心配しすぎる必要はありません。
今回は、離婚前の別居中の夫婦が負担すべき「婚姻費用」について解説します。

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1.婚姻費用とは

婚姻費用とは、法律上夫婦がお互いに負担すべき生活費です。
民法では、夫婦はお互いに助け合わねばならないという相互扶助義務が定められています。
この義務は「相手に自分と同等の生活をさせなければならない」という高いレベルのものであり「余裕がある場合に援助すれば良い」という程度のものではありません。

別居しても夫婦である限り、収入の高い側は収入の低い側の生活を維持するため、婚姻費用を支払い続けなければならないのです。

専業主婦の方が夫と別居する場合には、別居中の夫に婚姻費用を請求できます。子どもを連れて家を出た場合には、子どもの生活費も含めて加算された金額を支払ってもらえます。

2.一方的に家出しても婚姻費用を請求できる?

一方的に家出しても婚姻費用を請求できる?

妻が家を出ると、よく夫が「一方的に家出した妻に婚姻費用を払う義務はない」と主張して生活費の支払いを拒絶します。
しかしこの主張は通らないケースがほとんどです。

確かに夫婦には「同居義務」がありますが、絶対的なものではなく、正当な事由があれば別居しても問題ありません。法律的に問題のない別居であれば当然婚姻費用も請求できます。たとえば以下のような場合には別居もやむを得ないので、夫が拒絶しても婚姻費用を支払わせることが可能です。

  • ・同居中、DVやモラハラを受けていた
  • ・夫婦仲が極端に悪化して喧嘩が絶えない状態となっていた
  • ・夫婦仲が悪化したので冷却期間をおくために別居した

婚姻費用を支払ってもらえない可能性があるケース

婚姻費用を支払ってもらえない可能性があるのは、以下のようなケースです。

妻が不倫して家出した

不倫した妻が不倫相手との交際を続けるために家出した場合には、「信義則違反」となって婚姻費用の請求が認められない可能性があります。
ただし子どもを連れて家を出た場合、子どもの養育費に相当する部分については請求できます。

以上のように、一般的な「離婚前の別居」の場合には婚姻費用を請求できるので、夫が拒否してもあきらめる必要はありません。

3.婚姻費用の計算方法

婚姻費用は具体的にどのくらい支払ってもらえるのでしょうか?

こちらについては、裁判所が相場の金額を明らかにしています。

※裁判所 平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html

基本的に「夫婦それぞれの収入」に応じて婚姻費用を算定します。支払う側の収入が高ければ婚姻費用は高額になり、受け取る側の収入が高ければ婚姻費用は減額されます。
受け取る側が子どもと同居している場合、子どもの生活費も加算されるので婚姻費用は上がります。また子どもが成長すると教育費や生活費も多くかかるので、裁判所による上記の算定表では、子どもが15歳以上の場合は金額が上がる内容になっています。

夫婦で話し合って婚姻費用を決める場合には、上記の裁判所の婚姻費用算定表を参考にしましょう。

レシートを提出する必要はない

妻が夫に生活費を請求すると、夫が「すべてのレシートや振込証などの資料を提出するように。認められる分だけ支払う」などと言ってくるケースが多々あります。しかし婚姻費用は上記のようにお互いの収入から決められるので、いちいちレシートを夫に提示する必要はありません。
まずは夫に法律上のルールを伝えて、婚姻費用算定表に沿った金額を支払うよう求めましょう。
もしもそれで支払ってもらえなければ、家庭裁判所で「婚姻費用分担調停」を申し立てて支払いを請求すれば、裁判所で毎月の婚姻費用を決定できます。

4.婚姻費用を支払ってもらえる期間

婚姻費用を支払ってもらえる期間

婚姻費用は「いつからいつまで」支払ってもらえるのでしょうか?

4-1.支払始期について

婚姻費用は「結婚している間ずっと払わなければならない」なので、本来なら同居中も別居中も継続して支払われるべきです。
別居して払われなくなった場合には、別居直後からの分を請求できます。
ただし現実には「請求時」からの分しか認められない可能性が高くなっています。
夫と別居して婚姻費用が支払われなくなったら、すぐに家庭裁判所で「婚姻費用調停」を申し立てましょう。そうすれば調停申立時からの分の支払いを受けられます。

4-2.支払終期について

婚姻費用は「離婚するまで」支払われる

婚姻費用は「夫婦の生活費」なので、離婚したら支払われなくなります。「離婚後の生活費」を婚姻費用として請求することはできません。夫婦のみの家庭では、離婚と同時に婚姻費用の支払いは全く受けられなくなるので、就職などして自活する方法を探る必要があります。
未成年の子どもと同居している場合には「養育費」として、離婚後も子どもの生活費を請求できます。

再び同居した場合

別居状態が解消されて夫婦の家計が同一に戻ると、別途「婚姻費用」として生活費を支払う必要がなくなるので基本的に婚姻費用の支払いは終了します。
ただし同居を再開しても相手が生活費を渡してくれない場合には、同居中でも婚姻費用を請求できます。

5.婚姻費用の請求方法

婚姻費用を請求するときには、以下のように進めましょう。

5-1.話し合う

まずは相手と直接話合って決定するのがもっともスムーズです。できれば別居前に婚姻費用について話し合い、別居直後から支払いを受けられるようにしましょう。
話し合いが成立したら、必ず「合意書」を作成して書面化しておくようお勧めします。
相手の支払いに不安がある場合には「公正証書」にしておくと、支払いが止まったときにすぐに給料や預貯金などを差し押さえられます。

5-2.婚姻費用分担調停を申し立てる

話し合いをしても支払ってもらえない場合や、DVなどの事情で話し合いが困難な場合には、別居後すぐに「婚姻費用分担調停」を申し立てましょう。
調停の申立先は、相手の住所地を管轄する家庭裁判所です。調停では「調停委員」が間に入って婚姻費用の話し合いを調整します。夫が拒絶しても「法律上支払い義務があります」と言って説得してくれますし、相場の金額も算定してくれるので、夫も納得しやすくなるでしょう。
婚姻費用の支払い始期は「調停申立時から」とされることが多いので、できるだけ早く申し立てる方がよいでしょう。

5-3.婚姻費用審判で決定される

調停で話し合いをしても婚姻費用の金額について合意できない場合、手続きは「審判」に移ります。審判になると、審判官(裁判官)が夫婦それぞれの収入資料や子どもの状況などから妥当な婚姻費用の金額を算定し、義務者へ支払い命令を下します。
審判に従わない場合には、給料や預貯金などを差押えすることもできます。

6.まとめ

離婚前に別居すると生活が変わるので、不安を抱えるのも当然です。そんなときには弁護士がこれまでの経験や法律知識からアドバイスをいたします。
当事務所では離婚案件に特に力を入れておりますので、生活費の問題や離婚の進め方、財産分与などでお悩みの方は、是非とも一度ご相談下さい。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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