離婚の際、夫婦が婚姻期間中の「年金」を分け合える「年金分割制度」があります。これは「年金そのもの」を分け合うのではなく「婚姻中に払い込んだ年金保険料の納付記録」を分け合う制度です。また対象となるのは「厚生年金のみ」です。
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1.年金分割制度とは
年金分割制度とは、夫婦が離婚するときに「婚姻中に払い込んだ年金保険料の記録」を分割する制度です。
婚姻中は夫婦が協力して家計を維持しているので、その間に払い込んだ年金保険料も分け合って将来年金を受け取るときの金額に反映するのが公平です。そこで平成19年4月から年金分割制度の運用が開始されました。
2.年金分割制度でよくある誤解
2-1.年金そのものが分割される制度ではない
ときどき誤解されますが、年金分割制度は「年金そのもの」を分け合う制度ではありません。相手の年金の半分をもらえるとか、夫婦の年金額が同一になるわけではありません。あくまで払い込んだ納付料が分割されるだけです。元夫婦それぞれに実際に払われる年金額は、年金事務所が計算します。0.5(2分の1ずつ)の分割割合にしたとしても、移譲されるのは月額1万~4万円程度となるケースが多数です。
2-2.対象となるのは厚生年金のみ
年金分割の対象になるのは「厚生年金」のみです。年金制度は「基礎年金」と「厚生年金」の2階建て構造になっており、すべての人は「基礎年金(国民年金)」に加入していますが会社員や公務員などの方はそれにプラスして「厚生年金」に加入しています。
公務員は以前「共済年金」に加入していましたが、平成27年10月に共済年金は厚生年金に一本化されたので今は厚生年金のみです。
年金分割の対象になるのは、2階部分の「厚生年金(以前の共済年金含む)」だけであり「基礎年金」は対象外です。よって、夫が自営業などで「国民年金しか入っていない」ケースでは年金分割制度を利用できません。
年金分割できるのは、夫婦の一方または他方が以下のような仕事をしているケースです。
- ・会社員
- ・アルバイト、パート、契約社員
- ・公務員、準公務員
- ・会社役員や社長
2-3.年金の受け取り時期は変わらない
年金分割をすると「相手が年金を受け取る時期が来たら、分割された年金を受け取れるようになる」と思っている方がいますが、それは誤りです。年金分割をしても「年金を受け取れる年齢は変わらない」からです。年金分割を受けた相手があなたよりも年上の場合、相手の方が先に減額された年金を受け取り始めますが、そのときあなたが年金を受け取る年齢に達していなければ年金は支給されません。
あなたが年金を受給し始めるとき、増額された年金が支給され始めます。
3.2種類の年金分割制度
年金分割には「合意分割(離婚分割)」と「3号分割」の2種類があります。
3-1.合意分割(離婚分割)
合意分割は、夫婦が合意して行う年金分割です。年金分割の割合も「0.5(2分の1)」までの範囲で取り決めることが可能です。話し合っても合意できない場合、家庭裁判所で調停・審判を行って年金分割を決定します。
3-2.3号分割
3号分割は、平成20年4月以降に一方の配偶者が他方配偶者の「3号被保険者」となっているケースで利用できる年金分割です。
3号被保険者とは、年収が130万円未満で配偶者の「扶養」に入っている人です。この場合、夫婦の合意は不要で3号被保険者の方が単独で年金分割の手続きをできます。割合は当然に0.5(2分の1)となります。
ただし3号分割が適用されるのは「平成20年4月以降の婚姻期間」についてのみなので、それ以前から婚姻している場合には専業主婦などの3号被保険者でも合意分割が必要となります。
4.年金分割の期限
合意分割でも3号分割でも、年金分割請求には期限があるので要注意です。どちらも「離婚後2年以内」に年金事務所等で手続きを行う必要があります。
ただし離婚後2年以内に年金分割調停を申し立てた場合、調停や審判の進行中には期限切れになることはありません。調停中に2年が経過しても、調停成立や審判確定後1か月以内に年金事務所等で手続きをすれば分割してもらえます。ただし調停成立や審判確定後1か月以上が経過すると、本当に年金分割できなくなってしまうので、手続きは早めに行いましょう。
5.年金分割の方法
年金分割を受けたいときには、以下の手順で進めましょう。
5-1.3号分割
3号分割の場合、離婚後に3号被保険者が一人で年金事務所に行けば手続きできます。
年金事務所で「標準報酬改定請求書」という書類を書いて提出すれば、当然に0.5の割合で年金分割が行われて将来の年金額に反映されます。元配偶者に同行してもらったり何らかの書類を書いてもらったりする必要はありません。
5-2.合意分割
平成20年3月以前に婚姻期間のある夫婦やそれ以降でも3号被保険者でなかった夫婦の場合、合意分割しなければなりません。その場合、以下のように手続きを進めましょう。
年金分割情報通知書を受け取る
まずは年金事務所に申請をして「年金分割のための情報通知書」を受け取りましょう。年金手帳と戸籍謄本と「年金分割のための情報提供請求書」を提出すると、郵送で自宅宛に送付してもらえます。
年金分割についての合意書を作成する
次に相手と話し合って年金分割を行うことについて合意します。そのとき「年金分割割合」も決めます。割合は調停や審判をするとほとんど必ず0.5となるので、話し合いの際にも基本的には0.5とするのが良いでしょう。合意できたら合意書を作成します。
離婚後年金事務所に行って年金分割の手続きを行う
自分たちで合意しただけでは年金分割はできていない状態です。必ず離婚後年金事務所に行き、「標準報酬改定請求書」を提出しましょう。年金事務所には2人で行って2人で手続きする必要があり、離婚後2年以内に行う必要があります。
5-3.公正証書を作成すれば一人で手続きできる
年金分割の合意書を「公正証書」で作成していれば、離婚後の年金事務所での手続きを一人で行えます。相手に来てもらいにくい場合や一緒に行きたくない場合には、離婚時の年金分割合意書を公正証書にしておくことをお勧めします。公正証書は全国の公証役場で作成してもらえます。
5-4.相手が合意しないときには年金分割調停を行う
合意分割は、基本的にお互いが年金分割することと年金分割割合に合意しないと成立しません。離婚時に相手が納得しない場合、離婚調停等で決めてもかまいませんが、財産分与などの他の離婚条件がすべて整っているのに年金分割のためだけに離婚調停や訴訟をするのは負担になります。
年金分割の話をすると離婚がこじれそうな場合、離婚を先に成立させて離婚後に家庭裁判所で「年金分割調停」を申し立てましょう。調停の話し合いを行っても相手が納得しない場合には「審判」となって審判官が年金分割を決定してくれます。審判になれば、ほとんど確実に0.5の割合の年金分割が認められます。
離婚後2年が経過する直前でも年金分割調停を申し立てたら時効が止まるので、期間が気になる方も調停を利用するようお勧めします。
離婚時年金分割については「わかりにくい」「面倒」というイメージがあるのか、適用できる夫婦でも適用していないケースがよくあります。将来年金が月額数万円移譲されれば老後の生活における安心感が高まります。迷ったときには弁護士がアドバイスいたしますので、お気軽にご相談下さい。
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