熟年離婚は年々増加しています。
厚生労働省の統計によると、令和2年に離婚した夫婦のうち、同居期間が20年以上である夫婦の割合は21.5%となっており、全体5分の1を占めているほどです。※1
では、熟年離婚の主な原因には、どのようなものがあるのでしょうか?
また、熟年離婚をするメリットやデメリットには、どのようなものが挙げられるでしょうか。
今回は、熟年離婚について、弁護士がくわしく解説します。
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熟年離婚とは
熟年離婚は法律用語ではなく、明確な定義があるわけではありません。
一般的には、婚姻期間の長い夫婦が離婚することや、子どもが成人してから離婚することを指す場合が多いでしょう。
熟年離婚の主な原因
熟年離婚をする原因は、夫婦によってさまざまです。
主な原因としては、次のものが挙げられるでしょう。
身勝手な相手とこれ以上一緒に暮らしたくないから
身勝手な振る舞いをする相手に長年耐えてきたものの、これ以上一緒に暮らしたくないと決断するケースです。
子どもが巣立ったことや成人したことなどをきっかけとする場合が多いでしょう。
相手と同じお墓に入りたくないから
夫婦は、同じお墓に入ることが一般的です。
そのため、相手と同じお墓に入りたくないことを理由に、熟年離婚を決断する場合があります。
また、夫としては、実家の墓に妻とともに入りたいと考えている一方で、妻としては相手の実家の墓には入りたくないと考えているなど、お墓についての意見の相違が原因で離婚に至るケースもあるでしょう。
相手に相続で財産を渡したくないから
夫婦はお互いに、相手の財産を相続する権利があります。
たとえ夫婦仲が悪くても、そのことだけを理由に相続権を剥奪することなどはできません。
また、夫や妻に財産を一切相続させないという内容の遺言書は作成できるものの、それでも相手には「遺留分」の権利が残るため、相続の権利を一切剥奪することは困難です。
遺留分とは、配偶者や子など一定の相続人に保証された、相続での最低限の権利のことです。
そのため、相手に自分の財産を相続させないために、熟年離婚をする場合があります。
相手の親の介護をしたくないから
平均寿命が伸びており、相手の親の介護に終りが見えない場合も少なくありません。
また、いまだに「夫の親の介護は嫁が担うものだ」との考えが根強い地域もあり、妻が介護の負担を一手に担わざるを得ない場合もあるでしょう。
そのため、負担の大きな夫の親の介護を避けるべく、熟年離婚を決断する場合もあります。
自由が欲しいから
婚姻期間中は、なかなか自分の自由に振る舞うことはできません。
特に、いま熟年離婚を考える年代では、まだまだ「妻とは」「夫とは」などのステレオタイプを押しつけられることも多く、これを苦痛に感じている人もいることでしょう。
そのため、子どもの成人などや自分や配偶者の退職などを機に、自由を得るために熟年離婚をする場合もあります。
他の相手と一緒になりたいから
他に好きな相手などができ、その相手と一緒になるために熟年離婚をしたいと考える場合もあります。
相手とすでに相思相愛となっている場合もあれば、一方的に恋心を抱いているのみの場合もあるでしょう。
熟年離婚のメリット
熟年離婚をする主なメリットは、次のとおりです。
自由が得られる
熟年離婚をすることで夫婦の役割から解放される他、相手の親の介護をする必要もなくなりますし、他の相手と再婚をすることも可能となります。
このように、離婚をすることで夫婦の縛りがなくなって自由を得られる点が、大きなメリットの一つであるといえるでしょう。
精神的な苦痛から解放される
相手とともに生活をすることに対して苦痛を感じていた側にとっては、熟年離婚をすることで精神的な苦痛から解放されることとなります。
特に、相手がモラハラ気質である場合やDVなどの被害を受けていた場合などには、これまで強いられてきた苦痛の大きさは計りしれません。
熟年離婚をすることで、これ以上苦痛に耐える必要がなくなります。
熟年離婚のデメリット
熟年離婚には、デメリットも存在します。
これらのデメリットを踏まえ、本当に離婚をするかどうか、慎重に検討するとよいでしょう。
金銭的に不安定となる可能性がある
夫婦のうち、これまで主に家事を担ってきた側は、熟年離婚によって収入が不安定となる可能性があります。
一定の財産分与は受けられる可能性が高いものの、あくまでも一時的なものであり、その後の生活は自分で支えていく必要が生じるためです。
家事に手が回らない可能性がある
主に外で働き収入を得ていた側は、それまで家事のすべてを相手に任せていたという場合も少なくないでしょう。
熟年離婚をすることで家事をしてくれていた相手がいなくなるため、日々の食事や掃除などに手が回らず、生活環境が大きく悪化する可能性があります。
孤独を感じる可能性がある
熟年離婚をした結果、一人暮らしとなる場合もあるでしょう。
その場合には、大きな孤独を感じる可能性があります。
相手からの相続権がなくなる
正式に離婚が成立すると、相手からの相続権がなくなります。
これは、相手に遺産を相続させたくない側にとってはメリットとなる一方で、相手からの相続を受けたい側にとってはデメリットとなるでしょう。
熟年離婚を切り出す前にやっておくべき準備
しっかりと準備をしないままに熟年離婚を切り出してしまうと、後悔することにもなりかねません。
熟年離婚をしたいと考えている場合には、あらかじめ次の準備を講じておくことをおすすめします。
今後の生活にかかる収支を試算する
熟年離婚を切り出す前に、今後の生活にかかる収支を試算しておきましょう。
特に、これまで主に家事を担って外部からの収入を得てこなかった側は、離婚をすることで生活に困窮するリスクがあります。
そのため、自分がパートなどで得られる収入の他、相手からの年金分割で受け取れる分を含めた年金額など、定期的に得られる収入を試算しておいてください。
親からの相続などでまとまった預金がある場合であっても、最近では平均寿命が長いため、安心できません。
収支がマイナスとなるなど不安が残る場合には、より条件のよい仕事やパートなどを探し、少しでも収入を得られる準備をしておきましょう。
お住まいの自治体が設けている制度を調べておくことも一つです。
一方、これまで外で稼いできた側としては自分で家事をすることができず、家事代行などを依頼する必要が生じるかもしれません。
そのため、近隣の家事代行を調べ、かかる費用を踏まえて自分で家事をしていくのか、家事代行を依頼するのかなどを検討しておくとよいでしょう。
相手に請求できる金銭と目安の金額を知っておく
熟年離婚を切り出す前に、離婚によって相手から得られる可能性のある給付と、目安となる金額を把握しておくとよいでしょう。
養育費の対象となるような未成年の子がいない場合、相手から得られる可能性のある給付は、次の2つです。
財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に積みあがった夫婦の財産を清算する給付です。
原則として、財産分与の対象となる財産は、次のもの「以外」の財産です。
- 婚姻の前から所有していた財産
- 夫婦の協力で得られたとはいえない財産(親から相続した財産など)
財産分与の割合は、たとえ一方が専業主婦(夫)であったとしても、2分の1ずつとすることが原則とされます。
なぜなら、一方が外から収入を得て来られたのは、もう一方が家事をして相手を支えてきたからであると考えられるためです。
慰謝料
慰謝料とは、精神的な損害を理由として支払われる金銭です。
相手に慰謝料を請求するためには法的な根拠が必要であり、離婚をしたからといって必ず慰謝料が発生するものではありません。
また、当然ながら「女性だから」や「男性だから」といった理由で受け取れるものではなく、離婚について非がある側が支払うこととなります。
たとえば、相手の不貞行為やDVを理由に離婚をする場合には、相手に対して慰謝料請求ができる可能性が高いでしょう。
ただし、請求をするにはきちんとした証拠が必要となりますので、あらかじめ証拠を集めなければなりません。
また、たとえ相手に非があったとしても、こちら側にも非があるのであれば、慰謝料が減額される可能性や慰謝料請求が認められない可能性があります。
相手に非があれば証拠を集める
熟年離婚をしたいと考える原因が相手側にあるのであれば、離婚を切り出す前に、証拠を集めておきましょう。
きちんとした証拠がなければ相手への慰謝料請求や離婚自体が認められない可能性があるところ、証拠が集まる前に離婚を切り出してしまうと、相手が警戒をして証拠が集めづらくなるリスクがあるためです。
集めるべき証拠は相手の「非」の内容によって異なりますので、あらかじめ弁護士へご相談ください。
たとえば、相手の不貞行為が原因なのであれば、ラブホテルに入る瞬間と出てくる瞬間の写真や、相手が不貞行為を認める発言をした際の録音データなどです。
相手の財産状況を把握する
熟年離婚を切り出す前に、相手の財産状況を把握しておきましょう。
なぜなら、財産分与にあたり、相手が財産を隠す可能性があるためです。
また、先に離婚を切り出してしまうと、相手が先手を打って財産を隠し、調査が難しくなってしまうかもしれません。
熟年離婚で後悔しないためのポイント
熟年離婚で後悔をしないためには、どうすればよいのでしょうか?
主なポイントは、次のとおりです。
あらかじめ弁護士へ相談する
熟年離婚で後悔しないよう、相手へ離婚を切り出す前に、弁護士へご相談いただくことをおすすめします。
なぜなら、熟年離婚を自分で進めてしまうと、相手が拒んだ場合に一方的に離婚ができるだけの証拠が揃えられず離婚ができない可能性がある他、財産分与や慰謝料請求で不利となってしまう可能性があるためです。
あらかじめ弁護士へ相談することで、状況に応じて離婚の進め方についてのアドバイスを受けられる他、離婚や慰謝料請求へ向けて集めるべき証拠について具体的な助言を受けることが可能となります。
また、弁護士が代理人として代わりに相手と話すことにより、冷静な話し合いがしやすくなるでしょう。
入念に準備をする
後悔せずに熟年離婚をするためには、事前の入念な準備がカギとなります。
特に、これまで収入が少なかった側は、熟年離婚をすることで、その後生活に困窮してしまうリスクが低くないでしょう。
そのため、上で紹介した事前の準備をしっかりと行ったうえで、相手に離婚を切り出すことをおすすめします。
まとめ
熟年離婚の理由は、さまざまです。
いずれであっても共通することは、長年耐えてきた相手との生活から離れたいという点でしょう。
そのため、熟年離婚をすることで、さまざまな苦痛や負担から解放されることが可能となります。
しかし、熟年離婚にはデメリットも少なくありません。
特に、これまでメインで家計の収入を得ていなかった側は、今後の生活に困窮してしまうリスクがあります。
そのため、熟年離婚をする際には今後の生活費を試算するなど、慎重に準備を進めることが必要です。
Authense法律事務所には離婚問題にくわしい弁護士が多数在籍しており、熟年離婚に関するご相談をこれまでも数多くお受けしてまいりました。
熟年離婚をご検討の際や、相手から熟年離婚を切り出されてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
参考文献:
※1 厚生労働省:令和4年度 離婚に関する統計の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/index.html
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/dl/suii.pdf
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