親権には、「身上監護権」と「財産管理権」が含まれます。
では、親権者と監護権者を分けることはできるのでしょうか。
また、親権者と監護権者を分けられる場合、分けることにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
今回は、親権と身上監護権について弁護士が詳しく解説します。
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親権とは
親権とは、子どもの利益のために監護や教育を行ったり、子どもの財産を管理したりする権限であり、義務でもあります。
子どもの父母である夫婦の婚姻中は、夫婦が共同で親権を行使します。
しかし、日本において離婚後の共同親権は認められていないため、子どもの両親である夫婦の離婚後は、父と母のいずれかが子どもの親権を持つこととなります。
親権には、「財産管理権」と「身上監護権」の2つが含まれます。
ここでは、それぞれの概要について解説します。
財産管理権
財産管理権とは、子どもの財産を管理したり子どもの代わりに契約を締結したりする権利であり、義務でもあります。
財産管理権には次のものが含まれます。
- (狭義の)財産管理権
- 法律行為の同意権
- 法律行為の取消権
(狭義の)財産管理権
狭義の財産管理権とは、その名のとおり子どもの財産を管理する権利義務です。
民法では「親権を行う者は、子の財産を管理」する旨の規定が置かれており、これが財産管理権の根拠です(民法824条)
なお、親権者が子どもの財産を管理する際の注意レベルは「自己のためにするのと同一の注意」でよく、後見人や専門家などに課される高度な注意義務である「善管注意義務」までは要求されません(同827条)。
とはいえ、これはあくまでも財産を子どものために「管理」するだけであり、子どもの財産を親が自分のために自由に使えるわけではありません。
法律行為の同意権
未成年者が契約の締結など法律行為をするには、法定代理人の同意を得なければなりません(同5条1項)。
判断能力が未熟である未成年者が自由に契約の締結などをできてしまうと、騙されたり検討が足りなかったりすることで不利益を被る可能性が高いためです。
そのため、親権者は法定代理人として、未成年者が契約締結をする際に同意する権利かつ義務を有します。
たとえば、未成年者が携帯電話を購入する際に同意する権限などがこれに該当します。
法律行為の取消権
未成年者が親権者の同意を得ずに法律行為をした場合は、その法律行為を取り消すことが可能です(同2項)。
この取消権も親権者が行使します。
身上監護権
身上監護権とは、子どもとともに生活し、子どもの世話や教育をする権利であり、義務でもあります。
身上監護権には次のものが含まれます。
- 居所指定権
- 職業許可権
居所指定権
居所指定権とは、子どもの居所(住む場所)を指定する権利です(同822条)。
親権者は子どもを監護する義務があるため、これを実現するために居所を指定することができます。
職業許可権
職業許可権とは、子どもが職業を営むことを許可する権利です(同823条)。
また、子どもがその営業に堪えることができない事由があるときは、いったんした許可を取り消したり制限したりすることもできます。
懲戒権は削除された
以前は「懲戒権」という規定があり、親権を行う者が監護や教育に必要な範囲内でその子どもを懲戒できる旨が定められていました。
しかし、昨今児童虐待が社会問題となっていることを受け、2022年12月に公布された民法の改正法から、この規定が削除されています。
今も古い情報のまま懲戒権について記載のあるホームページも少なくないため、最新の情報にご注意ください。
なお、懲戒権の削除に伴い、「親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」という子どもの人格尊重に関する規定が創設されています(同821条)。
離婚時の親権者の決め方
未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、子どもの親権者はどのように決めるのでしょうか?
ここでは、親権者の決め方について解説します。
夫婦間の話し合いで決める
離婚をする際は、夫婦間の話し合いによって親権者を決めることが原則です。
いずれが親権者となるのかについて夫婦間で合意ができれば、離婚届の所定の欄に未成年の子どもの親権者をどちらにするのか記載するだけで親権者が決まります。
調停で決める
夫婦間で話し合いがまとまらない場合は、調停で親権者を決めることとなります。
調停とは、家庭裁判所で行う話し合いです。
あくまでも話し合いの手続きであるため、調停を成立させるには夫婦間の合意がまとまらなければなりません。
とはいえ、夫婦が直接対峙するのではなく、2名の調停委員が夫婦から交互に意見を聞く形で進行するため、冷静な話し合いがしやすくなります。
調停委員は単に双方の言い分を伝言するのではなく、話し合いの調整を行います。
そのため、直接の話し合いによって合意ができなかった場合でも、調停が成立することは少なくありません。
訴訟で決める
調停が不成立となったら、訴訟(裁判)を申し立てます。
訴訟ではさまざまな事情を考慮のうえ、いずれが親権者となるべきか裁判所が決定します。
裁判所が下した決定には原則として従わなければならず、不服がある場合は判決書の送達から2週間以内に控訴の手続きをとらなければなりません。
親権者と監護権者は分けられる?
親権者と監護権者は、分けることが可能です。
この場合、親権者は財産管理権のみを持ち、監護権は監護権者が持つこととなります。
ただし、親権争いが裁判にまでもつれ込んだ場合は、よほど親権者と監護権者を分ける必要性が強い場合でない限り、原則として両者は同一となります。
なぜなら、裁判所は親権者と監護権者を分けることに対し、積極的ではないためです。
また、そもそも離婚届の様式でも親権者から監護権者を抜き出すことは想定されておらず、「夫が親権を行う子」と「妻が親権を行う子」をそれぞれ記載する欄があるのみで、監護権者を記載する欄はありません。
親権者と監護権者を分けるメリット・デメリット
親権者と監護権者を分けることにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
親権者と監護権者を分ける主なメリットとデメリットについて解説します。
メリット
親権者と監護権者を分ける主なメリットは次の2点です。
- 親権問題の早期解決につながりやすい
- 双方が親としての責任感を維持しやすい
親権問題の早期解決につながりやすい
双方が親権者となることを希望する場合、親権争いが長期化するおそれがあります。
しかし、親権について裁判にまでもつれ込むと数年単位の期間を要することもあるうえ、その間離婚を成立させることもできません。
親権者と監護権者を分けることで、双方が合意しやすくなり、親権争いの早期解決につながりやすくなります。
双方が親としての責任感を維持しやすい
親権を一方の親が持つと、もう一方の親は時間が経つごとに親としての自覚や責任感が薄れることがあります。
また、子どもとのつながりを確認しづらく、子どもが自分の子どもでなくなったような不安に苛まれることもあるでしょう。
一方、子どもと同居する親が監護権者となりもう一方が親権者となることで、双方の親が引き続き親としての自覚を持ちやすくなります。
また、養育費の不払いを防ぐ効果も期待できます。
デメリット
親権者と監護権者を分ける主なデメリットは次の1点です。
- 親権者の同意が必要となる場面でトラブルとなる可能性がある
親権者と監護権者を分けるデメリットは小さくありません。
両者を分けたい場合は弁護士へ相談し、具体的なリスクやデメリットを理解しておくようにしてください。
親権者の同意が必要となる場面でトラブルとなる可能性がある
親権者と監護権者を分ける場合、子どもと同居する親が監護権者となり、もう一方が親権者となることが一般的です。
しかし、子どもが事故などの被害に遭い子ども名義で訴訟を起こす必要があるなど子どもが法律行為を行うにあたっては、監護権者による同意では足りず、その都度親権者の同意を得なければなりません。
中でもトラブルとなりやすいのは、監護権者が再婚をし、子どもを再婚相手の養子とした場合などです。
この場合、子どもが15歳未満の場合、養子縁組をするにあたって親権者の同意を得なければなりません(同797条)。
子どもが再婚相手の養子となることについて親権者が同意しない場合は、事実上養子縁組ができなくなります。
調停や裁判で親権者や監護権者を決める判断基準
夫婦間で合意ができる場合、夫婦のいずれが親権者や監護権者となっても構いません。
では、調停や裁判では、親権者と監護権者はどのような基準で決まるのでしょうか?
ここでは、主な基準を3つ紹介します。
これまでの子育て状況
もっとも重視されるのは、これまでの子育て状況です。
裁判所は、離婚によって子どもの環境がこれまでと大きく変化しないことが望ましいと考えます。
そのため、これまで主に育児を担ってきた側が、親権者や監護者として選ばれる傾向にあります。
なお、親権争いにおいては女性が有利といわれることが少なくありません。
しかし、実態は「女性だから有利」なのではなく、家族の在り方が多様化しつつあるものの今も家事育児を主に女性が担っている家庭が多いことから、結果的に女性が親権者となるケースが多いといえます。
乳幼児期は母親優先
親権者が性別で決まるわけではないとはいえ、子どもの乳児期や幼児期は母親が優先される傾向にあります。
この主な理由は、生物的に母乳が出るのは女性のみである点が大きいでしょう。
乳幼児期の子どもは母親とのかかわりが密接である傾向にあることも、理由の一つです。
とはいえ、これも絶対的なものではありません。
子どもが乳幼児であったとしても、これまで夫が主に育児を担ってきた場合は夫が親権者とされることもあります。
子ども自身の希望
親権争いにおいては、子ども自身の希望も考慮されます。
特に子どもが15歳以上である場合は、子どもが希望した側が親権者となることが原則です。
子どもが10歳から14歳である場合は、子どもの希望がそのまま通るとは限らないものの、親権者を決めるにあたって子どもの希望も斟酌されます。
親権者や監護権者は変更できる?
親権者や監護者は、いったん決めた後で変更することはできるのでしょうか?
最後に、親権者や監護権者の変更について解説します。
変更のハードルは低くない
親権者や監護権者をいったん取り決めたからといって、その後絶対に変更できないわけではありません。
しかし、親権者や監護権者を変えるハードルは低いものではないことに注意が必要です。
まず、監護権者は夫婦間の合意によって変更できます。
ただし、合意がまとまらない場合は、変更するために調停や審判を申し立てなければなりません。
また、親権者を変えるには、たとえ夫婦間の合意がまとまってもそれだけでは変更することができず、裁判所の調停や審判を経る必要があります。
親の都合で頻繁に親権者を変更されると、子どもにとっての不利益が大きくなりやすいためです。
親権者の変更が認められやすいケース
親権者の変更が認められやすいのは、次のケースなどです。
- 親権者が死亡した場合
- 子どもが身体的な暴力やネグレクトなど、虐待の被害に遭っている場合
- 親権者の心身の状況に大きな変化が生じ、適切な監護が難しくなった場合
- 一定以上の年齢になった子どもが親権者の変更を希望している場合
親権者や監護権者の変更が認められるかどうかはケースバイケースであるため、変更を希望する場合はあらかじめ弁護士にご相談ください。
まとめ
親権は、財産管理権と身上監護権から構成されています。
この財産監護権と身上監護権をセットにして一人が親権者となることが原則です。
ただし、夫婦間の合意がまとまるのであれば、身上監護権のみを切り出して親権者と監護権者を分けることも可能です。
親権者と監護権者を分ける際は、養子縁組などの際に親権者の同意を得る必要があるなど注意点も少なくありません。
そのため、親権者と監護権者を分けたい場合は自分たちのみで判断するのではなく、あらかじめ弁護士にご相談ください。
Authense法律事務所では、離婚問題の解決に力を入れており、親権や監護権についても多くの解決実績があります。
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