コラム
公開 2019.02.21 更新 2021.10.04

離婚後に確実に養育費をもらうためには?

元夫から現在も養育費をもらっている人の割合は、わずか25%弱。子どもの生活を守るため、成人するまでの長きにわたり養育費を確実に受け取るために、離婚時にすべきことをまとめました。

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養育費をきちんと受け取っている人の割合は?

厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査(2016年度)」によると、母子世帯(未婚も含む)の母親が養育費の取り決めをしている割合は、42.9%です。前回調査(2011年度)では37.7%だったことを考えると増加傾向にはあるものの、依然として半分以上の母子世帯の母親が、養育費の取り決めを行っていないことがわかります。

離婚した元夫から現在も養育費を支払ってもらっている人の割合になるとさらに少なく、全体のわずか24.3%です。これらのことから、離婚時にきちんと養育費の取り決めをしている人がそもそも少ない上に、たとえきちんと取り決めをしても、多くのケースで支払いが途絶えてしまうことがいえるでしょう。

一方で同調査では、父子世帯の父親の年収が平均420万円であるのに対し、母子世帯の母親の年収は平均243万円であるというデータもあります。一緒に暮らしている子どもの人数や年齢などにもよるところもありますが、特に女性の場合は、元夫からの養育費の支払いが途絶える、あるいはないことで、厳しい経済状況に追い込まれることがあるのではないでしょうか。

データ参考:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188168.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188167.pdf

養育費を確実にもらうための離婚方法

離婚後の子どもの生活の安定を図るためにも、養育費は確保しておくべき重要な収入源です。離婚する際には養育費についてきちんと取り決めておくのはもちろんのこと、万が一支払われなくなったときのことを考慮して、少なくとも子どもが成人するまで確実に支払われるように手を打っておく必要があります。

養育費を確実に支払ってもらうようにする離婚方法は、主に2つあります。

1.公正証書を作成した上で協議離婚する

日本の離婚は、およそ9割が夫婦間の話し合いのみで離婚が成立する協議離婚です。協議離婚には、費用がかからない、相手の納得が得られればすぐに離婚が成立する、といったメリットがあります。

一方で、第三者が介入することなく離婚が成立するため、慰謝料や財産分与といったさまざまな離婚条件に関して夫婦間の口約束で済まされることも多く、協議離婚は離婚後にもっともトラブルに発展する可能性が高い離婚方法でもあるのです。

養育費の不払いも離婚後に起こり得るトラブルのひとつで、こうしたトラブルを防ぐには、離婚時には必ず離婚協議書を公正証書として作成することが重要です。

離婚協議書や公正証書とは?

離婚協議書とは、離婚の合意と、慰謝料、財産分与、親権、養育費など、離婚に際して取り決めなければならない事柄に関して、その条件を記した文書です。離婚協議書は夫婦間で結ばれた契約書であり、離婚協議書を作成すれば、お互いに記載の内容を守る義務が生じます。

とはいえ、離婚協議書はあくもでも私的な契約書ですから、相手に対して約束したことを守るように強制することはできません。離婚協議書の内容を守るかどうかはお互いの良心にゆだねられているともいえ、万が一約束が破られた場合には、離婚協議書の内容に従うよう話し合いで説得するしかないのです。それでも相手が約束を守ろうとしない場合は、調停や裁判といった、裁判所を介した手続きを進めることになります。

一方で公正証書は、公証制度にもとづいて作成される公的な文書のことをいい、私的な契約書である離婚協議書とは違って、その内容が公的に認められます。また、公正証書には法的に無効な条件や約束などを記載することができないため、法的効力を持つのが特徴です。さらに、養育費などの金銭の支払いに関しては、取り決め通りに支払いがなされなければ、調停や裁判といった裁判所を介した手続きを経ず、ただちに強制執行(財産差し押さえなど)が可能になります。

公正証書には「強制執行認諾条項」が必要

離婚協議書を公正証書としてつくるときの重要なポイントは、公正証書に必ず「強制執行認諾条項」を設けることです。強制執行認諾条項とは、「取り決めに従って金銭の支払いを行わなかった場合は、財産差し押さえなどの強制執行を実行されてもやむを得ない」といったように、相手が強制執行を承諾したことがわかる文言をいいます。

この条項がなければ、たとえ公正証書として離婚協議書を作成しても、養育費が支払われなかった場合に、すぐに強制執行の手続きに入ることができなくなります。

ちなみに、離婚協議書は公文書ではなく私署証書であるため、強制執行認諾条項を設けることができません。だからこそ、確実に養育費を支払ってもらうには、公正証書として離婚協議書をつくることが肝要なのです。

養育費に関して離婚協議書に記載すべき条項

養育費を確実に支払ってもらうためにもう1つ重要なこととして、養育費の金額だけでなく支払い方法などまでできるだけ具体的に離婚協議書に記載することが挙げられます。強制的に支払わせるとはいっても、どのように支払うかは離婚協議書の内容に従うわけですから、金額や支払方法が不明確な状態では、いくら公正証書でも強制執行を実行できないのです。

養育費の支払いに関して離婚協議書に盛り込むべき条項は、たとえば次のようなものです。

・金額

養育費は子どもの生活費としての性格もあわせ持つことから、月払いが原則です。毎月いくらを養育費として支払うかは夫婦の話し合いで自由に決めることができますが、調停や裁判では「養育費算定表」という基準を用いて金額を決めるため、算定表を参考にしてもよいでしょう。算定表は、裁判所のHPから誰でも取得可能です。

・支払方法

口座振り込みや手渡しなど、支払い方法を決定します。口座振り込みの場合は、口座番号など振り込みに必要な情報も記載しましょう。

・支払期日

「毎月○日に支払う」など、支払期日を決定します。

・支払期間

養育費支払いの開始時期と終了時期を決定します。養育費が子どもの生活費や教育費であることを考慮すると、支払期間は子どもが成人するまでが基本となります。

ただし、子どもが大学に進学する場合は、大学を卒業する22歳までなどとすることも可能です。子どもの成長や進路にあわせて、金額などを柔軟に変えていくことができるような取り決めをしておきましょう。

公正証書の作成は専門家に依頼

強制執行認諾条項付きの公正証書を作成しておくと、養育費の支払いが滞った場合は迅速に強制執行の手続きが取れます。養育費の場合は、相手の給料の1/2まで、また、支払われなかった分だけでなく、将来の分にわたって差し押さえが可能です。

このように、養育費を確実に支払ってもらうために、公正証書は非常に有効ではあります。
しかし、必要な条項が漏れていたり、記載条件が誤っていたりすると、たとえ公正証書を作成しても、強制執行の手続きに入れないことがあります。

公正証書は、夫婦で話し合い養育費などの離婚条件について取り決めた後、法務省管轄の「公証役場」に出向いて手続きを行えば作成が可能です(手続きは原則として、夫婦2人で行います)。つまり、必要な手順を踏めば誰にでも作成は可能ですが、一度公正証書として契約が有効になった後では条件の変更が難しい側面もあり、離婚協議書の段階で慎重な検討が必要です。

離婚協議書を公正証書にしたい場合は、離婚後に憂いを残さないためにも、弁護士などに依頼して、記載の内容に漏れや間違いがないか確認してもらうのがよいでしょう。

2.調停離婚をする

養育費を確実に支払ってもらうための方法としては、離婚調停を申し立てるのも有効です。調停終了後に裁判所が作成する調停調書には、強制執行認諾条項付きの公正証書と同じく、法的効力・強制執行力があります。

離婚の合意は得られているけれども、養育費についてのみ折り合いがつかない場合は、養育費に関してのみ調停を申し立てることも可能です。

履行勧告・履行命令について

協議離婚とは異なり、調停離婚や裁判離婚で調停調書、確定判決書などを得ている場合に活用できるのが、裁判所が行う履行勧告や履行命令です。いずれも支払いを促すためのものであり、履行命令に従わなかった場合は10万円以下の罰金も科せられます。

履行勧告や履行命令に支払いの強制力はありませんが、裁判所からの通達であることから、相手に与える心理的な圧力は大変大きなものになります。

養育費と面会交流の関係について

面会交流とは、子どもと一緒に暮らしていない親が子どもに会ったり、メールや電話などで交流を深めたりする権利をいいます。面会交流権は以前から実質的に認められていた権利ですが、2012年の民法改正により法律上も明文化された権利となり、現在では離婚届にも、面会交流について取り決めているかどうかのチェック項目が設けられています。このように、面会交流は法律でも認められた正当な親の権利であるため、一方の親の都合で、子どもに会わせないなどと相手に約束させることはできません。

離婚に至るにも夫婦にはさまざまな事情があり、親権者の心情としては、元配偶者に子どもを会わせたくないこともあるかもしれません。しかし、子どもと離れて暮らす親が定期的に交流の機会を持つことで、子どもに対する親としての責任感や愛情が持続し、養育費が継続して支払われやすいとされています。

離婚の際にさまざまな条件を決めるときには、面会交流についても具体的に定めて、離婚協議書に記載しておくのがよいでしょう。

子どもの養育費の支払いは数年から数十年がかりになるため、離婚時には先を見越して、万が一支払われなかったことも想定した上で養育費の取り決めを行ったほうがいいでしょう。

協議離婚で解決を図る場合も、強制執行認諾条項付の公正証書作成に相手が同意してくれないときは、弁護士などの第三者に介入してもらうことが有効なケースも多くあります。迷ったときは専門家の力も借りながら、子どもの生活が幸福であるように、また、夫婦がお互いに憂いなく新しい人生を歩めるように、話し合いを重ねていきましょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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