離婚後、元配偶者が再婚すると、養育費を減額できるケースがあります。
ただし、減額できるのは再婚相手と子どもが「養子縁組」した場合であり、単に相手が再婚しただけでは基本的に減額することはできません。
また、養育費の支払い側が再婚した場合にも、養育費を減額できる可能性があります。
今回は、再婚に伴う養育費の減額について、弁護士がくわしく解説します。
目次
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再婚時の養育費の支払義務
元配偶者が再婚しても、前夫・前妻との間の子どもの養育費を支払う義務はあります。
これは、民法第877条1項において、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定されていることによります。
そして、子ども(未成熟子)に対する親の扶養義務とは、自身と同程度の生活を保持させる生活保持義務だと解されています。
離婚によって、子どもの親権者とならなかったとしても、我が子であることには変わりません。
したがって、元配偶者が再婚したとしても、子どもの養育費を引き続き支払わなければならないのです。
養子縁組の有無
もっとも、元配偶者の再婚相手が子どもと養子縁組をした場合、再婚相手は子どもの親権者となり、元配偶者と一緒に第一次的な扶養義務者となります。
そのため、再婚相手の収入によっては養育者を支払っていた義務者が養育費を支払う必要がなくなるケースや、減額になるケースがあります。
なお、やむを得ない事情から養親となった再婚相手が働くことができないなど、事情によっては減額が認められないケースもありますので、注意が必要です。
再婚相手が子どもと養子縁組をしない場合、再婚相手に扶養義務はありません。
そのため、原則的には、義務者は継続して養育費を支払う必要があり、減額の請求も認められません。
しかし、事実上子どもが元配偶者の再婚相手による扶養を受けている場合などに、養育費が減額となることもあり得ます。
養子縁組の確認方法
相手が再婚したり子供と養子縁組したりしていることを確認するため、まずは相手へ直接聞いてみましょう。
答えてもらえたら、特に難しい手続きは不要で簡単に事実が判明するでしょう。
相手が答えない場合や嘘をついている可能性がある場合、戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)を取得してください。
離婚後も子どもが自分の戸籍に入っている状態であれば、自分の戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)を取得します。
子どもが戸籍から抜けて「再婚相手の養子」として転出していたら、相手と養子縁組したということです。
一方、子どもの戸籍がそのまま残っていたら養子縁組はしていません。
離婚後に子どもが元配偶者の戸籍に入ったら、相手の戸籍謄本は取得できません。
弁護士に相談して、養育費減額事件の依頼を前提に取得してもらうとよいでしょう。
義務者が再婚した場合どうなる?
養育費の支払義務者が再婚した場合、再婚相手の状況によって養育費の減額が認められるケースがあります。
まず、再婚相手に子どもがおらず、かつ専業主婦(夫)など収入がない場合です。
再婚をした場合、義務者には再婚相手に対して扶養義務が生まれます。
注意点として、再婚相手が専業主婦で無職だったとしても、やむを得ず働くことができない場合を除き、潜在的稼働能力があるとして、仮に働いたとしたら稼げるおおよその金額を考慮したうえで、養育費の減額を決めることになります。
次に、義務者の再婚相手に子どもがいて、その子どもと養子縁組をした場合、もしくは再婚相手との間に子どもが生まれた場合には、義務者が扶養する対象が増えるため、養育費の減額が認められるケースが多いでしょう。
最後に、義務者の再婚相手に子どもがいるものの、養子縁組をしないケースです。
この場合、当然には再婚相手の子どもに対し扶養義務は生まれず、実親がその子どもに対して扶養義務を負うことから、原則として連れ子の存在は養育費の算出において考慮されず、養育費は減額となりません。
民事執行法の改正の影響
民事執行法が改正されたことにより、養育費を支払わなかったときの「取り立て」が容易になっています。
裁判所で財産開示手続が行われる際、正当な理由なく出頭しなかったり虚偽を述べたりすると罰則が適用されるようになりました。
また、「第三者からの情報取得手続き」を利用すると、勤務先や金融機関口座などの情報を入手できる可能性があります。
これにより、差し押さえが簡単になります。
さらに、近年では家庭裁判所で養育費の金額が見直され、従前より全体的に金額が引き上げられました。
なお、民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられましたが、養育費は変わらず20歳までの支払いとすべきとする考え方も優勢であるため、以後も基本的に20歳まで支払うのが妥当とされるでしょう。
養育費減額が可能となるケース
次のケースでは、養育費減額調停や審判へと移行した場合、養育費の減額が認められる可能性が高いでしょう。
相手が再婚して子どもが再婚相手の養子となった場合
子どもの親権者である元配偶者が再婚をして、子どもが再婚相手の養子となった場合には、養育費の減額が認められる可能性が高いでしょう。
この場合には、養親となった再婚相手が子どもの第一次的な扶養義務者となるためです。
自分が再婚して扶養親族が増えた場合
養育費を支払っている側が再婚をして扶養親族が増えた場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。
なぜなら、養育費は、収入という1つのパイを、本人と扶養親族で分け合うイメージであるためです。
そのため、分ける人数である扶養親族が増えれば、1人あたりの取り分は少なくなります。
なお、再婚して扶養親族が増えたとは、次の場合などです。
- 再婚相手に収入がないか、再婚相手の収入が非常に少ない場合
- 再婚相手の連れ子を養子とした場合
- 再婚相手との間に子どもが生まれた場合
相手の収入が大きく増えた場合
再婚をしたかどうかに関わらず、養育費の取り決め後に子どもの親権者である元配偶者の収入が大きく増えた場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。
たとえば、元配偶者が転職をしたり独立したりして、収入が大きく増えた場合などです。
自分の収入が大きく減った場合
再婚をしたかどうかにかかわらず、養育費を支払っている側の収入が大きく減った場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。
ただし、次で解説するように、収入が減った理由によっては養育費の減額ができない場合もあります。
養育費が減額されないケース
次の場合には、養育費減額調停や審判を申し立てても、減額が認められない可能性が高いでしょう。
なお、養育費の取り決めは、養育費の支払い義務者と権利者である当事者同士が合意すれば、どのように変更しても構いません。
そのため、ここで紹介するケースであったとしても、当事者同士が減額に合意をするのであれば、減額することは可能です。
相手が再婚したが子どもが再婚相手の養子となっていない場合
子どもの親権者である元配偶者が再婚したとしても、子どもが再婚相手の養子となっていない場合には、養育費の減額は困難でしょう。
この場合には、第一次的な扶養義務者が自動的に再婚相手に移るわけではないためです。
自分が再婚したが共働きで子どももいない場合
養育費の支払い義務者が再婚をしたものの、扶養親族が増えなかなった場合には、養育費を減額することはできません。
扶養親族が増えなかった場合とは、再婚相手と共働きであり、かつ子どももいない場合などです。
収入は減ったが自己都合である場合
養育費の支払い義務者の収入が減ったものの、収入の減少が自己都合である場合には、養育費の減額は認められない可能性が高いでしょう。
自己都合による収入減とは、たとえば勤務していた企業を自己都合で退職した場合などです。
また、支払い義務者が会社経営者で自分の給与を自分で決めている場合などにおいて、養育費を引き下げる目的などで自分への給与支給額を大きく減らした場合などにも、養育費の減額は困難でしょう。
養育費の減額を考える前に知っておきたい3つのポイント
養育費の減額を考える際は、まず養育費相場の算出、権利者(養育費を請求する権利のある親)が再婚した場合、義務者(養育費を支払う親)が再婚した場合をポイントとして確認しましょう。
養育費相場上の金額の算出
養育費の金額は、家庭裁判所の定める養育費算定表を使って決めることが一般的です。
一般的な養育費の算定表は裁判所のサイトで公開されており、算定表を基にした養育費計算ツールもあります。
しかし、家庭裁判所の定める養育費算定表は、離婚時において一方の親が子どもを全員扶養しているケースを前提としています。
そのため、再婚した場合において、再婚相手やその子どもを扶養しているという状態は想定されていません。
したがって、再婚した場合の相場上の養育費の算出にあたっては、算定表の基礎になっている「標準算定方式」に立ち戻って計算することが一般的です。
一人で悩まずに、まずは法律の専門知識を持つ弁護士に相談することをおすすめします。
権利者が再婚した場合における注意点
権利者が再婚した場合は、減額した養育費が決め直されることがあります。
権利者の収入は増加せずとも、再婚によって世帯としての収入が増えるためです。
しかし、子どもが再婚相手と養子縁組をしない場合は、原則として養育費に影響はありません。
子どもが再婚相手と養子縁組をした場合は、子どもと養親との間でも親子関係が生じ、養親の扶養義務が優先します。
養親に経済力がある場合は、実父の養育費の負担がなくなる可能性もあります。
義務者が再婚した場合における注意点
義務者が再婚し、再婚相手の子どもと養子縁組をした場合、もしくは再婚相手との間に子どもが生まれた場合は、扶養する対象が増えます。
そのため、減額した養育費が決め直されることがあります。
再婚後に養育費はいつまで支払う?
養育費を受け取るべき権利者が再婚しても、養育費の支払期間は変わりません。
再婚相手と子どもが養子縁組しない限りは、取り決めたとおりに支払い続ける必要があります。
たとえば、「大学卒業時まで」と定めていたら、相手が再婚しても子どもが大学を卒業するまで支払続けなければ、義務違反となってしまいます。
養育費の支払義務者が再婚した場合にも、支払い終期について決め直さなければ、支払期間の変更はありません。
養育費の期間を短くしてもらいたい場合、減額交渉をする際に、併せて期間の変更についても話し合って取り決めましょう。
再婚が理由の減額申し立て事例
再婚を理由とした養育費減額の申立て事例には、次のものなどが存在します。
妻の再婚による養育費支払義務の免除
夫であるAさんは離婚の際、妻との間で養育費として月額5万円を払う約束をしました。
ところがその後、子どもとの面会交流の際に子どもから「お母さんが結婚して新しいお父さんができた」と聞きました。
そこで元妻へ状況を確認したところ、実際に再婚した事実が発覚しました。
Aさんは「それなら養育費を払う必要はないのでは?」と考えて弁護士へ相談。
再婚相手と子どもが養子縁組していれば支払義務がなくなると聞き、元妻へ状況を確認したところ、養子縁組している事実が確認されました。
そこで合意により、養育費支払義務を免除してもらい、以降は支払いをしていません。
自身の再婚による養育費減額の請求
夫であるBさんは離婚の際に子ども2人の親権者を妻とし、月額の養育費は10万円と取り決めました。
その後、知り合った女性と再婚し、子どもが生まれました。
そこで、養育費を減額できるのか、弁護士へ相談しました
「再婚して子どもができたら、おそらくは養育費を減額できる」との回答を得たため、収入等を当てはめて計算したところ、養育費は月額6万円が相当であることが明らかになりました。
元妻と話し合い、養育費を月額6万円に減額できた事例です。
養育費を減額する手続きの進め方
では、養育費を減額する際の一般的な手続きの進め方について解説しましょう。
STEP1:養育費の計算をする
まずは、どこまで養育費を減額できるのか計算しましょう。
元配偶者が養子縁組した場合には基本的に0円と考えてよいでしょう。
こちらが再婚したり子どもが誕生したりした場合には、複雑な計算が必要です。
弁護士に相談して算定してもらうことをおすすめします。
STEP2:相手に連絡して話し合う
養育費の金額を計算できたら、相手へ伝えて話し合いをしましょう。
相手が納得したら養育費を減額できます。
ただし、この時点で勝手に養育費を減額してはなりません。
減額の始期についても定める必要があります。
STEP3:養育費についての合意書を作成して減額する
合意ができたら、減額した養育費についての「合意書」を作成しましょう。
合意が整ったら、その時点(取り決めた減額の始期)から減額した養育費の支払いを開始します。
再婚を理由に勝手に養育費の支払いを打ち切られた場合
養育費の支払いを受けている場合、再婚するといきなり相手から養育費の支払いを打ち切られるケースが少なくありません。
しかし、再婚しただけで相手の養育費支払義務がなくなるわけではありません。
養子縁組していないなら、これまでとおり養育費を支払うよう通知しましょう。
それでも払わない場合、公正証書や調停調書があれば相手の給料や預貯金等を差し押さえられます。
こういった書類がない場合には、改めて養育費調停を申し立てて支払いを求めましょう。
調停や審判で養育費の金額が決まったにもかかわらず相手が支払わなければ、差し押さえが可能です。
自分が再婚したことを報告していなかった場合
離婚をした元配偶者に、再婚したことを伝えることに抵抗を感じる場合もあるでしょう。
では、養育費が発生している期間中において再婚したにもかかわらず、相手に伝えなかったり隠したりしていた場合には、どのようなリスクが生じるのでしょうか?
生じる可能性のある主なリスクは、次のとおりです。
権利者が再婚を報告しなかった場合のリスク
養育費を受け取る権利者が再婚を報告しなかった場合、相手が子どもとの面会交流の際などに情報を入手し、いきなり養育費を払わなくなる可能性があります。
その後、「養子縁組していないから養育費を払ってほしい」などと伝えても、不信感を持たれてスムーズに支払いを再開してもらえないリスクが高くなるでしょう。
面会交流も滞りがちになって子どもが悲しい思いをするケースもあるため、くれぐれも再婚についてはきちんと伝えるべきです。
義務者が再婚を報告しなかった場合のリスク
義務者が再婚を報告しなかったら、養育費を減額してもらえません。
本来なら減額してもらえるはずなのに、延々と高額な養育費を払い続けるリスクが発生します。
特に、再婚相手との間に子どもができたら、養育費の減額幅が大きくなります。
適正な金額まで下げてもらうため、再婚したら早めに相手へ伝えて養育費を減額してもらいましょう。
減額の話し合いがどうしてもまとまらない場合
自分たちで養育費の減額について話し合っても、どうしてもまとまらない場合、家庭裁判所で「養育費減額調停」を申し立てなければなりません。
調停では、家庭裁判所が「適正な養育費の金額」を計算して双方に提示してくれます。
両者が納得すれば調停が成立しますし、納得しなかったら「審判」になって適正な養育費の金額が決まります。
ただし、減額調停には手間も時間もかかりますし、有利に進めるには専門知識を要求されます。
わからない状態で対応していると、減額が認められないリスクも高くなります。
一人では不安がある場合、弁護士へご相談ください。
まとめ
養育費の権利者や義務者が再婚しても、必ずしも養育費を減額してもらえるとは限りません。
減額してもらえるとしても、話し合いもせずにいきなり支払いを止めたり減額したりするとトラブルのもととなってしまいます。
養育費を減額するには、適正な金額を算定したうえできちんと話し合いをしましょう。
ただし、養育費の適正な計算方法は難しく、相手との交渉でトラブルになるケースもよくあります。
交渉を弁護士に任せるとスムーズに減額を進めやすいので、迷ったときには弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所には、養育費の減額や離婚問題にくわしい弁護士が多数在籍しており、これまでも数多くの案件をサポートしてきました。
再婚に伴う養育費の減額でお悩みの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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