一般的に「不倫」をしたら離婚原因になりますし慰謝料も発生します。
しかし不倫した時点ですでに夫婦関係が破綻していたら、慰謝料が発生しない可能性があります。
たとえば長年別居状態が続き夫婦関係の実態がなくなっている場合や離婚調停中で双方が離婚することについて合意しているときに不倫が行われたケースです。
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1.不倫したら離婚原因となり、慰謝料が発生する
不倫を、法律的には「不貞」と言います。不貞とは、配偶者のある人が配偶者以外の異性と自由意思に基づき男女関係になることです。男女関係(肉体関係)がない限り、基本的には「不貞」になりません。
不貞は夫婦関係を破綻させる行為ですから、離婚原因になります。
民法も、不貞を裁判上の離婚原因の1つと定めています(民法770条1項1号)。
また不貞は相手を裏切る違法行為なので、不倫した配偶者は相手配偶者に慰謝料を支払わねばなりません。このとき不倫相手も連帯して慰謝料支払い義務を負います。
以上が法律上の「不貞(不倫)」に対する取扱いの基本です。
2.既に夫婦関係が破綻していたら慰謝料は発生しない
ところが不倫関係になっても慰謝料が発生しないケースがあります。それは「夫婦関係が既に破綻している場合」です。
不倫によって慰謝料が発生するのは、配偶者に対する裏切りにより夫婦関係が破綻するからです。既に夫婦関係が破綻しているなら、不倫しても裏切りになりませんし、「不倫によって夫婦関係が破綻した」ことになりません。
そこで不倫に慰謝料が発生するほどの強い違法性が認められないと考えられます。
不倫しても慰謝料が発生しない典型的な例は、夫婦が別居しているパターンです。長年別居していてもはや夫婦としての実態が失われていたら、その後に配偶者以外の異性と関係をもっても「不貞」になりません。そこで別居中の妻(夫)から慰謝料請求されることはありません。
3.実際には「夫婦関係の破綻」が争われるケースが多い
このように夫婦関係が既に破綻している場合には不倫していても慰謝料が発生しない可能性がありますが、現実にこういった主張が行われると「夫婦関係が破綻していたかどうか」が争いになるケースが非常に多くなっています。
夫婦関係が破綻していたかどうかは一見してわかるものではなく、夫婦の実情は夫婦にしかわからない部分も大きいからです。
以下では具体的にどういったケースで破綻が認められ、どういったケースで認められないのかみていきましょう。
4.夫婦関係が破綻しているといえるケース
夫婦関係が破綻しているといえるケースは、以下の通りです。
4-1.別居して長期間が経過している
夫婦関係が悪化して別居し、婚姻費用のやり取り以外ほとんどコミュニケーションがなく長期間が経過していたら、夫婦関係が破綻していると認定されやすいです。何年以上別居したら破綻状態になるかという基準はありませんが、通常は5年も別居期間が続いていれば充分でしょう。
ただし別居中もしょっちゅう会っていて関係が壊れていないケース、夫婦があえて「別居婚」を選択している場合、単身赴任のケースなどは、長期の別居状態でも夫婦関係が破綻しているとは認定されません。
4-2.離婚調停・訴訟中である
夫婦が双方とも離婚に向けて具体的な行動を進めている場合には、夫婦関係が破綻していると考えられます。たとえば現実に家庭裁判所で離婚調停や離婚訴訟を行っており、近いうちに離婚が成立する見込みがあるケースなどでは、別の女性(男性)と男女関係になっても慰謝料が発生しない可能性が高くなります。
5.夫婦関係が破綻しているといえないケース
一方、以下のようなケースでは夫婦関係が破綻してないと認定される可能性が高くなります。
5-1.別居して間もない
夫婦が別居したとしても、別居後ほとんど期間が経過していなければ破綻とみなされない可能性が高くなります。たとえば別居して1年程度でまだ離婚協議も始めていない状態であれば夫婦関係が継続していると評価され、別の異性と関係を持つと慰謝料が発生するでしょう。
5-2.冷却期間をおくために別居した
夫婦の別居理由も慰謝料発生に影響を与えます。夫婦仲が悪化して別居したとしても、「冷却期間をおくため」などの理由であればまだ夫婦関係が破綻したとは言えません。お互いにやり直す意思を残していると考えられるからです。
冷却期間をおくために別居したのに、配偶者のいないからといって別の異性と関係をもったら「不貞」と評価されて慰謝料が発生します。
5-3.里帰り出産や単身赴任などの合理的な理由で別居した
里帰り出産や単身赴任など、別居に合理的な理由がある場合には、夫婦関係が破綻したとはみなされません。
どちらのケースもお互いに離婚を了承した状態ではありませんし、いずれ夫婦として同居を再開することが予定されているためです。
里帰り出産中や単身赴任中に別の異性と関係をもったら慰謝料を請求されても文句を言えません。
5-4.別居したが、離婚の話はしていない
夫婦関係が悪化して別居しても、一度も離婚の話をしていなければ夫婦関係が破綻したとは認定されない可能性があります。
たとえば夫婦の別居状態が続き、お互いにまったく連絡しなくなっていたので夫が「妻との関係は終わった」と思って不倫したとします。その場合、妻は「離婚までは考えていなかった」「今回の夫の不倫のせいで夫婦関係が破綻してしまった」などと主張して夫や不倫相手に慰謝料請求することも考えられます。
5-5.一方的な別居で、他方は離婚に同意していない
別居が一方的で、相手が離婚に同意していない場合にも注意が必要です。相手が離婚を拒絶していたら、たとえ離婚調停中でも夫婦関係が破綻したとみなされない可能性があります。
たとえば妻が夫と性格が合わないので離婚したいと思い、家を出て離婚調停を申し立てたとしましょう。夫としては「離婚はしない。家に戻ってきてほしい」と希望しています。
この状態では調停が不成立になり離婚できない可能性が高くなります。
妻が「離婚調停中だからかまわない」と考えて別の男性と不倫関係になったら、慰謝料が発生する可能性が高いと言えます。
6.家庭内別居の場合は証明資料がないと破綻を主張できない可能性が高い
別居や離婚調停中などの外形があると「夫婦関係破綻」がわかりやすくなりますが、家庭内別居の場合にも夫婦関係が破綻したと言えるのでしょうか?
家庭内別居でも夫婦の双方が離婚に合意しており、家庭内別居期間が長期にわたっていて離婚届も用意しているような状態であれば、夫婦関係が破綻しているとみなされる可能性はあります。
ただ夫婦が同居していて離婚調停も行われていない状態であれば、「夫婦関係が破綻している」証拠がありません。不倫がバレて配偶者から「夫婦関係は破綻していないから慰謝料を払ってほしい」と言われたとき、「破綻している」事実を証明できないでしょう。
そうなると、実際には婚姻関係が破綻していても慰謝料を支払わねばならない可能性があります。
夫婦関係破綻を確実に証明できる資料がない限り、不倫関係には高いリスクを伴います。
まとめ
以上のように、「別居後長年が経過していて明らかに夫婦関係が破綻している」事案では、不倫しても慰謝料を払わなくて良い可能性があります。ただ、別居期間や別居理由、相手の離婚についての希望などの要素によって「夫婦関係が破綻していない」と認定されるリスクがあります。
また、たとえ別居中であっても、婚姻中に別の異性と関係を持ったら世間的には「不倫」とみなされ厳しい評価をされるでしょう。
基本的には婚姻関係が継続している期間に不倫をするのではなく、先にきちんと離婚を成立させてから別の方と交際することをお勧めします。
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