コラム
公開 2019.09.05 更新 2021.10.04

婚約破棄でも慰謝料は請求できる?

離婚をするにあたって、慰謝料が問題になることをご存知の方は多いでしょう。一度は将来を共にすると誓い、婚姻届を提出した二人です。法律的に夫婦となれば様々な義務も伴うため、離婚によって、慰謝料が問題になることは何となく理解できます。
それでは、結婚を誓い合ったもののまだ婚姻に至らない場合、つまり婚約中の場合はどうでしょうか。特に問題となるのが婚約破棄です。結婚の約束が果たされない場合に、果たして慰謝料請求は可能なのでしょうか。
そこで、今回は、婚約破棄における慰謝料請求が認められるかについて、具体的な事例を紹介しながら解説します。

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婚約破棄に「正当な理由」があれば慰謝料は認められない

婚約破棄における慰謝料請求は認められるのでしょうか。
まずは、前提となる婚約の意味、慰謝料請求の具体的根拠などをご説明します。

・婚約の意味

婚約とは、当事者双方が結婚することを約束する行為です。付き合ってどれくらいの期間が経過したかは関係ありません。当事者が真剣な気持ちで結婚の約束をしていれば、婚約が成立します。なお、口約束だけで、書面を交わしていなくても問題はありません。結納や親族への挨拶など、儀礼的な行為がなくても、当事者の意思で婚約は成立します。

ただ、実務においては、「婚約指輪を贈る行為」や「結納」、「親族への挨拶」「友人への紹介」など、婚約の成立が外形上からも知りえる場合の方が、認められやすいといえるようです。

・婚約破棄における慰謝料請求が認められる根拠

次に、婚約が成立すれば、互いに結婚に向けての準備を始めることになるでしょう。婚約は「将来結婚すること」という内容の契約を、相手と結んだことになるからです。そのため、何らかの理由で婚約破棄となり、結婚の約束が果たせなかった場合は、自分の債務を履行できなかったとして、債務不履行(415条)による損害賠償請求が問題となります。債務不履行による損害賠償が認められるためには、結婚の約束が果たせないことについて、相手に責められるべき事情があることが前提です。

また、婚約破棄の理由によっては、不法行為による損害賠償請求(709条)が問題となります。この場合は、相手の不法な行為によって、身体的、精神的に傷ついたことが必要となります。これらの損害に対して、お金によって償うことになります。

・婚約を破棄する「正当な理由」の有無がポイント

ただ、婚約破棄をした全てのケースで、損害賠償金(慰謝料)を支払う必要があるわけではありません。「婚約を破棄する正当な理由」があれば、慰謝料を支払わずに、婚約を破棄することができるのです。
それではどのような事情が「婚約を破棄する正当な理由」といえるのでしょうか。
具体的には、以下のような事情が挙げられます(一部です)。

  • ・婚約者以外の異性と性的関係がある
  • ・暴力や虐待がある
  • ・性的不能や重大な病気(回復不能)である
  • ・重要な事実に関する嘘があるなど

正当な理由とは、社会通念上、信義に反するような事情です。誰しもがこのような事情があれば結婚をしないと思えるような事情を指します。

なお、婚約を破棄するにあたって、正当な理由が存在するかどうかは、それぞれが持つ個別事情を吟味し、裁判官の判断によって決定されます。個別事情は人によって異なるため、一概に基準を決めることはできません。具体的には、知り合ってから付き合って婚約に至るまでの経緯、婚約の破棄の理由となる事情など、個別事情を総合的に考慮して判断します。また、冒頭で説明した婚約の状況も判断の要素の一つです。婚約の状況が周知の事実かどうかは、損害の算定に大きな影響を及ぼします。

婚約破棄の正当な理由の具体例

それでは、どのようなケースが正当な理由として認められるのでしょうか。その場合の慰謝料請求はどうなるのでしょうか。ここでは、具体的な事例を挙げてご説明します。

本当にこのまま結婚していいのか「マリッジブルー」から婚約破棄をしたAさんの場合

お見合いをしたAさんは、知り合って3ヵ月後に婚約をしました。結婚式もあと1ヵ月と迫る中、これといった理由はなく、ただこのまま結婚していいのか不安になりました。家族や友人からは、単なるマリッジブルーだと説得されましたが、どうしても結婚に踏ん切りがつかず、婚約を破棄しました。このようなケースでは慰謝料はどうなるのでしょうか。

Aさんのようなケースでは、婚約を破棄する理由がこれといった特別のものではありません。知り合って3ヵ月で婚約というスピード婚の場合、相手のことを十分に知り得なかった事情が考慮されますが、それでも、具体的な破棄に至る理由がなく、正当な理由とは認められないでしょう。
そのため、Aさんの一方的な婚約破棄により、相手の婚約者が被った損害を賠償する必要があります。よって、元婚約者からAさんに対する慰謝料請求は認められるでしょう。

婚約者が他の女性と性的関係にあると知って婚約破棄をしたBさんの場合

Bさんは大学時代から5年間付き合っている彼とようやく婚約し、半年後に式を挙げる予定でした。しかし、1ヵ月前に、謎の女性から電話があり、婚約者が1年間も他の女性と付き合っていた事実を知ったのです。相手は妊娠をしており、結婚をしないでほしいと泣いて頼まれました。
Bさんは、この事実を理由に婚約を破棄しました。さて、Bさんのようなケースでは、慰謝料はどうなるのでしょうか。

まず、Bさんのケースでは、元婚約者が他の女性と性的関係を持っており、その相手が妊娠しているという事実があります。社会通念上、このような事情があれば、このまま結婚をすることができないとして、婚約を破棄する正当な理由があると認められるでしょう。
つまり、婚約を破棄したBさんには破棄するだけの理由があるとされ、慰謝料を支払う必要はありません。

一方で、婚約破棄に至る理由を作ったのはBさんの婚約者です。Bさんから婚約破棄をしたものの、そうならざるを得ない理由を作った元婚約者に、Bさんが慰謝料請求をすることはできないのでしょうか。
結論からいえば、Bさんから元婚約者への慰謝料請求は認められるでしょう。元婚約者の行為により、結婚をする約束が履行できなかったため、責められるべき事情があるのは元婚約者だからです。そのため、Bさんは婚約を破棄するにあたり、理由となる事実を行った元婚約者に慰謝料の請求が認められる可能性が高いといえます。

慰謝料請求では「婚約破棄をどちらが言い出したか」は問題とならない

婚約破棄における慰謝料請求のポイントは、「誰が言い出したか」ではなく、「正当な理由があるか」どうかで判断されるということです。
じつは、多くの人が、婚約破棄を言い出した側が当然に慰謝料を支払うものという誤解を抱いています。実際は、婚約破棄を言い出した側に「婚約を破棄する正当な理由」が存在している場合は、慰謝料を支払う必要はありません。逆に、相手側にそのような婚約を破棄されても仕方ない事情があれば、先に婚約破棄を言い出したとしても、相手に慰謝料を請求することが可能です。

つまり、婚約破棄をどちらが言い出したかではなく、「どちら側の事情で婚約が破棄されるに至ったか」という視点で、慰謝料が請求できるかを判断するのです。ですから、婚約破棄を言い出した側であっても、場合によっては慰謝料請求が認められるといえます。

まとめ

結婚の約束をしたにもかかわらず、婚約破棄となるケースは、精神的に傷つくことはもちろん、実際の財産的損害も見逃せません。結婚式や披露宴、新婚旅行のキャンセル費用や、新居の費用、そして結婚を機に退職をする場合では仕事を失うことになります。その被害はあまりにも大きいといえます。
また、一度婚約をしたという事実は消えないため、婚約者以外の人と、結婚する機会が減る可能性もあるでしょう。このように、婚約破棄により、精神的損害、財産的損害が考えられます。そのため、一人で抱え込まずに、早期に弁護士などの専門家へ相談することをお勧めします。

慰謝料請求の可否、実際に慰謝料を請求する際には、どの範囲までの損害がカバーできるかなど、具体的なアドバイスが期待でき、精神的にも支えてもらうことができるので、検討してみてはいかがでしょうか。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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