コラム
公開 2019.08.15 更新 2021.10.04

離婚における財産分与で贈与税はかかる?

離婚における財産分与では、どうしても財産総額に目がいきがちです。しかし、思わぬ落とし穴が「税金」です。
例えば、初めて働いた給与をみて、愕然となったことはありませんか?給与明細の総額と、実際に振り込まれる金額には、かなりの差額があります。見積もっていた金額よりも低く、予定していた支出を変更せざるを得ない場合も…。
離婚の財産分与でも同じ状況が想定されます。もし、財産分与としてもらった財産に課税されれば、見積もりの金額よりも実際にもらえる金額は低くなるでしょう。一方で、財産分与として財産を渡した側に課税されれば、予想外の出費となるかもしれません。
そこで今回は、離婚の際の財産分与において、税金がかかるのか、もらう側、渡す側に分けて、ご説明します。

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財産分与とは、離婚時に夫婦共有の財産を分けること

離婚は、夫婦関係を清算します。それと同じく、夫婦共有の財産も分割して清算するのが、財産分与です。
民法でも「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」(民法768条)として、明文で認めています。
ここで、夫婦共有の財産に含まれるのは、「婚姻中に夫婦が協力して得た財産、維持した財産」を意味します。形式的な名義などは関係なく、実質的に夫婦共有の財産かどうか、判断されます。

・財産分与の割合は、一般的に1/2

財産をどのように分けるか、その分割の割合は当事者の話し合いで決めることができます。話し合いがまとまらない場合は、調停、裁判という流れで決することになります。
なお、分割の割合は、財産を得るにあたっての貢献度に比例して決定しますが、一般的には公平の見地から1/2の割合での分割が多いようです。これは、専業主婦(夫)の場合も変わりません。

財差分与で財産をもらう側は贈与税を支払わなくてよい?

それでは、実際に財産分与にかかる税金をみていきましょう。まずは、財産分与で財産をもらう側についてです。無償で財産を渡されると考えれば、贈与税などが課税されるのでしょうか。

・贈与税とは?

民法549条には、「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」との規定があります。
贈与税は、贈与に対して、厳密にいえば「贈与で財産をもらう人」に対して課税されます。無償で財産をもらう場合に、もらう財産に見合った一定の金額の贈与税を支払わなければなりません。

ただ、贈与税には基礎控除額(110万円)が設定されており、1年間(1月1日~12月31日)にもらった財産の合計額が110万円を超えた場合、超過部分にのみ贈与税がかかります。一方で、110万円以下なら課税されず、贈与税の申告も不要となります。

・財産分与で財産をもらう場合、原則、贈与税は不要

それでは、財産分与は民法549条の贈与にあたるのでしょうか。
そもそも、財産分与とは、夫婦共有の財産を分けることです。共有である財産、つまり、もともと自分の財産ともいえるわけです。そのため、離婚による財産分与で財産が渡される場合は、原則、贈与税はかからないことになっています。

・例外的に贈与とみなされれば、贈与税が課税される

ただ、例外もあります。夫婦共有の財産を単純に分割するとは判断できない場合には、贈与とみなされ、贈与税が課税されます。

例えば、Aさん夫婦には莫大な資産があります。貯金や株券、不動産などの多くの財産です。離婚原因は「価値観の違い」です。どちらかに非があるわけではありません。離婚に至るまでのプロセスも揉めることはなく、生活に対しての価値観の違いで自然と別れることを選択しました。離婚後も友人として付き合っていくつもりで、夫は離婚後、離島に移り住み、自由な生活を希望しています。
また、年齢も互いに60歳を超えて、子どももいないため、夫は、莫大な資産のほぼすべてをAさんに財産分与として渡すことを決めました。このような場合、財産分与に贈与税はかかるのでしょうか。

さて、財産分与における財産の分割であれば、原則、贈与税はかかりません。しかし、財産分与の際、夫婦の協力の貢献度合いや、慰謝料的な側面などの事情を考慮しても、なお財産分与の割合が多すぎる場合は、超過部分については贈与とみなされ、超過部分のみ贈与税がかかるとされています。
Aさんのケースであれば、離婚において慰謝料請求が問題となる事情はありません。そのため、本来であれば1/2の割合で財産が渡されるのが一般的です。しかしながら、Aさんのケースでは、ほぼ全財産が分与されています。このような事情では、財産分与の範囲を超えていると認められ、贈与と判断されるでしょう。
よって、夫から分割された財産のうち超過部分のみに、贈与税が課されることになります。

・渡された財産が不動産の場合、特別な税金はかかる?

次に、渡された財産が不動産であれば、特別な税金はかからないのでしょうか。

まず、考えられるのが不動産取得税です。不動産取得税とは、通常、土地や家屋を購入して取得する際に都道府県から課される地方税です。相続による取得を除いて、有償・無償に関係なく、取得すれば下記の税率を課されます。

  • ・居住用の場合
    固定資産課税台帳に登録の不動産価格から3%の金額
  • ・その他の目的で使用する場合
    固定資産課税台帳に登録の不動産価格から4%の金額

不動産取得税の内容から考えれば、財産分与で不動産を得た場合は、原則、不動産取得税はかからないといえます。というのも、共有財産を分割するため、もともとは自分の持ち分であり、新たに取得したとはいえないからです。
ただ、例外的に、慰謝料的・扶養的な要素で財産分与が行われる場合は取得にあたり、不動産取得税が課税されます。

なお、不動産取得税以外にも、不動産の取得に対しては、登録免許税や固定資産税などが課税されるので、注意が必要です。

財産分与で、財産を渡す側に課される税金ってある?

それでは、財産分与として、財産を渡す側には税金は課されるのでしょうか。考えられるのが譲渡所得税です。

・譲渡所得税とは?

譲渡所得税とは、財産を譲り渡すことで生じる所得に対して課税されます。例えば、土地や建物の不動産、株式、ゴルフ会員権などの財産を譲り、支払われた代金によって生じた利益に、課税されるわけです。土地や建物の譲渡による所得は、財産を所有する期間によって税率が変わります。

  • ・長期譲渡所得(所有期間が5年以下の財産の場合)
    15%+住民税5%
  • ・短期譲渡所得(所有期間が5年を超える財産の場合)
    30%+住民税9%

※別途、復興所得税2.1%課税あり

財産分与で財産を渡す場合に、譲渡所得税はかかるのでしょうか。離婚における財産分与は、財産を渡すだけで、相手から利益を得るわけではありません。しかし、所得税法上は、財産を所有していることによって蓄積された利益も所得とされ、この財産が所有から外れる際に、譲渡所得税を徴収して精算する仕組みとなっています。そのため、「財産分与時の土地や建物などの時価」が購入時よりも高い場合は、譲渡所得があるとして、課税されるのです。

なお、一方で、譲渡所得がない場合は税金を支払う必要がありません。購入時よりも価値が減っている場合は、課税されないので注意が必要です。

まとめ

離婚における財産分与では、場合によっては贈与税などを支払わなければならない場合もあります。そのため、配偶者控除の特例などを賢く利用して、財産分与を行う方法もあります。
例えば、姻期間が20年以上の夫婦間で、居住している不動産、又はそれを取得するための金銭の贈与に対しては、基礎控除110万円と最高2000万円まで配偶者控除ができる特例などです。ただ、特例の要件として離婚前に行う必要があるため注意が必要です。
弁護士などの法律の専門家に相談すれば、このような具体的なアドバイスが期待できます。一度相談してみてはいかがでしょうか。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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