コラム
公開 2019.05.21 更新 2021.10.04

DVで離婚する場合、慰謝料の相場はどれくらい?

DVを離婚事由として、妻から家庭裁判所へ申し立てられる件数は、常に上位です。
妻側からの件数ほど多くないものの、夫からの申し立てもあります。
DVはその回数や状況にもよりますが、DVとして認定されれば離婚が認められる可能性が高いです。今回は、DVが理由で配偶者と離婚する場合、慰謝料の相場はどれくらいかについて解説します。

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混同しがちな慰謝料と財産分与、養育費

・慰謝料とは

慰謝料とは、配偶者が行なったDV、不貞行為、モラハラといった不法行為によって被った精神的損害に対する賠償です。

離婚の慰謝料は大きく2つに分けられます。
1つは「離婚原因慰謝料」という、DVなどの行為によって生じる苦痛に対する慰謝料で、もう1つは「離婚慰謝料」という離婚をする結果となったことへの慰謝料です。

ただし、話し合いで決める場合と裁判の場合で通常はこの2つを区別せず、離婚の慰謝料として一括して処理されます。

・財産分与とは

よくメディアで芸能人の離婚の際、「慰謝料は何千万円」というニュースが流れますが、おそらく財産分与が慰謝料に合算されているのではないかと思われます。

基本的に財産分与とは、夫婦が婚姻生活中に協同して築いた財産である「清算的財産分与」を指します。名義がどちらでも、寄与分を請求できます。

2つ目は「扶養的財産分与」で、例えば妻が専業主婦で高齢であり、夫が扶養能力がある場合、離婚後に扶養する意味合いとして財産分与の請求が認められることがあります。
ただし、認められるケースは限定的です。

3つ目は「慰謝料的財産分与」で、財産分与が実質慰謝料的な意味合いをもつ場合です。
例えば不貞行為を行なった夫が、財産を全額妻に与えるといった場合です。

・養育費とは

子どもがいる夫婦が離婚する際、慰謝料と養育費について取り決めます。
養育費は親が子どもを扶養する義務に基づいた金額ですので、たとえ慰謝料請求が認められなくても、養育費は支払われなければなりません。

DVの慰謝料の相場は?そんなに高くない!?

養育費は算定表をもとに計算されますが、慰謝料にはありません。
基本的にお互いが合意すればいくらでもよいのですが、じつは実際の相場はそれほど高額ではありません。
一般的に離婚の慰謝料の相場として、100万~300万円くらいといわれています。
500万円という事例は数%で、100万円以下が一番多く、300万円以下が8割です。

  • 100万円以下 208件(28.2%)
  • 200万円以下 196件(26.6%)
  • 300万円以下 183件(24.8%)
  • 400万円以下 53件(7.2%)
  • 500万円以下 60件(8.1%)
  • 500万円以上 37件(5.0%)

2011年認容件数(家庭裁判所公表)
くたびれない離婚 (吉成安友著/(株)ワニブックス)より抜粋

慰謝料が高額になるケースとは?実態は?

では、慰謝料が高額になるケースとは、どのような場合があるのでしょうか。

・DVによる慰謝料で高額になる場合

以上のように、離婚の慰謝料額は比較的低額に見えますが、それぞれの夫婦の事案により大きく異なります。

前述したとおりDV慰謝料の明確な算定基準はなく、以下のような事項を勘案し、調停員や裁判官が過去の判例と照らし合わせながら決定されます。
DVを日常的に長期間受けてきた、DVによりPTSDを発症した、こちらに落ち度はなく相手が100%悪い、といった事案は通常より慰謝料が高くなるでしょう。

  • ・DVの頻度
  • ・DVの期間
  • ・DVにより受けたケガや障害の度合い
  • ・DVによりPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したか
  • ・相手の落ち度
  • ・婚姻期間
  • ・養育が必要な子どもの人数と年齢
  • ・自分と相手の年収

・DV離婚による慰謝料額の事例

事例1.夫からの暴力と強引な離婚請求で300万円
夫は妻に対し、離婚届けを書くように強要していました。
脇腹を蹴ったり全身を殴ったりと身体的暴力をふるい、首をしめながら「早く離婚届けを書かないと殺してしまうぞ」などと脅しました。
妻はこの暴力行為により、左脇軟骨を骨折する大ケガを負いました。
妻は、夫の身体的・精神的暴力が離婚原因であると主張し、不法行為による損害賠償請求を申し立てました。
裁判所は夫婦の婚姻生活が破綻した原因は夫の暴力等に原因があるとして、慰謝料300万円を認定しました。

  • 慰謝料請求者:妻
  • 慰謝料額:300万円
  • 婚姻期間:30年以上
  • 離婚原因:夫の暴力

裁判年月日 平成21年 8月28日
裁判所名 東京地裁

事例2. 夫の妻に対する身体的・言葉の暴力で慰謝料800万円
夫は妻の意思を無視して性行為を強要することがあり、体調不良を理由に性行為を拒否したところ、夫は何度も妻の顔を殴り、腕を掴んで引っ張り、逃げようとする妻を押さえつけて髪の毛を引っ張るなどの暴行を加えました。
夫は妻に対してだけでなく、子どもに対しても怒鳴ったり、暴力をふるうことがありました。
子どもも夫に恐怖心を持つようになったことから、妻は子どもと一緒に自宅を出て、別居を始めました。
別居後、妻はPTSDを発症しているという医師の診断を受け、医師は「原因は夫により加えられた身体的及び性的暴行にある」と述べました。
裁判所は妻が負った精神的苦痛はとても大きいと評価し、最終的に、夫に対し800万円の慰謝料を支払うよう命じました。

  • 慰謝料請求者:妻
  • 慰謝料額:800万円
  • 離婚原因:夫の暴力

裁判年月日 平成13年 11月5日
裁判所名 神戸地裁

慰謝料請求の際の注意点

次に、慰謝料請求をする際の注意点について、解説していきます。

・慰謝料請求の時効は3年

慰謝料請求権は、事実を知ってから3年が経過すると時効によりその権利は消滅します(民法724条参照)。ただし、3年を経過する前に裁判を起こし慰謝料請求をした場合、時効は中断します。
また、例えば「ちゃんと払うから少し待って欲しい」と相手が言った場合や、慰謝料の支払いを承認した場合も時効が中断し、再度3年が経たないと時効になりません。
さらに、3年経過後も相手が支払うと了承すれば、時効を放棄したことになります。

・高額の慰謝料を請求するには客観的証拠が必要

DV離婚の慰謝料請求に有効な証拠

慰謝料は精神的損害に対する費用なので、慰謝料の支払いを相手に認めさせるには、その要素が客観的なものでなくてはなりません。
DVが1回だけなのか、長年続いたものか、また悪質であればあるほど損害も大きいだろうと推測されます。
DVの場合は以下のような証拠が有効です。

  • ・暴力を受けた時の写真
  • ・医療機関を受診した時の診断書
  • ・身の危険を感じ110番通報した時の記録
  • ・モラハラの発言を録音する
  • ・DVやモラハラを受けた時の様子を含め日記に残す(紙の日記帳がなお有効)

モラハラの場合は証拠の確保がなかなか難しいため、録音することが最も有効です。
夫婦間の会話の録音であれば、秘密に録音したデータであっても、証拠能力として認められています。
ただし、裁判所に提出する際に録音データだけを出して聞いてもらうことはできないので、内容を文書に起こす必要があります。

日記に残す場合、PCの日記だけでなく日付が入った日記帳が改ざんの疑いがないのでなおよいでしょう。またDVを受けた日だけでなく、日々の日常を綴ると信頼性が高まります。

現時点で証拠がなくても諦めてはいけない

DV被害を受けている時は恐怖で録音する余裕などなかった時でも、後から証拠を作ることもできます。
相手に暴力があったことを認めさせる発言をして録音すれば、証拠として使用することが可能です。
これは相手が逆上して危険を伴うことがあるかもしれませんので、事前に十分シミュレーションをし、相手に決して気付かれないようにしなければなりません。

離婚前に別居する場合は婚姻費用の請求も忘れずに

配偶者のDVに耐えかねて離婚前に家を出る場合、別居後、収入がない、または少ない側(一般的には妻)が多い側(一般的夫)に対し、日常生活を婚姻費用として請求することができます。
一方的に家を出た場合でも、相手にひどい問題がある場合は請求できることが多いです。

通常は離婚調停と同時に婚姻費用分担調停も申し立てておくべきでしょう。
相手は離婚が成立しない限り婚姻費用を払い続けなくてはならないため、離婚を決断するための動機にもなるからです。

また、相手が「離婚はしない。婚姻費用も払わない」と言い張る場合で、こちらとしては一刻も早く生活費を払って欲しい場合があります。
その際、「婚姻費用の分担の審判」を申立てると同時に「審判前の仮処分」を申立てることで、通常よりは早めの調停進行が期待できます。

まとめ

配偶者のDVで悩んでいる方は「慰謝料はいらないから一刻も早く離婚したい」と考える人も多いですが、離婚後の生活について様々な観点から考えなくてはなりません。
自分や子どもの身の危険を感じ、家を出た場合でも、これからの生活費が必要です。
DV証拠の集め方、離婚調停や婚姻費用の分担審判など一人で抱えるには複雑な内容が多く、冷静に対処できないことが多々あると思います。

専門の弁護士に相談することで煩雑な作業が軽減されるだけでなく、どのように離婚を進めるか、慰謝料について客観的にアドバイスをしてくれることでしょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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