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米カリフォルニア州では2035年までにガソリン車の販売を終了するという法案が可決されました。そんな追い風もあり、電気自動車の世界最大手であるテスラの躍進が止まりません。今回は、テスラの決算資料を元に、同社の決算の概要を解説した上で、テスラの強みを3つ紹介します。
今後、ガソリン車市場が電気自動車に置き換えられていくトレンドは加速するばかりと予想されていますが、電気自動車の差別化要因とはどのような点になるのでしょうか?
黒字化を遂げ、成長が続くテスラの決算概要
2022年4−6月期のテスラの決算発表を見ると、同社の好調ぶりが伺えます。
過去12ヶ月間の納車台数は右肩上がりで、100万台を突破しています。アメリカ・カナダでは自動車販売台数におけるテスラの市場シェアが3%を超えました。ヨーロッパでも2%に迫るなど、世界中で「電気自動車といえばテスラ」というブランド認知がなされるレベルにまで到達しています。
営業キャッシュフローは、直近12ヶ月間で$13Bを超え、フリーキャッシュフローも同$7B超と、数年前にキャッシュフローに苦戦していたのが嘘であるかのように、利益を産み出し続けています。
既存の自動車会社では、電気自動車戦略が定まらなかったり、ガソリン車とのカニバリゼーションを懸念してか、電気自動車に本腰が入らないように見える会社も多い中、テスラは文字通り、電気自動車という市場をゼロから作り出し、直近の二酸化炭素削減という大きな社会的な追い風も受けて、急成長を遂げていると言えるでしょう。
では、テスラの強みとはいったいどこにあるのでしょうか?今回の記事では3つ紹介したいと思います。
強み1:自動運転技術とそれを支えるデータ
テスラの強みのひとつは、同社が開発している自動運転技術です。
同社がFSD(Full Self-Driving)と呼ぶ自動運転技術を利用して走行された距離のグラフを見ると、2021年の後半から右肩あがりに伸びていて、累計3500万マイルにも到達しています。
なぜ、自動運転技術を利用した累計走行距離が大事なのでしょうか?
自動運転は、機械学習をすることで日々、運転技術が改善されていきます。我々人間が、自動車教習所で運転技術を学習して運転技術を向上させる(た)ようなプロセスを、ソフトウェアが大量のデータに基づいて学習していく仕組みです。
運転免許を取得したばかりの若者よりも、運転歴が長いゴールド免許保有者の方が、安全に効率的に運転できるのと同じように、自動運転ソフトウェアも大量の走行データから機械学習をしたソフトウェアの方が圧倒的に安全かつ効率的になります。
他の自動車メーカーも自動運転ソフトウェアの開発に大きな投資をし続けると予想されますが、少なくても2022年時点では、テスラよりも多くの走行データ(実際に自動運転を通じてえられる生データ)を取得できる自動車メーカーは存在しないと考えられるため、テスラの優位性は当面の間揺るがないのではないかと考えられるでしょう。
強み2:快適性・安全性能を高めるソフトウェア技術
テスラの2つ目の強みは、ソフトウェアを通じた乗車体験の改善です。
例えば、テスラを運転していると、ボコボコする路面に進入する前に座席の高さが微妙に変化することがあります。ボコボコした路面での運転を少しでも快適にするために、このような変更をソフトウェアが自動的に行います。
また、どうしても避けられない衝突や事故が起こってしまう際、衝突が起こる直前にシートベルトを自動的に少しキツく締めます。これによって、避けられない事故による人身へのダメージを最小化するような設計になっています。
他にも例を挙げれば限りがありませんが、このような改善は全てソフトウェアを通じて行われます。電気自動車というのは、運転席に大きなディスプレイがあるだけではなく、これらの車の操作をソフトウェアで行うことが出来るのも大きな強みです。
車の操作をソフトウェアで行えるように設計されているため、車を購入した後でも、ソフトウェア・アップデートで車がどんどん改善されていくのです。みなさんがお持ちのスマートフォンがソフトウェア・アップデートで改善されていくのと同じことが車で起こります。
従来型の車というのは、一旦購入すると、ハードウェアを置き換えない限り、機能や性能が良くならないというのが当たり前でしたが、テスラに限っては頻繁に送られてくるソフトウェア・アップデートのおげで、ハードウェアを置き換えずとも車がどんどん便利に快適に安全に進化していくのが体験できます。
強み3:テスラ社専用の急速充電設備
テスラの3つ目の強みは、自社で開発・運営するスーパーチャージャーと呼ばれる急速充電設備です。
電気自動車を購入するユーザーにとって、最も怖いのは、車の電池切れです。ハイブリッド車とは異なり、内燃機関(エンジン)が存在しないため、電池が切れると車が動かなくなります。
皆さんがお持ちのスマートフォンのバッテリーが足りなくなって、冷や汗をかいた経験をしたことがある方は少なくないのではないでしょうか? それと同じことが車でも起こりえます。
ガソリン車であれば、ガソリンスタンドさえあれば、給油できるという安心感がありますが、電気自動車の場合、例えば自宅から遠くはなれた旅行中などに充電設備がないと旅行さえできないということになりかねません。
また、ガソリンの給油は数分で満タンに出来ますが、電気自動車の充電は通常、自宅で充電する場合は一晩かけて充電するという具合にとても時間がかかるのです。
電気自動車を普及させるには、たくさんの急速充電可能な充電設備が不可欠になります。
テスラは自社でスーパーチャージャーと呼ばれる急速充電設備を開発・運営しています。設置されているスーパーチャージャーの数は、4000箇所近くにまで増えており、最短15分で275km分の走行距離を充電できます。ガソリンの給油に比べると少し時間がかかりますが、長距離ドライブの休憩時間に充電できるレベルにまで進化しています。
他の電気自動車開発メーカーは、自社で充電設備を提供するのではなく、第三者が提供する充電設備で充電できるようにしているケースが多く、「想定のスピードで充電されない」という不満をよく聞きます。テスラの場合は、充電設備を自社で開発するだけではなく運営もしているため、進化のスピードが早いのが特徴的です。
まとめ
今回は、電気自動車・世界最大手テスラの好調な決算、そして、その背景にある3つの強みを紹介しました。
ガソリン車から電気自動車への置き換えはこれから数十年かけて進む大きな進化であることは間違いありません。その大激震の中でリーダー格のテスラがどのように進化していくのか、今後も注目です。
今後も、決算資料を読み解くヒントを皆さんにお届けしていければと思います。
Profile
シバタ ナオキ 氏
元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。
東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。
スタートアップを経営する傍ら「決算が読めるようになるノート」(https://irnote.com/)を連載中。