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菅内閣は、およそ1年にわたる政権運営の中で、新型コロナ対応のみならず多くの成果を残している。
短期間で多方面で多くの政策を実現し、未来に花開く種を蒔き続けた。その詳細についてお話を伺った。
取材/元榮太一郎(本誌発行人) Taichiro Motoe・山口和史(本誌編集長) Kazushi Yamaguchi文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/品田裕美 Hiromi Shinada
政治主導で既得権益を打破。未来に花開く「種」を蒔く
- 結果的に菅内閣は2020年9月から2021年10月までのおよそ1年間でその役割を終えた。
しかし、この1年間で新型コロナ対応のみならず、多くの成果を残している。
菅 義偉氏(以下 菅氏):多くの実績を残したと言っていただけるのですが、私はコロナ対応を最優先でやるという想いでした。その中で、政治家として議論の段階が終わったものに関しては、総理大臣として決着をつけようとも考えていました。また、官房長官時代から見ていて、これ以上長引かせても結果は変わらないものについてもメスを入れようと考えて手掛けていきました。
- そのひとつが不妊治療の保険適用だ。2022年4月から保険適用が始まり、人工授精等の一般不妊治療や体外受精・顕微授精といった生殖補助医療について、保険が適用されるようになった。
菅氏:少子化が大変だとみんな言っていますが、なにを議論しているかというと支援策を考えることばかりなんですね。それもどれくらい効いているか分からない。そこで不妊治療について調べてみたんです。
そもそもなぜ保険が適用できないのかと役所に聞いたら、『確たる効果が検証されていないから』と言うんです。そこで調べてみると、2020年に約84万人が生まれている中で、およそ6万人が不妊治療の結果誕生していたんです。
14人にひとりですから結構な割合ですよね。これは絶対にやらないといけないと思いました。
- 既得権益を守りたいがために新たな保険適用を阻もうと反対する勢力もあったが、強い意志で実行。現在、不妊に悩む多くの夫婦がその恩恵を受けている。
既得権益の打破という点では、携帯電話料金の引き下げも記憶に新しい。2020年9月の政権発足以降、強いメッセージを発信した結果、2021年4月以降の携帯電話通信料を消費者物価ベースで4割近く引き下げた。
菅氏:トップが方向を決めてやればみんな一斉に動いてくれるんですよね。携帯電話各社はあんなことしていてはダメですよ。ほかの携帯会社に移ると違約金が取られるとか、不透明な料金体系とか、あんなことは恥ずかしいと思っていました。ここもかなり力を入れました。
- 携帯大手各社は横並びで料金も決め、競争が発生していないまさに「既得権益」の塊と言っていい状況だった。国民は社会のインフラとして欠かせないサービスゆえに使わないわけにもいかず、唯々諾々と言われるがままに料金や違約金を支払う状況ができあがっていた部分に大胆にメスを入れた格好になる。
菅氏:多少の効果は出ましたが、まだ不満なんです。携帯大手が既得権益の美味しいところを握って
いますから、彼らはなにも競争をしないんです。三社とも揃って利益率20%ですから、ひどい話ですよ。
携帯電波というのは国民の財産です。それを借りて彼らは商売をしているんですから、国民のためにより良いサービスを提供する、より安価にサービスを提供するために競争をしないとおかしいんです。
そういった大義名分がありましたから、思い切ってケンカしてやろうと思って当時やっていたのを覚えています。
- 総理大臣時代、心に残っている出来事がある。「黒い雨訴訟」だ。
1945年8月6日、終戦直前に広島に投下された原爆で、放射性物質を含む「黒い雨」を浴び、健康被害を受けたとして住民が訴えた裁判だ。
2021年7月14日に広島高等裁判所で下された判決は国の全面敗訴。原告全員を被爆者と認め、被爆者健康手帳を交付するよう広島市などに命じた。この判決を受けて、当初、国は上告をするだろうと報道されていた。
しかし急転直下、7月26日に菅氏は「上告はしない」と表明した。
菅氏:原告の皆さんは80歳を超えた人がほとんどでした。戦後の大変な時期から日本を支えてくださった皆さんのためにという思いが強かったんですよね。何年も続いた裁判でしたし、もう収めようと思ったんです。
そう思ったのですが、役所が『上告しなければ、これから何十万人も訴えてきますよ』と言うんです。あの裁判では広島だけでしたが、いずれは東日本大震災の被災者も訴えてくると言うわけです。
先日、手続きが終わりました。『ところで、あのあと何万人が訴えてきた?』と聞いたら『うーん』って(笑)。知ってて言わないんですよ。
- 菅氏は2020年10月26日の所信表明演説で2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、総額2兆円の基金を創設した。
これによって一気に国内の風向きは変わった。
デジタル庁の創設も菅内閣でのことだった。国だけで千以上、地方には千七百を超えるシステムがありながらも司令塔がいない状況を打破するためだ。短期間で多方面で多くの政策を実現し、未来に花開く種を蒔き続けた。
菅氏:いろいろ批判はありますけれども、デジタル庁が新しい官庁として機能することで、霞ヶ関も別世界ではなくなっていくと思うんです。自分が掲げて手掛けた政策はいくつかありますが、インバウンド政策にしてもひとつの省庁では完結できないものがいっぱいあります。そういった政策は政治主導でないとまとまりませんよね。そういったことを今後は推進していきたいと思います。
- 混迷の度合いを深める政治の世界で、菅氏の存在感はますます増すばかり。今後の活躍から目が離せない。
Profile
菅 義偉氏
秋田県出身。大卒後、市会議員を経て国政に進出。
総務副大臣、総務大臣などを歴任後、第二次安倍政権で内閣官房長官として安倍晋三元総理を支え続ける。
2020年9月に自民党総裁に選出され、第99代内閣総理大臣を務める。
「国民のために働く内閣」を標榜し、そのキャッチフレーズを具現化する政策を次々と実現した。
趣味は渓流釣り、ウォーキング。パンケーキ好きとしても知られる。