地方公務員を志す人はもちろん、業務上地方公務員との接点が生じる人や地方公務員法を参考に自社の規定を整備したい事業者なども、地方公務員法を一読しておくとよいでしょう。
地方公務員法を一読することで、地方公務員の立ち位置や処分規定などが理解しやすくなります。
では、地方公務員法はどのような人を対象とする法律なのでしょうか?
また、地方公務員法では、どのような内容が定められているのでしょうか?
今回は、地方公務員法の概要や主な内容、懲戒規定などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
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地方公務員法とは
地方公務員法とは、「地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営並びに特定地方独立行政法人の事務及び事業の確実な実施を保障し、もって地方自治の本旨の実現に資すること」を目的とする法律です(地方公務員法1条)。
地方公共団体は、国の命令などにそのまま従うのみではなく、「民主的かつ能動的な運営」が求められていることがわかります。
この目的を実現するため、地方公務員法では次の事項に関する根本基準などが定められています。
- 地方公共団体の人事機関
- 地方公務員の任用
- 人事評価
- 給与
- 勤務時間その他の勤務条件
- 休業
- 分限及び懲戒
- 服務
- 退職管理
- 研修
- 福祉及び利益の保護
- 団体等人事行政
なお、地方独立行政法人とは「住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地からその地域において確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものと地方公共団体が認めるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律(地方独立行政法人法)の定めるところにより地方公共団体が設立する法人」です(地方独立行政法人法2条1項)。
つまり、本来は地方公共団体が自ら行う事業であるものの、効率化をはかるために自治体から切り出した事業(かつ、民間にゆだねるほどは採算性が取れない事業)を担う主体を指します。
たとえば、県立大学や県立病院、試験研究機関などの運営に、この地方独立行政法人が使われています。
そして、地方独立行政法人には地方公務員法1条で言及されている「特定地方独立行政法人」と、これ以外の「一般地方独立行政法人」が存在します。
このうち、「特定地方独立行政法人」は「公務員型」とも呼ばれ職員は公務員の身分を有するため、地方公務員法の対象とされています。
地方公務員法の対象者
地方公務員法の対象者は、一般職に属するすべての地方公務員です(地方公務員法4条1項)。
一方で、特別職に属する地方公務員には原則として適用されません(同2項)。
特別職に属する地方公務員とは、次の者などです(同3条3項)。
- 就任について公選または地方公共団体の議会の選挙、議決、同意を要する職
- 地方公営企業の管理者・企業団の企業長の職
- 法令や条例などで設けられた委員・委員会・審議会の構成員の職で、臨時または非常勤のもの
- 都道府県労働委員会の委員の職で、常勤のもの
- 臨時または非常勤の顧問・参与・調査員・嘱託員などで一定のもの
- 投票管理者・開票管理者・選挙長・選挙分会長・審査分会長・国民投票分会長・投票立会人・開票立会人・選挙立会人・審査分会立会人・国民投票分会立会人など総務省令で定める者の職
- 地方公共団体の長、議会の議長、地方公共団体の機関の長の秘書の職で条例で指定するもの
- 非常勤の消防団員・水防団員の職
- 特定地方独立行政法人の役員
これらの者は、法律に特別の定がある場合を除き、地方公務員法が適用されません。
なお、これ以後単に「地方公務員」と記載する際は、地方公務員法の適用対象である地方公務員を指すものとします。
地方公務員法の主な内容
地方公務員法には、どのような事項が定められているのでしょうか?
ここでは、地方公務員法の主な内容について概要を解説します。
欠格要件(地方公務員になれない人)
地方公務員法では、地方公務員の欠格要件が定められています。
欠格要件とは、地方公務員になれない人の要件です。
地方公務員の欠格要件は、次のとおりです(同16条)。
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行を受けることがなくなるまでの者
- その地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から2年を経過しない者
- 人事委員会または公平委員会の委員の職にあって、一定の罪を犯し刑に処せられた者
- 日本国憲法施行日以後において、日本国憲法またはその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、またはこれに加入した者
これらの者は、原則として地方公務員となったり、地方公務員となるための競争試験や選考を受けたりすることができません。
任命方法
地方公務員法では、地方公務員の任命方法について定めています(同17条1項)。
これによれば、地方公務員は次のいずれかの方法で任命されます。
- 採用
- 昇任
- 降任
- 転任
また、その地方公共団体に人事委員会や競争試験などを行う公平委員会(以下、これらをまとめて「人事委員会」といいます)がある場合、人事委員会は任命方法の一般基準を定めることが可能です(同2項)。
採用方法
地方公務員法によれば、地方公務員の採用は次の方法によるとされています(同18条1項、2項)。
- 人事委員会を置く地方公共団体:原則、競争試験による。ただし、人事委員会規則や公平委員会規則で定める場合には、選考(競争試験以外の能力の実証に基づく試験)によることもできる
- 人事委員会を置かない地方公共団体:競争試験または選考による
また、人事委員会などの任命権者は、いったん離職した地方公務員が復職しようとする場合における資格要件や採用手続き、採用時の身分に関する必要事項を定めることができます(同3項)。
昇任の方法
地方公務員法では、昇任についての規定が置かれています(同21条の3)。
これによれば、地方公務員の昇任は、任命権者が地方公務員の受験成績や人事評価その他の能力の実証に基づいて、その職に係る標準職務遂行能力や適性を有すると認められる者の中から行うこととされています。
また、任命権者がすべて独断で昇任を決められるわけではなく、人事委員会規則で定める一定の職に昇任させるには、昇任試験または選考が必要です(同21条の4)。
降任・転任の方法
地方公務員法では、降任や転任の方法に関する規定が置かれています(同21条の5)。
地方公務員を降任させる場合には、任命権者は、その地方公務員の人事評価その他の能力の実証に基づいて、任命しようとする職に係る標準職務遂行能力とその職への適性を加味すべきとされています。
また、転任についても同様に、任命権者がその職への標準職務遂行能力や適性があると認められる者の中から任命することとされています。
人事評価
地方公務員法では、人事評価に関する基本的な事項が定められています。
まずは、23条において地方公務員の「人事評価は、公正に行われなければならない」とされています(同23条1項)。
そして、この人事評価は、任命権者が任用や給与、分限など人事管理をする基礎として活用されます(同2項)。
また、任命権者は定期的に地方公務員の人事評価を行わなければなりません(同23条の2 1項)。
この人事評価の基準や方法に関する事項などは、任命権者が定めます(同2項)。
給与
地方公務員の給与についても、この地方公務員法に定められています。
地方公務員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならず、生計費や国・他の地方公共団体の職員・民間事業従事者の給与などの事情を考慮して定めなければなりません(同24条1項、2項)。
また、民間企業などと同じく、給与は法律または条例により特に認められた場合を除き、通貨で直接職員に全額を支払わなければならないとされています(同25条2項)。
地方公務員法では具体的な給与の額などまでは定めておらず、地方公務員の給与や勤務時間その他の勤務条件は条例で定めることとされています(同5項)。
給与に関する条例で定めるべき事項は、次の内容です(同25条3項)。
- 給料表
- 等級別基準職務表
- 昇給の基準に関する事項
- 時間外勤務手当、夜間勤務手当及び休日勤務手当に関する事項
- その他、一定の手当を支給する場合にはその手当に関する事項
- 非常勤の職その他勤務条件の特別な職があるときは、これらについて行う給与の調整に関する事項
- その他、給与の支給方法と支給条件に関する事項
そのため、これらの事項を把握すべき必要が生じた際は、条例を調べることで確認できます。
なお、人事委員会は少なくとも毎年1回、給料表が適当であるかどうかについて、地方公共団体の議会と長に同時に報告しなければなりません(同26条)。
その結果、給与を決定する諸条件の変化によって給料表に定める給料額の増減が適当であると認められた際は、その旨が勧告されます。
休業
地方公務員法では、地方公務員の休業についての規定も置かれています。
これによれば、地方公務員の休業は次の4つとされています(同26条の4)。
- 自己啓発等休業:条例で定める3年を超えない期間、大学等課程の履修または国際貢献活動をするための休業
- 配偶者同行休業:条例で定める3年を超えない期間、外国での勤務その他の条例で定める事由により外国に住所または居所を定めて滞在する配偶者(事実婚配偶者を含む)と生活を共にするための休業
- 育児休業:育児のための休業
- 大学院修学休業:教育に従事する一定の地方公務員のうち任命権者の許可を受けた者が、大学院にフルタイムで在学するための休業
このうち自己啓発等休業と配偶者同行休業については地方公務員法に具体的な内容が記されています。
一方で、育児休業は「地方公務員の育児休業等に関する法律」で、大学院修学休業については「教育公務員特例法」でそれぞれ定められています。
地方公務員法による4つの処分規定
地方公務員法には、処分に関する規定も設けられています。
最後に、地方公務員法で定められている4つの処分規定について、それぞれ概要を解説します。
戒告
戒告とは、文書または口頭による注意です。
処分規定の中では、もっとも軽いものといえます。
減給
減給とは、一定の期間、給与を減額して支給する処分です。
具体的な減額期間や減額割合は、各地方公共団体の条例で定められています。
停職
停職とは、一定の期間職務に従事させず、給与も支給されない処分です。
停職の上限期間などは、各地方公共団体の条例で定められています。
免職
免職はもっとも重い措置であり、地方公務員としての身分を失わせる処分です。
免職は非常に重大な効果を伴うため、免職をさせられる場面は地方公務員法で定められています。
免職の可能性があるのは、次の場合です(同28条1項、29条1項)。
- 人事評価または勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
- 心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれに堪えない場合
- 1・2のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
- 職制・定数の改廃・予算の減少により、廃職や過員を生じた場合
- 地方公務員法など一定の法律やこれに基づく条例、地方公共団体の規則などに違反した場合
- 職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合
- 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
なお、1から4に該当した場合は降任または免職の対象となります。
一方で、5から7に該当した場合には、戒告、減給、停職または免職の対象になるとされています。
まとめ
地方公務員法の概要や地方公務員法で定められている主な内容、懲戒処分などについて解説しました。
地方公務員法とは、地方公務員の処遇などについて定めた法律です。
しかし、すべての地方公務員が対象となるのではなく、原則として特別職に属する地方公務員は対象となりません。
地方公務員法には、地方公務員の欠格要件や任命方法、給与、休業、処分規定などに関する規定が置かれています。
地方公務員になろうとする者はもちろん、業務で地方公務員と関わる場合や自社の規定を検討する際などにも参考にするとよいでしょう。
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