コラム
公開 2020.11.17 更新 2021.10.08

X-techの中でも知っておきたい「リーガルテック」とは?

X-techの中でも知っておきたい「リーガルテック」とは?

従来のビジネスにITの技術を利用することで業務の効率化やコストの削減を図るX-tech(クロステック)の中でも、法律の分野におけるLegalTech(リーガルテック)の概要と導入事例を紹介します。

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X-tech(クロステック)とは

X-techとは、先進的なIT技術の力を活用し、既存のビジネスにはなかった新しい価値やソリューションを生み出す技術のことです。事業者側にとっては業務の効率化やコスト削減といったメリットをもたらすものとして、消費者側にとってはサービスをより便利に使用できるものとして注目を集めています。現時点では発展途上の分野ですが、右肩上がりで成長しており、今後も、その市場は拡大していくものと思われます。

X-techはさまざまな分野で発展しています。例えば、金融の領域におけるFinance(金融)とTechnology(テクノロジー)の造語であるFinTech(フィンテック)があります。モバイル決済などのキャッシュレスはこのフィンテックの一つです。

他にも、医療の領域におけるMedTech(メドテック)、農業の領域におけるAgriTech(アグリテック)など、広がりを見せています。ここで挙げた以外にも多種多様な領域でX-techは進化を続けています。

LegalTech(リーガルテック)とは

先ほどお伝えしたように、X-techはさまざまな領域で発展しています。法律の領域におけるそれは、LegalTech(リーガルテック)と呼ばれます。Legal(法律)とTechnology(テクノロジー)の造語です。ビジネスシーンでリーガルテックという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ここでは、リーガルテックの意味やなぜ高い注目を集めているのかについて考えてみましょう。

リーガルテックは法務分野に関する先進的なソリューション

リーガルテックは、法務分野において発生する各種各様のリスクや課題を解決するために、ITやAIといった先進技術を活用し、新たなソリューションを生み出すことです。元々、リーガルテックは訴訟大国アメリカで発展した概念です。

アメリカの法律実務は、過去の裁判例の蓄積により運用されており(コモンローといわれています。)、日本のように成文法主義(シビルローといわれています。)をとる国々よりも、過去の裁判例、先例の調査、分析が非常に重要であり、そのリサーチの技術が発展していったものとされております。

2020年現在では広く世界中にリーガルテックは浸透しており、新たに生み出された価値としては、電子契約、弁護士や司法書士といった専門家と遠隔地の顧客とのマッチング、AIによる契約書のリーガルチェックなどが挙げられます。

この後にお伝えしますが、顧客の満足度や安心感を確保できるだけでなく、企業法務や法律事務所の業務の効率化にもつながるとの期待から、リーガルテックは高い注目を集めています。特に、電子契約は導入によるメリットが大きいため、数多くの企業がすでに導入したり、検討をしたりしています。

リーガルテックが注目を集める理由

政府の推進する「働き方改革」によって、時間外労働の上限規制やテレワークの推奨、副業の解禁など、働く環境は大きな変化を見せています。この流れは新型コロナウイルス感染症の影響によりさらに加速しました。

しかし、いくらテレワークが導入されたといっても、どうしても出社しなければならないケースも少なくなりません。企業においては、「書類にハンコを押印しなければならない」、「契約書を郵送しなければならない」等、テレワークでは対応できなかったケースがあります。しかし、少子高齢化で、労働人口は減少していっており、今まで以上に、人件費等のコストを削減しつつ、生産性を向上することが求められております。

そこで、リーガルテックによる先進技術を活用すれば、このようなコストを削減し、業務の無駄を省くことで業務の効率を上げることができます。人的物的資源の適材適所への割り振りによる経営のスリム化や、社内手続の改善による意思決定の迅速化なども期待できるでしょう。人の手が必要不可欠な部分にのみ人の手を加え、そうでない部分はITなどのテクノロジーを活用し生産性を向上させることのメリットの大きさが認識されるに至ったのです。

このような背景から、リーガルテックへ高い注目が集まっています。

リーガルテックの具体例:電子契約

リーガルテックの身近な例として、電子契約が挙げられます。電子契約関連のサービスを提供する企業は最近増えており、現に多くの企業が電子契約を導入しています。
代表的なものとして、「CLOUDSIGN」等が挙げられます。

ここでは、電子契約とはどのようなものか、またそのメリットや注意点について紹介しましょう。

電子契約とは

電子契約とは、紙の契約書への署名、押印に代えて、電子文書に、電子署名や、電子サインを付与することにより契約を締結することを指します。その電磁的記録は各当事者のサーバーやクラウドストレージに電子データとして保存されます。

従来、日本では契約書といえば「紙とハンコ」でしたが、電子契約では両方とも不要です。紙の代わりに電子データ、ハンコの代わりに電子署名又は電子サイン(以下「併せて電子署名」といいます。)をそれぞれ用います。電子署名と聞くとタッチパネルにサインすることをイメージしそうですが、そうではありません。

日本の法律においては、契約書がなくても、両当事者の合意があれば契約が成立するという不要式契約が原則とされており、そもそも、署名や、押印は、は契約書が真正に成立したこと、つまり、契約を締結した両当事者の正しい意思に基づいて作成されたことを証明するために用いられます。つまり、紛争になった場合に、契約を締結したという事実そのものや、契約書の内容等を裁判で証明するために必要とされており、電子契約においても、この証明機能が重要となります。
特に、電子契約において用いられる電子書類(PDFファイル等)は、容易に改ざんできてしまうため、プリントアウトした契約書に、手書きで署名、押印し、スキャナーで再度取り込んでPDFファイルにしたとしても、内容を書き換えることが可能であり、今までの署名や、押印では、電子契約書が正確なものとは必ずしも証明できません。
そこで、電子契約書を締結した事実や、その内容を証明するために用いられるのが電子署名です。

電子契約書の仕組みは複雑ですので、割愛しますが、この電子署名と、タイムスタンプという機能を用いることで、証明機能が担保されることになります。
タイムスタンプは、電子契約書に、そのスタンプが付与された時刻を記録するもので、これにより、タイムスタンプが押された時刻に、その文書が存在したこと、その時刻以降、不正に改ざんされていないことを証明することができます。
電子契約の大まかな流れは、作成した契約書の電子データをPDF化し、その際に作成した電子署名とタイムスタンプを埋め込んで電子データを送付、相手方は内容を確認し同様の手順で返送し契約締結完了というプロセスを経ます。

最近では電子契約に特化したリーガルテックサービスも誕生しています。これを使用すれば簡単に、そして強固なセキュリティで電子契約を締結することができます。

2000年以降、電子契約や電子署名の技術は進化を重ね利便性が向上しており、今後も電子契約の市場規模は拡大していくでしょう。

電子契約のメリット

電子契約を導入することで得られるメリットは大きく3つあります。

1つめはコスト削減です。紙とハンコによる契約締結方式を取った場合、次のようなさまざまなコストが発生します。

  • 郵送にかかる費用
  • 印鑑、紙、インク等の物理的な費用
  • 契約書の保管にかかる費用と場所
  • 紙の契約締結にかかる人件費
  • 契約書に貼付する印紙代

契約書1通当たりのコストは小さくとも、積み重なれば莫大な額になります。しっかり計算してみたら、毎月数十万円以上を費やしているなんてことも考えられます。

電子契約であれば、これらのコストを失くすもしくは低減することができます。まず、電子契約は紙を用いませんから、郵送代や印刷代は不要です。電子データで保管するため、契約書の保管コストも不要です。特に大きな点は、収入印紙による印紙税の納付が不要になる点です。詳細は割愛しますが、電子契約を締結することは、課税文書の作成に該当せず、印紙税は、課税されないと解釈されており、印紙代も不要です。

また、郵送や保管といった労力をかける必要がなくなり、人件費も削減できます。時間も節約できますから、その分を他の業務にあてることで生産性の向上も見込めます。ハンコも不要ですから、「テレワークなのにハンコのために出社」などといった事態も起きません。人件費も労力も削減できるのです。

このように、電子契約を導入すれば、「紙とハンコ」が発生源のコストを大幅にカットすることが可能です。

2つ目は業務の効率化です。コスト削減とも関連しますが、書面で契約を締結しようとすると、原本の印刷や押印、郵送、さらには相手方においても押印・返送といったプロセスが必要となります。そのため、長ければ数週間かかってしまうケースもあるでしょう。

印刷や郵送には労力が必要となり、その分時間も浪費してしまいます。さらに、過去の契約書を参照したいときに紙の契約書で保存している場合は書庫やファイルから契約書を探し出すのも一苦労です。

電子契約であれば、契約当事者はインターネット上でやり取りを行うため、印刷や押印、郵送といった手間と労力がなくなります。早ければものの数分で手続は完了してしまうでしょう。

また、電子データで保管するため、検索機能で契約の名前や相手方の名称などを手掛かりに簡単にお目当てのデータをピックアップできます。キャビネットから昔の契約書を引っ張り出す必要がなくなります。

3つ目は、コンプライアンスの強化です。電子署名やタイムスタンプと契約の内容を記録した電子データをセットにすることにより改ざんを防ぎやすくなります。電子契約関連のサービスを利用すればセキュリティが高まるため、さらにコンプライアンスを強化できます。

加えて、インターネット上で保管するため契約書紛失のリスクも回避できます。「過去に締結した契約の確認ができない」「訴訟において証拠となる契約書を提出できない」といった事態を未然に防ぐことができます。また、仮に災害が発生したとしても、電子データとしてインターネット上に保管されているため、契約書が毀損することもありません。

電子契約を導入するうえでの注意点

電子契約にはメリットだけでなく、注意したい点もあります。

1つ目は、法律上、書面により契約書を締結することが必須のケースもあるという点です。例えば、定期借地権設定契約では、公正証書等の書面によることが契約成立の要件とされています(借地借家法22条)。また、建設工事請負契約など、法律上、書面作成が義務付けられている契約もあります(建設業法19条)。

このように、紙の書面が必要となる契約類型もあります。弊所では、リーガルテックに関するご相談についても、豊富な経験と実績を有する弁護士がご対応いたしますので、お気軽にお問い合わせください。

2つ目は、契約の相手方が電子契約を導入していない場合にいかに対応するかという点です。契約は当事者間の合意によって締結されますから、相手方に電子契約を強制することはできません。相手方が電子契約に消極的な場合は相手方に合わせて紙の契約書を用いるか、もしくは別途協議が必要でしょう。

電子契約関連のリーガルテックサービスの中には、このケースを想定して、相手方はアカウント登録不要としたり相手方用のガイドを用意したりと、相手方になるべく負担をかけない工夫が施されているものもあります。

他にも、サイバー攻撃のリスクや、導入時の社内調整の難しさ等もデメリットとして挙げられます。

リーガルテックを採用した企業の実例

続いて、リーガルテックを導入してどのようなメリットが発生するかを、実例を交えて紹介します。どちらもコストカットと業務の効率化を実現しています。

飲食店の情報提供に関する会社の事例

もともとテレワークの環境が整っていたものの、紙での書類の処理等、出社せざるを得なかった業務について、電子契約サービスを導入することで、これらもリモートで行うことができるようになり、さらに、新型コロナウイルス感染症の影響による緊急事態宣言下で、顧客に対面での営業ができなくなったにもかかわらず、契約書類を電子契約にすることで、顧客に対するサービスを維持し、さらに新しい価値を提案できた事例です。

電子契約の導入をきっかけに、さらに無駄な決裁フローや二重決裁はないか等、社内システム、社内インフラの整備にも力を入れいているとのことです。

ライブ配信アプリの運営を行う会社の事例

契約書や規約は、以前は紙媒体で、やり取りを郵送にせざるを得なかったり、訂正等に手間がかかっていましたが、電子契約の導入により、大量の契約書を一括で送信できたり、契約締結までの状況がわかるようになり、業務の効率化に成功した事例です。

契約業務にかかるや労力を大幅に削減でき、その分を専門的な技術を磨くための時間等にあてることができたり、配信者のマネジメントにより集中できるようになったとのことです。

まとめ

X-techのうち、リーガルテックの内容やメリットまで、特に利用者が増えている電子契約を中心に紹介しました。リーガルテックには、電子契約以外にもさまざまな種類があり、どれも業務の効率化やコストカットといったメリットがあります。

また、コンプライアンスの強化にも役立つものですから、コンプライアンスの重要性が叫ばれる昨今、ますます導入によるメリットが大きいと言えるでしょう。特に、契約や訴訟等の法務案件を多数抱える大企業においては、リーガルテックの恩恵はさらに大きくなるものと思われます。

リーガルテックは今後も市場が拡大していくことが見込まれますから、いつの日か紙の契約書がなくなる時代が来るかもしれません。電子契約をはじめリーガルテックの導入を検討している方は、豊富な実績と経験を有する弁護士が多数在籍する弊所へ、お気軽にお問い合わせください。

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