Aさんは、自身のブランドの商品の製造をB社に委託していたところ、同ブランドの人気が出てくると、B社はAさんの同意なく商品を製造し販売するようになりました。そこで、AさんはB社との契約を解除したところ、B社は、Aさんに対して、在庫分の買取りを要求する等し、さらにAさんに断りなく自社名義でブランドの商標登録を出願しました。弁護士がどのように解決へと導いたのかを解説します。
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ご相談までの経緯・背景
20代男性のAさんは、アパレルブランドを起ち上げ、運営していました。
商品の製造はB社にお願いしていました。
設立から数年、順調にファンも増え、売上規模が大きくなってくると、B社はAさんの同意なく商品を製造・販売するようになっていきました。
当然Aさんとしては好ましくない状況であったため、Aさんは、B社との契約を解除しました。
するとB社はAさんに対して「在庫を全部買い取れ」と言ってきました。
加えて、B社は、Aさんに断りなく自社名義でブランドの商標登録を出願していることも発覚しました。
そこで、Aさんは当所にご相談されました。
解決までの流れ
Aさんのご要望は、とにもかくにも自身のアパレルブランドの商標を守りたいという点でした。
特許庁に商標登録の出願をしてから、その判断が下りるまで、およそ12ヵ月程度かかると言われています。
商標登録が認められてしまうと、Aさんとしては、「このブランドはB社のものではなく、Aさんのものである」と再度審査を求めたり、訴訟をしたりする必要があり、膨大な時間がかかってしまいます。
そのため、すでに出願されてしまっているB社からの出願に対する特許庁の判断が下りる前に手を打つ必要がありました。
使ったのは「情報提供制度」と呼ばれる制度です。
これは、特許庁に対して、商標登録出願に係る商標が商標の登録要件を満たしていない、或いは商標の不登録事由に該当する等の審査に有用な情報を提供することができる制度です。
本件では、「現在出願されている○○というブランドは、出願者のものではありません」と根拠資料とともに説得的に伝え、B社の出願を却下してもらうことが目的になります。
情報提供にあたっては、細かい事実や状況を丁寧に拾い上げ、理論構成を行います。
ブランドを立ち上げたのがAさんであることを示す資料、AさんがB社との契約を解消する前と後の売上の比較資料、その他世上において「このブランドはAさんのものである」と認識されていることを示す客観的な資料を集めていきました。
出願に対する判断には、情報提供を行った後数ヵ月程度掛かりましたが、無事、B社による商標登録出願は却下されました。
改めて、Aさん名義で商標登録申請を行うことで、ブランドは守られました。
結果・解決ポイント
B社は、自社の商標登録を却下され、商標というB社としての切り札が失われたため、Aさんに求めていた在庫の買取りを行わなくて良いと伝えてきました。
Aさんのご要望どおりの結果を出せたのは、情報提供制度を適切に活用できたことが大きいといえるでしょう。
B社による申請を却下させるために、世上において「このブランドはAさんのものである」と認識されていることを示す資料を細かく拾って提示できたことが結果につながったと感じています。
今回、ここまで両者の関係がこじれてしまったのは、ビジネスがまだ小さい段階から、しっかりと両者で契約書を用いて契約を結んでいなかったことが大きな原因の1つでした。
そのせいで両者間のルールが曖昧なまま、金額や規模が大きくなっていったため、両者の認識に齟齬が生まれてしまったのでしょう。
商標についてお悩みの方はもちろんなのですが、新しいビジネスを始めようとお考えの方も、スタートする前に一度、弁護士にご相談されることをおすすめします。
法的に問題はないのか、契約上不利になっていないか、株式についてはどう扱うのかなど、後のトラブルの火種を摘んでおくためにも、事前にご相談ください。