職場のハラスメント対策の強化を柱とした「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が令和元年5月29日の参院本会議で可決、同法が成立しました。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)や妊娠・出産した女性へのマタニティーハラスメント(マタハラ)はすでに企業に防止措置を講じる義務がありましたが、パワハラについては規定がなく対策は企業の自主努力に委ねられていました。
改正法により何が規定されたのか、概要をお伝えします。
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1.パワハラ対策を義務付ける改正法の成立
職場のハラスメント対策の強化を柱とした「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が5月29日の参院本会議で可決、同法が成立しました。
この法律により、はじめてパワハラが定義され、企業に防止措置が義務付けられることとなりました。
セクハラ・マタハラ・パワハラ・モラハラ・カラハラ・ブラハラなど世間でも用語として使用されているハラスメントはたくさんありますが、法律上企業に防止措置を講じることが義務付けられていたものは、これまでセクハラ(セクシュアルハラスメント)・マタハラ(マタニティーハラスメント)だけで、パワハラ(パワーハラスメント)については規定がなく対策は企業の自主努力に委ねられていました。
今回、法案が成立したことによりパワハラについても明確に定義され、企業に防止措置が義務づけられることとなりました。
2.パワハラとは(パワハラの定義)
パワハラは、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」で規律され、定義がなされています。
同法において、パワハラは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者から の相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定されており、従前、「職場のパワーハラスメント防止対策に関する検討会報告書」において、
- ①優越的な地位を背景
- ②業務の適正な範囲を超えた行為
- ③身体的・精神的な苦痛を与えること または 就業環境を害すること
と規定されたところと同様の内容です。
ここにいう「優越的な地位」は、優位性を背景に基づいていればよく、必ずしも職務の地位にある者から下位の者への行為に限られません。例えば、部下であっても業務上必要な知識を有しておりこの者の協力が得られなければ業務に支障がある場合や、部下からの集団による行為で抵抗することが困難である場合も該当します。
また、パワハラというためには「業務の適正な範囲を超えた」行為であることが必要です。従って、業務上必要があり、その程度が社会通念に照らし相当であればパワハラではありません。例えば、遅刻など社会的ルールを欠いた行動に対し注意をしても問題にはなりません。
条文上明記はされていませんが、職場のパワーハラスメントの典型的な例としては、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」において「職場のパワーハラスメントに当たりうる行為」として挙げられた6つの行為類型が挙げられます。
- ①身体的な攻撃
- ②精神的な攻撃
- ③人間関係からの切り離し
- ④過大な要求
- ⑤過小な要求
- ⑥個の侵害
各類型の例としては、上司から「出来が悪い」と言われ、灰皿を投げつけられた(①)、大勢の前で、上司から、「ばか」「のろま」などの言葉を毎日のように浴びせられる(②)、職場の全員が呼ばれている忘年会や送別会にわざと呼ばれない、話しかけても無視される(③)、能力や経験を超える無理な指示で他の社員よりも著しく多い業務量を課したりする(④)、営業職として採用された社員に営業としての仕事を与えずに草むしりばかりさせる(⑤)、業務上必要がないのに、プライベートを詮索する(⑥)等が挙げられます。
(参照:厚生労働省 http://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/ )
これらの類型に形式的に該当したとしても、すべてが違法性を有するわけではなく、裁判例は下記を判断にあたって考慮しています(平成29年10月第5回職場におけるパワーハラスメント防止対策についての検討会 資料3)。
- 指導監督・業務命令を逸脱した行為の有無
- 行為者の動機・目的・受け手との関係
- 受け手の属性
- 行為の継続性回数、加害者の数等
- 受け手が身体的、精神的に抑圧された程度
- 人格権侵害の程度
3.企業に義務付けられる措置
そして、改正法により、企業は、パワハラを受けた者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない義務を負うことになりました。具体的にはどのような措置であるかは指針で定められるべきこととされています(本日現在まだ指針は出ていません)。
また、企業は、パワハラ問題に対する従業員の関心と理解を深めるとともに、従業員が他の従業員に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、パワハラに対し国民一般の監視と理解のため国が講ずる措置に協力するよう努めなければならないとされています。
(本稿は2019年6月30日時点のものです。)