コラム

単体6888_新規_労働基準法に違反するとどうなる?違反となる事例と罰則を弁護士がわかりやすく解説

労働基準法は、従業員を雇用している企業が特に注意して遵守すべき法律の一つです。

労働基準法に違反すると、どのような事態が生じるのでしょうか?
また、どのような行為が労働基準法違反にあたるのでしょうか?

今回は、労働基準法違反となる主なケースを紹介するとともに、労働基準法に違反した場合に起こり得る事態などについて弁護士がくわしく解説します。

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労働基準法とは

労働基準法とは、労働条件の最低基準について定めた法律です。
労働基準法の多くの規定は強行規定であり、就業規則や個々の労働契約で労働基準法を下回る条件を定めたとしても無効となります。

また、労働基準法は「うちは従業員が少ないから適用しなくてよい」などという性質のものではありません。
正社員であるかアルバイトであるかを問わず、従業員を1人でも雇用する場合は労働基準法の遵守が必要です。
誤解のないようご注意ください。

労働基準法違反となる11の事例

労働基準法違反となるのは、どのようなケースなのでしょうか?
ここでは、労働基準法違反にあたる代表的な事例を11個に分けて紹介します。

残業代を支払わない

従業員に時間外労働をさせたにもかかわらず、その時間分の残業代を支払わない場合は労働基準法違反となります。
労働基準法の規定により、労働者に時間外労働や休日労働、深夜労働(午後10時から翌午前5時までの労働)をさせた場合には、通常の賃金のほか、所定の割増賃金を支払わねばなりません(労働基準法37条)。

支払うべき割増賃金の割合は、それぞれ次のとおりです。

  • 法定時間外労働(原則):25%以上
  • 月60時間を超えた部分の法定時間外労働:50%以上
  • 深夜労働:25%以上
  • 法定時間外かつ深夜労働:50%以上
  • 法定休日労働:35%以上

この規定に違反して、支払うべき残業代(割増賃金)を支払わなかった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

法定労働時間を超えて労働させる

労働者側と所定の協定を締結することなく法定労働時間を超えて労働させた場合は、労働基準法違反となります。
労働基準法では労働時間の上限が定められており、これは休憩時間を除き「1週間あたり40時間以内、1日あたり8時間以内」です(同32条)。

ただし、従業員を代表する者と所定の協定(「36協定」といいます)を締結することで、労働時間を一定程度伸長できます(同36条)。
36協定を締結することなく法定労働時間を超えて労働者を働かせた場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

なお、36協定を締結した場合であっても無制限に労働させられるわけではありません。
36協定を締結した場合における時間外労働時間の上限は、原則として「1か月あたり45時間、1年間あたり360時間」です(同36条4項)。

休日をとらせない

労働者に休日を撮らせない場合、労働基準法違反となります。

労働基準法の規定によると、少なくとも毎週1回の休日を与えるか、4週間のうち4回以上の休日を与えなければなりません(同35条)。
この規定に違反して休日をとらせない場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

休憩をとらせない

労働者に休憩をとらせない場合、労働基準法違反となります。

労働基準法の規定によると、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければなりません(同34条1項)。
この規定に反して必要な休憩をとらせない場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

産休や育児時間をとらせない

労働者から産前産後休暇や育児時間取得の申出があったにもかかわらず、これを拒否した場合は労働基準法違反となります。

労働基準法の規定によると、産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内の女性が休業を請求した場合、その者を就業させてはなりません(同65条1項)。
また、一定の場合を除き、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないとされています(同2項)。

ほかにも、妊産婦については時間外労働や休日労働などに制限がなされます(同66条)。
そして、生後満1年に達しない生児を育てる女性は通常の休憩時間のほか、1日2回、各々少なくとも30分、育児時間の取得を請求できます(同67条)。

これらの規定に違反して産前産後休暇や育児時間を取得させない場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

休業手当を支払わない

必要な休業手当を支給しない場合、労働基準法違反となります。

使用者側の責任で労働者を休業させる場合、休業させた労働者に対して、その者の平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません(同26条)。
この規定に反した場合、30万円以下の罰金の対象となります(同120条)。

社会的な身分や性別で差別する

社会的な身分や性別によって労働者を差別した場合、労働基準法違反となります。

労働基準法には、使用者が労働者の国籍や信条、社会的身分を理由として、賃金、労働時間などの労働条件について差別的取扱をしてはならない旨が明記されています(同3条)。
また、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはなりません(同4条)。

これらの規定に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

有給を与えない

必要な有給休暇を与えない場合、労働基準法違反となります。

労働基準法では、雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対して、10日間の有給休暇を与えることが義務付けられています(同39条)。
その後も、勤続年数に合わせて、1年間に与えるべき有給休暇の日数は増加します。

正社員はもちろん、パートやアルバイトスタッフも例外ではありません。
この規定に反して有給休暇を与えない場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

予告なく解雇する

予告なく解雇した場合、労働基準法違反となります。

労働基準法では、天災事変その他やむを得ない事情があるなど一定の場合を除き、解雇する30日前までに解雇に予告をするか、30日分以上の平均賃金(「解雇予告手当」といいます)を支給しなければなりません(同20条)。
たとえば「明日から来なくてよい」のように予告なく解雇をして、解雇予告手当も支払わない場合には、この規定に違反します。

この規定に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

違約金支払いを強制する

従業員に対して違約金などの支払いを強制することは、労働基準法違反となります。

労働基準法には、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない旨の規定があります(同16条)。
たとえば、従業員が退職する際に「経費」などと称して研修費用を支払わせたり、「〇年以内に退職した場合に〇円の違約金を支払うこと」などと定めた労働契約を交わしたりすることは、違法行為です。

この規定に違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります(同119条)。

就業規則を届け出ない

常時10人以上を雇用しているにもかかわらず就業規則を作成していない場合や届け出ていない場合は、労働基準法違反となります。

常時10人以上の労働者を使用している場合、会社は就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(同89条)。
この規定に違反すると、30万円以下の罰金の対象となります(同120条)。

労働基準法に違反するとどうなる?

労働基準法違反をすると、労働基準法上どのような対応がなされるのでしょうか?
ここでは、基本的な流れを解説します。

労働基準監督署による調査が入る

労働基準監督署が何らかの形で労働基準法違反の疑いを把握した場合、労働基準監督署からの調査が入ることが一般的です。
調査では、事業場などへの立ち入りや帳簿や書類の提出請求、尋問などが行われます(同101条)。

調査の結果、違反がないことがわかればこの時点で解決となります。

是正勧告がなされる

調査の結果、労働基準法違反があることが判明すると、是正勧告がなされます。
是正勧告が出されたら、速やかにこれに従いましょう。

刑事事件に移行する

労働基準法違反が是正されなければ、刑事事件へと移行します。
その結果、有罪となると違反の内容に応じて刑事罰が課されます。
刑事事件に移行すると企業だけではなく役員個人が起訴されることもあり、業務への影響が甚大となりかねません。

企業名が公表されることがある

労働基準法に違反して刑事事件となった場合、企業名や違反内容などが公表されることがあります。
たとえば、東京労働局では、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」のページで違反事例を公表しています。

労働基準法に違反した場合のその他のリスク

労働基準法に違反した場合、労働基準法上の罰則が適用されるほかにもさまざまなリスクが生じます。
ここでは、罰則の適用以外の主なリスクを5つ紹介します。

損害賠償請求がなされる可能性がある

労働基準法に違反した場合、これにより損害を被った従業員などから損害賠償請求がなされる可能性があります。
たとえば、残業代が長期にわたって未払いであった場合、時効にかかっていない分と利息をまとめて支払うよう請求される事態などが想定されます。

企業の信頼が失墜する可能性がある

労働基準法に違反して違反事例が公表されると、企業の信頼が失墜する可能性があります。
その結果、業績が悪化したり、金融機関から融資を受けづらくなったりするおそれが生じます。

入札に参加できなくなる可能性がある

官公庁から発注を受けるには、原則として入札に参加しなければなりません。
労働基準法に違反して起訴された場合、入札の参加資格を喪う可能性があります。

従業員が採用しづらくなる可能性がある

労働基準法に違反して、ニュースとして報道されたりSNSなどで話題になったりすれば、その事実が多くの人の目に触れることとなります。
その結果、従業員を採用しづらくなる可能性があります。

許認可を失う可能性がある

業種によっては、その事業を営むために許認可を受けなければなりません。
許認可にはさまざまな要件があり、労働基準法に違反して刑罰が確定すると、許認可を喪う可能性があります。

労働基準法に違反しないための対策

ここまでで解説したように、労働基準法に違反すれば多大な影響が生じ得ます。
では、企業が労働基準法に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、労働基準法に違反しないための対策を2つ解説します。

労働基準法を理解する

1つ目は、労働基準法を読み、正しく理解することです。

労働基準法にどのような規定があるのか、どのような行為が違法であるのか知っておくことで、勘違いなどからうっかり違反する事態を避けやすくなります。
厚生労働省は労働基準法を理解するためのさまざまなリーフレットなども公表しているため、これらの資料も参考にするとよいでしょう。

判断に迷ったら弁護士に相談する

2つ目は、判断に迷った際の相談先を確保しておくことです。

実務を進めるなかで、労働基準法違反か否かの判断に迷うこともあるでしょう。
そのような際は独断で進めるのではなく、弁護士などの専門家へご相談ください。

あらかじめ弁護士へ相談することで、認識の誤りなどから違反してしまう事態を避けやすくなります。

まとめ

労働基準法に違反するケースや、労働基準法に違反した場合に生じ得る事態などについて解説しました。

労働基準法では労働条件の最低基準を定めており、原則として、これを下回る基準を設けることはできません。
労働基準法に違反すると罰則の適用対象となるほか、損害賠償請求がされたり企業イメージが低下したりするリスクがあります。

理解不足などから労働基準法に違反する事態を避けるため、迷った際には専門家へ相談することをおすすめします。

Authense法律事務所では企業法務に特化したチームを設けており、労使トラブルの予防や紛争解決にも力を入れています。
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