従業員を解雇するのは容易ではないと聞いたことのある方も多いかと思います。
では、どのような理由であれば、従業員を正当に解雇することができるのでしょうか?
今回は、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇それぞれについて、解雇をするための要件について弁護士がくわしく解説します。
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解雇の種類
解雇には、「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3種類があります。
解雇の要件は、その解雇がこれらのうちどれに当たるのかによって異なります。
そのため、解雇の要件についてお伝えする前に、解雇の種類について理解しておきましょう。
普通解雇
普通解雇とは、整理解雇と懲戒解雇以外の解雇のことです。
たとえば、従業員が何らかの理由によって労働という債務の履行をせず、労働契約の継続が困難である場合などに、発動されることが多いでしょう。
普通解雇をするためには、原則として従業員側に何らかの問題がある必要はあるものの、懲戒解雇とは異なり、制裁的な意味合いはありません。
また、退職金規程がある場合、懲戒解雇の場合には退職金が支給されない一方で、普通解雇の場合には退職金が支給されることが多いでしょう。
整理解雇
整理解雇とは、業績不振など会社側に生じた理由により、人員削減目的で行う解雇です。
整理解雇の場合には、従業員側には非がありません。
そのため、退職金規程がある場合において退職金給付の対象となることはもちろん、解雇要件がより厳格とされています。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員側に非がある場合において、制裁的な意味合いを持つ解雇のことです。
たとえば、従業員が会社の金を横領した場合など、非の程度が大きい場合に発動されます。
懲戒解雇は、従業員への制裁の中でも、もっとも重いものです。
懲戒解雇をされると、原則として退職金の給付対象とはなりません。
また、懲戒解雇をされてしまうと、再就職を探すことが難しくなる場合もあるでしょう。
そのため、従業員側の非が軽微であるにもかかわらず懲戒解雇としてしまうと、不当解雇などとして訴えられる可能性が高くなります。
普通解雇の要件と解雇理由の例
ここからは、それぞれの解雇について、解雇の要件と解雇理由の例を紹介していきましょう。
はじめに、普通解雇の要件などについて解説します。
普通解雇の要件
労働契約法16条に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」との規定があります。
これを分解すると、有効に普通解雇をするためには、次の要件をいずれも満たさなければなりません。
- 客観的に合理的な理由があること
- 社会通念上相当であること
普通解雇をした場合、その解雇が無効かどうかは、これらの要件に照らして判断されることとなります。
解雇理由の例
普通解雇の対象となる例は、次のとおりです。※1
- 勤務成績が著しく悪く、指導をしても改善の見込みがないとき
- 健康上の理由で、長期に渡り職場復帰が見込めないとき
- 著しく協調性に欠けるために業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないとき
ただし、勤務態度に問題があるといっても、たとえば一度遅刻をした程度で即座に解雇ができるわけではありません。
解雇が正当であるかどうかは、次の事情などから総合的に判断されることとなります。
- 労働者の落ち度の程度や行為の内容
- それによって会社が被った損害の重大性
- 労働者が悪意や故意でやったのか、やむを得ない事情があるか
また、業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間など、法律で解雇が禁止されている場合には解雇することができません。
整理解雇の要件と解雇理由の例
整理解雇は、従業員に非がない状況下での解雇です。
そのため、他の解雇よりも要件が厳しく定められています。
整理解雇の要件や例は、次のとおりです。
整理解雇の要件
整理解雇をするためには、次の要件をすべて満たさなければなりません。※2
- 人員削減の必要性:人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
- 解雇回避の努力:配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
- 人選の合理性:整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
- 解雇手続の妥当性:労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと
単に赤字になったからといって即座に解雇ができるわけでもなければ、辞めさせたい労働者のみを選んで解雇できるわけでもありませんので、誤解のないよう注意してください。
解雇理由の例
整理解雇をするケースとは、不況や経営不振などの理由によって解雇せざるを得ない場合です。
この場合において、人員削減目的で行うものが整理解雇です。
懲戒解雇の要件と解雇理由の例
懲戒解雇をするための要件と解雇理由の例は、それぞれ次のとおりです。
懲戒解雇の要件
労働契約法15条に、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」との規定があります。
これを分解すると、有効に懲戒解雇をするためには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
- 懲戒解雇が労働者の行為の性質や態様、その他の事情に照らして、客観的に合理的であること
- 社会通念上相当であること
また、実際には就業規則に懲戒解雇について定めていることや、その就業規則が周知されていることなども必要です。
懲戒解雇の例
懲戒解雇が可能かどうかは、ケースごとに判断されます。
ただし、従業員の責に帰すべき事由があったとして解雇予告除外認定が受けられるとされる例が公表されており、これが参考となるでしょう。※3
- 極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑事犯に該当する行為のあった場合
- 一般的にみて「極めて軽微」な事案でも、継続的に盗取や横領などを行った場合
- 事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく事業場の名誉もしくは信用を失墜する
- の、取引関係に悪影響を与えるものまたは労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
- 賭博、風紀の乱れなどにより職場規律を乱し、他の労働者や職場の信頼関係に悪影響を及ぼす場合
- 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
- 原則として2週間以上正当な理由もなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
- 出勤不良または出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合
解雇予告除外認定とは、原則として解雇30日前までに解雇予告をすべきとされているところ、この認定を受けることで解雇予告を不要とする制度です。
懲戒解雇とはイコールではなく、これらに当てはまるからといって必ずしも懲戒解雇が認められるわけではありません。
懲戒解雇は特に慎重に行う必要があるので、従業員へ懲戒解雇を告げる前に弁護士へご相談ください。
無効とされる解雇理由の例
解雇は、従業員の生活の基盤を揺るがしかねない事態です。
そのため、さまざまな法律によって解雇が制限されており、これに反する解雇は無効となります。
無効となる主な解雇は、次のとおりです。※2
労働基準法に違反する事由
次の解雇は、労働基準法の規定に違反するため、無効となります。
- 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条)
- 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条)
- 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)
労働組合法に違反する事由
労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇は、労働組合法7条の規定により禁止されています。
そのため、この規定に反してした解雇は無効です。
男女雇用機会均等法に違反する事由
次の解雇は、男女雇用機会均等法により禁止されています。
- 労働者の性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条4号)
- 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)
そのため、これらの規定に反してした解雇は、無効です。
育児・介護休業法に違反する事由
育児・介護休業法では、労働者が育児・介護休業などを申し出たことなどを理由とする解雇が禁止されています(育児・介護休業法10条、16条、16条の10、18条の2、20条の2)。
そのため、これらの規定に反してした解雇は無効です。
解雇できるかできないか判断に迷ったら
従業員を解雇できるかどうか迷ったら、企業としてはどのように対応すればよいのでしょうか?
基本の対応法方法は次のとおりです。
労使問題にくわしい弁護士へ相談する
解雇は、従業員の明日からの生活を大きく左右する、非常に重大な行為です。
また、懲戒解雇などの場合には、再就職にも影響する可能性があります。
このような事情から、解雇をされた従業員から、不当解雇であるなどとして訴訟を提起されるリスクがあるでしょう。
そのため、解雇をしようとする際には、あらかじめ労使問題に強い弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士へ相談することでその事由における解雇が無効とされる可能性をあらかじめ把握できるほか、仮に訴訟となった場合に備えた証拠集めなどの準備もしやすくなります。
また、実際に訴訟を提起された際にも、落ち着いて対応することが可能となるでしょう。
解雇理由の証拠を残す
先ほども解説したように、解雇は訴訟などへと発展する可能性があります。
そして、仮に訴訟となった場合には、証拠が非常に重要となります。
そのため、解雇をするにあたっては、従業員が解雇事由に該当したことの証拠をきちんと残しておく必要があるでしょう。
たとえば、遅刻を繰り返していることが理由である場合には、タイムカードの記録のほか、会社が従業員へ改善指導をした記録などが挙げられます。
ただし、残すべき証拠は解雇をした理由によって大きく異なるため、あらかじめ弁護士へご相談ください。
慎重に対応する
従業員を解雇する場合においては、従業員との面談や書類の差し入れなどにあたって、特に慎重な言動をとるようにしましょう。
なぜなら、不用意な言動をして従業員側に記録されてしまうと、仮に訴訟などへ発展した場合、不利となる可能性があるためです。
たとえば、解雇を告げる際に相手の人格を否定するような言動をすれば、その様子を録音などされ、パワハラであるなどと主張される可能性があるでしょう。
そのため、従業員から要求された書類を渡すかどうかはその都度慎重に検討するほか、対応する際の言動も仮に録音などをされても困らない程度に、慎重に行うことをおすすめします。
まとめ
解雇が有効かどうかの判断は、解雇理由のみで画一的に判断されるわけではありません。
その状況や従業員の問題の程度などを踏まえて、個別的に判断がされます。
実際には、法令の規定のほか、過去の判例にも照らし合わせて検討する必要があるでしょう。
有効な解雇であるかどうか、企業が独自に判例を調査して判断することは容易ではありません。
そのため、従業員を解雇したいとお考えの際には、あらかじめ弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所には、労使問題に強い弁護士が多数在籍しており、日々問題の解決にあたっています。
従業員の解雇をご検討の際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。