近年では、様々な企業において「ESG」に重点を置いた経営が広まり、資金調達の際にもESGの観点が重視されており、ベンチャー企業においてもESGを考慮に入れた経営を行う必要性が高まっています。
本記事では、様々な企業で導入されているESG経営について、その概要を説明します。
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ESG投資とは?
従前は、投資家が投資を行うにあたっては、投資先企業の業績や財務状況などの財務情報が主な判断材料とされる傾向にありました。
しかし、近年では、企業が中長期的に持続的に成長するためには、企業が社会的責任を果たすことが必要不可欠であるという観点から、ESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(コーポレートガバナンス))という考えが重視されています。
こうした財務情報以外の環境問題(E)への取り組みや労働問題(S)への取り組み、コンプライアンス体制の確立(G)などのESGへの取り組みも分析・評価したうえで、投資先企業を選別する投資方法をESG投資といいます。
ESG投資には様々な手法がありますが、世界のESG投資残高は2016年の約22.8兆ドルから2018年には約30.7兆ドルとなっており、2年間で34%増と大幅に増加しています。※1
ESG投資が拡大した背景事情
以前は、企業によっては、短期的に財務指標を達成するために利潤のみを追求するような経営がなされておりました。
しかし、無理な事業展開を強行したことにより、財務指標を達成していたとしても将来的には「環境汚染・労働問題・不祥事」といった事態を引き起こす致命的なリスクを抱えていました。
そうした中、2008年のリーマンショックを引き金とする世界金融危機を契機に、短期的なリターンのみを目指すことのリスクを認識したことにより、民間企業にもこれらに対する協力が求められ、また、企業の中長期的かつ持続可能な成長のためには、環境・社会問題などへ取り込むことが不可欠であるという考えが浸透していきました。
また、①国連が提唱した責任投資原則:PRI(Principles for Responsible Investment)の提唱、②国連によるSDGs(Sustainable Development Goals)の採択、などがESG投資への取り組みを加速させることになりました。
日本における政策・法整備
日本においても、金融庁が2014年に日本版スチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の諸原則)を制定・公表し、2017年の改訂により、機関投資家が、投資先企業のESG要素を含む非財務情報などを的確に把握することを義務付けました。
また、金融庁は、2020年3月に同コードを再改訂して、機関投資家には、投資先企業に対しESG要素なども考慮したエンゲージメントを行うことなどが求められるようになりました。
そして、コーポレートガバナンスの強化に関する会社法改正により、上場会社については、取締役である独立役員を1名以上確保する努力義務が東京証券取引所の上場規則に規定され、さらには、2019年に、コーポレートガバナンスの強化につき再度の法改正がなされています。
こうした昨今のESG投資を促進するための政策・法の整備より、ESG投資を巡る取り組みがより一層加速し、日本におけるESG投資の市場規模は、今後も拡大傾向が続くことが見込まれます。
ベンチャーはじめ会社の資金調達の指標はESG指標―資金調達事例―
上記のとおり、近年では、ESG課題への取り組みが非常に重視され、日本においても、機関投資家によるESG投資が活発になっています。
そのため、ESGへの配慮や対応が不十分である場合には、企業の中長期的な発展を望むことができず、低い企業評価がなされ、投資対象から除外される傾向がみられるようになってきています。
そして、こうしたESG投資の波は、ベンチャー企業にも及んでいます。
例えば、国内初の創薬型の農薬スタートアップである株式会社アグロデザイン・スタジオが、農薬スタートアップとして国内初の資金調達に成功し、約1億円の資金調達を行っています。※2
また、障害者手帳アプリ「ミライロID」を運営する株式会社ミライロは、第三者割当増資により2億8000万円の資金調達に成功しています。※3
そのため、ベンチャー企業における資金調達においても、今後、ますますESGを意識した取り組みが必要となってくるでしょう。
さらに、近年では、調達した資金の使途を環境課題の解決に限定して発行される債券である「グリーンポンド」や環境に配慮した事業(グリーンプロジェクト)へ使途を限定したローンである「グリーンローン」、調達資金の融資対象が限定されず企業のESGへの取り組み状況に応じて金利などの融資条件を優遇する「サステナビリティ・リンク・ローン」などのいわゆるESGファイナンスというものに注目が集まっています。
これらに関する環境省によるガイドラインの策定により、グリーンボンドについては、国内の発行実績が確実に積みあがっており、またグリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローンについても、各金融機関において取り組みが進んでいる状況です。※4
まとめ
ESGの考え方は、ベンチャー企業を含む全ての企業において極めて重要な指標となってきています。
また、上記のとおり、ESGに取り組む企業向けの融資などもあるため、特に資金調達の場面においては、今後ますますESGに取り組む必要性が高まっていくでしょう。
こうしたESGを考慮した経営に取り組むためには、法務面からもしっかりと対策をすることが必要となります。
そのため、ESGの取り組みにご不安がある場合には、まずは弁護士に相談することをお勧めします。