近年、「SDGs」や「ESG」という言葉を耳にする機会がずいぶん増えてきました。
経済誌やテレビ番組などで特集を組まれることもあるほどです。
ドーナツ型をしたカラフルなピンバッチを付けている人を見かけたことがあるという人も多いのではないでしょうか?
ただ、「SDGs」や「ESG」を聞いたことはあるものの、きちんと理解をしている人はまだまだ多くはありません。
ここでは、SDGsやESGについて改めて整理をしていきます。
SDGsやESGについて理解をするとともに、自社にどのように関係するのか検討してみてください。
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話題の「SDGs」とは
では、SDGsとは何のことを指すのでしょうか?
まずは、SDGsについて解説します。※1
ダボス会議とSDGs
ダボス会議とは、非営利財団である世界経済フォーラムが開催する年次総会のことです。
スイス東部のダボスで開催されることから、ダボス会議と呼ばれています。
世界経済フォーラムとは、スイスのジュネーブに本部を置く非営利財団で、世界の大企業100社がパートナーとなっています。
さて、SDGsは、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標です。
このSDGsの達成により、2030年までに少なくとも12兆ドルの経済効果、最大3億8000万人の雇用が創出される可能性があるとのレポートが2017年のダボス会議で公表されたことにより、SDGsを単なるボランティア的な思想ではなく、企業の新たな成長機会として捉えられるようになりました。※2
SDGsとは何か
SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略称であり、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。
17のゴールと、その下に位置する169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指しています。
なお、SDGsには期限があり、2030年をその年限としている点も大きな特徴です。
日本もSDGsに積極的に取り組んでおり、2016年5月に、総理大臣を本部長、官房長官、外務大臣を副本部長とし、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置し、同年12月にはSDGs実施指針を決定したほか、2020年12月の第9回推進本部会合では、2021年のSDGs推進のための具体的施策をとりまとめた『SDGsアクションプラン2021』を決定しています。※3
SDGs17の目標
さて、SDGsには17のゴールが定められていますが、そのゴールとはどのようなものでしょうか?
17のゴールの概要を挙げておきます。
- 1.貧困をなくそう
- 2.飢餓をゼロに
- 3.すべての人に健康と福祉を
- 4.質の高い教育をみんなに
- 5.ジェンダー平等を実現しよう
- 6.安全な水とトイレを世界中に
- 7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 8.働きがいも経済成長も
- 9.産業と技術革新の基盤をつくろう
- 10.人や国の不平等をなくそう
- 11.住み続けられるまちづくりを
- 12.つくる責任つかう責任
- 13.気候変動に具体的な対策を
- 14.海の豊かさを守ろう
- 15.陸の豊かさも守ろう
- 16.平和と公正をすべての人に
- 17.パートナーシップで目標を達成しよう
企業も、SDGs達成に向けた取り組みを行うことで、企業イメージの向上につながり、持続可能な経営を行うための生存戦略となったり、新たな事業創出の機会となったりします。特に自社の業務と親和性の高いゴールを選択し、取り組んでいくことも1つでしょう。
話題の「ESG」とは
さて、SDGsと似た文脈で使用される言葉に「ESG」があります。
では、ESGとは何のことでしょうか?
SDGsとの違いも併せてみていきましょう。
ESGとは何か
ESGとは、「環境(Environment)」、「社会(Social)」及び「ガバナンス(Governance)」それぞれの頭文字を取って作られた言葉です。
ESGは、それ単独というよりも、「ESG投資」という言葉で使われることが少なくありません。
ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資のことを指します。
経済産業省によれば、投資にESGの視点を組み入れることなどを原則として掲げる国連責任投資原則(PRI)に、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に署名したことを受け、日本においてもESG投資が広がっているとされています。※4
SDGsとESGとの違い
それでは、SDGsとESGとはどのように異なるのでしょうか?
SDGsは、全ての国及び全てのステークホルダーに対する、それぞれの取り組みの「ゴール」を指している一方で、ESGは、本来は、国連が、投資家や金融機関の投資判断を変えるために提唱した言葉で、近年、企業の長期的な成長のためにはESGに取り組むことが重要との考え方が広まってきております。企業活動の「プロセス」に着目をしています。※5
これが、SDGsとESGとの大きな違いです。
「ESG」に配慮した行動を取っていくことの目的が「SDGs」に繋がると考えると良いでしょう。※6
企業がSDGsやESGに取り組むべき理由
では、企業はSDGsやESGへ取り組むべきなのでしょうか?
自社とは関係がないと感じている企業もまだまだ多いように感じられますが、ここでは企業がSDGsやESGへ取り組むことのメリットや取り組むべき理由について解説します。
投資家が企業を評価する指標になってきた
先ほど述べた国連責任投資原則(PRI)に賛同する投資家が世界的に増えてきており、その実績も出てきたことで、むしろ積極的に投資判断に活かすべきであるという考え方にも変わってきております。
日本国内でも、大手機関投資家などが、ESGの視点を元に投資を行っており、企業にとって無視できないものであることは明らかではないでしょうか。
長期的なパフォーマンスに影響する
そもそも、SDGsは単なるボランティア的な思考ではありません。
ゴールの達成へと取り組むことで、経済成長、すなわち長期的な視点で見た際には企業の利益増大へと繋がるものとされています。
少々極端な例ではありますが、例えばいくら便利なものを作っていたとしても、公害の原因となるような物質を垂れ流している企業が、長期的に見て成長しづらいという点は、お分かり頂けるのではないでしょうか?
もちろん、公害などは法規制もあるところではありますが、それ以前に、このような短期的な生産活動をする企業は顧客のみならず、社会そのものから支持されにくいですし、融資を受ける際に金融機関からの評価がマイナスになる可能性が高いです。
社会全体としてSDGs・ESG的な視点を重視する方向となってきている昨今、企業が顧客や他の関係者から支持され、長期的に成長をしてくためには、仮にSDGsやESGとの用語自体は用いないとしても、少なくともSDGsやESG「的な」視点は不可欠な時代となっているのです。
顧客が求めている
上記とも関連しますが、同じ商品であれば、SDGsやESG的な商品や企業の商品を選んで購入したいという人は増加傾向にあります。
SDGsのゴールには環境問題も含まれますが、前述した17の目標をご覧いただくとわかるとおり、ジェンダーの平等など、環境以外のもの含まれています。
環境汚染をくり返す企業や、例えば女性に対して差別的な取り扱いをする企業では、遅かれ早かれ顧客から見放されてしまうでしょう。
SDGsやESGは、単なる耳あたりの良いスローガンではなく、企業が顧客から選ばれ、持続可能な開発を行うためには、もはや避けては通れない目標なのです。
SDGs・ESGと法令
SDGsやESGにつき、個別の法令が定められているわけではありません。
だからといって、SDGsやESGに関する法令がないのかと言えばそうではなく、そもそも、さまざまな個別法の中でSDGsやESG的な考え方は含まれているのです。
例えば、ゴール14の「海の豊かさを守ろう」に関連する法としては「環境基本法」や「水質汚濁防止法」などがあり、ゴール5の「ジェンダー平等を実現しよう」に関連する法としては、「男女雇用機会均等法」などがあります。
そのため、企業が関連法規をしっかりと遵守していくことで、それ自体がSDGsやESGへの取り組みへと繋がるのです。
なお、2020年10月、世界のESG投資を牽引するPRI(国連責任投資原則)が、「日本の持続可能な金融政策に関する報告」と題した提言書を公表しました。※7
この提言では、日本政府に対してさらなる政策や法制度の整備などを訴えています。この背景には、ESG投資に関する見えにくい日本市場に対する海外投資家の不満の高まりがあったようです。これに対して、日本がどのように対応していくかという点が注目されています。
SDGs、ESGと資金調達
次に、SDGs、ESGと資金調達についてみていきましょう。
SDGs、ESGにしっかりと取り組むことが、資金調達にも繋がっていきます。
SDGs、ESGと投資
ESG投資は、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。※4
SDGs、ESGへ取り組んでいる企業へ積極的に投資をする投資家もいれば、ESG・SDGsに積極的に取り組む企業へ投資する投資信託商品も数多く登場しているのが現状です。※8
このようなSDGs、ESG企業への投資は、単なるボランティア精神のみから来るものではありません。
投資した資産を長期的な視点で増やしていくためには、SDGs、ESGへ取り組んでいる企業へ投資をすることが、経済的にも合理的であると判断しているのです。
社会全体としてSDGs、ESG的な嗜好が高まっている以上、今後もSDGs、ESG企業へ積極的に投資をする人は、増えていく傾向にあるでしょう。
SDGs、ESGと金融機関
積極的にSDGsやESGへと取り組むことで、金融機関からの融資が得やすくなることも考えられます。※9
SDGsやESGへの取り組みは、前述のとおり企業の成長にとって不可欠なものとなりつつあります。
こうした企業は金融機関としても融資対象となりやすいことに加え、金融庁が2018年6月、「SDGsは、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すという金融行政の目標にも合致するものであり、金融庁としてもその推進に積極的に取り組む」と表明したことで、今後いっそうSDGsやESGへ取り組む企業への追い風となることでしょう。
SDGs、ESGの取り組み事例の検討
それでは、企業はどのようにSDGsやESGへと取り組んでいけば良いのでしょうか?
企業のSDGs、ESGへの取り組みは、それぞれの企業が、自社に合った方法で、自社に合った取り組みをしていけば良いのです。
まずは、前述のとおり自社に関連する法令を見直し、改めて遵守していくことも、重要な取り組みの1つと言えるでしょう。
SDGs、ESGの情報収集
とは言っても、法令順守のほかに何をすれば良いかわからない場合も多いかと思います。そのような場合は、コンサルタントへ依頼することも1つですが、外務省が公表している企業ごとの取り組み事例を参考とするのも良いでしょう。
外務省のSDGsサイトでは、さまざまな企業のSDGsへの取り組み事例が紹介されています。※10
自社と似た業種の事例を参考としてみることで、具体的に何をすべきかというイメージが、より湧きやすいのではないかと思います。
また、SDGs推進本部において、「ジャパンSDGsアワード」の創設が決定され、SDGs達成に資する優れた取り組みを行っている企業・団体などをSDGs推進本部として表彰することになりました。※11
このアワードを一つの具体的な目標とすることも良いのではないでしょうか。
まとめ
SDGsやESGは、必ずしも何か新しいことを始めるべきということではなく、すでに自社で取り組んでいる事項の延長線上にあることも少なくありません。
まずは、自社の取り組みを整理し、SDGsのゴールに当てはめて考えてみると良いでしょう。
また、SDGs、ESGへの取り組みとして、よりきちんと法令順守をすることがその第一歩目となります。
もちろん、既にしっかり遵守している企業もあるでしょうが、少しでも不安がる場合には、弁護士へも相談されつつ、改めて自社に関連する法令の洗い出しをされることをおすすめします。
【参考文献】
- ※1 外務省:SDGsとは?
- ※2 国立研究開発法人 科学技術振興機構:持続可能な開発目標の達成に向けた科学技術イノベーションの貢献(STI for SDGs)に関するJST の基本方針
- ※3 外務省:日本政府の取組
- ※4 経済産業省:ESG投資
- ※5 d’s JOURNAL:【5分でわかる】ESG・ESG投資とは?ー選ばれる企業になるために必要な経営戦略ー
- ※6 東証マネ部:注目のキーワード「SDGs」と「ESG」はどう違うの?
- ※7 日経ESG:PRIが日本のESG投資に提言
- ※8 野村證券:ESG商品ラインアップ
- ※9 日本銀行 金融機構局 金融高度化センター:SDGs/ESG金融に関する金融機関の取り組み
- ※10 外務省:JAPAN SDGs Action Platform
- ※11 外務省:ジャパンSDGsアワード