<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
1.はじめに
企業が新しいサービスを始めるにあたり、ユーザーにポイント等を付与し、あるいは購入してもらうことを検討される場合も多いのではないでしょうか。例えば、LINEポイントを購入してスタンプを購入するLINE社の方式が有名です。他にも、多くのスマートフォン向けゲームでは「ガチャ」を回すために、ユーザーにポイント購入してもらうこともご存知でしょう。(各社により様々な名称がございますが、本稿ではまとめて「ポイント等」と総称いたします。)
ただ、こうしたポイント等を活用したサービス展開は、資金決済法における「前払い式支払い手段」に該当し、届出等の手続きが必要になることがございます。前払い式支払い手段に該当するにもかかわらずこうした手続きを行わなかった場合には、罰則を受けるリスクもございます。
そこで、本稿では資金決済法上の「前払い式支払い手段」にあたるかの判断基準について、ご説明したいと思います。
2.前払い式支払い手段とは
⑴ 定義
資金決済法第3条には、次のように記載されています。
- ①証票、電子機器その他の物に記載され、又は電磁的方法により記録される金額に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
- ②証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
①については、金額表示の前払い式支払い手段を指し、売買契約でものを買い受ける場合に、その反対給付としての代金の支払いに使用することができる金券的な前払い式支払い手段を指します。
例えば、1000円券といった商品券やプリペイドカードがこれにあたります。
②については、数量表示の前払い式支払い手段を指します。これ自体で何かを請求する権利が表されているものを指します。例えば、ビール券やガソリン券がわかりやすい例となります。
⑵ 要件
条文上内容がわかりにくくなってはいますが、前払式支払手段とは、次の3つの要件を備えるものをいうとされています。
- ①金額等の財産的価値が記載・記録されていること(価値の保存)
- ②金額・数量に応ずる対価を得て発行される商標等または番号、記号、その他の符合であること(対価発行)
- ③代価の弁済等に使用されること(権利行使)
以上3つの要件に該当する場合には、前払式支払手段にあたり、表示手段が金額なのか数量なのかにより金額表示の前払い式支払い手段・数量表示の前払い式支払い手段に分かれることとなります。
3.ポイント等を活用したサービスへの適用
ポイント等を活用したウェブサービスの場合どうなるのか、簡単に検討してみます。
ポイント等を使用する場合には、ユーザーのポイント数をサーバー上等で管理することになるでしょう。そして、当然、ユーザーにもポイント数を示すことになるので、原則として①を満たすこととなります。
したがって、ここで重要になってくるのは、②ポイント等に対価が支払われていること(対価性)と③物品やサービスの交換手段等として使用できること(権利行使性)の2点となります。
たとえば、スマホゲームなどにおけるポイントの場合には、多くの場合、有償で購入するものがございます。この場合、有償で購入するポイントがある以上、原則として②対価性が認められるでしょう。また、ポイント等を利用して何らかのサービス(例えば「ガチャ」を引く)を受けますから、③の権利行使性も満たす場合が多いと考えられます。したがって、多くの場合、前払式支払手段にあたるのではないでしょうか。
もっとも、ポイント等は必ずしも有償で配布されているものばかりとは限りません。各社が販売促進費や広告宣伝費を負担して、利用者におまけや景品として付与する場合もございます。こうした、利用者から一切対価を受けることなく利用者に付与するポイントに関しては、現行法上、②対価性を満たしませんので、前払い式支払い手段に該当しません。
ただし、こうした対価性のないポイント等に関しても規制対象とすべきであるとの議論もあり、将来的には規制の対象となる可能性がございます。また、金銭が直接の対価となる場合だけではなく、実質的に見て経済的な対価を得ているといえる場合には、前払式支払手段に該当する可能性がございます。
4.おわりに
ポイントサービスに関しては、現在のところ対価性や権利行使性の要件を中心に資金決済法上の前払式支払手段にあたるかが判断されており、当該規制に服するかに関しては、十分慎重に判断しなければなりません。特に、何かしらの対価が絡む場合には注意が必要です。