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以前の記事において、『キャラクターと著作権』というテーマで、キャラクターに著作権が認められる、ということの意味について説明いたしました。
著作権の保護を受ける「著作物」として認めてもらうためには、その作品が「表現物」でなければならず、キャラクターとは抽象的な概念(アイデア)に過ぎないので、キャラクターそのものは著作物ではない、ということがその結論でした。
もっとも、いくらキャラクターが抽象的な概念にすぎないとしても、そのキャラクターを目に見える形で具現化したイラスト、映像(以下では併せて「イラスト等」ということにします。)といったものは「表現物」であり、著作物として認めてもらうことができます。
そして、それらのイラスト等が著作物である以上、そのイラスト等を利用する場合には、権利者から許諾を受けたり、著作権自体を譲渡してもらうための契約を締結する必要があります。
また、著作権以外の権利処理が必要となることもあります。
今回は、「第三者のキャラクターをゲーム内に利用する際の注意点」というテーマで、キャラクター利用時の注意点を説明いたします。
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1 キャラクターをゲーム中に使用する際のパターン
アニメや漫画、映画に登場するキャラクター(のイラスト等)をゲームの中に取り込む際には、2つのパターンが想定できます。
(1)1つ目のパターン
1つ目のパターンは、そのキャラクターが登場するアニメや漫画、映画作品のタイトルをそのまま冠する形でのゲーム化です。
たとえば、株式会社バンダイナムコエンターテインメントの『ドラゴンボールレジェンズ』などは、アニメ『ドラゴンボール』のタイトルをそのまま冠する形で、同ゲーム内に同アニメ内のキャラクターを登場させておりますので、この例に該当します。
(2)2つ目のパターン
2つ目のパターンは、そのキャラクターが登場するアニメや漫画、映画作品と当該ゲームがコラボレートする形で、当該ゲームの中に、コラボレート先のキャラクターを登場させる形でのゲーム化です。
たとえば、ガンホー・オンライン・エンターテインメント株式会社のソーシャルゲームである『パズル&ドラゴンズ』(通称『パズドラ』)では、アニメ『エヴァンゲリオン』やゲーム『ファイナルファンタジー』といった様々なコンテンツとのコラボレーションが行われ、それらのコンテンツ内で登場するキャラクターをパズドラ内で使用しています。
なお、2つ目のパターンでは、場合によっては、キャラクターそのものを登場させるのではなく、ゲーム内のキャラクターにコラボレート先のキャラクターのコスプレをさせる場合もあります。いずれにせよ、著作権法上の著作物として保護されるのは、キャラクターそのものではなく、あくまでキャラクターのイラスト等といった表現物であるので、当該キャラクターの服装のイラスト等に個性が認められるのであれば、その服装のイラスト等が著作物となりますので、これを利用する場合には権利処理が必要となります。
2 第三者のキャラクターをゲーム内に登場させる際の権利処理
必要な契約の類型
「最近流行りのあのキャラクターをゲーム内に登場させたい。」と考えた場合、誰とどのような契約を締結すればよいか(どのような権利処理をしなくてはならないか)ということを考える必要があります。
ここでは「そのキャラクターをどのような形でゲーム内に登場させ、完成品をどのような形でリリースするのか」ということを予測し、それに見合った権利処理を行わなければなりなりません。
キャラクターをゲーム内に登場させる場合、そのキャラクターのイラスト等を使用することは当然ですが、そのキャラクターが本来的に登場するアニメやゲームのタイトルも使用することになるでしょう。場合によっては、背景も使用するかもしれません。
また、ゲーム内でキャラクターに喋ってもらいたいのであれば、声優さんにも出演を依頼する必要があります。
では、出来上がったゲームはどのような形でリリースされるでしょうか。インターネット上での配信、DVDやBlu-ray Discに固定した上での頒布等、様々な方法が考えられます。
そして、各リリース方法ごとに、著作権法上の権利処理も異なってきます。
このように、第三者のキャラクターをゲーム内で使用する場合には、ゲームの制作の場面とリリースの場面を具体的に想像し、適格な権利処理を行う必要があるわけです。
以下では、第三者のキャラクターをゲーム内に登場させる際に必須となる、著作権処理のための「ライセンス契約」と声優さんにアフレコをしてもらうための「出演契約」の2種類について説明いたします。
(1)ライセンス契約
これまで述べてきましたとおり、キャラクターのイラスト等は、著作物として著作権法により保護されますので、第三者が勝手に使用することはできません。
そこで、キャラクターをゲーム内で使用するためには、ゲーム制作者側で、著作権者から「私のキャラクターのイラスト等を使用してゲームを作っていいですよ。」という許諾を得なければなりません。この場合に締結される契約は、「商品化許諾契約」や「キャラクター商品化(ライセンス)契約」と呼ばれます。
実は、著作権は、複製権、上演権、演奏権、頒布権、譲渡権、翻案権、同一性保持権、氏名表示権といったいくつもの種類の権利の総体で、利用形態によって、どの権利について許諾を受ける必要があるのかを判断しなくてはなりません。
たとえば、単純にそのキャラクターのイラスト等をコピーして使いたいのであれば複製権、既存のキャラクターのイラスト等をアレンジしたいのであれば翻案権や同一性保持権についてそれぞれ許諾を受ける、といった形です。
とりわけ、ソーシャルゲームで使用する場合には、キャラクターのイラスト等をネットで配信することとなるため、公衆送信権といった権利の許諾が必要となる上、限られたピクセルでキャラクターを再現する必要があるため、必然的にオリジナルのイラスト等をある程度改変する必要があり、複製権だけでなく、翻案権や同一性保持権について許諾も必要となります。
さらに、許諾を受ける範囲についても、当該ゲームをプレイするためのゲーム機、スマートフォンのキャリア、プラットフォーム等を明確にし、配信地域にも限定を加える必要があります。
著作権を構成する各権利の内容や許諾範囲については、微妙な判断が要求されることも多いため、商品化許諾契約の締結を考える際には、著作権法に強い弁護士に相談することをおすすめします。
(2)声優の出演契約
前述のように、ゲーム内においてキャラクターにセリフを付け、実際に声優さんにアフレコをお願いする場合には、声優さんとの間で出演契約を締結する必要があります。
その契約の主な内容は、声優さんがゲームのキャラクターのセリフについてアフレコを行い、これに対する対価(出演料)をゲーム制作会社ないし企画者が支払うというものです。
また、契約の条項としては、声優さんに当該ゲームの広告宣伝活動へ参加義務を課したり、出来上がったゲームのセリフ部分について、ゲーム制作者ないし企画者に権利が帰属する旨を定めたりすることもあります。
契約の当事者には、声優さん自身がなることもありますし、当該声優さんが所属する芸能プロダクションが契約を締結する場合もあります。
声優さん個人が契約の当時者となるか、はたまた、所属プロダクションが当事者となるかは、声優さんと所属プロダクションの間で結ばれている契約(マネジメント契約)の内容によることとなります。
3 著作権者の調査と確定
これまで、キャラクターのイラスト等をゲーム内で利用する場合には、著作権者と許諾契約を締結する必要があることを述べました。
ここで意外と盲点となっているのが、「著作権者は誰か」という調査が意外と難しいという点です。
以下では、アニメのキャラクターを利用する場合を想定して、その著作権者について説明いたします。
(1)オリジナルアニメと漫画等原作アニメ
テレビアニメは、大きく分けて完全オリジナル作品(以下「オリジナルアニメ」といいます。)と、漫画、ゲーム、ライトノベル等を原作とする作品(以下「漫画等原作アニメ」といいます。)にわかれます。
そして、オリジナルアニメか漫画等原作アニメかによって、そのキャラクターのイラスト等の著作権の所在は変わってくることとなります。
(2)オリジナルアニメ内のキャラクターのイラスト等の著作権者
オリジナルアニメ内のキャラクターのイラスト等の著作権者の確定はさほど難しくありません。
キャラクターのイラスト等の著作者となるのは、そのイラスト等を表現した者、つまり、「キャラクターのイラスト等のアイデアを作品として具現化した者」です。
したがって、原則として、キャラクターデザインを担当した人物が著作者となり、そのイラスト等に関する著作権も取得することとなります。
もっとも、当該キャラクターデザイナーが制作会社お抱えのデザイナーであり、制作会社と雇用契約を結んでいるといった場合もあります。
この場合には、当該デザイナーの制作したキャラクターのイラスト等は、「職務著作」として認定され、著作者そのものが制作会社となります(著作権法第15条)。
職務著作のお話は割愛いたしますが、ここでは「キャラクターデザイナーが、制作会社から業務委託を受けるという形ではなく、制作会社に雇われている場合には、当該デザイナーがキャラクターのイラスト等を制作したとしても、著作者は制作会社となる。」とおぼえておいてください。
もっとも、いずれの場合にも、著作権者たるデザイナーないし制作会社から、著作権が第三者へ譲渡されている可能性もあるので、著作権譲渡の事実があったかどうかは本人に確認する必要があります。
(3)漫画等原作アニメ内のキャラクターのイラスト等の著作権者
漫画等原作アニメ内のキャラクターのイラスト等の著作権者の認定は、少々複雑となります。
日本の著作権法では、漫画等の作家である「原著作者」は、その漫画等自体の著作物だけでなく、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作された著作物」(いわゆる「二次的創作物」[「二次的著作物」])についても、権利を持つものとされています(著作権法第28条)。
ここで「二次的著作物」とは、原著作物の著作者以外の人物が、原著作物にアレンジを加えた場合をいいます。
簡単にいうと、「原作品の著作者は、第三者が原著作物にアレンジを加えた二次的著作物を制作した場合、その二次的創作物についても権利を持っている」ということです。
つまり、漫画等原作アニメ内のキャラクターのイラスト等をゲームにおいて使用する場合には、漫画等の原作内キャラクターのイラスト等が原著作物、アニメ内のキャラクターのイラスト等が二次的創作物(二次的著作物)に該当し得、この場合には、アニメ内のキャラクターのイラスト等の著作権者だけでなく、漫画内のキャラクター等のイラストの著作権者からも許諾を得る必要がある、とういことです。
たとえば、ソーシャルゲーム内に使おうとしているキャラクターのイラスト等が、原作漫画等にないようなコスチュームやポーズであり、つまり、対応するイラスト等が原作に存在しない場合には、原作者と二次的著作者の両方から許諾を得る必要があることとなります。
また、さらにやっかいなことに、漫画等の作家によっては権利管理会社を設けてそこで著作権管理を行っている場合もあり、この場合にはその権利管理会社からも許諾を得なければなりません。
このように、漫画等原作アニメ内のキャラクターのイラスト等を使用する場合には、オリジナルアニメの場合に比べて権利の帰属先の判断がかなり難しくなります。
(4)著作権者から許諾を得る方法
実際に、他人のキャラクターのイラスト等をゲームに登場させようとする者は、著作権者が誰であるのかを確認し、その許諾を得る必要があります。
ここでは、以下の2段階のステップがあります。
まず、アニメはいわゆる「製作委員会方式」を採られることが多く、アニメに関する交渉窓口となる者が決められておりますので、その人物とアポイントを取り、アニメ内のキャラクターのイラスト等の著作権者から許諾を得る必要があります。
次に、漫画等原作アニメのキャラクターのイラスト等を使用する場合には、上記窓口となる人物や出版社を通して原著作者の許諾を得ることとなります。
著作権者の確定や許諾交渉は難航することが多く、契約書の整備も必要となるため、著作権法を専門とする弁護士に相談されることをおすすめします。
4 まとめ
今回の記事では、他人のキャラクターをゲーム内に使用する場合の権利処理について説明させていただきました。
今回はゲーム制作に焦点をあてましたが、これはゲーム制作に限らず、それ以外の媒体にキャラクターを登場させる場面でも、ほぼそのまま当てはまることです。
キャラクターの使用についての契約に不備があり、コンテンツそのものが瓦解することも稀ではありませんので、弁護士等の専門家に相談の上、コンテンツ制作・リリースのために必要となる契約を洗い出し、権利者との交渉を進めていくことが肝要です。