株主総会とは株式会社の最高意思決定機関であり、株式会社の重要な事項などを決議します。
そして、株主総会の決議方法には、普通決議のほか、特別決議と特殊決議があります。
株主総会の特別決議は、どのような要件で成立するのでしょうか?
また、株主総会では、どのような場面で特別決議が必要となるのでしょうか?
今回は、株主総会の特別決議について、弁護士がくわしく解説します。
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株主総会決議の3種類
株主総会決議には、普通決議と特別決議、特殊決議の3種類があります。
はじめに、それぞれの決議について概要を解説します。
- 普通決議
- 特別決議
- 特殊決議
普通決議
普通決議とは、株主総会におけるもっとも一般的な決議方法です。
普通決議は、行使可能議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数が賛成することによって成立します(会社法309条1項)。
ただし、定款の定めにより、定足数要件の排除が可能です。
役員の選任や解任、役員の報酬決定、剰余金の配当などは、この普通決議で決せられます。
特別決議
株主総会の特別決議とは、株主にとって特に重要な場面で採用される決議方法です。
そのため、普通決議よりも成立要件が厳しくなります。
特別決議の決議要件や特別決議が必要とされる事項などは、後ほどくわしく解説します。
特殊決議
特殊決議とは、株主にとってきわめて重要な場面で採用される決議方法です。
特殊決議には、次の2つが存在します。
- 行使可能議決権の半数以上を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立するもの(同3項)
- 行使可能議決権の半数以上を有する株主が出席し、出席株主の議決権の4分の3以上の賛成で成立するもの(同4項)
いずれも、定款で定めることで定足数要件や議決権要件の荷重が可能です。
一方、定款で定めても、要件を緩和することはできません。
株主総会特別決議の決議要件
株主総会の特別決議は、どのような要件を満たした際に成立するのでしょうか?
ここでは、特別決議の成立要件について解説します。
定足数の要件
1つ目は、定足数の要件です。
定足数要件について平たくいえば、「出席者数の要件」です。
特別決議を成立させるには、議決権を行使することができる株主の議決権のうち、過半数を有する株主が出席しなければなりません(同309条2項)。
なお、あくまでも「議決権数」から見た出席者数要件であり、株主の人数(頭数)で判断するわけではないため注意が必要です。
株主が100人いる場合に、51人の出席が必要ということではありません。
株主が100人いても、そのうちの1人であるA氏が51%の議決権を有していれば、A氏さえ出席すればこの要件を満たします。
反対に、このA氏が出席しなければ、他の99人の議決権を集めても過半数とはならないため、特別決議を成立させることはできません。
なお、定足数の要件である「過半数」は、定款で定めることにより、「3分の1以上」の割合にまで緩和できます。
表決数の要件
2つ目は、評決数の要件です。
特別決議を成立させるには、出席した株主の議決権のうち、3分の2以上が賛成しなければなりません(同309条2項)。
これも株主の頭数ではなく、議決権数による割合です。
たとえば、株主が100人いてもそのうちの1人であるA氏が67%の議決権を有していれば、A氏だけが賛同することで決議は成立します。
なお、評決数の要件である「3分の2以上」は、定款でこれを上回る割合を定めることも可能です。
定款で定めたその他の要件
これらのほか、定款で特別決議の要件を付け加えることが可能です(同309条2項)。
たとえば、定款で頭数の要件を加え「少なくとも3名以上の株主による賛同が必要」とした場合は、仮にA氏1人が67%の議決権を有していても、A氏だけで特別決議を成立させることはできなくなります。
目的に応じてさまざまな設計が検討できるため、特別決議の要件を追加したい場合には、弁護士へご相談ください。
特別決議が必要とされる主な事項
株主総会の特別決議は、どのような場面で必要となるのでしょうか?
ここでは、特別決議が必要とされる主な決議事項を紹介します。
- 譲渡制限株式の買取
- 特定の株主からの自己株式の取得
- 全部取得条項付種類株式の取得
- 相続人に対する売渡し請求
- 株式併合
- 募集株式の募集事項の決定
- 新株予約権の発行における募集の決定
- 取締役・監査役等の責任の一部免除
- 現物配当
- 定款変更
- 事業譲渡の承認
- 解散
- 吸収合併・新設合併
譲渡制限株式の買取
株式会社は、譲渡制限株式を発行できます。
譲渡制限株式とは、株主が株式を譲渡する際に発行会社の承認が必要となる株式です(同136条)。
株式の譲渡を承認しない場合、会社がその株式を買い取るか、指定買取人を指定しなければなりません(同140条1項)。
会社が譲渡を承認せず譲渡制限株式を買い取る場合には、株主総会決議によって次の事項を決定します。
- 対象株式を買い取る旨
- 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式を発行している場合は、種類と種類ごとの数)
この決定や指定買取人の指定は、特別決議で行わなければなりません(309条2項1号)。
ただし、指定買取人はあらかじめ定款で定めることも可能です。
特定の株主からの自己株式の取得
株式会社が株主との合意によって自己株式を有償で取得するには、株主総会の決議によって、あらかじめ次に掲げる事項を定めなければなりません(同156条1項)。
- 取得する株式の数(種類株式を発行している場合は、種類と種類ごとの数)
- 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容とその総額
- 株式を取得することができる期間(1年以内)
この株主総会決議は、特別決議によることが必要です(309条2項2号)。
全部取得条項付種類株式の取得
株式会社は、全部取得情報付種類株式を発行できます(同171条)。
全部取得条項付種類株式とは、株主総会の決議によって、株式の全部を取得できる旨の性質を有する株式です。
会社が全部取得条項付株式を買い取る際は、株主総会で一定の事項を定めなければなりません。
この決議は、特別決議で行います(同309条2項3号)。
相続人に対する売渡し請求
株式会社は、相続などで自社の株式を取得した者などに対し株式を自社に売り渡すよう請求できる旨を、定款で定めることができます(同174条)。
このような定款の定めがある場合に、実際に相続人などに対して株式の売渡を請求する際は、株主総会で次の事項を定めなければなりません(同175条1項)。
- 売渡し請求をする株式の数(種類株式を発行している場合、種類と種類ごとの数)
- 株式を有する者の氏名または名称
この決議は、株主総会の特別決議によって行います(同309条2項3号)。
なお、買い取り請求の対象者は、原則としてこの決議で議決権を行使できません(同175条2項)。
株式併合
株式併合とは、複数の株式を1株にまとめることです。
たとえば、従来の2株を1株とすることなどが、これに該当します。
株式併合をする際は、株主総会決議で併合の割合など一定の事項を定めなければなりません(同180条2項)。
この決定は、特別決議で行います(同309条2項4号)。
募集株式の募集事項の決定
株式会社が新たに発行する株式などの引き受け手を募集しようとするときは、その都度、募集株式の数など一定事項を定めなければなりません(同199条)。
この募集事項の決定は、株主総会特別決議によって行います(同309条2項5号)。
新株予約権の発行における募集の決定
株式会社が新株予約権を発行しようとするときは、その都度、募集新株予約権について一定の募集事項を定めなければなりません(同238条1項)。
この募集事項の決定は、株主総会特別決議によって行います(同309条2項6号)。
取締役・監査役等の責任の一部免除
取締役や監査役、会計参与などが任務を怠った場合は、会社に対して損害を賠償する義務を負います(同423条)。
ただし、取締役などが故意ではなく、かつ重過失がない場合には、株主総会の決議によって責任を一部免除できます(同425条1項)。
この決議は、株主総会特別決議によらなければなりません(同309条2項8号)。
なお、取締役などの責任を全部免除するには特別決議では足りず、全株主による同意が必要です(同424条)。
現物配当
会社は、金銭以外の財産を配当できます(同454条4項)。
これを、現物配当といいます。
現物配当をする場合において、株主に金銭分配請求権を与えないこととする場合は、株主総会の特別決議で一定事項を定めなければなりません(同309条2項10号)。
定款変更
株式会社は、株主総会の決議によって定款を変更できます(同466条)。
この株主総会決議は、特別決議によって行います(同309条2項11号)。
事業譲渡の承認
会社が次の行為などをしようとする際は、効力発生日の前日までに、株主総会で契約承認の決議を受けなければなりません(同467条)。
- 事業の全部の譲渡
- 事業の重要な一部の譲渡
- 一定の子会社株式の譲渡
- 他の会社の事業の全部の譲受け
- 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任
この株主総会決議は、特別決議によることが必要です(同309条2項11号)。
解散
株式会社の解散事由は複数設けられているものの、そのうちの一つに「株主総会の決議」があります(同471条3号)。
この株主総会決議は、特別決議によって行います(同309条2項11号)。
なお、株式会社の他の解散事由は、次のとおりです。
- 定款で定めた存続期間の満了
- 定款で定めた解散の事由の発生
- 合併(消滅会社となる場合に限る)
- 破産手続開始の決定
- 解散を命ずる裁判
吸収合併・新設合併
吸収合併や新設合併、吸収分割、株式交換などの組織再編を行う際は、株主総会で契約や計画などの承認を受けなければなりません。
この契約承認などは、特別決議によって行います(同309条2項12号)。
株主総会特別決議の注意点
株主総会の特別決議では、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
最後に、特別決議の注意点を3つ解説します。
特別決議が必要な事項の判断を誤らない
特別決議が必要とされる事項は、会社法に厳格に規定されています。
特別決議が必要な事項であるにも関わらず、普通決議で誤って進めてしまわないようご注意ください。
基本的には、株主にとって大きな影響が及び得る事項は、特別決議事項です。
特別事項が必要な事項であるか否か判断に迷う場合には、あらかじめ弁護士へご相談ください。
決議要件を遵守する
特別決議をする際は、決議要件を満たしていることを十分に確認してください。
繰り返し解説したように、特別決議が必要な事項は株主にとって影響が大きいものです。
決議要件を誤ったまま決議を進めてしまえば、深刻なトラブルに発展してしまいかねません。
また、相続人に対する売渡し請求のように、一部の株主が議決権を行使できない場面もあります。
万が一にも手続きに瑕疵を生じさせないよう、特別決議が必要な事項について決議する際は、あらかじめ弁護士へご相談ください。
可決後に覆されることがある
特別決議で可決された場合であっても、議案が実現できず決議が覆ることがあります。
それは、「黄金株」を有する株主が異を唱えた場合です。
黄金株とは拒否権付き株式であり、黄金株が1株でも発行されていれば、その黄金株を有する者が異を唱えることで決議が覆ります。
黄金株は事業承継などの場面で活用されることがあるものの、使い方を誤れば会社運営が座礁に乗り上げるおそれがあるため、導入は慎重に検討しましょう。
まとめ
株主総会の特別決議の成立要件や特別決議での決議事項、特別決議が必要な際の注意点などについて解説しました。
株主総会の特別決議とは、株主にとって特に重要な事項で採用される決議方法です。
定款で別途定めがない限り、行使可能議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権のうち3分の2以上が賛成することで成立します。
特別決議によるべき事項は会社法で定められているため、決議要件を誤らないようよく確認しておきましょう。
株主総会の適正な運営や特別決議などに不安がある場合は、あらかじめ弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所では企業法務の専門チームを設けており、株主総会の運営などコーポレート法務(機関法務)にも強みを有しています。
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